親切なミザリー

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アポロ王子やアリスは‥

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 公爵令嬢サボンが、アポロ王子の部屋に閉じ込められているアリスを解放するべく、ダクトとサリエルを連れてアポロ王子の部屋に向かってから一時間以上が経ちました。その間ずっとアポロ王子は一人で生徒会室に残り、皆の帰りを待ちました。

 『アリスを部屋に監禁していた事が王の耳に入ったら叱られるだろうか‥、ダクトとサリエルは俺を嫌いになってしまっただろうか。‥もう、どうでもいいや。』

 そんな事を考えながら三人の帰りを待っていたアポロ王子でしたが、とうとう待ちきれずに生徒会室を出ようとしたところを‥王の使いの者に呼び止められてしまい、王の元へ急いで向かうように言われてしまいました。

 アポロ王子が指示通り、王宮の奥の小会議室に入ると、そこにはすでに王とランドリー公爵をはじめとした王の側近達、それに弟イカロスやランドリー公爵家の御令嬢サボンとダクトとサリエルが円卓についておりました。     
 
 そして、円卓から離れた入り口脇にはアリスが一人立たされておりました。
 
「アポロ、お前はここに来なさい。」

「‥はい。」

 アポロ王子が王の隣の席へ着くと、王が話し始めました。

 話の内容は、アポロ王子とサボンの婚約の事、アポロ王子を正式に後継者とする事など‥当たり前の話ばかりでした。‥わざわざ皆を呼んでするような話だとは思えない内容でした。

 てっきりこの場で日頃の行いを諫められるのかと思って覚悟を決めてきたアポロ王子は、少し拍子抜けをしてしまいました。

「‥異議ないか?」

 皆は黙って頷き合い、異議を唱える者は誰もいませんでした。

 そんな中、サボンが王に発言の許可を請いました。

「‥サボンか。何でも言ってみろ。」

「‥王様、アポロ王子には心を通わせる恋人がいるようです。それが‥あちらにいるファンタス子爵令嬢アリスさんです。今日は私がこの場に彼女をお呼びしました。

 アリスさんは、素晴らしい事にとても芯の強い方です。ありもしないミザリーさんの悪評を立てたり、ミザリーさんの友人であるにも関わらず、ミザリーさんの婚約者であるアポロ王子に積極的にアプローチしてくるぐらいですから‥。

 つい最近まで、とある男子生徒とお付き合いをしてたアリスさんですが、アポロ王子の為に別れてしまいましたの。今では王子と一緒に旅行へ行ったり、学園を休んで王子の部屋で何日も過ごす仲なのですよ。」


「‥なんと!では彼女には懐妊の可能性もあるわけだな。‥では、お子がおできになる前に急いで王子とサボンを結婚させて‥アリスを側室に迎えねば!」


 サボンの発言を聞いて、会議室の中の皆がざわつきはじめました。

「あと、もう一点だけいいですか?」

「‥言ってみなさい。」

「‥ミザリーさんの悪評を学園内で広めたり彼女の事を虐めていた生徒達に、学園長である王様に処罰を与えてやって欲しいのです。‥これらの行為はラファエル侯爵家への侮辱罪もしくは名誉毀損罪にあたると思いますので。」

 サボンがそう言った時、アリスが堪らず反論しました。

「‥そんなこと言って!サボンさんが一番彼女を虐めてたじゃないですか!」

「黙りなさい!今あなたに発言は許されていません。‥それに私が理由もなく彼女に酷く当たっていたとでも思ってるの?‥私は、精神的に脆い彼女では将来王子を支える事は出来ないのだ、と彼女に言い聞かせていただけよ。‥ただ単に意地悪をしていたあなた達とは違うの。」

「なっ!言ってる事が無茶苦茶です!」

 アリスがサボンに向かってそう叫んだ途端、王様は先程までの穏やかな表情から一気に冷めた表情になってしまいました。そして、冷たい目線を彼女の方に向けて低い声で言いました。

「‥アリス、君は随分と自由奔放な令嬢のようだね。今だって君に発言権は与えていないはずだが?‥アポロは君のそんな無礼な所に惹かれたのかな?‥君は他にはどんな魅力を持ってるんだい?気になるな‥ぜひ教えてくれたまえ。‥なんならアポロ‥お前の口から私に教えてくれないか。」

 王の冷たく低い声の物言いを聞いて、周りの者達は恐怖を感じたせいか一同にシーンと静まりかえってしまいました。そんな中、アポロ王子が半ば投げやりな態度をとりながら口を開きました。

「‥俺はずっと嫌だったのです。ただ王族だからというだけで、ただ長男だというだけで‥いつか王にならなければならない、という事が苦痛でたまらなかったのです。俺はそんな器じゃないのに。‥勉強だって、社交だって‥人並み以下の人間なのに!学園に入ってからも、王子なのに成績はいつも下位でした。だからいつも上位の成績をとっていたミザリーをとても恨めしく思っていました。

 そんな中、俺と同じく成績が悪いアリスと親しくなりました。アリスといると、王子である事を忘れられたし、アリスの恋人のストーンからアリスを奪った時は、とても気分が良かった。俺は‥あの馬鹿で浮気性のアリスの事を‥いつしか本気で独り占めしたくなるほど好きになっていたんです。そして、将来王族をやめられたら、あの女と田舎で慎ましく暮らすのもいいかな‥なんて考えるようにもなりました。」

 「アポロ王子、あなたには生まれつき王の資質が備わっている!王になる事を諦めないで下さい!俺は‥あなたがいつか俺の理想の王になる日を夢見てたんだ‥ずっと‥。」

 ダクトがアポロの投げやりな言葉に即座に反応しました。すると、アポロ王子はダクトを睨みつけ、頭を掻きむしりながら叫びました。

「ああ、もう!俺の事は放っておいてくれ!ダクト、自分の夢を俺に押し付けるな!俺は、あの女を連れて田舎でのんびりと暮らすんだ!国政とかそんなのを押し付けられても、俺には出来ないんだ!無理なんだよ!いい加減分かってくれよ!」

「‥‥どうして急にそんな事を言い出すんだ‥お前なら大丈夫だって。それに俺がいつもお前についててやるから‥。」


「ダクト、もうやめてくれ!‥お前は本当の俺を知らないんだ。お前は俺に自分の理想を重ねてるだけなんだ‥。俺は無能なただの男なんだ!!」


 会議室の皆はアポロ王子とダクトのそんなやりとりを、なんとも言えない顔で聞いていました。王ですら呆れて言葉を失っていました。ですが、サボンだけが冷静に王子に反論しました。


「‥甘ったれないで、アポロ王子!あなたの意思なんて関係ないの。これはあなたの使命なのよ、逃げないで受け入れなさい!死ぬ気で頑張りなさい!王にならずにアリスと田舎でのんびり暮らす?馬鹿じゃないの!?

‥世の中には貧しい家に生まれてきて、その日の食べ物にすら困る生活を送る子供が大勢いるの。‥でもその子達はその生活から逃げたくても逃げられないの。分かる?

‥いい?あなたには私が付いてます。私は幼い頃からいつか王妃となる日を夢見て努力してきました。だから、あなたが王になってもあなたの足りないところを補えるだけの自信はあります!だから、もう逃げるのはやめて下さい!」

 サボンは興奮して一気に話し続けたせいか、話し終わった時には息を切らせていました。

 会議室の皆はサボンの話に頷き、感心したような顔を見せていましたが、アリスだけがこの場の空気を読まずに、また勝手に発言をしてしまいました。


「‥あの、さっきからお話を聞いてて「あれっ?」って思ったんですけど‥私はアポロ王子とは恋人ではありませんよ?アポロ王子は私のお友達の一人です。

 それに、私は誰かの側室とかでなくて、誰かの唯一無二の存在になりたいんです。だから、私はアポロ王子の側室になんてなりませんよ。私は私だけの恋人をこれからも探し続けるつもりでいます。それに、今だって密かに思い焦がれてる人がいるんですから。」


 アリスはそれだけ言い終わると、まるで自分はこの事には無関係だと言わんばかりに、首を傾げて見せました。


「‥もう私はこれで失礼しても良いですか?足が‥疲れてしまって‥。」

 そして、悪びれた様子もなくそう言うと勝手に扉の取っ手を掴み、外へ出ようとしました。

 ですが、そんなアリスの自由奔放な行動を制する者がいました。‥顔を紅潮させてこれまでに誰も見た事がないような怒りの表情を浮かべた王でした。

「‥黙れ!よくも我が息子を愚弄してくれたな!お前からアポロを誘惑しておきながら、他に好きな男がいるだと!?よくもそんな事を言えるな!‥お前の顔なぞ二度と見たくない!誰かっ!あの女を早く地下牢へ放り込め!」

「‥あっ、えっ?やだ、ちょっと‥何この展開‥訳わからない。っていうか、どちらかと言えば私被害者じゃない?なんで悪者扱い?えっえっ、ちょっと‥サボンさん!‥ミザリー!ミザリーの幽霊!出てきて私を助けなさいよ!」


 アリスが訳の分からない事を言いながら王宮の騎士達に両脇を捕まれて地下牢へ連行されていくのを、会議室の皆は呆気にとられながらしばらく見続けていました。


 その後、アリスのいなくなった会議室では、アポロ王子の立太子の儀の日取りやサボンとの結婚式の日取りが次々と決められていきました。

 そして会議の後、皆がそれぞれ家路につく中、アポロ王子はフラフラと皆とは反対の方向に歩いていきました。

「‥兄さん、どこに行くの?」

 アポロ王子の動きを不審に思ったイカロスがアポロ王子のあとを追いかけようとすると、それをサボンが止めました。

「‥追いかけては駄目。‥彼の好きなようにさせましょう?」

 サボンはそう言うと、側にいたダクトやサリエルの方を向いてニヤリと笑いました。

「‥‥!」

 ダクトとサリエルはこの時、サボンが何を考えているのかがすぐに分かりました。

 『アポロ王子はきっと地下牢に向かって行った。彼女を‥‥する為に。』

 


 会議の日の翌朝、騎士達が見回りに行くと、地下牢へ繋がれていたはずのアリスはいつの間にか消えていました。床には、アリスの髪と思わしき髪の毛の束が落ちていましたが、それ以外には何も残っていませんでした。

 それを見た騎士達は、アリスが誰かの助けを借りて、地下牢から逃げたのでは?と考えて国中を必死で探しましたが、とうとうアリスは見つかりませんでした。






 

 
 



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