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アリスとミザリー
しおりを挟むアリスは意識を失い、夢を見ていました。
夢の中には、目の前で女子生徒が虐められているのをチラチラと見ていた頃の自分がいました。
虐められていたのは、成績優秀でこの国の第一王子の婚約者のミザリーでした。
そして虐めていたのは、公爵令嬢サボンを中心とした女子生徒のグループでした。
『あらあら、虐められちゃって‥。まぁ、私には関係ないわ。』
アリスはそう思いながら、ミザリーを虐めから助ける事もなく無視する事にしました。
ミザリーに対する虐めを黙認してたのはアリスだけではありません、他の生徒達もそうでした。他の生徒達は虐めを無視するどころか、虐めに便乗してミザリーを便利に利用したりもしていました。
宿題や雑用をミザリーに頼んだり、悪い事をしてもミザリーのせいにしていました。
大人しくてお人好しのミザリーは、それでも決して誰に対しても反抗しませんでした。
まるで‥全てを諦めきった顔で、皆の言う事をきいていたのです。
何故ならミザリーには自分を庇ってくれる友達も恋人もいませんでしたから。
‥ミザリーの婚約者だった第一王子アポロも‥ミザリーに生徒会の仕事を押し付けたり、ミザリーを皆の前で罵ったりしていたからです。
学園に入る前までは仲の良かったミザリーを、何故アポロ王子が急に冷たくあしらうようになったのか‥理由は分かりませんが、一部の生徒の間ではミザリーの優秀さや性格の真面目さがアポロ王子を怒らせたのでは?とも囁かれていました。
そんなミザリーでしたが、ある日突然食堂で一人で食事をしていたアリスのもとにやって来ました。
「あなたも一人?良かったら一緒にいてもいい‥かしら?」
「‥‥。」
アリスはミザリーに関わって自分まで虐められるのが嫌なので、黙って無視をきめこみましたが、ミザリーは何を勘違いしたのか、アリスの沈黙を了承と捉えたようです。
嬉しそうにアリスの横を陣取り、一緒に食事を取り始めたのです。アリスは内心ではとてもミザリーの存在を迷惑に思っていましたが、それを口に出す勇気もなく、ひたすら我慢をする事にしました。
こうしてアリスはミザリーと嫌々ながらも一緒に過ごすようになったのです。
ミザリーと過ごす事になってからしばらくしてから、アリスは頭痛に悩まされるようになりました。
頭痛が何日か続いたある日、アリスはミザリーと一緒に食事をしている最中に、突然何かを思い出しました。頭の中に沢山の映像と共に前世の記憶が蘇ったのです。
「‥ミザリー、アポロ王子、‥学園‥ってまさか!?」
「‥アリス?」
アリスは混乱する頭を抱えながら、横にいるミザリーを見ました。
その途端、アリスの本心と前世のOL矢吹純子の記憶と感情が一致しました。
すると、アリスはこれまでミザリーに対してずっと感じていた怒りや嫉妬の感情を、抑えきれずにそのまま口に出して叫んでいました。
「‥あんた、自分の虐めに私を巻き込む気?もう私に構わないで!‥それにあんたは頭もいいし、王子の婚約者なのでしょう?虐められてるとしても、私なんかよりよっぽど恵まれてるじゃない!‥私だって出来る事なら王子様の婚約者とかになってみたかった!」
アリスが突然立ち上がり、大声でそう訴えてきたものですから、ミザリーは驚いた様子でした。
「‥アリス、どうしたの急に‥。」
ミザリーはアリスに対して、まだ呑気にそう質問してきました。
アリスはそんなミザリーに苛々してきました。そして‥
「分からないの!?私はあんたとは絶交するの!もう話しかけても欲しくないの!‥あと、これからは遠慮なくアポロ王子達と関わらせて貰うからね。‥あんたに遠慮なんかしないから!」
そう言い放つと、ミザリーをその場に残して一人で食堂を出て行きました。
その時のスカッとした気持ちをアリスは今でも覚えています。
アリスはそれ以降、アポロ王子達と積極的に関わり、前世でプレイしたゲーム同様次々と攻略対象の男子生徒達をおとしていきました。
更には自分の忘れ物や失敗を全てミザリーのせいにし、ミザリーを悪者にしてミザリーの評判を落とす事も忘れてはいませんでした。
何故なら、ゲームの中でミザリーは悪女ミザリーでしたから。
ミザリーがお人好しの令嬢では、アリスが悪女ミザリーに虐められる可哀想なヒロインになれないのです。
そんなミザリーに、アリスは更なる意地悪をしました。
ミザリーの家に行って、アポロ王子と自分が婚約する約束をしたと嘘をついたのです。アポロ王子の愛を失い、悲しんで泣くミザリーを見たかったアリスでしたが、ミザリーは意外にも冷静でした。
「‥そんな予感はしてたわ。」
そう言って静かに微笑んでいたのです。
そしてその翌日に、ミザリーは自殺をしたのでした。
夢の中でミザリーとの出会いから決別の日までを振り返って見させられたアリスでしたが、今は一人で暗闇の中に立っていました。
目の前には薄ぼんやりと発光する人影が浮かんでいます。アリスにはそれがミザリーだとすぐに分かりました。
「‥ミッミザリー!あんた、私を恨んでるの?呪いたいの?」
「‥‥違う、私はあなたが心配で‥。」
「‥えっ、心配?‥‥私を呪いに来たんじゃないの?」
「‥違う。」
アリスはミザリーの幽霊が自分を害する気がないと分かると、ミザリーの幽霊が急に怖くなくなりました。
「‥で、何か私に言いたいの?」
「‥アポロ様は、残酷な人なの。それに自分の物にとても強い執着をもつの。
アポロ様は昔からその傾向があったわ。小さい頃のアポロ様は、自分の要らなくなった人形を誰かが貰おうとしたら目の前で壊していたし、自分の落とした食べ物を食べようとした猫や犬を殺してしまっていたの。
‥たとえ壊れた人形でも、落とした食べ物でも、自分の物を他人が手にする事がとても嫌だったみたい。
‥私の事も‥自分と婚約を解消してから、他の男と結婚するのは許せなかったのでしょうね。‥だからアポロ様は、少し意識の戻りかけた私を海へ投げ捨てて殺したのかもしれないわ。」
「‥えっ、何?最後の方が声が小さくて聞き取れなかった。なんて言った?」
「‥‥‥。アリス、あなたは私の唯一の友達だったわ。今困ってる事があれば教えて。」
「‥えっ、ああ‥そうだ!アポロ様がおかしいの!なんだか狂ってるみたい。私‥今まで優しいアポロ様しか知らなかった。‥こんな、狂ったアポロ様は知らないの!‥ねぇ、私、殺されるかもしれないの!ミザリー!助けてっ!!」
「‥‥。」
「ミザリー!助けてよ!」
「‥分かった。私からサボン令嬢にあなたをアポロ様から助け出してくれるように話してみるわ。」
「‥はっ?話で解決?無理でしょ!あんた幽霊だし、そもそもサボン令嬢ってあんたを虐めてた張本人じゃん!」
「‥とりあえず、話してみるから。」
「‥とりあえずじゃなくて、必ず私を助けなさいよ!‥それから、隣国のゼウス王子との仲もとりもって欲しいの。それからアメジストのネックレスも欲しいし‥。」
「ちょっと待って、アリス。申し訳ないけど、私は神じゃないからあなたの願い事を叶えることはできないの。叶えてあげたくてもね。」
「‥えーっ、つまんないわね。」
アリスはそう言ってミザリーの幽霊を睨みました。
ミザリーの幽霊は申し訳なさそうに微笑むと、アリスの目の前でスーッと消えてしまいました。
アリスの夢はそこで終わりました。目覚めたアリスはベッドから起きてお水を飲みに行こうとしましたが、できませんでした。
自分の手足が縄で縛られていたのです。アポロ王子は、そんなアリスを見て隣で横になりながらニヤニヤしていました。
「キャーッ!!」
アリスは恐怖で震えながら叫んでしまいました。
そして無意識に、夢の中でみたミザリーに助けを求めていました。
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