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ピューリッツの回想 ミザリーとの思い出③
しおりを挟むピューリッツはミザリーを保健室へ連れて行った日から、一週間ずっと落ち着かない日々を過ごしていました。
またミザリーが虐められてるんじゃないか、アポロ王子がミザリーに婚約をやめようと言い出してはいないか‥ミザリーがまた泣いていないか‥等心配事が尽きなかったのです。
ですが一週間ぶりに会ったミザリーは、出会った頃よりも明るく生き生きとしており、ピューリッツに愚痴を言うどころか、学園であった嬉しい出来事を沢山話してくれたのです。
そんなミザリーを見て安心したピューリッツは、ミザリーに丈夫な園芸用の手袋を渡すと、早速二人で作業に入ることにしました。
この日の作業は、学園内に点在する花壇の草取りをしたり、落ち葉を掃くといった内容でした。
側から見れば地味な作業ですが、取り除いた枯葉や草の入った袋を二人して何度も焼却場へ運ぶのはなかなかの重労働でした。
作業後、二人は木陰に座り込み、長い休憩をとりました。
時折吹いてくる風が気持ち良いのか、ピューリッツはそのまま芝生の上に横になって目を閉じてしまいました。
ミザリーはピューリッツが寝てる間に、予め用意しておいた蜂蜜とレモンと冷たい水の入った水筒で、蜂蜜入りのレモン水を作りました。
そしてそれをピューリッツが目を覚ました頃に渡し、改めて先週のお礼を言いました。
「ピューリッツ、この前はありがとうね。でももう大丈夫!友達だって出来たのよ。‥今度彼女と遠くへ行く約束もしたの。‥だからね、私は今それが楽しみで仕方がないの。」
「そうか、良かった。」
「‥だから、もう私の事は心配しないでね。」
「ああ、分かった。」
「‥‥。」
「あっ、そうだ‥。僕からもミザリーさんにプレゼントがあるんだ。」
「私にプレゼントですか‥。」
「僕の使ってるのと同じ園芸鋏と鋏入れだけど‥受け取ってくれるかい?‥本当はもっとこう‥可愛いアクセサリーとかあげたかったんだが‥僕はそっちの方は全くセンスがないからね。」
「わぁ‥、よく切れそうですね。おまけにこの鋏入れは質の良い皮で出来ていますね‥。ピューリッツと同じ道具を使えるなんて、夢みたいです。‥ピューリッツ先生、ありがとうございます。」
ミザリーはピューリッツのプレゼントした鋏と鋏入れを大事そうに胸に抱くと、ピューリッツに深々と頭を下げました。
「喜んで貰えて良かったよ。‥ミザリーさんにはいつもただ働きをさせてしまって、申し訳ないと思っていたんだ。」
「そんな‥私は修業中の身ですから、無償で働いて当然ですよ。それに‥私こそ無償でピューリッツの技術を教わる事ができるのですから、損どころか得しかありません。」
「‥そうか、そんな事を言ってくれるのか。‥ミザリーさんはいい子だな。君が貴族の令嬢でさえなければ、本気で僕の弟子に勧誘したいところだよ。」
「‥ピューリッツから見て、私は庭師になれそうですか?」
「頑張り屋だし、真面目だし、何より体力と根性がある。‥資質としては申し分ない。それに、なかなかセンスもある。」
「私、いますぐにでも独り立ちできそうですか?」
「ハハハ、それは無理だ。少なくともあと五年は僕のもとで修業しなきゃな。‥あっ、ミザリーさんだから五年で済むんだよ。他の人なら十年はかかるだろうね。」
「それなら本当にあと五年、ピューリッツのもとで本気で園芸を学びたいわ。‥だから私、卒業後はピューリッツの会社に就職する事にする!」
「‥君は将来王子と結婚する身だ。こんな庭師のような仕事をやらせる訳には‥。」
「フフフ、冗談よ。‥ピューリッツの会社に就職するなんて両親が許してくれるわけがないわ。‥分かってるの。」
「‥ミザリーさん‥。」
「あっ‥しんみりしてしまったわね。‥ピューリッツ、今まで本当にありがとうね。元気でね。私は‥来週からは忙しくてここに来れそうにないの。」
「‥分かった。」
「‥さようなら、ピューリッツ。」
ミザリーはお別れの言葉と共に、小さな細い手をピューリッツに差し出しました。
ピューリッツはミザリーの差し出した手を握って良いものか迷いましたが、令嬢が自ら差し出した手を拒むわけにもいかず、恐る恐るミザリーの手を握り返しました。
初めて触ったミザリーの手のひらは、とても薄くて小さくて‥冷たい感触でした。ピューリッツはミザリーの‥その弱々しい手を握りしめ、自分も別れの言葉を返しました。
「‥‥ミザリーさん、さようなら。」
二人は握手を交わすと、どちらからともなく手を離し、無言で別れました。
その後ピューリッツは、毎週学園に来るような無茶なスケジュール調整をやめて、以前のように一ヶ月に一度しか行かない事を決めました。
そして、ミザリーとの別れから一ヶ月後ピューリッツは久しぶりに来た学園で、イカロスの口からミザリーの死を初めて知る事になるのでした。
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