親切なミザリー

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記念樹「ファントム」②

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「‥ピューリッツ、駄目だ!枯れてるとはいえ、記念樹にそんな事をしたら‥。」

イカロスの制する声も無視して狂ったように土を掘り続けるピューリッツでしたが、ついに「ファントム」の根を全て露出させてしまいました。‥初めて見る「ファントム」の根は、とても太く長い根でした。見た目は花も小ぶりで可愛い低木なのに、その根はその外観に似つかわしくないほどどす黒く毒々しいものでした。

しかもその根っこは、横根を伸ばし、そこからさらに新しい芽を出して、人知れず土の中で花壇を侵食していっていました。

「‥なんだ、新芽が出ているなら完全に駄目になった訳ではないんだ‥、良かった。ピューリッツも根っこの新芽が確認したくて土を掘っていたんだよな?」

イカロスがそう聞くも、ピューリッツはやはり無反応でした。
 
「‥ピューリッツ?」

「‥やっぱり、根が切られている!」

「ピューリッツのスコップが当たったのかな?」

「‥いや、ここに刃物で切られたあとがある。‥少しガタついているが綺麗な断面になってる‥‥まるで力のない女性が小型の鋸で必死に切ったあとのように。」

「‥ふうん?」

イカロスはそれがどうしたのか?と言いたげな顔でピューリッツを見ました。

‥ですがピューリッツの顔は依然青褪めていました。

「‥毒があるんだ。」

「‥毒?」

「「ファントム」の根には毒があるんだ。根を乾燥させて粉にすると、まるで砂糖のような甘い味の毒薬ができるんだ。‥だから「ファントム」の毒の事を知っている者は、自身の自殺や誰かの暗殺の為に、この毒を好んで使うんだ。」


「‥なんでそんな危険な植物をカピエラは贈ってきたんだ!‥それで、ミザリーはその事を知ってるのか?」


「‥ああ、僕が教えてしまった。彼女がこの木の事を知りたいと言ったから、彼女に良いところを見せたくて、僕はすぐに世界中の植物の載った図鑑を図書館の倉庫から借りてきて、「ファントム」の事を調べたんだ。

次に彼女と会った時、『「ファントム」は見た目は可愛いけど、根っこには毒があるから気をつけな。』って僕は得意げに教えてあげてしまったよ。しかもその毒は苦いのかって聞かれたものだから‥『砂糖のように甘くて美味しいんだ。』って答えてしまったんだ。

‥まさか彼女が自殺を考えいただなんて、そんな事知らなかったから‥。」
 

「‥‥ミザリーはこの「ファントム」の毒を飲んで自ら死んだ‥とでもいうのか!?

だとしたら、こんな毒をもった植物を我が国に記念樹として贈ってきた事を、カピエラに抗議をしなくては‥。この「ファントム」の毒で人が一人死んでいるのだからな!」


イカロスが語気を強めてそう言い終わると‥いつの間にかイカロスとピューリッツのまわりを、怪しげな人物達が取り囲んでいました。


「‥‥!」

怪しげな人物達はイカロスとピューリッツをあっという間に縄で縛り上げると、猿轡をはめて大きな袋に押し入れてどこかへ連れて行ってしまいました。



翌朝、学園長が記念樹の「ファントム」を見に行くと、「ファントム」は根っこごと掘り上げられており跡形もなく消えていました。そして‥怪しげな人物達に連れ去られたはずのイカロスも、まるで何事もなかったかのように教室で授業を受けていました。ただ時折長い溜息を付き、窓の外をぼーっと眺めて何やら思い詰めた表情を見せてはいましたが‥。


一方、ずぶ濡れになって男性教師に抱えられて校舎へ運ばれてたアリスですが‥保健室に連れて行かれ、女性の保険医に着替えやシャワーの用意をしてもらえたようです。

アリスはシャワーや着替えが済むと、保険医の好意でアポロ王子の迎えが来るまでずっと保健室のベッドで寝かせて貰える事になりました。


‥アリスは保健室のベッドで過ごす時間の中で、男性教師が女性の保険医と密かに交際をしていた事実を知る事になりました。


アリスはベッドのカーテン越しに、保険医と男性教師がイチャイチャする様子をずっと見せつけられていたのです。イチャイチャとは言っても、たわいもない話をしながら時々触れ合い照れあう程度のものでしたが‥。

『やだ、何よ!生徒がカーテンの向こうで寝ているのに、何イチャイチャしてんのよ!ムカつく!』

アリスはこの事のせいで、この上なく不機嫌になっていました。その為、アポロ王子が迎えに来た時に思わず冷たい態度をとってしまいました。

そのせいで少し傷ついた顔を見せるアポロ王子を見て、アリスはしまった‥と思い、焦ってアポロ王子の機嫌を取るために王子のわがままをきいて、王子と二人っきりで旅行をする約束をしてしまいました。
 

『‥私と二人っきりで旅行へ行きたいですって?下心見え見えなのよ!図々しい男!旅行へ行っても絶対にキスも何もしないんだからね!そうそう、旅行用の新しいドレスや帽子をアポロ王子に買って貰わなきゃね。』


アリスはアポロ王子に微笑みながら旅行の約束をする裏で、腹の中ではそう毒づいていました。 


アリスはこの事があって以来、教師には二度とときめかない事を決めました。

‥彼らは職場の同僚同士で付き合う率が他の職場よりも高いようですから‥。
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