親切なミザリー

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アリスは授業をサボった

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学園長とカピエラの王子ゼウスの話し合いは一時間程で終わりました。

学園長が言うには、数日前まではカピエラから寄贈された記念樹「ファントム」は綺麗な花を咲かせており、何の問題もなかったのだそうです。

ちなみに学園側は、園芸担当者などを特には設定しておらず、月に一度来る庭師が樹木の剪定などをしていたの事でした。

‥どうやら学園側は、樹木なんてものは放っておいても勝手に育つだろうと思い、管理を怠っていたようです。


その為、庭師が来るまでの間に日照りが続いた時などは、園芸に興味を持っていたある生徒が見かねて水をやってくれていたようです。学園側としてはその事も安心材料となっており、ますます樹木などには構わなくなったのだそうです。


学園長は今回の出来事に対し大変反省したようで、この事をすぐに国の外交大臣や王様に報告し、早速隣国カピエラに謝罪の意を告げますとゼウス王子に約束しました。

そして、記念樹を自発的に世話していた女子生徒からも詳しい話を聴取し、しっかりと原因追求をすると共に、今後はきちんとした園芸担当者を決めて、二度とこんな事が起きないようする、とゼウス王子に誓いました。


ゼウス王子はそれを聞いて安心しました。そしてこの事に関しては、学園長に全てを任せる事にしました。


午後の授業に間に合ったゼウス王子は、双子の妹アテネーの隣に腰掛け、彼女に話しかけました。

「記念樹の件は無事に解決しそうだよ。‥まあ、今更頑張ったところであの「ファントム」は蘇りはしないけどね。」

「学園長は「ファントム」の価値を知ってた?」

「‥いや、あの様子では知らないんだろうね。知ってたらあんなふうに枯らしてりはしないだろうし。‥まぁ、俺としてはこの国に「ファントム」がなくなってくれてホッとしてるけどね。

父上に次回はあんな貴重な「ファントム」ではなく、もっと違うありふれた樹木を記念樹として贈るように伝えるつもりだ。」

「‥それにしても自発的に「ファントム」を世話していた女子生徒って誰なのかしらね?」

「‥それは勿論しかいないだろう。」

「‥そうね、きっとよね。」
 
二人が話していると教室に年配の男性教師が入って来ました。

ですが、教師はすぐに授業を始める事なく教室内をキョロキョロと見渡していました。

「‥さて、授業を始める前に‥アリスさんはどこにいますか?学園長がお呼びなのですぐに学園長の部屋へ行って欲しいんですが‥ここにいませんか?」

「‥‥。」

生徒達もあたりをキョロキョロしてアリスを探しているようですが、皆んな首を横に振って、教師にアリスの不在を告げました。

「‥誰かアリスさんがどこにいるのか知りませんか?」
 
「‥‥。」

教師はしばらく考え込んだ後、廊下にたまたまいた学園の事務職員に声をかけました。そして事情を説明して学園中に放送をかけるように指示しました。
 
そしてその後は何事もなかったかのように授業を進めていきました。

ゼウス王子達が授業に集中していると、教室の中にまで放送が流れてきました。

どうやら放送は学園中のどの部屋にも聞こえるようになっているようです。

「最高学年のアリスさん、アリス・ファンタスさん、至急学園長の部屋に来て下さい。」

流れてきたのはアリスを呼び出す放送でした。

放送を聞いてもゼウス王子とアテネー王女は何も気にする事なく授業に集中していましたが、アポロ王子をはじめとする生徒会メンバー達にとってはどうやら違ったようでした。

彼らは、授業中だというのに教室の後ろの扉から勝手に飛び出してどこかへ行ってしまいました。

その様子を見ていた教室の皆んなは、何事か?とざわざわしだしました。

「‥静かに。授業を続けますよ。」

教師は、アポロ王子達が授業中にもかかわらず、突然退室していった事に一瞬驚いた様子を見せましたが、すぐさま動揺を隠して生徒達に授業に集中するように促しました。

「‥私の授業を聞きたくない人は、アリスさんや生徒会の皆さんのように退室してくれても構わないのですよ?

私の講義は、本気で私の講義を聞きたい人だけに聞いて欲しいので‥。」


教師のその言葉を聞いて、生徒達は慌てて教壇の方に向き直り授業に集中しました。

彼らは学園卒業後に就職先を見つけるためにも、授業の単位と評価をおとしたくはなかったのです。

その為には教師への印象を悪くする訳にはいきません。

‥まあ、一部のすでに就職先が決まった者や結婚が決まった令嬢は別ですが‥。


皆んなが再び授業に集中し、ざわざわしていた教室が静かになると‥教師はその様子に満足したように頷いて、いつもの柔和な表情を見せてくれました。そしていつも通り授業は進められました。


一方その頃アリスは、生徒会室でお菓子をつまみながらソファーに腰掛けて、あれこれとゼウス王子攻略の為の策を練っていました。

ですが、放送で自分の名前が呼び出されるのを聞くや否や慌てて学園長の部屋へと向かって行きました。

「‥冗談でしょ、何で私が呼び出されるの?って言うかこの学園に呼び出しの放送なんてあったの!?‥早く行かなきゃ!でなきゃまた名前を呼ばれちゃうっ!」


ハァ、ハァ‥

アリスは長い廊下を早歩きで進んで行き、ようやく学園長の部屋の扉の前にたどり着きました。


「‥アリスです。失礼します。」

「‥入りなさい。」

アリスは息を整えると、恐る恐る扉を開けて部屋の奥のデスクにいる学園長の顔を見ました。

『あら、学園長って意外と若いのね‥。三十代くらいかしら?‥意外と有りかも。射程範囲内ね。』

オホン、

「君が時々自発的に樹木の水やりをしていた女子生徒で間違いないかね?」

「‥‥はい。」
 
アリスは樹木の水やりなんてした事はありませんでしたが、思わず返事をしてしまいました。

「生徒会長がよく君を褒めていたよ。人知れず花や樹木に水をやったり、生徒会室を掃除してくれてる、とね。」

「‥そうですか。」

「ところで君は何故この数日間は樹木の水やりをやめていたのかね?‥いや、別に君を責めてる訳ではないんだ。

‥他国から学園に寄贈された記念樹が枯れてしまってね、今その原因究明をしてるんだよ。そこでいつも樹木の世話をしていた君に色々聞きたかっただけなんだ。」

「‥‥すみません。その事ですが、生徒会メンバーになって忙しくなった為、今後は樹木のお世話は出来そうにありません。」

「‥そうだよね。では、後任の者を指名するからその者に世話の仕方や水やりの仕方を教えてやってほしい。」

「‥それは‥。」

「では、早速今日の放課後学園の記念樹の所へ来てくれ。そこで後任の者を待たせておく。」

「‥‥。」

「‥以上だ。授業に戻りなさい。」

「‥はい。」

アリスは渋々返事を返すと、学園長の部屋から退室しました。

そして生徒会室へ戻ると‥何故かそこに生徒会メンバー達が集まっていました。

「‥アリス大丈夫かい?何の呼び出しだったんだい?」

アポロ王子が真っ先にアリスの元へ駆け寄り、アリスの肩を掴んで心配そうに聞いてきました。

「‥今日の放課後、学園の樹木の世話の仕方を、担当の者に教えてあげて欲しいと言われました。」

「‥そうか、その話だったんだな。アリスが樹木の世話を頑張っていた事は、常々学園長にも言っておいたからな。

だけどアリスはもう生徒会メンバーだから、もうそんな土仕事や水仕事はしなくてもいいんだぞ。」 

「‥そうです‥ね。」

「さあ、アリス!用が終わったのなら、一緒に授業に戻ろう。」

「‥あっ、ちょっと‥。」

アポロ王子はそう言ってアリスの手を取ると、少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしながら歩き出しました。

『何なの?この流れは。‥って言うか、あんた達は何故授業を抜け出して生徒会室に来たの?私の呼び出しを聞いたから?‥だとしたら本当にお節介!

‥それに今アポロ王子の照れとか要らないし。手を繋ぐだけで嬉しいとか初すぎて逆に引くわっ!』


‥こうしてアリスはアポロ王子に手をひっぱられながら、心の中では彼に悪態をつきつつ、逃げてきたはずの教室へと戻ることになったのです。
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