親切なミザリー

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ゼウス王子との接触

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ファンタス子爵家の令嬢アリスは、学園で皆からチヤホヤされる毎日を過ごし、今日もご機嫌でした。

アリスが学園内を生徒会メンバー達と一緒に歩いていれば、皆んなから羨望の眼差しを向けられましたし、時折その辺の男子生徒に微笑みかけようものなら、微笑みかけられた男子生徒はたちまち頬を赤く染めアリスの虜となったのですから‥アリスがチヤホヤされて天狗になるのも無理はありません。

‥それになんといっても、アリスはこの世界のヒロインなのですから、アリスが男子生徒達にチヤホヤされても当然なのだと‥少なくともアリスはそう思っていました。

「やっとヒロインらしく活躍できる日が来たのね。」

アリスはしみじみと言いました。

アリスは元々可愛らしい容姿の令嬢でしたが、実はこれまではそれほど目立つ令嬢ではなかったのです。

ですが、生徒会メンバーに選ばれ、アポロ王子達と常に一緒にいるせいか、アリスの可愛らしい容姿はようやく周りに認知され始めたようなのです。

特に男子生徒達は、明るくて気さくなアリスに他の気取った令嬢達にはない親しみやすさを感じていたようです。

それにアリスはいつも男子生徒達が一番欲しい言葉をかけてくれるので、一部の男子生徒の中には、アリスにしつこく求婚してくる者もいました。

そんな男子生徒には、さすがのアリスも辟易していました。

「‥ああ、もう!モテ過ぎて嫌になっちゃう!っていうか、モブキャラがしつこく私に言いよってくるんじゃないわよ!ムカつく!‥私がおとしたいのはゼウス様だけなのに!!」

アリスは、こんな卒業式も近い時期に何故か急にカピエラからわが国に留学をしに来たゼウス王子に早速一目惚れをしていました。

「‥んもう、何なの格好良すぎ!あんな格好良いゼウス様と私が恋をするなんて‥キャーッ!うれしすぎ!‥早くお近づきになりたい♡」

アリスはそう独り言を言うと、早速ゼウス王子との接触を試みました。

アリスは、同じ留学生の数人の生徒達と図書館から食堂へ向かう廊下を歩くゼウス王子に、軽く肩をぶつけました。

そして軽くよろめいて見せました。

「‥すみません、ぼーっと歩いていたせいでぶつかってしまいました。大丈夫ですか?‥あの‥?ゼウス様?」

アリスがぶつかった事をゼウス王子に謝罪すると、ゼウス王子は首を傾げながらアリスの横をさっさと通り過ぎ、外国語で留学生達と話しながら去って行きました。

「‥はぁ?なんで私の言葉が通じないの?って言うかなんで私の事をスルーして、あのモブ留学生達とつるんでいるの?ありえない!」

アリスは誰もいない生徒会室に戻って、ゼウス王子に好きになってもらう計画を練り直そうと思いました。気が急いてついうっかり令嬢らしからぬ速さで歩いていると、誰かとぶつかってしまいました。

「‥痛っ‥。」

アリスとぶつかったのは、ゼウス王子と同時期にここへ留学に来た女子生徒でした。

アリスはぶつかった衝撃で転んでしまい、制服を汚してしまいました。

「‥あー、最悪!汚れちゃったじゃない!」

アリスがぶつかった女子生徒の方を見ると、彼女はアリスに軽く頭を下げてそのまま立ち去ろうとしていました。

「‥ちょっと、あんた待ちなさいよ。何か言う事ないの?」

アリスは、自分と女子生徒のまわりに誰もいない事を確かめると女子生徒に文句を言いました。

「‥ごめんなさいは?ぼーっと歩いてんじゃないわよ!私にぶつかって制服を汚すとかマジ最悪!」

アリスに凄ませれた女子生徒は、アリスのいう言葉が分からないのか‥首を傾げながらアリスから逃げるように去って行きました。

アリスはそんな女子生徒の事を、舌打ちをしながら仁王立ちで睨み続けました。

そして女子生徒が食堂へ入っていくのを見届けると、自分も食堂へ向かおうとしましたが‥

「‥ああ、気分悪い!‥あっ、そうだ早く生徒会室へ行かなきゃ。皆んなが来るまでの間にじっくりとゼウス様の攻略法を色々練らなきゃ♡」

生徒会室に戻り、アポロ王子達が来る前に一人でじっくりとゼウス王子の攻略法を模索する‥という大事な用を思い出した為、アリスは再び早歩きで生徒会室へ向かって歩き出しました。

アリスは今日も午後の授業をさぼるつもりのようです。

今のアリスには、この世界の地理や歴史の授業よりもゼウス王子の攻略が重要事項だったのです。

それに前世で、ゲームを毎日しているうちになんとなくこの世界の地理や歴史は頭に入っていたのです。

アリスは、そんな浅い知識でこの世界の事を全て分かったつもりになっていたのです。


一方その頃、食堂ではカピエラの王子ゼウスが友人達と食事をしていました。

「お兄様、お待たせ。」

ゼウス王子のテーブルに少し遅れて合流する女子生徒がいました。

「アテネー、お前が来るの遅いから、皆んなもう先に食べ始めてるからな。」 

「はいはい。‥‥そういえばここへ来る途中変な女子生徒に出会ったわ。前方から突進して来て私にぶつかってきたくせに、私の方に謝罪を要求してきたの。」

「‥あれ?俺達にもさっき変な女子生徒がぶつかってきたぞ。‥同じ奴かな?‥まあ俺は面倒臭いから言葉が通じないふりをして逃げて来たけどな。」

「アハハハ。さすがお兄様!私と考える事が同じだね!私も同じ手で逃げて来ちゃった。こういうのって外国人の特権よね~。」

ゼウス王子のテーブルに遅れて合流してきたのは、ゼウス王子の二卵性の双子の妹アテネーでした。

留学生達はゼウス王子やアテネー王女と楽しいランチタイムを過ごすと、学園の庭の隅にある石碑の側にやってきました。

石碑にはこの国と各国との友好の証として、様々な記念樹が植えられていたのです。

ゼウス王子達は友人達と共に、自身の国カピエラの記念樹を探しました。

ところが‥カピエラがこの国に寄贈した記念樹「ファントム」は、枯れてしまい無残な姿になっていました。

カピエラとの友好の証として植えられたのは、確かに世話が大変な樹木でしたが‥よほど長い間放っておかない限りは、ここまで枯れる事はないはずの樹木でした。

「‥これは酷いな。わが国を侮辱する行為だ。学園長にこうなった事情を詳しく聞かなければならないな。‥話の内容によってはわが国に報告をする必要があるかもしれない。」

ゼウス王子はそう言うと、早速妹と友人達と別れて学園長の部屋へと向かいました。

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