親切なミザリー

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ミザリーの死んだ日の回想、そしてストーンは‥

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あの日‥ミザリーが断罪されるはずだった日、王様夫妻が外交で留守にしていた為、アポロ王子にはその間にこの国で起こる全ての事に対して、対応を決定する権限が与えられていました。

だからアリスは、王様夫妻不在のあの日を狙って、王子の執務室でミザリーの断罪を計画したのでした。

日頃からありとあらゆる罪をミザリーのせいだとでっち上げて、アポロ王子や他の攻略対象の男性陣の同情を得ていたアリスでしたので、計画はトントン拍子に進みました。

あの日‥ミザリーを断罪するはずだった日の早朝に、アリスは自分で腕につけた浅い傷に包帯をぐるぐる巻きにして、泣きながらアポロ王子の元へ向かいました。

アポロ王子にはいつでも好きな時に会えるようになっていたので、アリスはすぐにアポロ王子の元へと案内してもらえました。

「‥アリスどうした?こんな朝早くに来て‥一体何があったんだ。」


「‥う、うう。悲しいです。私が何故こんな目にあわなくてはならないのでしょう。‥ミザリー様は、私がアポロ様と仲良くするのがよほど気に入らないのでしょうか。

昨日ミザリー様にお茶会に招かれたので、私はやっと誤解が解けて仲良くしてもらえるのだと思い、いそいそとミザリー様の元へ馳せ参じたのです。‥なのに、ミザリー様は私の顔を見るなり、私に熱いお茶の入ったティーカップをいきなり投げつけられたのです。それで腕を‥割れたカップの破片で切ってしまい火傷も少々‥。」


アリスは涙を流しながら上目遣いにアポロ王子を見つめ、震える体で王子に抱きつきながら訴えました。

泣きながら震えるアリスがまさか嘘をついてるとは思わずに、アポロ王子はアリスの言葉を鵜呑みにしてしまいました。

そして鬼の形相で拳を握りしめながらミザリーを罵りました。

「おのれミザリー!何が親切なミザリーだ!とんでもない悪女じゃないか!すぐにこの部屋に呼び出して断罪してやる!‥アリスがいなければ、ミザリーの本性に気付かずにいただろう。‥アリスに出会えて良かった。」

「‥アポロ様、嬉しい。(そうよ、アポロ王子‥もっと怒って!そして私を怪我させたミザリーをこの国から追い出しちゃって!)」

アリスは王子の体を抱きしめる力を強めました。


『こんなに怯えて可哀想に‥。俺がアリスを守らなければ!』

アポロ王子はそう決意すると、王宮の者にミザリーをすぐに王子のこの執務室へ連れてくるように命じました。

王子が部下に指示を出すその間ずっと‥アリスはアポロ王子の腕の中でしめしめとほくそ笑んでいました。

『ああ、素敵!私の思い通りに事が進んで行くわ!気持ち良いぐらいに!』

アリスがこの話の流れに喜んでいると‥アポロ王子が突然アリスに告白をしてきました。

「‥ああ、アリス。ミザリーの代わりに僕と将来結婚して欲しい。」

「‥アポロ様、そんなっ恐れ多い事です!身分の低い私にはとても‥。(いやいや、私はアリスなんですけど!?何言ってくれちゃってんの?)」

アリスは慌てて王子から体を離すと、首を横に振り続けました。

「‥やはりアリスはミザリーと違い、欲深くなくて良いな。恐れ多い‥か、そう卑屈にならなくても良いのに。アリスの身分ぐらい俺が何とでもしてやれるのに‥。」

「‥いえ、私は時々こうしてアポロ様とお話できるだけで充分嬉しいのです。」
 
「‥アリス、なんて奥ゆかしいんだ。ますます好きになりそうだ。」

「‥そんな‥。」

アリスがアポロ王子からの求婚に、内心は舌打ちをしながらも、可愛く戸惑う姿を演じていると、王子の執務室に他の攻略メンバー達がぞろぞろとやってきました。それを見てアリスは安心しました。

『‥ふぅ、助かったわ。あのまま二人きりだったら、強引に婚約させられそうだったわ‥。』


「アリスその腕はどうしたんだ?‥まさかまたミザリーの仕業なのか。」

真っ先にアリスの腕の包帯に反応したのは、アポロ王子の幼馴染であり側近のダクトでした。侯爵家の長男で学園一の秀才です。

アリスは包帯を巻いた腕をさすりながら、泣き顔を隠すようにダクトから顔を背けました。

「アリス‥可哀想に‥。」

そして次にアリスに声をかけてきたのは、正義感の強い公爵家の長男サリエルでした。

「‥今すぐにでもあの性悪女ミザリーを懲らしめてやらなきゃ気がすまないな!アポロ、ミザリーを呼び出せ!」

「‥もうすでに呼び出しをかけたところだ。ミザリーが来るまで、ここでお茶でも飲みながら皆んなで待とうじゃないか。」

アポロ王子がそう言うと、最後にしぶしぶソファーに腰掛けたのは、学園卒業後に王宮の近衛隊に入隊が決まっているストーンでした。

「‥ミザリーは本当にここへ‥のこのことやってくるのか?」

ストーンはそう言って疑いの目をアポロ王子に向けました。そして恋人であるアリスを自分の隣の席へと手招きしました。

‥ところが、アリスはストーンの横に来る事はありませんでした。それどころか、ストーン以外の王子達男性陣に囲まれて満更でもない様子で寛いでいたのです。

「‥‥。」

ストーンはアリスに対して疑念を持ちました。

アリスは本当に自分だけを愛しているのか?‥まさか俺のことを沢山の男友達の一人としか思っていないのではないか?

‥それから暫くストーンはアリスの一挙手一投足をじっくり観察しました。

するとストーンの目の前でアリスは王子に抱きしめながらも、ダクトが繋いできた手を握りしめていたり、時折サリエルに泣き顔を向けて健気に笑ってみせたりしていたのです。

‥その様はまるで自分に気のある男共を掌の上で転がす娼婦のようでした。

「‥ちっ、気分悪いな。」

ストーンはそう小さく独り言を言うと、アリスから顔を背けました。

その後も一切アリスはストーンの方を見向きもしませんでした。


アリスは知らなかったのです。

ストーンはとても独占欲が強く、アリスを取り巻く大勢の男共の一人として大人しく収まるような男ではないという事を‥。

その為、この頃は自分の計画の遂行にばかり気を取られてストーンへの気配りを忘れていたのです。

一度でも体を許してやったのだから、ストーンはアリスに感謝して、もっとアリスに尽くすはずだと‥アリスは簡単に考えていたのです。

‥ですが、ストーンにとってはそうではなかったのです。

アリスと体を重ねた事で、自分がアリスの特別なのだとはっきりと自覚し、アリスを独占したいという欲求が益々高まっていたのです。


‥そして、とうとう苛々が募り爆発してしまったストーンは、他の男共の前でアリスに詰め寄りました。


「アリス!お前は本当に俺だけを愛しているのか?」

ストーンは最後の臨みをかけて、この問いかけに対するアリスの反応を待ちました。

「‥あなたの事愛してるわ。」

アリスはまるで聖女のような笑顔でストーンにそう言いました。

その言葉を聞いた途端、ストーンは自分の中に強くあった‥アリスを慕う気持ちが、スーッと消えていくのを感じました。

それにアリスのせいで、親友と思っていたサリエルに絶交宣言までされてしまったのです。

ストーンの心は一気に空っぽになってしまいました。

「‥俺は全てを失ってしまった。いや違うのか?俺は最初から何も持っていなかったのかもしれないな。‥俺はこの場に必要ない人間だから、この場から失礼するよ。」

そう言うと、ストーンは力ない足取りで王子の執務室を退室しようとしました。

‥が、その時突然皆んなの待ち人ミザリーの急死の知らせが、第二王子イカロスによって知らされたのです。


‥ミザリーは、容疑者死亡のままその日のうちに一方的に王子達に裁かれることとなり、挙句に土に葬られる事もなく崖の上から荒海の中にその身を投げ落とされたのです。


「‥‥なんて後味の悪い‥。皆んな狂っている‥。」

ストーンはミザリーが海へ投げ捨てられるのを見て急に吐き気が襲い、木の下で吐いてしまいました。

そしてこの場からすぐにでも立ち去りたいと思い、ヨロヨロと立ち上がり歩きはじめました。

トボトボと力なく歩いているストーンの背後から、誰かが声をかけてきました。

「ストーン、良かった。あのメンバーの中でも君だけはまともだったんだね。」

ストーンはふいに背後から話しかけてきた声の声の主に気付き、驚きました。

話しかけてきたのはこの国の第二王子でアポロの弟のイカロスでした。
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