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番外編
テオの再婚
しおりを挟むリリア達の結婚式の翌日、テオのいる公爵邸にお客様がみえました。
カツカツカツ、
パシーンッ。
ブーツで力強く歩く足音と、鞭で床を打つ音が屋敷内に響き渡りました。
カツカツカツ、
パシーンッ。
お客様は、屋敷内の侍女達が震え上がる中を颯爽と歩いておりました。そして、この屋敷の主、テオの部屋の前まで来ると‥‥扉を蹴破り、机の上でぼーっとしているテオの前までやってきました。
「これはこれは‥近衛隊隊長のテオ様。お目にかかれて光栄です。」
テオは目の前に立つ人物を見て驚きました。国の数ある騎士団の騎士達中でも、残酷で凶暴と名高い女性騎士ルノンが、制服を着てそこに立っていたのですから‥‥。‥それにしても、何故鞭を持っているのか‥。
「‥‥第一騎士団のルノン卿‥‥じゃなくてルノン嬢?」
「ええ。お互い名乗る必要もないかと思いまして‥。挨拶が遅れてすみません。ところで‥‥王妃様に言われてここに来たのですけど‥何も聞いていませんか?」
「ああ、今日は王妃様に令嬢を紹介して貰う日なんだ。‥もうそろそろここに来るのだけど‥。」
テオが時計を見たり、窓の外を覗いて見たりすると‥ルノンが床の上に鞭を叩きつけました。
パシーンッ!
「‥察しろよ、キュリオス公!再婚相手は、この私だよ!」
「‥‥‥はっ?いやいやいや‥‥。」
「‥ふふふ、実は、以前から貴方の仕事ぶりには惚れていたんですよ。
戦場に王様が参戦された時も、王様を身を挺して守っていたし、その軟弱な体からは想像できないような力強い剣さばきで敵を次々と切っていく姿‥‥私は感動しましたよ。」
「‥いやいやいや、仕事だし、それに他の皆も同じくらいに強いから。」
テオが両手を振って、一生懸命にルノン嬢の褒め言葉を否定すると‥‥彼女はまた床で鞭を鳴らしました。
パシーンッ!
「まだ話の途中です!」
「‥‥。」
「‥私は仕事の時の貴方も好きですけど、でももっと好きなのは‥‥仕事以外の貴方なんです。
馬鹿で情けなくて、女にも振り回されて傷心の‥腑抜けの‥貴方が好きなんです!もう、腕が鳴るというか‥ワクワクするというか‥‥。」
ピシーンッ!
ルノン嬢が、持っていた鞭を両手でピーンッと張ると、空気を切るような鋭い音がテオの耳元で響きました。
張りつめた空気の中、テオの唾を飲み込む音だけが部屋に響きます。
テオは、ルノン嬢が怖くて動く事も口も開く事も出来ずにいました。
そして‥‥ルノン嬢に手で顎を持ち上げられると、目を閉じて小刻みに震えていました。
「ふふふ‥いい顔をしてくれるわね。堪らないわ!ゾクゾクしちゃう!」
パシーンッ!パシーンッ!
ルノン嬢は、テオの顎を持つ手とは反対の手で、器用に鞭を振り続けています。
「もう、傷心で寝込んでる暇なんてないのよ。これから私と結婚して、公私共に仲良くしましょうよ。‥‥ちゃんと聞いてるの?
私ね、王妃様に貴方の事をくれぐれも頼むって言われてここに来たの。
だから、これからは私が妻として貴方をたっぷり調教してあげますわ!ホホホ!」
パシーンッ!
「ひぃっ‥‥。」
その後テオは、ルノンが見守る前で婚姻書類にサインをする事になりました。
そして翌日それは正式に受理され、テオとサド侯爵令嬢ルノンはめでたく夫婦となりました。
ルノンは、仕事を続けながらも、公爵家の妻としての役目を完璧にこなしていました。
けれども、彼女が屋敷の中でも鞭を持ち、軍服を好んで着ていましたので、侍女達は毎日震えておりました。
テオは結婚後は仕事に集中し、なかなか家に帰る間もない程忙しくなったようで‥‥ルノンに呼び出されない限りはお城に泊まるようになりました。
かと言って、浮気をする事は一切ありませんでした。‥テオの妻がルノンだと知って浮気にのってくれるような、怖いもの知らずの女性なんている訳がありませんから。
それにテオ自身も、ルノンが怖くて浮気なんて出来ませんでした。
そんな夫婦生活を送るテオに同情の声が集まる中‥王妃様と宰相だけは、この結果に大満足しているようでした。
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