かわいそうな旦那様‥

みるみる

文字の大きさ
上 下
31 / 33

31、リリアと妖精王の結婚式

しおりを挟む

満月の明るい夜の事です。フェンネル侯爵領の森の中、湖へ向かって進む一本道に「ブルーベルの道」が作られました。

妖精が見える花として有名なブルーベルを群生させて作ったブルーベルの道です。

その道の先には‥‥リリアと妖精王オベロンが住む湖と、二人の結婚式の会場が用意されていました。


「オベロン、月下美人の妖精がこの素敵な衣装をプレゼントしてくれたの。蚕達と協力して、作り終わるのに今日までかかったのですって。」

リリアはすでに結婚式の衣装を身に纏い、結婚式の会場へ到着していました。一方の妖精王オベロンは、まだ着替えもせずにリリアの結婚式の衣装を呑気に見ていました。

「美しいな。リリアの銀色の髪に良く映える。絹糸で織った生地だけあって手触りも良い。」

「オベロンは‥‥今日は例の特別な衣装を着ないの?」

「‥リリアとお揃いのキラキラした白い衣装か‥。派手ではないか?」

「‥‥あなたのその豪華なお顔や髪色、背中の羽根の方がよっぽど派手ですわよ。」

「‥羽根はしまっておこう。今日の主役はリリアだからな。リリアより目立たないようにする。」

そう言ってオベロンは湖の中に入って行きました。湖の中のお城に行く為です。どうやらやっと着替える気になったようです。

「フフフ、オベロンったら変なところで気を遣うんだから‥って言うか、もうじき式が始まるというのに、まったく呑気なんだから。」

リリアは、湖のほとりにしゃがみ込みオベロンが水面にあがってくるのを楽しみに待っていました。



一方その頃王様夫妻は、リリア達の結婚式へ向かう馬車が来るのを、妖精の指示に従いベランダで待っていました。

すると、お迎えの馬車が空からやって来ました。馬車には車輪はついておらず、かわりにユニコーンが空を駆けてきたようです。

馬車がベランダに到着すると、御者席から見たことのない男性が降りてきました。

「王様、王妃様。この度は妖精王とリリアの結婚式へのご参列をありがとうございます。私はカタバミの妖精です。

これからお二人を馬車に乗せて、結婚式の会場へとご案内させて頂きます。

今回は、王妃様のお体に馬車の振動が伝わらないようにする為、地上の道を走らずに空を飛んで行く事をご了承願います。

また、この馬車には妖精王が結界を張ってくれてますので、招待された方々以外の人には見えなくなっています。」

カタバミの妖精はそれだけ言うと、王様夫妻を車内へとエスコートし、御者席へ戻りました。

そして馬車は王様夫妻を乗せて、いよいよ夜空へと飛び立って行きました。

「‥わぁ!あなた、私達空の上にいるのよ。夢みたい!」

「おお、これは本当に凄い‥。」

王様夫妻は、思う存分夜空の旅を満喫しました。


お二人を乗せた馬車が森に到着すると、森の入り口には、公爵夫妻や侯爵夫妻がすでに到着しており、王様夫妻の到着を待っていました。

王様夫妻が到着したので、これからやっと全員で森の中に入っていく事になりました。

ここからの案内はマンドラゴラのゴラちゃんがしてくれるようです。

満月で明るいとはいえ、少し薄暗くなっていた森の中に少し入ると、すぐ目の前には、光り輝く通路が広がっていました。そこから甘く優しい香りも漂っていました。

「森の中にこんな道なんてあったかしら?それにこの花ってまさか、ブルーベルの花?」

「‥ええ、この花はブルーベルの花ね!青くて可愛いわ。」

「本当に巷の噂のように、妖精が見えるのかしら‥‥って私達はすでに妖精を沢山見てましたわね。ホホホ。」

「それにしても、綺麗ね。月光に照らされて花や葉がキラキラ輝いてるわ。‥‥それに所々光が浮いてるのは‥‥蛍かしら?」

「‥ああ、なんて素敵なの!」

王妃様をはじめ女性三人が、森の中のブルーベル・ウォークを楽しみながらはしゃいでいる後ろを、静かに男性陣がついて行きます。

男性陣も、はしゃぐことこそありませんでしたが、この夢のような体験に、内心はとても興奮していました。

「キュキュ!」

マンドラゴラのゴラちゃんがブルーベルの道を抜けたところで、湖の方を指差しました。

そこには、妖精王とリリアが結婚式の衣装を身に纏い、皆んなの方に向かって手を振っていました。

「皆さん、私達の結婚式へようこそおいで下さいました。」

美しい白の衣装を着たリリアが皆んなにカーテシーをし、妖精王も礼をしてくれました。皆んなが妖精王に恐縮しながらも会場に着くと、早速神父が現れ結婚式の進行を始めました。

「これより妖精王オべロンとリリア・フェンネルの結婚式を執り行います。」

先程王様夫妻をお迎えに行ったカタバミの妖精が、神父役を演じていました。

神父の前で、オべロンとリリアは向き合って愛を誓い合います。

「二人は互いに一生相手を愛し続けると誓いますか。」

「「誓います。」」

二人が愛の誓いを言い終えたところで、ゴラちゃんが綺麗なクッションの上にシルバーのティアラをのせてやってきました。

オべロンがそのティアラを受け取ると、リリアの頭に載せました。なんとこれは‥王冠ではありませんが、ティアラの戴冠式が行われるようです。

オべロンが、持っていたティアラをリリアの頭にのせ終わると、声高らかに宣言をしました。

「皆さん、リリアはこの妖精王オべロンと結婚して、今日から妖精王妃となりました。妖精王妃には妖精王と対等の権限を与えたいと私は思っています。その為、王冠ではありませんが、女王の証のティアラをリリアに授与しました。

リリアには、妖精界の妖精王妃になると同時に、人間界における伝説の妖精女王となり、森から皆さんの世界の平和を守っていって貰おうと思います。」

参列者達は、盛大な拍手をしてこれに応えました。

「妖精女王リリアよ、二人で共にこの森から妖精界と人間界の平和を守っていこう。」

「はい、オべロン。尊敬してますし、愛してます。一生ついて行きますわ。」

リリア達二人は手を取り合い、再び愛を誓い合っていました。

王様夫妻をはじめ、参列者の六人はこの歴史的な瞬間に立ち会えた事に、心から感動していました。そして、リリア達に祝福と感謝の気持ちを込めて、再び惜しみない拍手を送りました。

夜空の満月が輝きを増した頃、辺りからミントの香りが漂いました。香りと共にやってきたのは、ミントの妖精ミントと、ラベンダーの妖精ランでした。

水色の男の子の妖精ミントが参列者の皆さんに可愛く包装されたミントティーのセットを手渡して行きました。

次に薄紫の女の子の妖精ランが、同じく可愛く包装されたラベンダーウォーターとオイルを渡して行きました。

「あらあら、こんなに沢山持てないわ。侍女を連れてくれば良かったわね。ホホホ。」

王妃様がそう言うと、スミレの妖精達が侍女に変身してお側につきました。

「あらまぁ、ありがとう。」

夜空の満月が更に輝きを増してきた頃、リリア達の結婚式は終わりました。

そして、その後は湖のほとりの食卓で皆んなで宴を楽しむことにしました。

王様と妖精王オべロンは、共に森や国を守る者同士意気投合したようで、いつの間にかお酒に酔って、共に肩を組み合って歌を歌っておりました。

一方、女性陣はハーブや美容の話、そして初夜の話で盛り上がっておりました。

皆んな無礼講で、和気あいあいと食事とジュースやワインを楽しんでいました。


そんな楽しいひと時も、いよいよ終わりを告げました。王妃様のお腹の赤ちゃんに負担がかからぬように、宴も早めに終了する事にしたのです。

皆んなで別れを惜しみつつ、これまで通りまた交流していく約束をして、それぞれ家路につきました。

その後、お屋敷に戻った王様夫妻や公爵夫妻、それに侯爵夫妻も、興奮がさめずになかなか寝付けない時間を過ごしましたが、お土産にもらったラベンダーオイルの香りを嗅ぎ、やっと寝付く事ができたのだそうです。



そんな夢の様なリリア達の結婚式を、こっそりと覗き見ていた者がいました。

夢遊病で森をさまよううちに、光に誘われてここまでやってきたテオでした。

テオは、目の前の信じられない光景に目を疑いました。

そして、すっかり目が覚めてしまったテオは結婚式の会場へ乱入して行こうと思い、一生懸命に走ってリリアの名を叫びましたが‥‥

とうとうリリアには気付いてもらえませんでした。

そんなテオに、妖精王が近づいてきて言いました。

「テオ、これは夢だよ。君が見てるのは現実ではないんだ。早く目を覚ますんだ!」

「うわぁっ!」

妖精王が怖い顔をして、テオに顔を近づけてくるので、テオは思わず悲鳴をあげて‥‥目を覚ましてしまいました。

テオが目を覚ますと、先程までの森はなくなっており、いつもの部屋に戻っていました。

「えっ‥あれ?夢?‥‥本当に夢だったのか‥。」

テオは自分が夢を見ていたのだと言う事にやっと気付きました。




その頃‥めでたく結ばれたリリアとオべロンは、寝室で語り合っていました。

「リリア、結婚式の時にテオが来てたぞ。まさか呼んでないよな?」

「えっ!テオが来てたの?‥‥相変わらず予想外の行動をするのね。‥それで、どうなったの?」

「これは夢だよって言って、テオの部屋のベッドに帰してやった。」

「夢って信じたかしら?」

「魔法で夢だと信じ込ませたからね。大丈夫だろう。」

「まぁ、かわいそうなテオ。フフフ。」

リリアはそう言って、オべロンの腕の中で無邪気に笑うのでした。



end.
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

時に記憶持ちはミスを犯す

基本二度寝
恋愛
王太子は平民上がりの子爵令嬢の肩を抱いて、婚約者に罵声を浴びせた。 何事だと人が集まり、遠巻きにこちらを見ていた。 「貴様は!嫉妬から愛するナージャの授業ノートを破り捨てたそうだな!!」 貴族学園に通う王太子はそこで出会った子爵令嬢ナージャに恋し、愛を知った。 その愛する女が涙を流しているのを見て、王太子は頭に血が上った。 「授業…ノート、ですか?」 「そうだ!!無残にもびりびりに破かれた状態だった!!」 「…そのノートは彼女の物だと?」 「そうだ!」 「ハラスティア様。私が殿下を愛してしまったばかりに怒りを買ってしまったことは理解しています! ですが、私物を破損させるなど、そのような方が王妃になんて!」 子爵令嬢は王太子に縋りついたまま、彼の婚約者であるハラスティアに訴えた。 大きな瞳に涙をためて。 「なるほど…そうですか。…衛兵を呼んでください」

(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私

青空一夏
恋愛
 私には一歳年下の妹がいる。彼女はとても男性にもてた。容姿は私とさほど変わらないのに、自分を可愛く引き立てるのが上手なのよ。お洒落をするのが大好きで身を飾りたてては、男性に流し目をおくるような子だった。  妹は男爵家に嫁ぎ玉の輿にのった。私も画廊を経営する男性と結婚する。私達姉妹はお互いの結婚を機に仲良くなっていく。ところがある日、夫と妹の会話が聞こえた。その会話は・・・・・・  これは妹と夫に裏切られたヒロインの物語。貴族のいる異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。 ※表紙は青空作成AIイラストです。ヒロインのマリアンです。 ※ショートショートから短編に変えました。

浮気をした王太子が、真実を見つけた後の十日間

田尾風香
恋愛
婚姻式の当日に出会った侍女を、俺は側に置いていた。浮気と言われても仕方がない。ズレてしまった何かを、どう戻していいかが分からない。声には出せず「助けてくれ」と願う日々。 そんな中、風邪を引いたことがきっかけで、俺は自分が掴むべき手を見つけた。その掴むべき手……王太子妃であり妻であるマルティエナに、謝罪をした俺に許す条件として突きつけられたのは「十日間、マルティエナの好きなものを贈ること」だった。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

(完結)2度目の浮気は許しません。

ちゃむふー
恋愛
「すまなかった…!!俺が悪かった…!!もう2度としないから…!!許してくれっ…!!」 貴方が泣きながらそう言ったので、私は許して差し上げたのに…。 2度目は…容赦しませんよ??

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

処理中です...