かわいそうな旦那様‥

みるみる

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25、修羅場

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ベラは、別の男の人と一緒にいる言い訳を必死に考えていました。テオに何て言って誤魔化そうかと‥。

「‥ベラ、その男はなんだと聞いてるんだ!」

「‥‥ただの知り合いよ。‥森の中の湖の近くに変わった花が咲いてるって言うから、案内してもらってたの。」

「‥僕に黙って、夜屋敷を抜け出して行くなんて‥。」

「‥それよりも、テオは何故ここにいるの?寝たふりをして、黙って私のあとをつけて来たのね!最低!」

「‥そういう君こそ、僕に黙って賭博場へ行ってたんだろ。しかも、その男と路上でキスまでしてたじゃないか!この浮気女!」

「‥何よ!そんな事を言うなら別れてやるわよ!」

「‥‥ベラ、なんでそんなに簡単に別れるだなんて言うんだ!それよりもその男‥‥男はどこに行った!?」

「‥‥‥。」


ベラとテオが言い争う中、間男はランプを持ってこっそりと森を抜け出していたのでした。


テオはベラに詰め寄り、これまで疑問に思っていた事全てについて問い質す事にしました。


「‥君に今日こそ聞きたい事がある。君は僕を愛しているのか?」

「‥‥愛してるわ。」

「さっきの男は、君の何だ?何故キスをしていた?」

「‥知り合いよ。それにキスって言っても挨拶程度のものよ。」

「ベラ、まさか君は賭博場で借金をしていないだろうな。」

「‥‥借金をする程は賭けてないわ。」

「‥‥。」

テオはベラに対し、色々問い質してみたものの、ベラの答えの真偽が分からずに困っていました。

「‥ベラ、分からない。君が分からないんだ。どこまでが本当なのか‥‥。」

「‥馬鹿ね、テオ。あなたは私を信じてくれなきゃ。だって、あなたは私の旦那様でしょ?」

「‥その通りだ。僕は君の旦那だよ。だから君を信じたい。なのに‥どうしても信じられないんだ。‥苦しいよ。」

「‥テオ、苦しまないで。私の事を信じないから苦しいのよ‥。だから、早く私を信じるって言って!」

テオは、ヒステリックになったベラを前にしてオロオロしていました。そして、とうとう頭を抱えてしゃがみ込んでしまいました。

「ベラ、やめてくれ!君の事を信じてやりたいけど、もう無理だ。君とさっきの男のキスシーンが頭から離れない。‥それに、君は僕に沢山嘘をついてる!」

「‥‥テオ、だからそれは‥‥。」

ベラは明らかに困惑していました。テオ相手なら、もっと簡単に誤魔化せると思っていたのでしょうが、どうやら当てが外れたようです。

ベラがその場で呆然と立ち尽くしていると、湖のほとりから二人の言い争う様子をずっと見ていたリリアが、テオの前へ歩いてきました。

リリアは元旦那様に慈悲深い笑顔を見せると、そっと抱きしめてやりました。  

「かわいそうな旦那様。あなたはずっとベラに騙されていたのよ。」

「‥え?」

「あなたが今までベラに貢いだ宝石類は、全てベラの賭博のかけ金や借金に当てられていたのよ。」

「‥‥ベラ、酷いじゃないか!」

「‥何よ、くれた物をどう使おうと私の自由でしょ!」

テオは、リリアの言う事を信じたようです。‥もう、盲目的にベラを追いかけていたテオの姿は、そこにありませんでした。

テオの目は、ベラの事を真っ直ぐに睨みつけていましたし、テオの手は‥‥ベラではなく、リリアの背中を抱きしめていました。

リリアは、まるで母親のような優しい目でテオを見つめると、さらに言葉を続けました。


「‥私のお友達が、結婚してからのベラの様子をずっと公爵邸で見ていたのよ。」

「‥‥それで‥何か見たのか?」

「ええ。ベラがあなたのワイングラスに睡眠薬を入れていたところをね。」

「‥‥ちょっと!何いい加減な事を‥」

「煩い!黙れベラ!」

ベラが睡眠薬という言葉に反応して、リリアに文句を言おうとすると、テオがベラを制しました。‥テオは、やっと真実に目を向け始めたのです。リリアは、テオに話し続けました。


「‥‥ベラはあなたに睡眠薬入りのワインを飲ませて寝かせた後に、屋敷の宝石を少しずつ盗んでは賭博場へ通っていたの。それにね、賭博場から出ると毎回違う男と一夜を共にしていたのよ。そして朝になると、何食わぬ顔をしてあなたの隣で眠ってたの。」

「ベラ!お前という女はー!!」

「‥テオ、リリアの言う事を信じるって言うの?あなた、リリアに騙されてるのよ!」

「煩い!」

テオは、自分の足を掴んで縋ってきたベラを突き放してやりました。

するとベラは、鬼の形相でリリアの事を睨みつけてきました。そして、ジリジリとリリアとの距離を縮めて来ました。

「‥‥‥おのれ‥、リリア!私の邪魔ばかりして!」

リリアはベラから離れる為に、少しずつ湖の方へと後ずさりしました。そして‥‥

「ベラなの!ベラがあの夜会の日に、モルガンという男を使って、私を誘拐したの!私を‥‥ゴブリンの住む洞窟の前に放置して行ったの!私はベラのせいで、死にかけたのよ!」

「リリア、煩いわよ!煩い!煩い!黙れー!」

ヒステリックに叫ぶベラとは対照的に、テオは呆然とした様子で立ち尽くしていました。

「‥‥‥。」

そんなテオに向かって、リリアはいかにも悲しく辛い様子で泣きながら訴えかけました。

「‥私が行方不明の間、旦那様は何故私を探して下さらなかったのですか‥?それに私のいない間にベラと結婚するなんて‥‥。私、旦那様の事を待っていたのですよ!‥‥信じていましたのに!」

「‥あ‥あ、リリア、ごめん‥ごめん‥。」


テオは、リリアの泣くところを初めて見ました。しかも浮気者のベラとは違い、リリアはテオを一途に思っていたのです。

でも‥そんなリリアを裏切って、テオはベラと再婚をしてしまったのです。

テオは、ヒステリックに怒り叫ぶベラと、悲しそうに泣き崩れるリリアを目の前で見比べてみて、ようやく自分が本当に大切にしなくてはならないのは誰なのかが分かりました。

「‥リリア!僕はどうかしていたんだ。でももう、目が覚めた。僕は‥今度こそ君を大切にするよ!‥リリア、おいで。僕と公爵邸へ帰ろう。皆んなが待ってるよ。」

「‥旦那様。」

リリアがテオの差し伸ばした手を取ろうとした瞬間‥‥

「リリア、テオはあんたの旦那様じゃないのよ!テオを旦那様なんて呼ぶんじゃない!‥お前なんか、お前なんか死ねー!死んでしまえー!」

ベラがリリアを思いっきり突き飛ばして、湖に落としてしまいました。


「アーッ‥リリアー!!」



‥リリアは、湖に落ちたまま二度と浮き上がってくる事はありませんでした。


リリアが落ちた時に広がっていった大きな波紋は、テオの目の前で静かに消えていきました。

そして、あとには水面に映った小さな満月だけが、ただユラユラと漂っているだけでした。
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