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私の赤ちゃん
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「やっぱりあの泣き声は…私の赤ちゃん!?」
私は目が覚めるなりそう叫ぶと…
中年の侍女アニーが慣れた手つきで小さな赤ちゃんを抱っこして近づいてきました。
「奥様おめでとうございます。立派なお坊ちゃんですよ。」
アニーは私に赤ちゃんの抱き方を優しく教えてくれました。そして
「奥様、胸がパンパンに腫れてますよ。大変!すぐに坊ちゃんに飲んでもらって下さい。」
「いいの?でもどうやって…」
「こうして胸を出して、ガッと坊ちゃんの口に乳首を含ませて下さい。そうすれば、あとは勝手に坊ちゃまが吸ってくれます。」
アニーがそう説明している最中、すでに私の胸がもの
すごい勢いで赤ちゃんに吸われているのを感じました。
「すごい力…。あっ、胸の張りや痛みがスーッと消えていくわ。」
アニーとそんなやり取りをしていると、部屋の扉付近で誰かが咳払いをする音が聞こえてきました。
「…私はこれで失礼させていただきますね。」
アニーは咳払いの主がソワソワして
いる様子を見て、そっと部屋を退室し
ました。
赤ちゃんがごくごく、チュッチュッ、とおっぱいを吸う音が部屋に響く中、気まずい空気が流れます。
「この子の名前は…」
夫が言いかけた言葉に耳を傾けてながら黙っていると、
「この子の名前は…ディランにしよう。」
夫は予め男の子の名前を考えていたかのように、産まれて間もない我が子にぴったりの名前を命名してくれました。
「悪くないわね。…ディラン、聞こえる?今から貴方はディランよ。」
「ディラン、パパだよ。」
チュッチュッチュウ、ンゴ、ンゴ…
ディランは私達の呼びかけを無視して必死におっぱいを飲んでいました。生まれたばかりだというのに頼もしい限りです。
ディランが生まれて2週間ほど経つと、私も軽い散歩をできるほどに体が回復していました。
アニーにディランを抱っこしてもらい、外へ散歩に行くと、ガゼボに2つの人影が見えました。
言うまでもなく、その2つの人影の主は夫と皇太子でした。
ディランの方を見るとアニーに抱かれて散歩しているうちに眠ってしまったようです。
私はそのままアニーにディランを任せて、そっと人影近くの茂みに隠れました。そして2人の話し声がよく聞こえる場所へと少しずつ近づきます。
「…そうか、ディランか。良い名前だな。ところでディランはいつから僕と君の屋敷で暮らすようになるんだい?」
「まだ母乳を飲んでいるから、一年くらいは無理だよ。それに…今ディランを妻から離してしまったら、妻が狂ってしまうよ。」
「…母乳の件は問題ない。城には育児のプロがいるし、乳母だっている。それに…ディランが少しでも大きくなる前に母親から離してしまった方が逆にいいんじゃないか?だってどうせ別れるのなら、まだ愛着がお互いに湧かない今のうちの方が…。」
「…!」
夫と皇太子の話を聞いて私は思わず声を上げてしまいそうになりました。
…なんて事!皇太子と夫が私からディランを引き離そうとしているなんて!
それに生まれて間もないから愛着が湧かない?冗談じゃないわ!私はディランがお腹の中にいる頃からずっと一緒にいたのよ!ディランは私のお腹から生まれたのよ!
私は物音を立てないように足元の芝生の上を滑るように後退りしてその場を静かに離れました。
「奥様?顔が真っ青ですよ。お部屋に戻りましょうか。」
「……そうね。」
私はどこをどう歩いたのか分からないほど動揺し、その日は食事も取らないまま眠ってしまいました。
私は目が覚めるなりそう叫ぶと…
中年の侍女アニーが慣れた手つきで小さな赤ちゃんを抱っこして近づいてきました。
「奥様おめでとうございます。立派なお坊ちゃんですよ。」
アニーは私に赤ちゃんの抱き方を優しく教えてくれました。そして
「奥様、胸がパンパンに腫れてますよ。大変!すぐに坊ちゃんに飲んでもらって下さい。」
「いいの?でもどうやって…」
「こうして胸を出して、ガッと坊ちゃんの口に乳首を含ませて下さい。そうすれば、あとは勝手に坊ちゃまが吸ってくれます。」
アニーがそう説明している最中、すでに私の胸がもの
すごい勢いで赤ちゃんに吸われているのを感じました。
「すごい力…。あっ、胸の張りや痛みがスーッと消えていくわ。」
アニーとそんなやり取りをしていると、部屋の扉付近で誰かが咳払いをする音が聞こえてきました。
「…私はこれで失礼させていただきますね。」
アニーは咳払いの主がソワソワして
いる様子を見て、そっと部屋を退室し
ました。
赤ちゃんがごくごく、チュッチュッ、とおっぱいを吸う音が部屋に響く中、気まずい空気が流れます。
「この子の名前は…」
夫が言いかけた言葉に耳を傾けてながら黙っていると、
「この子の名前は…ディランにしよう。」
夫は予め男の子の名前を考えていたかのように、産まれて間もない我が子にぴったりの名前を命名してくれました。
「悪くないわね。…ディラン、聞こえる?今から貴方はディランよ。」
「ディラン、パパだよ。」
チュッチュッチュウ、ンゴ、ンゴ…
ディランは私達の呼びかけを無視して必死におっぱいを飲んでいました。生まれたばかりだというのに頼もしい限りです。
ディランが生まれて2週間ほど経つと、私も軽い散歩をできるほどに体が回復していました。
アニーにディランを抱っこしてもらい、外へ散歩に行くと、ガゼボに2つの人影が見えました。
言うまでもなく、その2つの人影の主は夫と皇太子でした。
ディランの方を見るとアニーに抱かれて散歩しているうちに眠ってしまったようです。
私はそのままアニーにディランを任せて、そっと人影近くの茂みに隠れました。そして2人の話し声がよく聞こえる場所へと少しずつ近づきます。
「…そうか、ディランか。良い名前だな。ところでディランはいつから僕と君の屋敷で暮らすようになるんだい?」
「まだ母乳を飲んでいるから、一年くらいは無理だよ。それに…今ディランを妻から離してしまったら、妻が狂ってしまうよ。」
「…母乳の件は問題ない。城には育児のプロがいるし、乳母だっている。それに…ディランが少しでも大きくなる前に母親から離してしまった方が逆にいいんじゃないか?だってどうせ別れるのなら、まだ愛着がお互いに湧かない今のうちの方が…。」
「…!」
夫と皇太子の話を聞いて私は思わず声を上げてしまいそうになりました。
…なんて事!皇太子と夫が私からディランを引き離そうとしているなんて!
それに生まれて間もないから愛着が湧かない?冗談じゃないわ!私はディランがお腹の中にいる頃からずっと一緒にいたのよ!ディランは私のお腹から生まれたのよ!
私は物音を立てないように足元の芝生の上を滑るように後退りしてその場を静かに離れました。
「奥様?顔が真っ青ですよ。お部屋に戻りましょうか。」
「……そうね。」
私はどこをどう歩いたのか分からないほど動揺し、その日は食事も取らないまま眠ってしまいました。
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