気になる人

 家で引きこもる陰気な令嬢ドナ、美しいニコールを姉に持つ卑屈な妹のドナ…それが私のアイデンティティだとずっと思っていました。

 だからこそいつも人目を避けて屋敷内で静かに過ごしてきたのです。

 それが世間的にも私の存在があまり認識されていない事の理由でもありました。

 そんな引きこもりの私にもとうとう気になる男性ができました。ファテン公爵家の長男ボルゾイ様です。

 そんな彼が公爵家を継ぐために選んだ婚約者はなんと目立たない存在の私…ドナでした。

 降ってわいたような幸運に喜んだのも束の間…それからしばらくして私は彼の本性を知ってしまいました。

 許せない!苦々しい思いが募り、夫婦になった後もつい彼に対して冷たい態度をとってしまい彼を冷たく突き放す日々を送るうちに、段々と彼も私がいる屋敷に帰ってこないようになりました。

 どこか吹っ切れたようなサバサバした活動的なドナ、社交界で華やかな存在感を放つファテン公爵夫人…それが今の私のアイデンティティ。

 夫の愛などなくても私は充分に幸せ…のはずなのに、どうして私は彼の事が気になってしまうようで…。


(※性的マイノリティーに関連した表現も話に出てきますが、決して差別を助長するものではありません。ご了承下さい。)
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