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グスタフ卿の秘密‥
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「‥カルディ、こっちから入りましょう。」
グスタフ卿と怪しい女性を追いかけていったエリーゼが医院の裏手にある小さな扉を前にカルディを手招きします。
医院の裏手にあるこの質素で小さな出入り口は、ナポリ親子やエリーゼだけが知っている出入り口で、その先には医院の他の従業員や患者さん達に会う事なくナポリ医師の部屋に行ける秘密の通路があるのです。
エリーゼはこの出入り口の扉の鍵を取り出しで開けると、さっさと秘密の通路を進んで行きました。
「‥。」
「スタンレー、もしかしてこれが違法侵入じゃないかって心配してるの?たとしたら大丈夫よ、心配要らないわ。先生に合鍵を貰ってる時点でこういった事態はすでに先生に黙認されてるも同然なの。」
「‥はい。」
さっきまで秘密の通路内を気まずそうに歩いていたスタンレーですが、それを聞いて安心したのかスタスタと早足で歩き出しました。
「エリーゼ、忘れ物を取りに来た体でここに来たのなら何も秘密の通路なんか通らなくても、正面から堂々と入れば良かったんじゃないか?」
「馬鹿ね!さっきの怪しい女性と男の人にばれないようにこっそりと様子を見るんでしょ?なら‥とっておきの場所があるじゃない。」
「エリーゼ‥君は案外大胆だな。この家の住人である僕を前によくもそんな堂々と不法侵入をできたもんだ。」
「シーッ!」
「‥‥!」
カルディは気乗りしないまま、仕方なくエリーゼの暴走行為に付き合うことにしました。
エリーゼのいうとっておきの場所とは‥ナポリ医師の診察室と壁を一枚隔てた狭い医療品倉庫の事です。
そこに大人3人で潜んで盗み聞きをしようというのですから、カルディは思わずため息をついてしまいました。
3人が息を潜めて盗み聞きをしている中、先程の2人の診察が始まりました。
「‥先生、彼女の顔の傷が悪化してしまったのですが、何とか傷痕が残らないように治せませんか?」
「うーん、これは相当傷口をいじっていますね。このままだと血液に雑菌が入って他の病気も誘発してしまう危険もあります。そうなると顔の傷痕どころの問題ではすみません。‥全く困った患者さんです。」
「‥‥私、何もしてません。傷が悪化したのは私のせいではありません!」
「‥‥はぁ、どうしたものか。」
ナポリ医師は、困った女性患者を前に悩んでいる様子でした。
「ナターシャさん、あなたは常に怪我か病気を患っていますね。」
「ええ。私の仕事は常に危険と隣り合わせですので。」
「ナターシャ、その事なんだが‥。今後は君を一切第五騎士団の仕事には関わらせないようにするから。」
「団長!そんな‥こんなにも私は身を張って頑張ってるじゃないですか!なのに、何故ですかっ!」
「ナターシャ、自分の身を粗末にするような奴を僕の指揮下に置くことはできない。君とは二度と一緒に仕事をするつもりはないから、そのつもりでいてくれ。‥もっと早く僕がこうしておけば、君の顔の傷も酷くなることはなかったかもしれないな。‥すまない。」
「そんな‥嫌です。何があっても私は団長と共に仕事がしたいです!団長!」
「ナターシャ、その話はもう終わりだ。さあ早く先生の方を向いて、傷口の手当てをしてもらうんだ。」
「団長!!」
ばすんっ、ドタッ。
「‥‥先生、ナターシャを気絶させたので今のうちに治療をお願いします。」
「あっ、ああ‥そうだな。」
静かになった診療室からは医療器具を動かす音やナポリ医師の座る椅子がキコキコと軋む音が響きます。
「ナターシャさんは心の病気を抱えています。」
「‥。」
「しばらくの休養をお勧めします。」
「はい。そのつもりです。もうじき部下がナターシャを迎えに来るので、そのまま郊外の療養施設に連れて行って入院させるつもりでいます。」
「そこは遠いんですか。簡単に逃げ出せそうな施設ですか。」
「‥離島にあります。それに24時間管理体制がしかれています。」
「そうですか‥。きっともう少し先の未来には、ナターシャさんのような心の病気を治療する方法も見つかるのでしょうが‥今のこの国の医療ではなす術がありません。何か大変な事が起こらないように本人を隔離するしか方法がないのが悲しいですね。」
「‥‥。」
「あっ‥実はうちには息子がいるんですがね、そいつがそういった心の病気の分野を異国で学んできましてね、近い将来、そいつがこの国で心の病を抱えた人達の救いとなるんじゃないかと期待をしているんです。‥親馬鹿な話ですがね。」
「親馬鹿だなんて‥。僕はご子息が羨ましいです。こんなにも先生に信頼されていて‥。」
「‥‥。」
グスタフ卿はナポリ医師にその後の事を頼むと、診察室を出て職務に戻りました。
その後すぐに、ナターシャをグスタフ卿の部下が迎えにやってきて出て行きました。
ナポリ医師1人になってしまった診察室に、次の患者さんが入ってきました。
「先生、坊っちゃんは今日はどんな様子でしたか?」
「グスタフ卿は、自分の部下の診察に付き添ってきただけで今日は何の診察もしていません。」
「坊っちゃんが最近薬を飲む事を拒否するんです。そのせいか、少し暴力的な性格になった気がします。‥先生、どうすればいいのでしょうか。」
グスタフ卿の屋敷の執事らしき初老の男性が、ナポリ医師に切実に相談を持ちかけていました。
グスタフ卿の性格だとか投薬の話をしているようですが、エリーゼには何の事なのかさっぱり分かりませんでした。
「公爵様は、グスタフ卿をどうするおつもりなのでしょう?」
「旦那様は坊っちゃんが公爵家の立派な後継者となる事だけを望んでいます。それ以外の事は私には分かりかねます。」
「そうですか。‥あの薬は副作用が激しいので本来なら長期の服用はお勧め出来ないのですが‥。」
「‥先生、長年のご理解とご協力に感謝します。公爵家のご先祖様には、坊っちゃんと同じ症状で破滅して早死にしていった方が何人もいます。坊っちゃんだけはそんな事のないようにしたいのです。」
「分かっています。‥ところで最近ご子息の周りで不審な出来事が続いているようですが‥。」
「その事ですが、公爵家でも秘密裏に調べを進めています。それに、坊っちゃんに関わった御令嬢達のもとにもスパイを送り込んでいます。ぬかりはないです。」
執事は少し悪人っぽい声色でそう話すと、ナポリ医師とさらに小声で何かをヒソヒソと話してから診察室を出て行きました。
診察室は再び静まり返りました。ナポリ医師も診察室を出て行ってしまった為、エリーゼ達3人は医療品倉庫からそーっと出て来ました。
3人はそのまま元来た道を辿って医院の外に出る事にしました。
グスタフ卿と怪しい女性を追いかけていったエリーゼが医院の裏手にある小さな扉を前にカルディを手招きします。
医院の裏手にあるこの質素で小さな出入り口は、ナポリ親子やエリーゼだけが知っている出入り口で、その先には医院の他の従業員や患者さん達に会う事なくナポリ医師の部屋に行ける秘密の通路があるのです。
エリーゼはこの出入り口の扉の鍵を取り出しで開けると、さっさと秘密の通路を進んで行きました。
「‥。」
「スタンレー、もしかしてこれが違法侵入じゃないかって心配してるの?たとしたら大丈夫よ、心配要らないわ。先生に合鍵を貰ってる時点でこういった事態はすでに先生に黙認されてるも同然なの。」
「‥はい。」
さっきまで秘密の通路内を気まずそうに歩いていたスタンレーですが、それを聞いて安心したのかスタスタと早足で歩き出しました。
「エリーゼ、忘れ物を取りに来た体でここに来たのなら何も秘密の通路なんか通らなくても、正面から堂々と入れば良かったんじゃないか?」
「馬鹿ね!さっきの怪しい女性と男の人にばれないようにこっそりと様子を見るんでしょ?なら‥とっておきの場所があるじゃない。」
「エリーゼ‥君は案外大胆だな。この家の住人である僕を前によくもそんな堂々と不法侵入をできたもんだ。」
「シーッ!」
「‥‥!」
カルディは気乗りしないまま、仕方なくエリーゼの暴走行為に付き合うことにしました。
エリーゼのいうとっておきの場所とは‥ナポリ医師の診察室と壁を一枚隔てた狭い医療品倉庫の事です。
そこに大人3人で潜んで盗み聞きをしようというのですから、カルディは思わずため息をついてしまいました。
3人が息を潜めて盗み聞きをしている中、先程の2人の診察が始まりました。
「‥先生、彼女の顔の傷が悪化してしまったのですが、何とか傷痕が残らないように治せませんか?」
「うーん、これは相当傷口をいじっていますね。このままだと血液に雑菌が入って他の病気も誘発してしまう危険もあります。そうなると顔の傷痕どころの問題ではすみません。‥全く困った患者さんです。」
「‥‥私、何もしてません。傷が悪化したのは私のせいではありません!」
「‥‥はぁ、どうしたものか。」
ナポリ医師は、困った女性患者を前に悩んでいる様子でした。
「ナターシャさん、あなたは常に怪我か病気を患っていますね。」
「ええ。私の仕事は常に危険と隣り合わせですので。」
「ナターシャ、その事なんだが‥。今後は君を一切第五騎士団の仕事には関わらせないようにするから。」
「団長!そんな‥こんなにも私は身を張って頑張ってるじゃないですか!なのに、何故ですかっ!」
「ナターシャ、自分の身を粗末にするような奴を僕の指揮下に置くことはできない。君とは二度と一緒に仕事をするつもりはないから、そのつもりでいてくれ。‥もっと早く僕がこうしておけば、君の顔の傷も酷くなることはなかったかもしれないな。‥すまない。」
「そんな‥嫌です。何があっても私は団長と共に仕事がしたいです!団長!」
「ナターシャ、その話はもう終わりだ。さあ早く先生の方を向いて、傷口の手当てをしてもらうんだ。」
「団長!!」
ばすんっ、ドタッ。
「‥‥先生、ナターシャを気絶させたので今のうちに治療をお願いします。」
「あっ、ああ‥そうだな。」
静かになった診療室からは医療器具を動かす音やナポリ医師の座る椅子がキコキコと軋む音が響きます。
「ナターシャさんは心の病気を抱えています。」
「‥。」
「しばらくの休養をお勧めします。」
「はい。そのつもりです。もうじき部下がナターシャを迎えに来るので、そのまま郊外の療養施設に連れて行って入院させるつもりでいます。」
「そこは遠いんですか。簡単に逃げ出せそうな施設ですか。」
「‥離島にあります。それに24時間管理体制がしかれています。」
「そうですか‥。きっともう少し先の未来には、ナターシャさんのような心の病気を治療する方法も見つかるのでしょうが‥今のこの国の医療ではなす術がありません。何か大変な事が起こらないように本人を隔離するしか方法がないのが悲しいですね。」
「‥‥。」
「あっ‥実はうちには息子がいるんですがね、そいつがそういった心の病気の分野を異国で学んできましてね、近い将来、そいつがこの国で心の病を抱えた人達の救いとなるんじゃないかと期待をしているんです。‥親馬鹿な話ですがね。」
「親馬鹿だなんて‥。僕はご子息が羨ましいです。こんなにも先生に信頼されていて‥。」
「‥‥。」
グスタフ卿はナポリ医師にその後の事を頼むと、診察室を出て職務に戻りました。
その後すぐに、ナターシャをグスタフ卿の部下が迎えにやってきて出て行きました。
ナポリ医師1人になってしまった診察室に、次の患者さんが入ってきました。
「先生、坊っちゃんは今日はどんな様子でしたか?」
「グスタフ卿は、自分の部下の診察に付き添ってきただけで今日は何の診察もしていません。」
「坊っちゃんが最近薬を飲む事を拒否するんです。そのせいか、少し暴力的な性格になった気がします。‥先生、どうすればいいのでしょうか。」
グスタフ卿の屋敷の執事らしき初老の男性が、ナポリ医師に切実に相談を持ちかけていました。
グスタフ卿の性格だとか投薬の話をしているようですが、エリーゼには何の事なのかさっぱり分かりませんでした。
「公爵様は、グスタフ卿をどうするおつもりなのでしょう?」
「旦那様は坊っちゃんが公爵家の立派な後継者となる事だけを望んでいます。それ以外の事は私には分かりかねます。」
「そうですか。‥あの薬は副作用が激しいので本来なら長期の服用はお勧め出来ないのですが‥。」
「‥先生、長年のご理解とご協力に感謝します。公爵家のご先祖様には、坊っちゃんと同じ症状で破滅して早死にしていった方が何人もいます。坊っちゃんだけはそんな事のないようにしたいのです。」
「分かっています。‥ところで最近ご子息の周りで不審な出来事が続いているようですが‥。」
「その事ですが、公爵家でも秘密裏に調べを進めています。それに、坊っちゃんに関わった御令嬢達のもとにもスパイを送り込んでいます。ぬかりはないです。」
執事は少し悪人っぽい声色でそう話すと、ナポリ医師とさらに小声で何かをヒソヒソと話してから診察室を出て行きました。
診察室は再び静まり返りました。ナポリ医師も診察室を出て行ってしまった為、エリーゼ達3人は医療品倉庫からそーっと出て来ました。
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