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帝国のお城で泊まる

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「あー気持ちいい。こんなにゆっくりお風呂に入ったのっていつぶりかな」

考えれば異世界に来てからほとんどの時間をダグラスと一緒だったので、落ち着いて風呂に浸かったことがなかった。隙さえあれば愛の裸を覗きに来ようとする彼のせいだ。

それに大抵は隣室に滞在する騎士たちのふざけ声が響いていた。

バスルームにたち込める湯気に熱めの湯。静かな時間。こんな風にリラックスしたのは初めて。まったりとしていると、異世界に来たことが夢みたいに思える。

「……でもここは日本じゃない。捜査一課のみんな、心配させちゃったよね。沢木刑事部長なんか、責任取らされて降格になったら本当に申し訳ないわ。お子さんが有名私立高校に入学したばっかりっていってたのに」

ちゃっぽん――ちゃぽん――

水滴が風呂の水面に波紋を広げていく。愛は大きく息を吸うと重力に促されるまま、頭の先まで水に浸かった。さっきまで聞こえていた音が消え、愛の心臓の音が聞こえてくる。

そうして遠くからかすかに声が聞こえてきたかと思ったら、まるで天空から映像を見るように脳裏にある光景が映し出された。

ここはあの爆発が起こった廃工場の裏だ。数人のスーツを着た男性の後ろには、ヘルメットをかぶった爆発物処理班が大勢いる。先頭のスーツの男性が大きな声で叫んだ。

『愛っ! あいつ、どこに行きやがったんだ! ついさっき近くで銃声が聞こえたばかりなのにどうやって! くそぉっ!』

(あ、廣瀬先輩だ。厳しいけど本当は優しくて……すごく世話になったな。つらそうな顔してる。もしかして私のことで責任を感じているのかも)

どうしてこんな光景が見えるのだろう。そうして場面は変わって捜査本部の一室になる。会議はもう終わったようで、たくさんのパイプ椅子が並ぶ部屋にはもう誰もいない。

ホワイトボードには愛の写真と容疑者である新宮 塔子の写真が並んで張られていた。そこには所在不明とボードマーカーで書かれている。

(そうか、私はここにいるから死体はあっちの世界にはないんだ)

ぼんやりと考えながらふとあることに思い至る。もしかして……まさか……

(……ということは新宮 塔子も私と同じように異世界に飛ばされているかもしれない?!)

あまりの予想に心臓がドクンと大きく跳ねる。同時に大きな水音がしていきなりバスタブから引きずり出された。

「アイッ!」

ダグラスだ。浴室で愛が溺れていると勘違いしたのだろう。いきなり水の中から引きずり出されてまずは空気を思い切り吸う。

「はぁっ! はぁっ! はっ!」

「落ち着けっ! アイ、もう大丈夫だ!」

正気を失ったようにつかみかかる愛を、ダグラスがなだめる。

異世界に飛ばされたのが自分だけではなかったのかもしれないと思うと、焦りが止まらない。

しばらくして愛はダグラスのおかげで落ち着きを取り戻した。彼は浴槽のタイルに跪いていて、立派な団長服は腰のあたりまでずぶ濡れ。

愛はダグラスに支えられて浴槽から出ると、すぐにタオルを羽織った。

「だ、大丈夫よ。ちょっと潜ってただけ。私、水中なら三分は息を止められるんだから――それよりダグラス……私と出会ったあの森に、もう一人女性がいなかった?」

ダグラスは突然の愛の質問に戸惑っているようだ。

「身長は百六十四センチで体重四十五キロの痩せ型の女性。水色の長いスカートをはいていたわ」

「あの時、アイ以外他の人間の気配はなかった。万が一あそこに誰かいたとしても、あの森はたちの悪い魔獣の巣窟だ。よほど武装していないと人間はすぐに食われてしまっているだろう。その女はお前と同じ国から来たのか?」

「ええ、そう。多分……」

愛は指を顎に当てて考え込む。おそらくダグラスの言うことが正解なのだろう。もし新宮 塔子がこの世界に来ていたとしても、おそらくはあの森で命を落としているに違いない。

飼いならされていない魔獣がどれほど恐ろしいものなのか、愛は遠征中に充分に理解させられている。

真剣に悩んでいるのに、あることに気が付いた愛は全身を怒りで震わせた。ダグラスがバスタオルの下に手を入れて愛の乳房を揉んでいる。

「ダグラス……だから私、いつもやめてっていってるわよねっ! 準強姦罪で三年以上の有期懲役っ!」

愛が後ろ回し蹴りを繰り出すと、何故かいつもはさらっとかわすはずのダグラスに真正面で当たってしまう。

「……っつ!」

彼の胸部にクリアヒットしてしまい、ダグラスは咳をしながら顔を歪めた。

「ど、どうして避けないの?!」

「いやっ、肌が桃色に染まっていて随分色っぽいもんだと思ってたら反応が遅れた……というかいい眺めだな、アイ」

ダグラスはまだ右足を上げ続けている愛の股間を注視しているようだ。指摘されてすぐに足を下ろそうとしたが、一歩早くダグラスがそれを手で押さえた。

「お前の体は本当に柔らかいな……それにしなやかで、こんなに細い脚なのに随分重い蹴りだ」

「は、離してっ!」

右足を上げたまま、愛は左足で床を蹴り上げてぐるりと一回転する。同時に左足でダグラスの顎を蹴ろうとしたのだが今度は避けられた。

「おっと、危ないな」

けれどもそれで終わりではない。愛は体をかがめて軸足で下方に蹴りを繰り出す。膝の後ろを狙った渾身の攻撃を再びかわされてしまった。

このタイミングなら確実に決まったはずなのに。悔しさとともに彼に対する尊敬の気持ちがあふれ出す。妙な感情だ。愛はがっかりしながらため息をつく。

「そんな大きな図体をしててどうしてそんなに俊敏なの?」

「はははっ、どうしてだろうなぁ。アイ、もっとこっちへ来い」

ダグラスは嬉しそうに愛を抱きしめた。体が密着して、お風呂に入ったばかりなのにさらに体温が上昇してしまう。ダグラスは自然に愛のお尻に手を伸ばして揉み始めた。

「アイ、遠征隊は明日には帝都につく。そうしたら俺は騎士団長としての会議やら何やらで忙しくなるだろう。いままでのようにいつも一緒にいるわけにはいられない。だからアイ、今夜は俺を拒否しないでほしい」

「え? あっ! ちょ、ダグラスっ! 誰もまだいいって言ってないっ!」

返事もまだだというのに、ダグラスの手によってあっという間にタオルが外された。そうして無理やり体を抱き上げるとベッドまで連れていかれる。

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