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ダグラス視点

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ここは野営のテントの中。ダグラスは副団長のエヴァンとこれからの行程について話し合っていた。遠征の目的である採集しなければいけないオーブはあと一つ残っている。

しかもそれは今までの遠征の中でも最難関の作戦。虹のオーブは巨大な超大型魔獣によって護られている。知りうる限りの情報を集め、騎士たちの特性もあわせて最適な作戦を練るのだ。状況に合わせていくつかのパターンを考えておく。

そうして会議が終わったあと、エヴァンは責めるような口調で切り出した。

「団長。あの少年をご自分の世話係にされたんですね。身元は確かなのでしょうか? 他国のスパイということも考えられます。とにかく拘束しておいて帝国から誰か迎えに来させればどうでしょうか」

(あぁ、やっぱり来たか。こいつは俺を崇拝しすぎているからな。アイのことが気に入らんだろうとは思っていたが……まさか本当はあいつが女だったと言ったらもっと反対するだろうな)

副団長のエヴァンが進言するが、ダグラスは片手をあげてそれを遮った。とにかくうまく誤魔化さないといけない。まさかあの少年が女だったとは彼も想像すらしていなかった。

短い髪に細い腰、長い脚はまっすぐで色気もなく、まるで本当の少年のよう。けれどもダグラスに向かってくるとき見せた、意思の強い黒い瞳に白いバターのようなしなやかな肢体。その生命力に一瞬で見惚れてしまった。

それはダグラスの心臓を鷲掴みにされるほどの衝撃。これほど美しいものをかつて見たことがなかった。彼女の足の爪先の一つ、腕の筋肉が舐めやかに動く様までまだ鮮明に覚えている。

ダグラスが帝国軍の団長だと知ってもアイはまったく態度を変えない。しかもどの女も喜んで彼に体を開くのに、アイだけは違う。全身で拒否された時にはさすがのダグラスも落ち込んだ。

(だが、アイは俺の顔を見ると憎まれ口をたたくが、ちょっとしたところで優しいんだな。そのギャップが溜まらないというのはもう俺がおかしいのだろうか)

ダグラスはアイが夜中に起きて、シーツをかけなおしてくれたことを思い出した。それに今朝はダグラスの服をたたんだりブーツの汚れを落としたりしてくれた。

(でもアイはそういうの苦手そうだな。あんなに長い間必死でやってた割には、服はめちゃくちゃだったしブーツも前より酷くなったくらいだ。でもあんなドヤ顔で手渡されたら何も言えんだろう。しかもアイの手や顔まで泥だらけになっていたしな)

自然に笑ってしまうのを隠すために、口元を抑える。そうしてダグラスは胸の中に芽生えたくすぐったい気持ちを押し隠しながらわざとそっけなく答えた。

「大丈夫だ。アイのことは俺が全面的に責任を負う」

「ですが団長! あの少年の持っていた武器も気になります。団長の魔力防御を突き抜ける武器だなんて考えられません。もしかして何か呪詛が込められているかもしれません。怪我の具合はいかがですか」

それはダグラス自身も本当に不思議だった。命に別状はないが、貫通していたので一か月ほどは治らないだろうと予想していたから。

「あぁ、思ったよりも軽い傷だったようだ。すぐに医療魔法で止血消毒したしな。一夜明けると治ってしまった。いまじゃあ、どこに傷があったかもわからんくらいだ」

ダグラスが襟をはだけて肩を見せると、エヴァンはほっとした表情を見せた。けれどもすぐに思い直したように顔をしかめさせる。

「――でも私は反対です。あの少年は凶悪な魔獣が大勢住むあの森に、たった一人でいたのですよ。怪しすぎます。それに数日前から、このあたりでみかける使役魔獣の数が急激に増えています。もしかしたらあの少年と関係があるのかもしれません」

「まあ、怪しいといえばすごく怪しいな。だから俺の傍で見張っておくことにした。それが一番安全だろう。だからお前たちは絶対にアイに手を出すなよ。エヴァン、この話はもう終わりだ。いいな」

最後に強めのくぎをさしておくことも忘れない。この有能な副団長はダグラスのためなら何でもする男だからだ。アイに何をするかわかったものではない。

「分かりました。団長がそこまでおっしゃるなら指示に従います。でも絶対に気は許さないでください。では失礼します」

しぶしぶ納得したエヴァンが退出すると、入れ替わりにアイが戻ってきた。ダグラスがアイを見ているのに気が付くと、彼女は彼から目を逸らす。そうして彼女はとても悔しそうに話し始めた。

「……昨日は悪かったわ。いくらあなたたちが銃刀法違反の上、公務執行妨害をしたとしても、銃は使うべきじゃなかった。そこは反省してる」

「ああ、そんなことか。気にするな。あれはあれで面白かったぞ。だがそんなに気になるなら俺に抱かれればすぐに許してやるぞ」

ダグラスは背を向けるアイを背後から抱きしめ、首筋に唇を這わせる。彼女を抱きしめると何だかいい香りが漂う。大きく息を吸い込むと、心が落ち着いて全身に力がみなぎるのだ。

(俺はこんなに抑えのきかない男じゃなかったはずなんだが、彼女を見るとなぜだかつい触りたくなる――)

アイは見た目は華奢だけれども、抱きしめるとほどほどに肉がついていて抱き心地が存外いい。シャツのボタンを外して彼女の肌の感触を確かめる。そうして手はついつい二つの膨らみに伸びてしまうのだ。

(あぁ、これだ。昨日と同じ感触。手に吸い付くような肌とはこういうことだな。胸はもう少し大きい方が好みなのだが、そこはおいおい育つだろう。こうしているとどうしようもなく抱きたい気持ちになるが我慢だ。無理やり抱いてアイに嫌われるのは困るからな)

「でも昨夜の行為は強制わいせつ罪に問われてもおかしくないわ。もちろん今あなたがしていることもよ。六か月以上七年以下の懲役!」

(おおっと――そろそろ来るな)

予感的中。アイは肘でみぞおちを突こうとするがダグラスはそれを難なくかわす。次に反対の腕を回して殴り掛かってくるが彼は前腕で受け止めた。ダグラスはアイと腕を合わせながら真正面から向き合う。

その瞬間、ダグラスはぞくりと高揚感に似たものを覚えた。

(この目! この目だ! いままで戦ったどの敵兵にも俺の心を抉るこの目を持つ者はいなかった!!)

黒曜石のような神秘的な瞳がダグラスを一心に見据える。彼女には一切迷いは見られず、透明の氷のような純粋な闘気がそこにはあった。

とても不思議な感覚。それはダグラスの興奮を余すところなく煽っていく。気を付けなければ笑い声を出してしまいそうになるほど。

「ほう、見たこともない型だな。これもお前の国のものなのか、アイ」

「そうよ、よかったら二段蹴りや三本貫手も見せてあげましょうか? あなたは意識を失っちゃうかもしれないけれど。でもこれは正当防衛だから仕方ないわね」

相変わらずの気の強さだ。だがダグラスはあることに気が付いて構えを解いた。テーブルの上にはアイが持ってきたらしいいろいろなものが置いてある。

包帯にテープ。おそらく氷の入った袋に何かの塗り薬。訳の分からない薬草のようなものまである。ダグラスが質問をする前に、アイが顔を真っ赤にして答えてくれた。

「これっ! 宿の主人に頼んで片っ端からいいっていうのを持ってきたの。肩の傷に使いなさいよ!」

「あぁそうか。はははっ、ありがたいがあの怪我ならもう心配ない。すっかり治ったみたいだ」

アイは驚いた顔を見せると急に構えを解き、強引にダグラスの上着を脱がせ始める。そうしてシャツまで脱がせて上半身裸にし、傷を確認すると突然ふにゃりと顔を緩ませた。

「よ、良かったぁ」

(うわぁ、こんな顔もできるだなんて反則だ……くそっ)

ほとんど泣きそうだが気の抜けきった顔。そのギャップがまたダグラスの心臓を鷲掴みにした。思わず胸を抑えてダグラスは理性を失いそうになる。このままでは無理やり襲ってしまいそうだ。

(俺は生きたまま遠征を終えられるんだろうか? このままじゃ心臓が持たん! とにかく我慢、我慢だ! 烈情のままに襲ってしまうと絶対に嫌われる!)

帝国軍の騎士団長はアイにメロメロだった。

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