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1巻
1-3
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彼女は腰に両手を当てていかにも不満そうな声を出したあと、仕方がないというようにため息をついた。
アレクシア様が何か言いたそうな目で私を見るが、どうしてなのかわからない。
「まぁいいわ。また騎士団でゆっくり話しましょう。今夜は奥様がいらっしゃるものね。では奥様。失礼いたします」
そう言うと、アレクシア様は笑顔を残して去っていった。
それを見送ったあと、ライアン様は私に問いかける。
「開演までまだ時間があるから、飲みものをもらってくるよ。何がいい? レイチェル」
さすがは気の利く優しい旦那様だ。
でも実のところ、ライアン様が傍にいる緊張感で何も飲める気がしない。でも彼の好意を無駄にはしたくないので、適当に頼むことにする。
「そうですね、お酒を飲むとすぐに眠くなってしまうから、それ以外ならなんでも構いませんわ」
「わかった。少し待っててね」
ライアン様の背中が人混みの中に消えていく。
彼はすぐに、またどこかの令嬢から声をかけられたらしい。複数の女性と言葉を交わしているのが、人の隙間から見えた。しばらくして別の男性からも、親しそうに声をかけられている。人当たりのいいライアン様の周りには、みるみるうちに人だかりができた。
結婚してから二人で社交的な場に出席したのは、これで三回目。私と離れた途端に、いつもこうなる。
対する私は、一層多くの人にチラチラと見られている。それなのに目が合うと、慌ててどこかに行ってしまうのだ。ライアン様の妻として誰かに話しかけようと思っても勇気が出せず、その場に立っていることしかできない。
(社交的なライアン様は、どこに行っても人気者ね。今までは私が隣にいたから、みんな話しかけ辛かったのだわ。ライアン様は、結婚してからもたくさんの女性に好かれているのでしょうね)
そう考えると、ふと寂しくなってしまった。
(でも仕方がないわ。だってライアン様はとっても素敵な男性だもの……私が独り占めするわけにはいかないわ。……でも、早く戻ってきてくださらないかしら)
彼をひたすら待ち焦がれていると、背後でガラスが割れるような音がする。
それと同時に、女性の声が耳に飛び込んできた。
「何をなさるの! あなた、どこを見ていたのかしら! ああ、こんなに汚れているわ。こんなドレスじゃもう観劇は無理ですわ! どうやって償うつもり!? 給仕の給金じゃ一生かかっても払えやしないわよ!」
それを遠巻きに見ている淑女たちが、ひそひそと話している。
「あれは気分屋だと有名なミデルブ伯爵夫人ですわ」
「まぁ。あの給仕、可哀想に……」
見たところ、どうやら給仕がシャンパンを落とし、ミデルブ夫人のドレスに染みができてしまったようだ。夫人はフリルのついた扇を振り回しながら、烈火のごとく怒っている。
ひたすら頭を下げて謝っている給仕を、夫人はヒステリックに何度も責め立てた。給仕の上司まで呼び出して、謝罪を求めているようだ。
しかしよく見ると、シャンパングラスは夫人よりだいぶ離れた床の上で割れていた。それなら、シャンパンはそんなにドレスにかかっていないはずだけれど。淑女たちは、さらに噂を続ける。
「本当は夫人のほうから給仕にぶつかったのよ。八つ当たりされて、あの給仕は運が悪かったわね」
「ミデルブ伯爵は若い後妻である彼女に夢中で、なんでも言うことを聞くらしいのよ。彼女の機嫌を損ねたらどんな目に遭うかわかりませんわ。給仕は可哀想だけれども、誰も助けられないわね」
そう話す淑女たちのように夫人たちを眺める人はたくさんいるが、仲裁する者は現れない。
ミデルブ伯爵は王国でも影響力のあるお方だ。彼女たちが言うように、夫人の機嫌を損ねてミデルブ伯爵の報復を受け、社交界での立場を悪くすることが恐ろしいからだろう。
(あの給仕さん、可哀想。あんなに辛そうな顔で謝っているわ。彼の責任ではないみたいだし、どうにか助けてあげられないかしら……あぁ、でも私に何ができるの?)
そんなことを考えているうちに、ライアン様が私の隣に戻ってきた。
左手に赤ワイン、右手にオレンジジュースを持ち、彼は夫人を呆れたように見る。
「またミデルブ伯爵夫人か。今夜はいつにもまして虫の居所がお悪いようだね」
ライアン様がやれやれとため息をつく。それを見て、私は腹を括った。
ただの貴族ならば、夫人にたてつくことはできないだろう。けれども、ハプテル伯爵家はミデルブ伯爵家以上の権力を持つ名家だ。今は家を出ているけれど、私に対するお父様とお兄様の溺愛ぶりは社交界でも有名。そんな立場の私なら、何かできるかもしれない。
(怖いわ、でも……でも、こんなの黙って見ていられないもの)
「…………」
私は無言でライアン様の左手にあるワイングラスを取ると、ゆっくりと足を前に進めた。
そして夫人の右斜め後ろにそっと立つ。夫人は文句を言うことに夢中になっていて、私に気が付いていない。
夫人が怒りにまかせて扇を振り上げた瞬間、その端が私の肩に当たった。同時にワイングラスが傾いて、その中身が零れる。鮮やかな赤色の液体が、私のドレスをぐっしょりと濡らす。オーガンジーの淡い青色のドレスが、一瞬でワインの色に染まって紫色になった。
その場にいた全員の視線が、一斉に私に注がれる。
「……な! なんですの⁉ あ、あなた! 何をっ」
夫人は何が起こったのか、まだ理解できていないようだ。彼女は私の顔を見ると、さっきまで怒り続けていた口を閉ざした。呆気に取られた夫人の顔を、私は無感情の目でじっと見つめる。
「あら、申し訳ありませんわ、ミデルブ伯爵夫人。あなたのドレスにもワインがかかったようです。私のドレスも台なしですし、困りましたわね。どう償えばよろしいかしら?」
「――ひっ!」
夫人は青ざめ、恐怖の表情を浮かべた。普通に話していても、人形のようで背筋がゾクリとすると言われるのだ。今は意図して威圧感を込めているのだから、それ以上だろう。
けれども本当は、心の中でうさぎのように震え上がっていた。
(あぁ、神様っ! 夫人に何も言い返されませんように……)
彼女に何か言われると怖いので、先に駄目押しをしておく。
「夫人のドレスのお代は、もちろんわたくしが全額お支払いいたしますわ。けれど、ドレスの一着や二着、そんなに大声をお上げになるほどの金額ではありませんでしょうに」
(きっと夫人のドレスはとてもお高いに違いないわ。せっかくライアン様のために貯めたお金がなくなってしまう。なんて辛いのかしら……)
落ち着き払った冷たい態度を心がけるが、お金のことが心配で胸の中は暗雲が立ち込めている。
すると、夫人が顔を真っ赤にして叫んだ。
「ハプテル伯爵令嬢、お支払いは結構です! これはお金の問題ではありませんのよ! この人たちがきっちり自分の仕事をしないからいけないのですわ!」
「いいえ、ミデルブ伯爵夫人。もうハプテル伯爵令嬢ではありませんわ。私はレイチェル・ブルテニアです。二か月前に結婚式を挙げましたの。もちろんご存じですよね。それと――」
私はもう一度何か言おうとする夫人の目を、冷静にじっと見据えた。心の中では夫人のドレス代を払わなくてよくなって、ホッとする。
「――淑女が感情を表に出すのは、はしたないことでしてよ」
「くっ!」
夫人は口をつぐんで、悔しそうに唇を噛んだ。人形と呼ばれる私に言われたのだ。言い返せるわけがない。そのとき、ちょうど誰かと歓談を終えたミデルブ伯爵が戻ってきた。
「どうしたんだい? 愛しいテレーシア。この騒ぎは一体?」
伯爵は、どうして夫人が周囲の注目を集めているかわからないようで、キョトンとしている。
「オペラを観る気がなくなりましたわ。屋敷に戻らせていただきます!」
夫人は捨て台詞を残すと、かぶりを振って私に背を向けた。そして、困り顔の伯爵と一緒に人波の中に消えていった。その場に残された給仕とその上司が、私に向かって頭を深く下げる。
でも私は、内心それどころではなかった。夫人との対立を終えた安堵もあるが、それ以上にとても重要な問題があったから。
仕方がないとはいえ、ドレスにワインをかけてしまったのだ。このままでは染みが残ってしまう。
(あぁ困ったわ、赤ワインじゃなくて白ワインだったらよかったのに! このままじゃこのドレス、もう二度と着られなくなってしまうわ。――そうだわっ、白ワインよ!)
「あの、助けていただいて、ありがとうござい……」
「――早急に、ここに白ワインを持ってきてください」
私が給仕のお礼に被せるように言うと、彼は言葉を途中で切り、頭を上げて目を丸くした。
「……はい?」
「ですから、白ワインを早く持ってきてくださいませ」
もう一度強く言うが、彼は困惑したまま動かない。
すると、無表情で白ワインをねだる私に恐れを抱いたのか、別の給仕が慌てて持ってきた。白い透明の液体を見て、ホッとする。
「割れたグラスをそのままにしていては危なくてよ。早く片づけたほうがいいと思いますわ」
私は給仕にそう言い残すと、白ワインを持ってその場を離れた。
(ゆっくりしている時間はないわ。急がないと染みが残ってしまうもの)
日々、侍女の仕事を知るにつれ色々と学んだことがある。赤ワインの染み抜きには、白ワインが最適なのだ。
すぐに化粧室に駆け込み、持っていたハンカチに白ワインをつけて染み抜きをする。何度も根気よくぽんぽんと叩くと、ようやく赤い色素が取れてきたようだ。赤ワインと混ざって紫色になっていた生地が、若干もとの青色に戻ってきた。屋敷に戻ってもう一度手洗いすれば、きっと染みが取れるに違いない。私はホッと息を零す。倹約生活では、ドレスの一枚も無駄にできない。
(それにしても、夫人に弁償しろって言われなくてよかった。お金がないわけじゃないけど、今貯まっているお金で、ライアン様のシャツを買うつもりだもの。あぁ、その上にかっちりとした詰襟の紺色のスーツを着て、黒いブーツを履いていただいたら、素敵に違いないわ。ネクタイは赤がいいかしら……それとも青……ふふっ、考えるだけですごく楽しいわ)
しばらく妄想に悶えたあと、ある程度染みが取れたことに満足して化粧室を出る。
すると扉を出てすぐの廊下に、ライアン様が立っていた。私を待っていてくれたようだ。
彼は私に気が付いた途端、満面の笑みを浮かべる。
「――レイチェル!」
初物のオレンジのような爽やかな笑顔が、私だけに向けられている。
思わず胸の奥がきゅぅぅんと、ときめいた。
(やっぱり訂正するわっ! ライアン様だったら何を着ても素敵! あぁ、格好いい! 彼が私の旦那様なのよ!)
「残念だけど、もうオペラは始まってしまったらしい。途中の休憩時間になったら入場できると思うけど、どうする?」
ライアン様の言葉に、浮かれた気分が一気に盛り下がる。せっかくのデートだったのに台なしだ。
(あぁ、辛いわ。今日のオペラ、二週間も前から楽しみにしていたのに……)
涙が出そうな気持ちだが、私の瞼は乾いたままだし、相変わらず表情には全く出なかった。
オペラの上演時間は、休憩を挟んで三時間半。
プログラムでは、オペラの前半が終わるまで一時間半かかる予定だ。
私はライアン様と一緒ならばいくらでも待てるが、そんなに長く彼を待たせるのは悪い。
それに、「どうする?」と尋ねてくるということは、待つのは嫌に違いない。ここは私が、ライアン様のために我慢しよう。
「そうですか。でしたら屋敷に戻りますわ。待つのは嫌いです」
「そう? レイチェルがそう言うなら帰ろう。でもせっかくだから、少し寄り道をしない?」
ライアン様はそう言って、緑の目を輝かせて私の手を取った。最愛の男性にそんな目で見つめられて、さっきから心臓がドキンドキンと鳴りっぱなしだ。
オペラを観られなくなった悲しさが、一気に吹き飛ばされる。
ライアン様が馭者に行き先を告げると、一呼吸おいて馬車が動き出した。外は日が落ちて、すでに真っ暗。道の脇に並ぶ家の灯りに照らされ、馬車の影が長く伸びていた。
馬車が石畳の道路をガタゴトと進んでしばらくすると、町の外に出たのか車輪の音が変わった。
柔らかい土の振動を感じながら、私は向かいに座るライアン様の整ったお顔を時々盗み見ている。いつどの角度から見ても、彼の容姿は完璧だ。
(あぁ、私の旦那様。すごく素敵ですぅ!)
顔は無表情のまま、心だけだらしなく惚けてしまう。
「ほら、ここだよ」
やがて馬車が停まって、ライアン様が先に外に出た。
彼に手を引かれて馬車から降りると、眼前に幻想的な風景が広がっていた。
大きな湖の畔には、白くて背が高く細い葦がたくさん生えていて、時折吹く穏やかな風でゆらりと揺れている。天上と水面にはそれぞれ丸い月が一つずつ、闇の中とは思えないほど周囲を明るく照らしていた。湖を取り囲む木々の緑が、ぼんやりと浮き上がっている。その間を、ポプラの木から散る白い綿ボウシが、まるで初夏に降る雪のように舞い落ちてきた。
まるで絵本の中の世界のようだ。
「ここは?」
私が聞くと、ライアン様がにっこりと笑う。
「この間仕事で通ったときに、偶然見つけたんだ。この光景をレイチェルと一緒に見たくて。気に入ってくれた?」
ライアン様が私を抱き寄せた。頬に彼の硬い胸が押しつけられる。
(嬉しい! あぁ、なんて嬉しいのかしら。もちろんこの景色も素敵だけれど、私のことを考えてくださるライアン様のお気持ちのほうが、ずっと嬉しいわ!)
そのとき、今朝のベリルの言葉が脳裏によみがえる。
(そうだわ。試しにベリルの言っていた『デレ』を、ほんの少しだけやってみようかしら。でも少しデレるってどうすればいいの? 表情を変えるのは不可能だから、言葉で伝えればいいのかしら? 『ちょっとだけライアン様を愛しています』とか? でも、言って嫌がられたらどうしましょう!)
それでも、溢れんばかりのこの想いをライアン様に伝えたい。それに、ツンだけでいつか飽きられてしまうのも辛いのだ。
私は持ちうる限りの勇気を振り絞って、ライアン様の顔を見上げた。心臓がどきどきして呼吸が苦しくなるが、なんとか大丈夫だ。
すると、ライアン様は銀の髪を風になびかせて、切れ長の目で私を熱く見つめ返した。
愛するライアン様が、私だけを見つめてくれている。それだけで胸が高鳴って動揺し、自分の心臓の音しか聞こえなくなる。
言葉で想いを伝えようと思うのだけれど、興奮しすぎて声が出ない。
「――レイチェル、愛しているよ」
私より先に、ライアン様が愛していると言ってしまった。
慌てている間に彼は私の頬に手を当て、端整な顔を近づけてくる。それは私の心を惑わすには充分だった。
(きゃぁぁぁ、キスだわ! 朝は避けてしまったものね。だからもう逃げないわ。きちんと唇にキスしていただきたいもの! 絶対に首を動かしては駄目よ、レイチェル!)
けれどもテンパってしまった私は、無意識に一歩後ずさってしまう。
そこで、足の下にあるはずの地面がないことに気が付いた。時すでに遅く、私は湖の中に落ちる。
ばしゃぁぁんという大きな水音とともに、ライアン様の叫び声が聞こえた。
「レイチェルっ!」
(いやぁぁぁっ! 水の中なの!? 私、泳げないのよ! 助けてっ!)
パニックになっていると、もう一つ大きな水音が聞こえた。ライアン様が水に飛び込んだのだ。すぐにライアン様に引き上げられ、二人で立ち上がる。
「はぁっ、はぁっ、レイチェル! 大丈夫?」
ライアン様は腰ほどの高さ、私は胸のあたりまで水に浸かっていた。湖の底は思ったよりも深くなかったようだ。
(助かったわ! 死ぬかと思ったもの! つ、冷たーいっ!)
安心したら、水の冷たさに驚く。睫毛からぽたぽたと、滴が連続で落ちていった。
「……これは……七月とはいえ、夜泳ぐにはまだ寒いですね」
命の危機さえ感じたのに、全く表情には出ない。内面の動揺を悟られまいと慎重に抑揚のない声を出す。
「ふっ……君は本当に」
顔を上げると、すぐ隣に月の光を浴びて銀色にキラキラ光るライアン様がいた。彼は頬を染めて苦笑している。
「普通の女性は、ここで取り乱すものだよ。意外性のある君が大好きだ。僕はね、ありのままのレイチェルを好きになったんだ。こんなに可愛らしい女性は他にはいない」
(可愛らしい? 美人だとか人形のように綺麗だとかはよく言われたけれど、可愛いなんて初めてだわ。……でもやっぱりライアン様は、どんなときでも取り乱さない『妖精の人形』の私がお好きなのね)
もしデレていたら、嫌われてしまっていたかもしれない。ホッと安堵する。
体中から水滴を滴らせている彼は、いつにもまして悩殺的だった。
ドキンと心臓が跳ねて胸が痛くなる。
(それにしても、ライアン様の頬を伝って首筋に流れる水滴……なんて官能的なのかしら。あぁ、男性の色気ってこういうものをいうのね。ほぅっ)
自分もずぶ濡れだということを忘れて、見惚れてしまった。私がチラチラと見ていることに気が付いたのか、ライアン様が笑顔のまま顔を近づけてきた。
熱いキスが唇に落とされる。
水に濡れて冷たいはずなのに、その瞬間唇が火を灯されたように熱くなった。
小さな熱はじわりじわりと全身に広がって、指先まであたたかい幸福で満ちる。
(ライアン様の体は筋肉でこんなに硬いのに、唇はなんて柔らかいのかしら……ライアン様も、私と同じ幸せを感じてくださっているのかしら……?)
水の中に半身を浸し、星が降りそうな幻想的な光景の中、私たちはキスをした。何度も繰り返される情熱的なキスに、全身がとろけそうになる。
ライアン様が唇をいったん離して、熱い息を零した。
「はぁー、『妖精の人形』……か。こうして月をバックにしていると、君は本物の妖精のようだね。まるで自分が不道徳なことをしているような気になるよ」
「教会が認めた夫婦間の口づけは、不道徳ではありませんわ」
「そうだね、だったらもう一度キスしてもいいかな? もう我慢ができそうにないよ。湖に浸かっている君はこの世のものではないみたいで、こうして捕まえておかないと、どこかに行ってしまいそうだ」
そう言うとライアン様は私の肩を抱いて、もう一度キスをした。深いキスが何度も繰り返される。ライアン様は悩ましく舌を絡めては、名残惜しそうに唇を離す。
最後にくちゅりと音がして……ライアン様のお顔が離れていった。私は唇に残された最後の熱を、切ない気持ちで噛みしめた。
それから私たちは馬車に乗り、全身濡れたまま屋敷に戻る。
馬車が到着するなり、ライアン様はひざ掛けに包まれた私の体を横抱きにした。そうして何も言わずに自分の寝室に向かうと、奥にある扉を開けてバスルームへ行く。
すでに湯船には、あたたかいお湯が張られていた。
ベリルが私たちの帰りの時間に合わせて、用意してくれていたのだろう。
「早く体をあたためないと風邪を引くよ。せっかくだから一緒に風呂に入ろうか」
服が濡れていても、全く寒くなかった。
それどころかライアン様と密着しているというだけで、興奮して体が火照ってくる。
ライアン様は笑顔で私を横抱きにしたまま、まずはパンプスを脱がせた。そして床に膝をつくと、それと反対の足に私を座らせる。
彼の長い指が、ドレスのボタンを一つ一つ外していった。そのたびに、彼の熱い吐息が直接胸にかかる。それから、水に濡れて肌に張りついた下着の胸元を、ゆっくりと広げる。空気に晒されて乳房が揺れた。
ライアン様の視線が胸に移ったのがわかって、恥ずかしくて気が遠くなりそうになる。私はいつもの無表情のまま、彼の顔を見上げた。
ライアン様の顔は熱を孕んでいて、いつもとは違う情欲の高ぶりが見て取れる。
(あ……もしかして今夜は抱いてくださるのかしら。嬉しい、嬉しいわ)
そんな予感に胸を高鳴らせるが、表情には出ない。
「レイチェル……」
ライアン様が熱い眼差しで私を見つめた。そして緑の目を細めて、切ない表情を浮かべる。
彼は無言で私の下着を脱がし、裸になった私をそっと湯船の中に下ろした。
全身に湯の温もりが広がるが、ライアン様に抱かれていたときのあたたかさのほうが数倍も心地よかった。急に寂しくなって、湯船の傍に立つ彼の姿を切ない気持ちで見上げる。
そのときふと、ガラスに映った自分の顔に気が付いた。
それはまるで陶器の人形そのもの。愛する旦那様に抱かれる直前だというのに、表情は一切崩れない。
(なんて真っ白で感情がないのかしら。まるで美術館の彫像みたい……)
こんなときでさえ感情を表せられないことにショックを受けるけれど、なんとか自分を納得させる。
(でも、でも……ライアン様が、ありのままの私を好きだと言ってくださるのだから。それでいいのよ、レイチェル!)
ライアン様が自分の服を脱ぎはじめた。湿気を帯びて筋肉にぴったりと張りついたシャツを見て、胸がときめく。その前髪からは、いまだに湖の水の滴がぽたりと床に落ち続けていた。
それすらも愛しくて泣きたくなる。
彼はシャツを脱ぐと、一瞬動きを止めて私をじっと見つめた。互いの視線が絡み合って、私の心臓が勢いよく跳ねる。
彼の逞しい胸板は、興奮のせいか上下に激しく揺れていた。自らの姿にショックを受けたことも忘れて、生唾を呑む。
(ふわぁ、素敵っ……! 愛しています! ライアン様ぁ!)
彼に見惚れて、ほうっとため息が出る。
けれどもその唇は、いつの間にか湯船に入ってきたライアン様の唇でふさがれた。残ったため息が、彼の口の中に吸い込まれる。甘くて優しいキスに、心までとろけそうになった。
彼は唇を離して、それから私の体の隅々までゆっくりと見る。
そうしてライアン様は視線を注いだ場所に、順番に口づけを落としていった。
愛しい旦那様との夜は、いつもこんな感じで始まる。ゆっくりと時間をかけて、真綿にくるまれるように行われる夫婦の交わり。
人形を愛でるように、彼は私の体をじっくりと眺めながら、指と唇で少しずつ愛撫していく。私は息を潜め、夢うつつながら、内心では激しく悶えているのだ。
ライアン様の指で全身を愛撫され、舌で肌を余すところなく舐められる。その一つ一つの動作によって、肌が敏感になってゆく。
彼の愛撫に伴って、湯がちゃぷりと小さな音を立てた。それがちゅっ、ちゅっと繰り返される口づけの音と合わさって、官能的な協奏曲へと変わっていく。
(あっ、は……あぁん……)
最愛の人が優しく触れてくれて、愛しさと快感が高まってきた。けれども私は無表情のまま。
(ライアン様は人形のような私でいいから、これでいいのよね……はぁっん、あぁ、はぁっ……)
喘ぎ声すら出せないのに、胸の鼓動はこれ以上ないくらい激しく鳴っている。
彼は一旦体を離すと、満足そうな顔で、再び私の全身を眺めた。私も心の中でうっとりとしながら見つめ返す。ライアン様は包み込むような優しい目で、官能に溺れた声を出した。
「愛している、レイチェル」
その声の旋律が、耳を伝って脳を揺さぶる。その振動が、幸福という名の熱を生み出して私の全身をあたためていく。
愛するライアン様を近くに感じて、私の心は更に乱れた。
「ライアン様」
気持ちは高ぶる一方なのに、緊張しているせいで、口から出るのは抑揚のない声だけだった。
(私も愛しています……大好きです! 大好きっ!)
声にならない想いを、頭の中で何度も叫ぶ。
優しい愛撫が全身に注がれたあと、ライアン様の指が確かめるように私の蜜壺に触れた。
(ふぁっ! んんんーーっ!)
指先がほんの少し触れただけだというのに、頭の先まで快感が駆け抜ける。
気持ちよくて、頭の中がおかしくなりそうだ。ライアン様はそんな私を真剣な顔で見る。
(あ、やだっ! 恥ずかしいです)
「なかなか濡れないね。レイチェルも感じてくれてる? ここ、気持ちいい?」
私は顔に表情が出ないだけでなく、性的に感じていても体に表れないらしいのだ。
不安がふと頭を過る。いくらライアン様の好みが『人形』とはいえ、愛する旦那様に抱かれるときすら無表情な私で満足なのだろうか。
あまりに情けなくて泣きたくなるが、どんなに悲しくても涙は出ないのだ。
「わかりませんわ。そんなことよりも早く終わらせてください」
けれど私はいつも通り、心にもない言葉を発することしかできない。
ライアン様の顔を覗き見ると、意外なことに嬉しそうだ。そして私の肩にキスを落として言う。
「そう……? でも簡単には挿れないよ。夜は長いし、もっと君を堪能してからだ」
「そうですか」
(あぁ、よかったわ。まだずっと一緒にいてくださるのね)
私のそっけない返事を意にも介さず、ライアン様は言葉通り私の体をゆっくりと暴き立てた。
ライアン様の手が全身の肌の上を滑っていく。全身をくまなく撫でつくしたあと、私の体にタオルを巻きつけて横抱きにして、彼は風呂から上がった。
体がふわふわと浮いている感じがするのは、あたたかい湯につかっていたからだけではないだろう。
アレクシア様が何か言いたそうな目で私を見るが、どうしてなのかわからない。
「まぁいいわ。また騎士団でゆっくり話しましょう。今夜は奥様がいらっしゃるものね。では奥様。失礼いたします」
そう言うと、アレクシア様は笑顔を残して去っていった。
それを見送ったあと、ライアン様は私に問いかける。
「開演までまだ時間があるから、飲みものをもらってくるよ。何がいい? レイチェル」
さすがは気の利く優しい旦那様だ。
でも実のところ、ライアン様が傍にいる緊張感で何も飲める気がしない。でも彼の好意を無駄にはしたくないので、適当に頼むことにする。
「そうですね、お酒を飲むとすぐに眠くなってしまうから、それ以外ならなんでも構いませんわ」
「わかった。少し待っててね」
ライアン様の背中が人混みの中に消えていく。
彼はすぐに、またどこかの令嬢から声をかけられたらしい。複数の女性と言葉を交わしているのが、人の隙間から見えた。しばらくして別の男性からも、親しそうに声をかけられている。人当たりのいいライアン様の周りには、みるみるうちに人だかりができた。
結婚してから二人で社交的な場に出席したのは、これで三回目。私と離れた途端に、いつもこうなる。
対する私は、一層多くの人にチラチラと見られている。それなのに目が合うと、慌ててどこかに行ってしまうのだ。ライアン様の妻として誰かに話しかけようと思っても勇気が出せず、その場に立っていることしかできない。
(社交的なライアン様は、どこに行っても人気者ね。今までは私が隣にいたから、みんな話しかけ辛かったのだわ。ライアン様は、結婚してからもたくさんの女性に好かれているのでしょうね)
そう考えると、ふと寂しくなってしまった。
(でも仕方がないわ。だってライアン様はとっても素敵な男性だもの……私が独り占めするわけにはいかないわ。……でも、早く戻ってきてくださらないかしら)
彼をひたすら待ち焦がれていると、背後でガラスが割れるような音がする。
それと同時に、女性の声が耳に飛び込んできた。
「何をなさるの! あなた、どこを見ていたのかしら! ああ、こんなに汚れているわ。こんなドレスじゃもう観劇は無理ですわ! どうやって償うつもり!? 給仕の給金じゃ一生かかっても払えやしないわよ!」
それを遠巻きに見ている淑女たちが、ひそひそと話している。
「あれは気分屋だと有名なミデルブ伯爵夫人ですわ」
「まぁ。あの給仕、可哀想に……」
見たところ、どうやら給仕がシャンパンを落とし、ミデルブ夫人のドレスに染みができてしまったようだ。夫人はフリルのついた扇を振り回しながら、烈火のごとく怒っている。
ひたすら頭を下げて謝っている給仕を、夫人はヒステリックに何度も責め立てた。給仕の上司まで呼び出して、謝罪を求めているようだ。
しかしよく見ると、シャンパングラスは夫人よりだいぶ離れた床の上で割れていた。それなら、シャンパンはそんなにドレスにかかっていないはずだけれど。淑女たちは、さらに噂を続ける。
「本当は夫人のほうから給仕にぶつかったのよ。八つ当たりされて、あの給仕は運が悪かったわね」
「ミデルブ伯爵は若い後妻である彼女に夢中で、なんでも言うことを聞くらしいのよ。彼女の機嫌を損ねたらどんな目に遭うかわかりませんわ。給仕は可哀想だけれども、誰も助けられないわね」
そう話す淑女たちのように夫人たちを眺める人はたくさんいるが、仲裁する者は現れない。
ミデルブ伯爵は王国でも影響力のあるお方だ。彼女たちが言うように、夫人の機嫌を損ねてミデルブ伯爵の報復を受け、社交界での立場を悪くすることが恐ろしいからだろう。
(あの給仕さん、可哀想。あんなに辛そうな顔で謝っているわ。彼の責任ではないみたいだし、どうにか助けてあげられないかしら……あぁ、でも私に何ができるの?)
そんなことを考えているうちに、ライアン様が私の隣に戻ってきた。
左手に赤ワイン、右手にオレンジジュースを持ち、彼は夫人を呆れたように見る。
「またミデルブ伯爵夫人か。今夜はいつにもまして虫の居所がお悪いようだね」
ライアン様がやれやれとため息をつく。それを見て、私は腹を括った。
ただの貴族ならば、夫人にたてつくことはできないだろう。けれども、ハプテル伯爵家はミデルブ伯爵家以上の権力を持つ名家だ。今は家を出ているけれど、私に対するお父様とお兄様の溺愛ぶりは社交界でも有名。そんな立場の私なら、何かできるかもしれない。
(怖いわ、でも……でも、こんなの黙って見ていられないもの)
「…………」
私は無言でライアン様の左手にあるワイングラスを取ると、ゆっくりと足を前に進めた。
そして夫人の右斜め後ろにそっと立つ。夫人は文句を言うことに夢中になっていて、私に気が付いていない。
夫人が怒りにまかせて扇を振り上げた瞬間、その端が私の肩に当たった。同時にワイングラスが傾いて、その中身が零れる。鮮やかな赤色の液体が、私のドレスをぐっしょりと濡らす。オーガンジーの淡い青色のドレスが、一瞬でワインの色に染まって紫色になった。
その場にいた全員の視線が、一斉に私に注がれる。
「……な! なんですの⁉ あ、あなた! 何をっ」
夫人は何が起こったのか、まだ理解できていないようだ。彼女は私の顔を見ると、さっきまで怒り続けていた口を閉ざした。呆気に取られた夫人の顔を、私は無感情の目でじっと見つめる。
「あら、申し訳ありませんわ、ミデルブ伯爵夫人。あなたのドレスにもワインがかかったようです。私のドレスも台なしですし、困りましたわね。どう償えばよろしいかしら?」
「――ひっ!」
夫人は青ざめ、恐怖の表情を浮かべた。普通に話していても、人形のようで背筋がゾクリとすると言われるのだ。今は意図して威圧感を込めているのだから、それ以上だろう。
けれども本当は、心の中でうさぎのように震え上がっていた。
(あぁ、神様っ! 夫人に何も言い返されませんように……)
彼女に何か言われると怖いので、先に駄目押しをしておく。
「夫人のドレスのお代は、もちろんわたくしが全額お支払いいたしますわ。けれど、ドレスの一着や二着、そんなに大声をお上げになるほどの金額ではありませんでしょうに」
(きっと夫人のドレスはとてもお高いに違いないわ。せっかくライアン様のために貯めたお金がなくなってしまう。なんて辛いのかしら……)
落ち着き払った冷たい態度を心がけるが、お金のことが心配で胸の中は暗雲が立ち込めている。
すると、夫人が顔を真っ赤にして叫んだ。
「ハプテル伯爵令嬢、お支払いは結構です! これはお金の問題ではありませんのよ! この人たちがきっちり自分の仕事をしないからいけないのですわ!」
「いいえ、ミデルブ伯爵夫人。もうハプテル伯爵令嬢ではありませんわ。私はレイチェル・ブルテニアです。二か月前に結婚式を挙げましたの。もちろんご存じですよね。それと――」
私はもう一度何か言おうとする夫人の目を、冷静にじっと見据えた。心の中では夫人のドレス代を払わなくてよくなって、ホッとする。
「――淑女が感情を表に出すのは、はしたないことでしてよ」
「くっ!」
夫人は口をつぐんで、悔しそうに唇を噛んだ。人形と呼ばれる私に言われたのだ。言い返せるわけがない。そのとき、ちょうど誰かと歓談を終えたミデルブ伯爵が戻ってきた。
「どうしたんだい? 愛しいテレーシア。この騒ぎは一体?」
伯爵は、どうして夫人が周囲の注目を集めているかわからないようで、キョトンとしている。
「オペラを観る気がなくなりましたわ。屋敷に戻らせていただきます!」
夫人は捨て台詞を残すと、かぶりを振って私に背を向けた。そして、困り顔の伯爵と一緒に人波の中に消えていった。その場に残された給仕とその上司が、私に向かって頭を深く下げる。
でも私は、内心それどころではなかった。夫人との対立を終えた安堵もあるが、それ以上にとても重要な問題があったから。
仕方がないとはいえ、ドレスにワインをかけてしまったのだ。このままでは染みが残ってしまう。
(あぁ困ったわ、赤ワインじゃなくて白ワインだったらよかったのに! このままじゃこのドレス、もう二度と着られなくなってしまうわ。――そうだわっ、白ワインよ!)
「あの、助けていただいて、ありがとうござい……」
「――早急に、ここに白ワインを持ってきてください」
私が給仕のお礼に被せるように言うと、彼は言葉を途中で切り、頭を上げて目を丸くした。
「……はい?」
「ですから、白ワインを早く持ってきてくださいませ」
もう一度強く言うが、彼は困惑したまま動かない。
すると、無表情で白ワインをねだる私に恐れを抱いたのか、別の給仕が慌てて持ってきた。白い透明の液体を見て、ホッとする。
「割れたグラスをそのままにしていては危なくてよ。早く片づけたほうがいいと思いますわ」
私は給仕にそう言い残すと、白ワインを持ってその場を離れた。
(ゆっくりしている時間はないわ。急がないと染みが残ってしまうもの)
日々、侍女の仕事を知るにつれ色々と学んだことがある。赤ワインの染み抜きには、白ワインが最適なのだ。
すぐに化粧室に駆け込み、持っていたハンカチに白ワインをつけて染み抜きをする。何度も根気よくぽんぽんと叩くと、ようやく赤い色素が取れてきたようだ。赤ワインと混ざって紫色になっていた生地が、若干もとの青色に戻ってきた。屋敷に戻ってもう一度手洗いすれば、きっと染みが取れるに違いない。私はホッと息を零す。倹約生活では、ドレスの一枚も無駄にできない。
(それにしても、夫人に弁償しろって言われなくてよかった。お金がないわけじゃないけど、今貯まっているお金で、ライアン様のシャツを買うつもりだもの。あぁ、その上にかっちりとした詰襟の紺色のスーツを着て、黒いブーツを履いていただいたら、素敵に違いないわ。ネクタイは赤がいいかしら……それとも青……ふふっ、考えるだけですごく楽しいわ)
しばらく妄想に悶えたあと、ある程度染みが取れたことに満足して化粧室を出る。
すると扉を出てすぐの廊下に、ライアン様が立っていた。私を待っていてくれたようだ。
彼は私に気が付いた途端、満面の笑みを浮かべる。
「――レイチェル!」
初物のオレンジのような爽やかな笑顔が、私だけに向けられている。
思わず胸の奥がきゅぅぅんと、ときめいた。
(やっぱり訂正するわっ! ライアン様だったら何を着ても素敵! あぁ、格好いい! 彼が私の旦那様なのよ!)
「残念だけど、もうオペラは始まってしまったらしい。途中の休憩時間になったら入場できると思うけど、どうする?」
ライアン様の言葉に、浮かれた気分が一気に盛り下がる。せっかくのデートだったのに台なしだ。
(あぁ、辛いわ。今日のオペラ、二週間も前から楽しみにしていたのに……)
涙が出そうな気持ちだが、私の瞼は乾いたままだし、相変わらず表情には全く出なかった。
オペラの上演時間は、休憩を挟んで三時間半。
プログラムでは、オペラの前半が終わるまで一時間半かかる予定だ。
私はライアン様と一緒ならばいくらでも待てるが、そんなに長く彼を待たせるのは悪い。
それに、「どうする?」と尋ねてくるということは、待つのは嫌に違いない。ここは私が、ライアン様のために我慢しよう。
「そうですか。でしたら屋敷に戻りますわ。待つのは嫌いです」
「そう? レイチェルがそう言うなら帰ろう。でもせっかくだから、少し寄り道をしない?」
ライアン様はそう言って、緑の目を輝かせて私の手を取った。最愛の男性にそんな目で見つめられて、さっきから心臓がドキンドキンと鳴りっぱなしだ。
オペラを観られなくなった悲しさが、一気に吹き飛ばされる。
ライアン様が馭者に行き先を告げると、一呼吸おいて馬車が動き出した。外は日が落ちて、すでに真っ暗。道の脇に並ぶ家の灯りに照らされ、馬車の影が長く伸びていた。
馬車が石畳の道路をガタゴトと進んでしばらくすると、町の外に出たのか車輪の音が変わった。
柔らかい土の振動を感じながら、私は向かいに座るライアン様の整ったお顔を時々盗み見ている。いつどの角度から見ても、彼の容姿は完璧だ。
(あぁ、私の旦那様。すごく素敵ですぅ!)
顔は無表情のまま、心だけだらしなく惚けてしまう。
「ほら、ここだよ」
やがて馬車が停まって、ライアン様が先に外に出た。
彼に手を引かれて馬車から降りると、眼前に幻想的な風景が広がっていた。
大きな湖の畔には、白くて背が高く細い葦がたくさん生えていて、時折吹く穏やかな風でゆらりと揺れている。天上と水面にはそれぞれ丸い月が一つずつ、闇の中とは思えないほど周囲を明るく照らしていた。湖を取り囲む木々の緑が、ぼんやりと浮き上がっている。その間を、ポプラの木から散る白い綿ボウシが、まるで初夏に降る雪のように舞い落ちてきた。
まるで絵本の中の世界のようだ。
「ここは?」
私が聞くと、ライアン様がにっこりと笑う。
「この間仕事で通ったときに、偶然見つけたんだ。この光景をレイチェルと一緒に見たくて。気に入ってくれた?」
ライアン様が私を抱き寄せた。頬に彼の硬い胸が押しつけられる。
(嬉しい! あぁ、なんて嬉しいのかしら。もちろんこの景色も素敵だけれど、私のことを考えてくださるライアン様のお気持ちのほうが、ずっと嬉しいわ!)
そのとき、今朝のベリルの言葉が脳裏によみがえる。
(そうだわ。試しにベリルの言っていた『デレ』を、ほんの少しだけやってみようかしら。でも少しデレるってどうすればいいの? 表情を変えるのは不可能だから、言葉で伝えればいいのかしら? 『ちょっとだけライアン様を愛しています』とか? でも、言って嫌がられたらどうしましょう!)
それでも、溢れんばかりのこの想いをライアン様に伝えたい。それに、ツンだけでいつか飽きられてしまうのも辛いのだ。
私は持ちうる限りの勇気を振り絞って、ライアン様の顔を見上げた。心臓がどきどきして呼吸が苦しくなるが、なんとか大丈夫だ。
すると、ライアン様は銀の髪を風になびかせて、切れ長の目で私を熱く見つめ返した。
愛するライアン様が、私だけを見つめてくれている。それだけで胸が高鳴って動揺し、自分の心臓の音しか聞こえなくなる。
言葉で想いを伝えようと思うのだけれど、興奮しすぎて声が出ない。
「――レイチェル、愛しているよ」
私より先に、ライアン様が愛していると言ってしまった。
慌てている間に彼は私の頬に手を当て、端整な顔を近づけてくる。それは私の心を惑わすには充分だった。
(きゃぁぁぁ、キスだわ! 朝は避けてしまったものね。だからもう逃げないわ。きちんと唇にキスしていただきたいもの! 絶対に首を動かしては駄目よ、レイチェル!)
けれどもテンパってしまった私は、無意識に一歩後ずさってしまう。
そこで、足の下にあるはずの地面がないことに気が付いた。時すでに遅く、私は湖の中に落ちる。
ばしゃぁぁんという大きな水音とともに、ライアン様の叫び声が聞こえた。
「レイチェルっ!」
(いやぁぁぁっ! 水の中なの!? 私、泳げないのよ! 助けてっ!)
パニックになっていると、もう一つ大きな水音が聞こえた。ライアン様が水に飛び込んだのだ。すぐにライアン様に引き上げられ、二人で立ち上がる。
「はぁっ、はぁっ、レイチェル! 大丈夫?」
ライアン様は腰ほどの高さ、私は胸のあたりまで水に浸かっていた。湖の底は思ったよりも深くなかったようだ。
(助かったわ! 死ぬかと思ったもの! つ、冷たーいっ!)
安心したら、水の冷たさに驚く。睫毛からぽたぽたと、滴が連続で落ちていった。
「……これは……七月とはいえ、夜泳ぐにはまだ寒いですね」
命の危機さえ感じたのに、全く表情には出ない。内面の動揺を悟られまいと慎重に抑揚のない声を出す。
「ふっ……君は本当に」
顔を上げると、すぐ隣に月の光を浴びて銀色にキラキラ光るライアン様がいた。彼は頬を染めて苦笑している。
「普通の女性は、ここで取り乱すものだよ。意外性のある君が大好きだ。僕はね、ありのままのレイチェルを好きになったんだ。こんなに可愛らしい女性は他にはいない」
(可愛らしい? 美人だとか人形のように綺麗だとかはよく言われたけれど、可愛いなんて初めてだわ。……でもやっぱりライアン様は、どんなときでも取り乱さない『妖精の人形』の私がお好きなのね)
もしデレていたら、嫌われてしまっていたかもしれない。ホッと安堵する。
体中から水滴を滴らせている彼は、いつにもまして悩殺的だった。
ドキンと心臓が跳ねて胸が痛くなる。
(それにしても、ライアン様の頬を伝って首筋に流れる水滴……なんて官能的なのかしら。あぁ、男性の色気ってこういうものをいうのね。ほぅっ)
自分もずぶ濡れだということを忘れて、見惚れてしまった。私がチラチラと見ていることに気が付いたのか、ライアン様が笑顔のまま顔を近づけてきた。
熱いキスが唇に落とされる。
水に濡れて冷たいはずなのに、その瞬間唇が火を灯されたように熱くなった。
小さな熱はじわりじわりと全身に広がって、指先まであたたかい幸福で満ちる。
(ライアン様の体は筋肉でこんなに硬いのに、唇はなんて柔らかいのかしら……ライアン様も、私と同じ幸せを感じてくださっているのかしら……?)
水の中に半身を浸し、星が降りそうな幻想的な光景の中、私たちはキスをした。何度も繰り返される情熱的なキスに、全身がとろけそうになる。
ライアン様が唇をいったん離して、熱い息を零した。
「はぁー、『妖精の人形』……か。こうして月をバックにしていると、君は本物の妖精のようだね。まるで自分が不道徳なことをしているような気になるよ」
「教会が認めた夫婦間の口づけは、不道徳ではありませんわ」
「そうだね、だったらもう一度キスしてもいいかな? もう我慢ができそうにないよ。湖に浸かっている君はこの世のものではないみたいで、こうして捕まえておかないと、どこかに行ってしまいそうだ」
そう言うとライアン様は私の肩を抱いて、もう一度キスをした。深いキスが何度も繰り返される。ライアン様は悩ましく舌を絡めては、名残惜しそうに唇を離す。
最後にくちゅりと音がして……ライアン様のお顔が離れていった。私は唇に残された最後の熱を、切ない気持ちで噛みしめた。
それから私たちは馬車に乗り、全身濡れたまま屋敷に戻る。
馬車が到着するなり、ライアン様はひざ掛けに包まれた私の体を横抱きにした。そうして何も言わずに自分の寝室に向かうと、奥にある扉を開けてバスルームへ行く。
すでに湯船には、あたたかいお湯が張られていた。
ベリルが私たちの帰りの時間に合わせて、用意してくれていたのだろう。
「早く体をあたためないと風邪を引くよ。せっかくだから一緒に風呂に入ろうか」
服が濡れていても、全く寒くなかった。
それどころかライアン様と密着しているというだけで、興奮して体が火照ってくる。
ライアン様は笑顔で私を横抱きにしたまま、まずはパンプスを脱がせた。そして床に膝をつくと、それと反対の足に私を座らせる。
彼の長い指が、ドレスのボタンを一つ一つ外していった。そのたびに、彼の熱い吐息が直接胸にかかる。それから、水に濡れて肌に張りついた下着の胸元を、ゆっくりと広げる。空気に晒されて乳房が揺れた。
ライアン様の視線が胸に移ったのがわかって、恥ずかしくて気が遠くなりそうになる。私はいつもの無表情のまま、彼の顔を見上げた。
ライアン様の顔は熱を孕んでいて、いつもとは違う情欲の高ぶりが見て取れる。
(あ……もしかして今夜は抱いてくださるのかしら。嬉しい、嬉しいわ)
そんな予感に胸を高鳴らせるが、表情には出ない。
「レイチェル……」
ライアン様が熱い眼差しで私を見つめた。そして緑の目を細めて、切ない表情を浮かべる。
彼は無言で私の下着を脱がし、裸になった私をそっと湯船の中に下ろした。
全身に湯の温もりが広がるが、ライアン様に抱かれていたときのあたたかさのほうが数倍も心地よかった。急に寂しくなって、湯船の傍に立つ彼の姿を切ない気持ちで見上げる。
そのときふと、ガラスに映った自分の顔に気が付いた。
それはまるで陶器の人形そのもの。愛する旦那様に抱かれる直前だというのに、表情は一切崩れない。
(なんて真っ白で感情がないのかしら。まるで美術館の彫像みたい……)
こんなときでさえ感情を表せられないことにショックを受けるけれど、なんとか自分を納得させる。
(でも、でも……ライアン様が、ありのままの私を好きだと言ってくださるのだから。それでいいのよ、レイチェル!)
ライアン様が自分の服を脱ぎはじめた。湿気を帯びて筋肉にぴったりと張りついたシャツを見て、胸がときめく。その前髪からは、いまだに湖の水の滴がぽたりと床に落ち続けていた。
それすらも愛しくて泣きたくなる。
彼はシャツを脱ぐと、一瞬動きを止めて私をじっと見つめた。互いの視線が絡み合って、私の心臓が勢いよく跳ねる。
彼の逞しい胸板は、興奮のせいか上下に激しく揺れていた。自らの姿にショックを受けたことも忘れて、生唾を呑む。
(ふわぁ、素敵っ……! 愛しています! ライアン様ぁ!)
彼に見惚れて、ほうっとため息が出る。
けれどもその唇は、いつの間にか湯船に入ってきたライアン様の唇でふさがれた。残ったため息が、彼の口の中に吸い込まれる。甘くて優しいキスに、心までとろけそうになった。
彼は唇を離して、それから私の体の隅々までゆっくりと見る。
そうしてライアン様は視線を注いだ場所に、順番に口づけを落としていった。
愛しい旦那様との夜は、いつもこんな感じで始まる。ゆっくりと時間をかけて、真綿にくるまれるように行われる夫婦の交わり。
人形を愛でるように、彼は私の体をじっくりと眺めながら、指と唇で少しずつ愛撫していく。私は息を潜め、夢うつつながら、内心では激しく悶えているのだ。
ライアン様の指で全身を愛撫され、舌で肌を余すところなく舐められる。その一つ一つの動作によって、肌が敏感になってゆく。
彼の愛撫に伴って、湯がちゃぷりと小さな音を立てた。それがちゅっ、ちゅっと繰り返される口づけの音と合わさって、官能的な協奏曲へと変わっていく。
(あっ、は……あぁん……)
最愛の人が優しく触れてくれて、愛しさと快感が高まってきた。けれども私は無表情のまま。
(ライアン様は人形のような私でいいから、これでいいのよね……はぁっん、あぁ、はぁっ……)
喘ぎ声すら出せないのに、胸の鼓動はこれ以上ないくらい激しく鳴っている。
彼は一旦体を離すと、満足そうな顔で、再び私の全身を眺めた。私も心の中でうっとりとしながら見つめ返す。ライアン様は包み込むような優しい目で、官能に溺れた声を出した。
「愛している、レイチェル」
その声の旋律が、耳を伝って脳を揺さぶる。その振動が、幸福という名の熱を生み出して私の全身をあたためていく。
愛するライアン様を近くに感じて、私の心は更に乱れた。
「ライアン様」
気持ちは高ぶる一方なのに、緊張しているせいで、口から出るのは抑揚のない声だけだった。
(私も愛しています……大好きです! 大好きっ!)
声にならない想いを、頭の中で何度も叫ぶ。
優しい愛撫が全身に注がれたあと、ライアン様の指が確かめるように私の蜜壺に触れた。
(ふぁっ! んんんーーっ!)
指先がほんの少し触れただけだというのに、頭の先まで快感が駆け抜ける。
気持ちよくて、頭の中がおかしくなりそうだ。ライアン様はそんな私を真剣な顔で見る。
(あ、やだっ! 恥ずかしいです)
「なかなか濡れないね。レイチェルも感じてくれてる? ここ、気持ちいい?」
私は顔に表情が出ないだけでなく、性的に感じていても体に表れないらしいのだ。
不安がふと頭を過る。いくらライアン様の好みが『人形』とはいえ、愛する旦那様に抱かれるときすら無表情な私で満足なのだろうか。
あまりに情けなくて泣きたくなるが、どんなに悲しくても涙は出ないのだ。
「わかりませんわ。そんなことよりも早く終わらせてください」
けれど私はいつも通り、心にもない言葉を発することしかできない。
ライアン様の顔を覗き見ると、意外なことに嬉しそうだ。そして私の肩にキスを落として言う。
「そう……? でも簡単には挿れないよ。夜は長いし、もっと君を堪能してからだ」
「そうですか」
(あぁ、よかったわ。まだずっと一緒にいてくださるのね)
私のそっけない返事を意にも介さず、ライアン様は言葉通り私の体をゆっくりと暴き立てた。
ライアン様の手が全身の肌の上を滑っていく。全身をくまなく撫でつくしたあと、私の体にタオルを巻きつけて横抱きにして、彼は風呂から上がった。
体がふわふわと浮いている感じがするのは、あたたかい湯につかっていたからだけではないだろう。
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