上 下
41 / 53

永遠の命の理由

しおりを挟む
ユリアナ皇女様の銀色の瞳が少し揺れた気がした。すると突然ユリアナ皇女様の髪と目の色が変わった。銀色の輝く美しい髪は白くて硬い色に・・・銀色の目が血の色のように赤い色に・・変わった。そうして最後には襲撃者である、ジルとギアと同じ色になった。

「・・・これがわたしの本来の色なの・・・。時が止まった代償のようなものね・・・。貴方には全部話しておきたいわ。どうしてこんな事になったのか・・・どうして私たちが永遠の時を過ごさなくてはならなくなったのか・・・」

そう言ってユリアナ皇女様は、ゆっくりとジルとギアの顔を見つめてから一時おいて話し始めた。

「私は前聖女のハナ様が500年前にこの世界に召喚されたとき、ハナ様の侍女としてお仕えしていた魔術師だったわ。ハナ様がこの世界に来た時は彼女はまだ13歳の少女でした、私はその時20歳で、ハナ様の世話をするうちにハナ様は私を、まるで年の離れた姉のように慕ってくれたの」

ユリアナ皇女様の話によると、聖女ハナは私と違って時を止める能力だけでなく、莫大な魔力も持っていた。自身の魔力を使い、時間を戻したり進めたり、空間をつなぐことすら自由にできたので、稀代の能力を持つ聖女様として国民にあがめられていた。

最初は国王の願いを叶えたり、貴族たちの願いを叶えて感謝され、充実した日々を過ごしていたらしいが、時が経つにつれて人々の願いはどんどんエスカレートしていった。願いが叶えられることが当たり前になってきて、その願いが叶えられないと知ると聖女ハナを責めるものまででてきたらしい。

そもそも、皆が幸せになることなど無理な話で、誰かの過去を変えると誰かの過去が悪くなる。そうしてまた再び過去を変える。それを繰り返すうちに王国は崩壊の一途をたどった。

「・・・ハナ様は、18歳の歳で国王様と結婚されました。けれどもハナ様が40歳になるころには王国は内乱と混乱に満ちたまま滅びてしまったの。ハナ様は嘆き悲しみ、また時間をご自分が召喚された年まで戻した」

だけど、何度も何度も過去に戻ってやり直しても、遅かれ早かれ必ず20年後頃には王国は焦土になり人々は争いあい崩壊を繰り返した。何度も何度も聖女ハナは時間を戻したらしい。そうしてユリアナ皇女様もいつも聖女と一緒に過去に戻って、そんな聖女ハナを見続けていたのだ。

「・・・もう何度一緒に歴史をやり直したのか・・・もう忘れてしまいましたわ。そんな時、ハナ様が言ったのです。もう死にたいと・・・。そしてもうこんな悲劇を繰り返さないためにも、次の世代に同じ能力を持つ聖女が現れたら、王国の存亡の為にも殺してほしいと・・・。もうその頃にはハナ様には何の感情もみられませんでした。感情のない人形のような顔のまま、私に最後の命令を下したのです」

聖女ハナは侍女であったユリアナ皇女様とその息子2人の時を、最後の魔力を振り絞って止めた。そして自身の能力を女王の王冠に封じ込めて3つに分けた。そうしてそれは王国に代々語り継がれる伝説の3種の宝飾になった。

次に必ずまた召喚されて来るであろう時を止める聖女の能力を封じる為に・・・。その後、聖女の命を奪う目的で作られた3種の宝飾は、500年もの間にその言い伝えもどこかで変わってしまっていたのだろう。王族に引き継がれる宝飾としてその存在を残した。

ユリアナ皇女様は聖女ハナ亡き後その王国を去り、隣国でひっそりと暮らして王国を陰から監視していたらしい。500年の間に、今の公主制の礎を築いてナイメール公国を建国した王と密約を交わした。ナイメール公国の皇女は王国ができてからずっと、ユリアナ皇女様、ただ一人だったのだ。

私はその話を聞いて、図書館にあった本を思い出した。アルと初めて会った時に手にしたあの本。『 時を統べる少女 』という題名の本。一度手に取って読んでみたことがある。とても悲しい物語だった。

時を自由に操れる少女は、最初は皆の為に時を操る。死んだ子供を助け、病気のおじいさんを救った。けれどもそれに慣れた村人たちは、じきに少女を責める様になる。どうして畑に雨が降らないのか。どうしてあの子は助けたのに私の子は助けないのか。最後は怒った村人の一人に少女が殺されるといった物語だった。

その物語の主人公に聖女ハナが重なる。もしかして誰かが聖女ハナの人生を元に書き残したものなのだろうか。

私は聖女ハナの話を聞いて、ふつふつと怒りが湧いてきた。最後には我慢ができなくなって、怒りに任せて叫んだ。

「・・・馬っ鹿じゃないの・・・!!!」

ジルが不審そうな顔で私を見ながらいう。

「何がだ・・・?」

「悪いけど、私・・いまものすごく聖女ハナに怒っています。どうしてユリアナ皇女様と、ジルさんやギアさんをこんなひどい目にあわせたのか!それでどうして自分だけさっさと死んで逃げたのか!!・・・こんなのっ!ひどすぎる!ユリアナ皇女様達が可哀想・・・」

そうだ。彼女たちは自分だけが時間を止めた中で、少なくとも500年は生き続けてきたんだ。ううん、聖女ハナが何度も歴史を繰り返したと言っていた時間を含めると、恐らくもっと永い時間、永遠とも思える孤独を生きてきたんだ。

「時を止めた中で生きるのは地獄以外の何物でもないわ。どうして自分の大事な人をそんな目にあわせられるのか、理解できない!それにっ・・・あなた達だって・・・!!」

余りの怒りと悔しさに言葉が口から溢れ出てきて止まらない。

「あなた達だって、どうしてそんな理由で私を殺すのよ!私は人生をこれっぽちも諦めていないし、王国を滅亡に導いたりしない!私は聖女ハナとは違う!大事な人をそんな目にあわせるようなことは絶対にしない!もし万が一やるとしたら一緒に・・・一緒に地獄で生きていく!」

ジルとギアが私を驚いたような顔で見つめる。

「お前は俺たちが可哀そうだというのか?!他の奴らは不死身の体を羨ましがっていたぞ!可愛そうだなんて誰も言わなかった!!」

怒ったような声でギアが叫ぶ。

「そうよ!愛する人は先に逝って、誰とも人生を分かち合えないそんな人生、地獄と同じじゃないの!」

私も負けずに言い返した。ギアが私の剣幕にひるむ。

「あんた達はハナ様を崇拝しているのかもしれないけど、私にとってはただの甘えったれの、なんの覚悟もない女だとしか思えない!!私はいつだって覚悟していたわよ。特別な能力を持つ者には責任が伴うのは当り前でしょ!そんな理由で私の大事な人たちを傷つけたあなた達の事も許せない!」

私は言いたいことを言い切って鼻息を荒くしたまま、ギアの方を見ていった。

「あなた達・・・死にたいんでしょう。自分達が死んでいく人をどんな目で見ているのか知っているの?」

「やめなさい!!ジル、ギア彼女のいう事は聞かないで!!」

ユリアナ皇女様がいつもの冷静な表情を崩して、泣きそうな顔で言う。

「ははっ・・・俺たち・・そんなに顔に出ていたのか・・・?」

「・・・ギア・・・」

ジルが顔に苦悶の表情を浮かべて泣きそうな顔のギアを見つめる。私はそんな彼らに真実を突き付けた。たぶんこれが正解だ。永遠の時を生きてきた者が願うこと・・・それは・・・。

「羨ましいんでしょう・・?愛する人と共に生きて死ねる人たちが・・・」

この一言で周囲の雰囲気ががらりと変わった。取り乱すギアとそれを見守るジルを見つめていたユリアナ皇女様さえも、その瞳に涙を浮かべ始めた。

「聖女の能力を持つ私なら、あなた達の時を動かすことができるかもしれません。それとも聖女を殺してまた長い年月を生き続けるのですか?何も生み出さない、何も築けない人生を・・それに・・・」

ここで話を切って、私の話していることを黙って聞いてくれているユーリとアルの方を見てから続けた。その目には心配と愛情が入り混じっている。

「・・・それに私は断言できます。私は絶対に聖女ハナのようにはならない。私の周りには守って守られる大事な人たちがたくさんいます。その人たちがいる限り、王国を滅ぼすようなことにはなりません」

私は腰に両手を当てて胸を張り、精一杯のドヤ顔でユリアナ皇女様、ジルとギアに向かって叫んだ。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

処理中です...