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騎士様筋肉祭り
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ユーリが迎えに来るまでルベージュ子爵家に滞在して、それからアイシス様にクラマ仕様の金髪,金の瞳に戻してもらい、ユーリと訓練場に戻った。少年の姿に戻り、また雑用係としての日々がはじまる。
雑用係の仕事はあまりに生命の危険がある為やりたがる人が見つからず、そのためか比較的拘束時間の少ない仕事だ。なんせ騎士様の屋内鍛錬がない限り、それ以外の時間はフリーなのだ。だからと言ってたちまち暇を持て余すかといえば、私はそんなタイプではなかった。
空き時間はクラマ式発明品を開発したり、ほかの騎士様との交流で忙しい毎日を送っている。なんせ純粋で前向きなクラマ少年は、平均年齢40歳のエリート騎士様たちにとって、むさくるしい訓練場にいる、唯一の愛らしいマスコット的存在なのだ。
今もたくさんの騎士様達に囲まれて、騎士団訓練場の裏に流れているジュール川の川べりで座っています。激しい訓練が終わり汗と土まみれになった騎士様達に、最近この訓練場に派遣されて来たマリス騎士様が、川で泳ごうと声をかけてこんな状況になりました。
どんな状況かというと・・・ふふふ。筋肉まみれです!
川で泳ぐと急遽決断した騎士様達は、その隊服を脱いで下着一枚になって上半身裸で泳いでいるのです。しかも平均年齢40歳というのにも関わらず、まるで子供のようにお互い絡みあいながら大はしゃぎで、大声をあげて川遊びを満喫されていらっしゃいます。
騎士様というだけあってその筋肉たるやもう芸術の領域で、そうでなくても硬そうでかつ滑らかな筋肉の窪みに、水のしずくがあちこちその窪みに引き寄せられては下に落ちていく。そのしずくが太陽の光に反射して眩しくて目がくらみそうになる。
私・・・ことクラマ少年は、そんな光景に目を逸らすべきなのかどうか迷っています。そりゃ前の世界でいたときは剣道部に所属していたから、男子の生態や裸には免疫がある方だと思っていた。だけど異世界の騎士様はそんな剣道部の男子とは桁違いだった。桁違いの筋肉。桁違いのはっちゃけぶり。
やはり毎日命の危険にさらされながら王国の為に戦うのは、かなりのストレスがあるに違いない。だから川遊びにも全力投球なのかな。・・・それにしても筋肉の威力がすごすぎる。さ・・・さわっても、いいものなのだろうか・・・。
そんなよこしまな事を考えて騎士様達を眺めていると、突然ユーリの声が聞こえた。
「何をみているのですか?クラマ・・・」
私はその言葉でやっと自分を取り戻した。そうだ、私の隣には騎士隊第5番隊隊長のユーリス様が座っていた。あまりの筋肉の誘惑に我を忘れかけていた。なんて恐ろしいんだ、筋肉め!!私はさりげなさを装ってユーリの質問には答えずにはぐらかす。
「ユーリス様は泳がれないのですか?他の騎士様達はものすごく楽しそうですよ。あ・・・もしかして泳げないとか・・・」
「泳げるに決まっています。クラマが溺れたら誰が助けるのですか。私以外の者に助けられるのは絶対に嫌です」
しれっと溺愛発言をなさる。うん、ユーリのデフォルトだね。
「そうなんですか。なら僕は持病があるので泳げませんが、ユーリス様はぜひ泳いできてください」
私が泳がない理由を持病設定にしてある。服を脱げばすぐに私が少年ではなく女であると、ばれてしまうだろうからだ。
私は大きな木にもたれて座っているので、緑に茂った葉の隙間からこぼれた陽の光が目に当たって反射する。なので時々ユーリの顔が見えなくなる。
「私の裸がみたいのですか?」
え?それ・・・?もしかしてこの間ユーリが私の裸を一度ならず二度までも見た時に、かわりに自分の裸を見てくださいっていったやつですか!!??
「そ・・・そういう意味ではないので、泳ぎたくないのであればお好きにしてください。ただ他の騎士様達とても楽しそうですよ。僕だってできるなら泳いでみたいですからね」
私は動揺を隠しながら、できるだけそっけなく言った。
実は一度ユーリの裸は見たことがある。いつだったか屋内訓練場で怪我をされた騎士様がいて、その方を医療班の人が来るまでユーリが応急手当てをしていた。その後、騎士服に血の染みがついていたのでユーリはその場ですべて脱いだ。
その時私はすぐ近くにいたので、モロに見た!ユーリの筋肉は、筋肉隆々な他の騎士様達とは少し違って、主張しすぎずそれでいて十分その存在をアピールするその完璧な筋肉に、思わず見惚れてしまったのを覚えている。
するとユーリが私との間の距離を詰めて来て、耳元に口を寄せて囁くように言った。少しウェーブのかかった栗色の髪と群青色の眼が間近にせまる。
「では今晩一緒にこっそり泳ぎませんか?」
「えっ?でも、私・・・水着なんて持ってないよ」
私もそぅっとユーリの耳元に口を寄せて、皆に聞こえないように小さな声で囁く。はしゃいで大騒ぎしている騎士様達には聞こえるはずは無いだろうけれど、念のためだ。
ユーリはもちろん私が少年ではなくて女の子だと知っている。なので女性用の水着でなければいけないって事は分かっているよね?少し不安になる。するとユーリがさらっとおっしゃった。
「大丈夫です。今晩その時間までには私が町で買ってきます」
いやちょっと待て・・ユーリは男性なのに女性用の水着を買ってくるつもりなの??!しかもユーリ、私のサイズ知らないでしょう?私、ユーリに自分の体のサイズなんて絶対に教えないよ!!っていうか言うのは恥ずかしいし・・・ちょっと・・自信もない・・。うぅぅ・・・。
私の考えている事がユーリに伝わったのか、ユーリは私にこういった。
「サイズはもう分かっていますから心配ないですよ。君の体はすべて頭の中にはいっています」
そう言って自分の指を頭に当てる仕草をする。私は瞬間に耳まで赤くなり、ユーリの胸を両手で掴んでいった。
「やっぱりあの時じっくり見たんだ!!忘れて!お願い!!そうだ、もう一度過去に戻ろう。ユーリ、その指輪渡して頂戴!!」
思わず叫んでしまい、他の騎士様達に聞こえないようにユーリが更に私との距離を縮めた。
もう既に隣という表現では済まされない体勢だ。壁ドンならぬ木ドン体勢だ。ユーリの顔と私の顔は5センチも離れていない。ユーリの息が私の前髪にかかって揺れている。後ろに下がろうとしても木があるので、私自身はどうにも動けない体勢だ。
「だめですよ。過去に戻ったりするのは危険ですから、この間の会議で使用禁止になったでしょう」
こ・声が近い近い・・・。私は裸を詳細に記憶されていた恥ずかしさよりも、今現在、至近距離にあるユーリの顔の方に意識が集中して、まともな思考ができなくなる。私は極力、目を逸らしながら小声で返事をした。
「・・わかった・・わかった・・水着はお願いするから、もっと離れて・・・」
私がそういうと、ユーリーは思いきり優しい笑顔になっていった。
「では、今夜10刻にこの場所でお待ちしています。では少し横になって休みますね」
そういったかと思うと、突然私の膝の上に頭を置いて横になった。え・・・??これ膝枕?
遊びに夢中になっていた騎士様達が、こっちを生暖かい眼で見てくる。さっきまで木ドンしていたかと思えば次は膝枕。いくら弟として溺愛してるとしても、過剰すぎると思っているに違いない。
ユーリス様は、王国でもエリート中のエリートである。騎士様達を束ねる騎士隊長である上に、王家の血をひくダイクレール公爵家をその名に冠している。そんな雲の上の世界の人が、騎士訓練場の平民である雑用係の少年を、弟のように可愛がるというだけでもおかしな話だろう。
私は小さく溜息をつくと、膝の上に頭をのせて目をつむって寝ているユーリの顔をじっくりみつめる。そういえば、あの事件が起こる前に、時を止めて彼の顔をじっくり見たことを思い出した。あの時は時が止まっていたのでもっと彫像のような感じだったけど、今は頬が呼吸に合わせて小刻みに動いて生命感に溢れている。
私はあの事件を脳裏に思いだしてぶるりと震えた。あの時はアルだったけれど、私の膝の上に今と同じように頭を乗せていた。膝の上でだんだんと小さくなっていくアルの呼吸を感じて、すぐに死んでしまうのではないかという恐怖を抱いていた事を思い出した。
あの時は私も血を吐いたりして大変だったけど、今はアルも元気だし誰も死んだりしていない。3種の宝飾のこととか聖女の能力についても気にはなるけれど、ウェースプ王国の第一王子であるアルフリード王子がついていてくれるから大丈夫だろう。
そんなことを考えていると、マリス騎士様が泳いだばかりの上半身裸のままで、水を体中から滴らせながらすぐそばに立っていた。マリス騎士は短髪で緑がかった茶色の髪に、緑の目をしたいかにも騎士然とした筋肉隆々の騎士様だ。なにやら思い詰めた表情をしている。
「マリス騎士様。タオルでしたらあちらにご用意してます。残念ながらユーリス様が僕の膝の上でお休みなので、私が取りに行くことはできそうにありません。申し訳ありません」
私は丁寧にタオルのありかを教えたが、マリス騎士様は黙ったままそのまま立ち尽くしている。そうして何やら突然意を決したように言った。
「クラマ、お前はユーリス隊長から離れたほうがいい。お前は男だし身分だって違う。その上ユーリス隊長にはセシリア様という貴族の婚約者がいるんだぞ。お前の思いは絶対に叶いっこない。だからもうお前は騎士団から出ていったほうがいい。就職先なら俺が紹介してやるから・・・」
マリス騎士様が最後まで言い終わらないうちに、私の膝の上で眠っていたと思っていたユーリの声がそれを阻んだ。
「マリス騎士、それ以上はやめておいてください。クラマの事に口出しをするなら私に直接いってください」
その声は穏やかだったが、その裏に隠された威嚇を伝えるには十分すぎるほどだった。マリス騎士様は、ユーリの気に押されて口ごもったと思ったら、取ってつけたような謝罪をしてその場を離れた。
私はマリス騎士様の言葉の意味を考えて、少し落ち込んだ。そうだよね、騎士様がみんなクラマとユーリス隊長の関係を、微笑ましく見ているわけではないんだよね。そう思っていると、ユーリが膝の上に未だ自分の頭を置いたまま、私の頬に手を寄せてこういった。
「大丈夫ですよ、何があっても君の事は私が守ります。気にしないでください。ギルア騎士も、リューク騎士もキアヌス騎士もみんな君が好きですよ。私が保証します」
いまだに騎士様達の騒ぎ声が、大きな水音と共に聞こえている。その喧騒の中で私はユーリの言葉に勇気を貰って微笑みを返した。
雑用係の仕事はあまりに生命の危険がある為やりたがる人が見つからず、そのためか比較的拘束時間の少ない仕事だ。なんせ騎士様の屋内鍛錬がない限り、それ以外の時間はフリーなのだ。だからと言ってたちまち暇を持て余すかといえば、私はそんなタイプではなかった。
空き時間はクラマ式発明品を開発したり、ほかの騎士様との交流で忙しい毎日を送っている。なんせ純粋で前向きなクラマ少年は、平均年齢40歳のエリート騎士様たちにとって、むさくるしい訓練場にいる、唯一の愛らしいマスコット的存在なのだ。
今もたくさんの騎士様達に囲まれて、騎士団訓練場の裏に流れているジュール川の川べりで座っています。激しい訓練が終わり汗と土まみれになった騎士様達に、最近この訓練場に派遣されて来たマリス騎士様が、川で泳ごうと声をかけてこんな状況になりました。
どんな状況かというと・・・ふふふ。筋肉まみれです!
川で泳ぐと急遽決断した騎士様達は、その隊服を脱いで下着一枚になって上半身裸で泳いでいるのです。しかも平均年齢40歳というのにも関わらず、まるで子供のようにお互い絡みあいながら大はしゃぎで、大声をあげて川遊びを満喫されていらっしゃいます。
騎士様というだけあってその筋肉たるやもう芸術の領域で、そうでなくても硬そうでかつ滑らかな筋肉の窪みに、水のしずくがあちこちその窪みに引き寄せられては下に落ちていく。そのしずくが太陽の光に反射して眩しくて目がくらみそうになる。
私・・・ことクラマ少年は、そんな光景に目を逸らすべきなのかどうか迷っています。そりゃ前の世界でいたときは剣道部に所属していたから、男子の生態や裸には免疫がある方だと思っていた。だけど異世界の騎士様はそんな剣道部の男子とは桁違いだった。桁違いの筋肉。桁違いのはっちゃけぶり。
やはり毎日命の危険にさらされながら王国の為に戦うのは、かなりのストレスがあるに違いない。だから川遊びにも全力投球なのかな。・・・それにしても筋肉の威力がすごすぎる。さ・・・さわっても、いいものなのだろうか・・・。
そんなよこしまな事を考えて騎士様達を眺めていると、突然ユーリの声が聞こえた。
「何をみているのですか?クラマ・・・」
私はその言葉でやっと自分を取り戻した。そうだ、私の隣には騎士隊第5番隊隊長のユーリス様が座っていた。あまりの筋肉の誘惑に我を忘れかけていた。なんて恐ろしいんだ、筋肉め!!私はさりげなさを装ってユーリの質問には答えずにはぐらかす。
「ユーリス様は泳がれないのですか?他の騎士様達はものすごく楽しそうですよ。あ・・・もしかして泳げないとか・・・」
「泳げるに決まっています。クラマが溺れたら誰が助けるのですか。私以外の者に助けられるのは絶対に嫌です」
しれっと溺愛発言をなさる。うん、ユーリのデフォルトだね。
「そうなんですか。なら僕は持病があるので泳げませんが、ユーリス様はぜひ泳いできてください」
私が泳がない理由を持病設定にしてある。服を脱げばすぐに私が少年ではなく女であると、ばれてしまうだろうからだ。
私は大きな木にもたれて座っているので、緑に茂った葉の隙間からこぼれた陽の光が目に当たって反射する。なので時々ユーリの顔が見えなくなる。
「私の裸がみたいのですか?」
え?それ・・・?もしかしてこの間ユーリが私の裸を一度ならず二度までも見た時に、かわりに自分の裸を見てくださいっていったやつですか!!??
「そ・・・そういう意味ではないので、泳ぎたくないのであればお好きにしてください。ただ他の騎士様達とても楽しそうですよ。僕だってできるなら泳いでみたいですからね」
私は動揺を隠しながら、できるだけそっけなく言った。
実は一度ユーリの裸は見たことがある。いつだったか屋内訓練場で怪我をされた騎士様がいて、その方を医療班の人が来るまでユーリが応急手当てをしていた。その後、騎士服に血の染みがついていたのでユーリはその場ですべて脱いだ。
その時私はすぐ近くにいたので、モロに見た!ユーリの筋肉は、筋肉隆々な他の騎士様達とは少し違って、主張しすぎずそれでいて十分その存在をアピールするその完璧な筋肉に、思わず見惚れてしまったのを覚えている。
するとユーリが私との間の距離を詰めて来て、耳元に口を寄せて囁くように言った。少しウェーブのかかった栗色の髪と群青色の眼が間近にせまる。
「では今晩一緒にこっそり泳ぎませんか?」
「えっ?でも、私・・・水着なんて持ってないよ」
私もそぅっとユーリの耳元に口を寄せて、皆に聞こえないように小さな声で囁く。はしゃいで大騒ぎしている騎士様達には聞こえるはずは無いだろうけれど、念のためだ。
ユーリはもちろん私が少年ではなくて女の子だと知っている。なので女性用の水着でなければいけないって事は分かっているよね?少し不安になる。するとユーリがさらっとおっしゃった。
「大丈夫です。今晩その時間までには私が町で買ってきます」
いやちょっと待て・・ユーリは男性なのに女性用の水着を買ってくるつもりなの??!しかもユーリ、私のサイズ知らないでしょう?私、ユーリに自分の体のサイズなんて絶対に教えないよ!!っていうか言うのは恥ずかしいし・・・ちょっと・・自信もない・・。うぅぅ・・・。
私の考えている事がユーリに伝わったのか、ユーリは私にこういった。
「サイズはもう分かっていますから心配ないですよ。君の体はすべて頭の中にはいっています」
そう言って自分の指を頭に当てる仕草をする。私は瞬間に耳まで赤くなり、ユーリの胸を両手で掴んでいった。
「やっぱりあの時じっくり見たんだ!!忘れて!お願い!!そうだ、もう一度過去に戻ろう。ユーリ、その指輪渡して頂戴!!」
思わず叫んでしまい、他の騎士様達に聞こえないようにユーリが更に私との距離を縮めた。
もう既に隣という表現では済まされない体勢だ。壁ドンならぬ木ドン体勢だ。ユーリの顔と私の顔は5センチも離れていない。ユーリの息が私の前髪にかかって揺れている。後ろに下がろうとしても木があるので、私自身はどうにも動けない体勢だ。
「だめですよ。過去に戻ったりするのは危険ですから、この間の会議で使用禁止になったでしょう」
こ・声が近い近い・・・。私は裸を詳細に記憶されていた恥ずかしさよりも、今現在、至近距離にあるユーリの顔の方に意識が集中して、まともな思考ができなくなる。私は極力、目を逸らしながら小声で返事をした。
「・・わかった・・わかった・・水着はお願いするから、もっと離れて・・・」
私がそういうと、ユーリーは思いきり優しい笑顔になっていった。
「では、今夜10刻にこの場所でお待ちしています。では少し横になって休みますね」
そういったかと思うと、突然私の膝の上に頭を置いて横になった。え・・・??これ膝枕?
遊びに夢中になっていた騎士様達が、こっちを生暖かい眼で見てくる。さっきまで木ドンしていたかと思えば次は膝枕。いくら弟として溺愛してるとしても、過剰すぎると思っているに違いない。
ユーリス様は、王国でもエリート中のエリートである。騎士様達を束ねる騎士隊長である上に、王家の血をひくダイクレール公爵家をその名に冠している。そんな雲の上の世界の人が、騎士訓練場の平民である雑用係の少年を、弟のように可愛がるというだけでもおかしな話だろう。
私は小さく溜息をつくと、膝の上に頭をのせて目をつむって寝ているユーリの顔をじっくりみつめる。そういえば、あの事件が起こる前に、時を止めて彼の顔をじっくり見たことを思い出した。あの時は時が止まっていたのでもっと彫像のような感じだったけど、今は頬が呼吸に合わせて小刻みに動いて生命感に溢れている。
私はあの事件を脳裏に思いだしてぶるりと震えた。あの時はアルだったけれど、私の膝の上に今と同じように頭を乗せていた。膝の上でだんだんと小さくなっていくアルの呼吸を感じて、すぐに死んでしまうのではないかという恐怖を抱いていた事を思い出した。
あの時は私も血を吐いたりして大変だったけど、今はアルも元気だし誰も死んだりしていない。3種の宝飾のこととか聖女の能力についても気にはなるけれど、ウェースプ王国の第一王子であるアルフリード王子がついていてくれるから大丈夫だろう。
そんなことを考えていると、マリス騎士様が泳いだばかりの上半身裸のままで、水を体中から滴らせながらすぐそばに立っていた。マリス騎士は短髪で緑がかった茶色の髪に、緑の目をしたいかにも騎士然とした筋肉隆々の騎士様だ。なにやら思い詰めた表情をしている。
「マリス騎士様。タオルでしたらあちらにご用意してます。残念ながらユーリス様が僕の膝の上でお休みなので、私が取りに行くことはできそうにありません。申し訳ありません」
私は丁寧にタオルのありかを教えたが、マリス騎士様は黙ったままそのまま立ち尽くしている。そうして何やら突然意を決したように言った。
「クラマ、お前はユーリス隊長から離れたほうがいい。お前は男だし身分だって違う。その上ユーリス隊長にはセシリア様という貴族の婚約者がいるんだぞ。お前の思いは絶対に叶いっこない。だからもうお前は騎士団から出ていったほうがいい。就職先なら俺が紹介してやるから・・・」
マリス騎士様が最後まで言い終わらないうちに、私の膝の上で眠っていたと思っていたユーリの声がそれを阻んだ。
「マリス騎士、それ以上はやめておいてください。クラマの事に口出しをするなら私に直接いってください」
その声は穏やかだったが、その裏に隠された威嚇を伝えるには十分すぎるほどだった。マリス騎士様は、ユーリの気に押されて口ごもったと思ったら、取ってつけたような謝罪をしてその場を離れた。
私はマリス騎士様の言葉の意味を考えて、少し落ち込んだ。そうだよね、騎士様がみんなクラマとユーリス隊長の関係を、微笑ましく見ているわけではないんだよね。そう思っていると、ユーリが膝の上に未だ自分の頭を置いたまま、私の頬に手を寄せてこういった。
「大丈夫ですよ、何があっても君の事は私が守ります。気にしないでください。ギルア騎士も、リューク騎士もキアヌス騎士もみんな君が好きですよ。私が保証します」
いまだに騎士様達の騒ぎ声が、大きな水音と共に聞こえている。その喧騒の中で私はユーリの言葉に勇気を貰って微笑みを返した。
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