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32、ご主人様が私を好き?

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顔を真っ赤にして苦しそうな息をする私に、ご主人様は上から目線で言い切った。

「そうだ、お前みたいな平凡な女には俺はもったいない。だからお前は一生それに感謝して絶対に俺から離れるな! 分かったな!」

「ふ、ふわぃっ!」

私は背筋を伸ばして返事をする。するとご主人様は全身の力をお抜きになって、なぜかすごくほっとした顔をして見せた。なにか不安だったのだろうか。

私がにこっと笑うと、ご主人様は照れくさそうに顔を逸らした。まるで子供のようだ。

「分かったらヒッグスにもらったそのドレスは脱いでしまえ。目障りだ」

「……でも私、このドレス気に入っているんです。仕立て屋の方も良く似合っているとお世辞を言ってくださいましたし。それにヒッグス様の好意を無駄にするわけには……きゃあっ!」

私は突然悲鳴を上げた。ご主人様が私のドレスのリボンをほどき始めたからだ。

「リチャード様! ドレスには罪はありませんっ!」

「そうだ、ドレスには罪はない。だがヒッグスにはある。お前、ヒッグスの屋敷で何をされたんだ? 言ってみろ」

「そ、それは……」

言い淀むと、ご主人様は更に眉根を寄せた。

「答えないんだったら直接体に聞いてみるまでだ。こうやって触られたのか?」

「ち、ちが……ふぁっ! くすぐったいですぅ」

「トロいお前が屋敷を飛び出すなんて相当のことだろう。何があった」

さすがは読まれている。ご主人様の手はドレスを脱がせながら私の肌の上を滑っていく。その手つきがとてもいやらしくて、我慢しても小さな声が漏れてしまう。自分で口を押さえるが無理だ。

「ぁっ……ん、ふっ!」

「じゃあ、こうか?」

気が付くと胸の部分ははだけられていて、ご主人様はそのピンク色の頂を指でつまみ始めた。しばらく押してつまんでと繰り返していたが、物足りなくなったのか最後には舌で転がし始める。

「ち、ちがっ! ふぁっ」

次々と高められる刺激に、全身がざわついて落ち着かなくなった。

「早く白状しないと終わらないぞ。エマ、ヒッグスに何をされたんだ?」

「ち、違いますぅ。こ、こんなことリチャード様以外の方には絶対に許しません!」

涙目で叫ぶと、ご主人様は私の乳房からようやく顔を上げた。

「……俺以外には絶対にさせないんだな」

私がこくこくと何度か頷くと、ご主人様は安心したようにため息をついて私のお腹の上に顔をうずめた。

「はぁー、てっきりヒッグスにキス位はされたのかと思ってた」

「あ……それはされました。なので突き飛ばして逃げてしまったのです。あぁ、ヒッグス様はきっと心配なさっておいでです。やっぱり直接お礼とお詫びを申し上げに行きたいのですが……リ、リチャード様????」

ご主人様は私に背を向けてベッドの端に腰かけた。ご主人様はかなりお怒りの様子だ。まるで私にではなく自分に憤っているよう。

「っ! だからあいつには気をつけろとあれほど言ったのに! お前をあいつの家にやるんじゃなかった! あいつの手紙だってすぐに処分していたのに」

「リチャード様。ヒッグス様が私に書いたお手紙のことをなぜご存じなのですか?」

「……ヒッグスは何を言ってもお前を諦めなかったからな。ずっとお前が好きだったとかでも言われたのか」

ご主人様がようやく私の方を向いてくださる。なんだか頬が赤くなってしまう。

「そうですね。愛の告白をされたのは初めてだったので、とても驚きました。私なんかを好きになってくださるなんて信じられません。いまでも思い出すと照れてしまいます」

「エマ、告白をしたのは俺が先だ。お前と出会ったとき俺はお前に言ったはずだ。俺と一生ずっと一緒にいろと。もう忘れたのか。こんなことなら毎日百回書かせておけばよかった」

ご主人様が私の両肩を持って必死に言い募る。

(そういえばそんなことを言われたのでしょうか? あまり覚えていません)

「それに初めてお前を抱いたときも告白したはずだ。しらないとはいわせないぞ」

「あ、あれって愛の告白だったんですか? どう考えても脅迫としか……それにあの時は何も聞こえてなかっ……ひゃっ! んんんーーっ!」

ご主人様に急に唇を奪われて困惑する。伝えたいことがあるのに声に出せない。舌をねじ込まれて執拗に口内を凌辱される。彼の体温で脳がとろけてきそうだ。

それと同時にご主人様の指は私の体を暴き始めた。股の間に指が這ってきたので足を閉じると、舌を甘噛みされて無理やり開かされる。相変わらず強引だ。

気が付くとご主人様の指は敏感な蕾に触れていた。そうして強弱をつけて指の腹で撫で始める。キスと愛撫と両方の刺激を受けて、もうおかしくなりそうだ。

もう少ししたらあの嵐のような快感が襲ってくる。これまでの経験上、それだけは何となくわかるようになっていた。

もうすでに足はガクガクで腰は砕けてふにゃふにゃ。ご主人様に支えられて辛うじてベッドの上に座っているだけ。

(でも、ここはエマーソン伯爵家。この部屋は西の棟にあるのであまり聞こえないだろうとしても、大きな声を出すわけにいきません!)

私は必死でご主人様の背中を掴んで耐えた。声は出さずにすんだが、代わりに唾液が口角を伝って顎まで垂れてきた。

「……あっ」

恥ずかしくて手で拭おうとしたら、ご主人様がすぐに体を離して自分の舌で舐めとった。その姿があまりにも官能的で絵になっていて、私は耳まで一気に真っ赤にした。

「エマ、もう我慢できない。お前を抱きたい。いいか?」

「だ、抱くって、この間みたいなことをなさるのですかぁ? あの、でも。そうしたら子供ができちゃいます」

「子供を作りたいんだ。エマ、俺はお前との子が欲しい。そうしてお前が二度と俺から離れていかないように何十人でも子を成したいんだ」

恐ろしいセリフに背筋が寒くなる。これはまた新しい嫌がらせなのだろうか。何十人も子供を産む自分の姿が想像できない。私は泣きそうな顔で懇願する。

「な、何十人は無理ですぅ。せ、せめて三人でお許しくださいぃ」

「ははっ、じゃあ五人でどうだ。俺はお前が困った顔を見るのが一番好きなんだ」

とてもいい笑顔で微笑んだご主人様を見て、私はムッとする。

頬を膨らませて見上げると、ご主人様は愛しそうに私を眺めた。その顔はとても素敵で、ついつい許してしまいそうになる。私は流されないように気合を入れた。

そうして震える声でご主人様に言い募る。これだけは譲れない。

「じゃあリチャード様も絶対に他の女性は娶らないとお約束してください。そもそもそんなお姿を見たくなかったからメイドを辞めようと思ったのですから。他の貴族の方のように、浮気や愛人もを作られるのも却下ですからね」

全身を震わせ唇を尖らせながら言ってやった。これが精一杯だ。ご主人様は顔を赤くされて唇を噛んだ。

「……っつ! お前は本当に俺を煽る天才だな。悪いが前言撤回だ。今夜はお前を一晩中抱きつぶす。これは主人の命令だ」

「えっ?!」

有無を言わさずにベッドの上に一気に押し倒されて組み伏せられる。夕食もいただいていないのに、どういうことなのだろうか。私はじたばたと四肢をばたつかせた。

「ひゃぁっ! ま、待ってください。リチャード様と結婚するということはもう専属メイドではなくなるということですよね。どうしてまだご命令されるのですか?!」

「これはお前の夫としての命令だ。妻は夫の言うことを聞かなければならんからな。それとも途中でやめてほしいのか?」

逃げるようにうつ伏せになった私の上に、ご主人様が覆いかぶさる。

「ひゃうんっ! そんなの横暴ですぅ」

「横暴かどうかは自分で試してから決めるんだな。ほら、どうだ。気持ちいいだろう」

ご主人様はあろうことか指をお尻の割れ目に忍び込ませると、再び敏感な蕾を刺激し始めた。同時に乳房にまで手を伸ばして、先っちょをいじめる。

「はっ! ふぁぁっ!」

ついさっき絶頂に達した蕾は敏感になっていて、触れられただけでも自然に声が出てしまう。

私は枕に抱き着く形でご主人様の指に耐えるが、あっという間に全身が痺れてきた。圧倒的な快感がすぐそこまで来ている。

足の指先まで細かく震えだしたころ、ご主人様はその手を止めた。

(あ、あれっ?)

疑問符が浮かぶが、きっと偶然だろうと思って流す。次の瞬間、ご主人様の指は私の秘所の中に挿入された。思い切り腰が跳ねる。

「ひゃぁぁっつん! そ、そこは!」

「もうびしゃびしゃだぞ。俺の手首にまでエマの愛液が垂れてきた」

(そ、そんな恥ずかしいこと具体的にいわないでくださいぃ!)

顔を真っ赤にしながら耐えるが、ご主人様は膣壁をこすって確かめるように指を動かす。時々ゆっくりと周囲を撫でて、次の瞬間には指の腹で押しつけるようにこする。

蕾に触れられているわけではないのに、またあの感覚がよみがえってきた。腰に快感が溜まってきてあふれ出そうとする。

なのにまた絶頂に達しようとした瞬間、その手は動きを止めて別のところを愛撫しだすのだ。それが四回ほど繰り返されて私は確信する。

(わ、わざとですね。寸前で止めるなんて酷いですぅ! 意地悪っ!)

「何か言いたいことはないのか? エマ。俺は優しいからお前の言うことをなんでも聞いてやるぞ」

ご主人様が自信満々に私の耳元でささやく。温かい吐息が耳をかすめて頬にかかる髪を揺らせた。それだけで気持ちよくなってしまう。

「……うぅぅぅ」

「なんだ? 聞こえなかったぞ」

「うぅ、もうなんでもいいからお願いしますぅ。こんなの我慢できません……」

涙が枕を濡らして丸い染みを作っていく。ご主人様にはどうせいつだって敵わないのだ。

「よく言った、エマ。もう俺も我慢の限界だったからな」

ご主人様はそういうと、私の腰を両手で持ち上げた。犬のような格好になって恥ずかしさが増す。こんな格好は嫌だと言おうと口を開いたとたん、熱くて硬いモノが体内に侵入してきた。

「ひゃあっ……ぅうんっ!」

言葉は嬌声になって私はうつ伏せのままシーツを掴んだ。

「ぐっしょりと濡れているからすぐにはいる」

ゆっくりと穿たれる剛直は膣壁を押し広げるように進んでいく。間延びした嬌声が部屋中に響いた。

「んんんんーーーーーー」

(な、何でしょうか! この間よりふ、深いですっ!)

体内の奥深くに熱を感じて腰が熱くなってきた。首筋にご主人様の温かい吐息がかかって、背中がぞくぞくぞくと震えてぶるりと肩を揺らせた。

「くっ……エマ。あまり締め付けるな……」

そういわれてもどうすればいいのかわからない。

「はぅっ、もうむ、無理ですぅ、ひゃうぅんっ!」

弱音をはいたと同時にずるりと肉棒が引き抜かれる。そうして何度も繰り返し抽挿されて背中が徐々に逸っていった。汗をかいた肌が当たってぱちゅんぱちゅんと音を立てる。

快感の海に投げ出され溺れていく。そうして何度も焦らされた体は、すぐに絶頂へと達した。ご主人様も同時に達したようで、小さな呻き声を出すと腰を思い切り押し込む。

「エマっ!」

ご主人様は最後に私の名を呼んだ。その声には愛情があふれていて、私を好きなのだと錯覚してしまいそうになる。そう思うと全身がポカポカしてきた。

(ご主人様が私を好き……好き……好き……好きぃ????)

ベッドのうつ伏せになっているので、彼の顔が見えない。私は上半身をねじって振り返る。

するとご主人様は私がキスをねだったと思ったのか、顎を引き寄せて唇を重ねた。

くちゅりと唾液の絡まる音がして離れる。

ご主人様は顔を赤くされて熱い息をこぼした。そうして私の隣に体を投げ出す。ベッドの上で横になり互いに向き合う格好になる。

青い瞳の前を金色の髪がさらりと落ちてくるが、睫毛の上にまだ数本髪が残っている。そのお姿はまるで絵画を見ているよう。

鼻筋の通った顔に薄めの唇。どこをとっても完璧な容姿。しかも名門伯爵家に生まれついた上に頭脳明晰のご主人様が、私を好きだなんて夢みたいだ。まだからかわれているという疑いがどうしても晴れない。

「あ、あのぅ」

「なんだ、エマ」

「い、いいえ。なんでもないです……」

私はその先のセリフを誤魔化した。
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