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10、ご主人様の反撃
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(ひぃぃぃぃ!)
きっと嫌がらせが始まったのだと背筋を凍らせる。
「あ、あの。私、ワードローブの服をたたまなくてはいけませんので……」
にっこり笑って後ずさりするが、ご主人様は私の手を握って離さない。逃がさないつもりなのだろう。こうなったら観念するしかない。
「いいから座れ」
「は、はい」
恐る恐るいわれるがままにベッドの脇に腰を掛ける。次はどんな嫌がらせをされるのかと思っていたら、ご主人様はそのままベッドの上に横になって目を閉じる。
「今日は疲れたから少し寝る。お前はずっとそこに居ろ。逃げたら許さない」
「あ、あれっ? いいんですか? てっきり氷水で窓ふきとか、『申し訳ありませんでした』っていう文字で刺繍をクッションにさせられるのかと思ってましたけど……」
「氷水に刺繍か、それも面白そうだが今度でいい。とにかくお前は俺の手を離すな。おやすみ、エマ」
(ぁぁぁぁ、私ったら自分からご主人様に嫌がらせのヒントを与えてしまいましたぁ。私の馬鹿ぁ!)
後悔する私をよそに、ご主人様は本当に寝てしまわれたようだ。虚を突かれた形でしばらく呆然としていたが、次第に時間を持て余すようになり、眠っているご主人様の顔をじっとみる。
(あっ、睫毛が一本だけ長いのがあります。これだけ顔が整ってるのに少しでも間抜けなところを見つけると、なんだか親近感が持てますね。あぁ、でももうすぐで旦那様とはお別れです。あぁ、すっごく楽しみです!)
「ふわぁ、でも私も眠くなってきました……」
まだ夕食もいただいていないのに、ご主人様は目を覚ます気配すらない。
どうしようかと思っているうちに、いつのまにか私も眠ってしまっていたようだ。
はっと気が付くと、私はご主人様のベッドの上に大の字で眠っていた。そうしてご主人様はそんな私の寝顔を見降ろしている状況。寝起きなのに私は一気に顔を青ざめさせる。
「ようやく起きたのか、お前がどうやっても俺の手を離さないから俺まで夕食を食べそびれたじゃないか」
時計を見ると、もう夜の十時を回っていた。それほど長く寝るつもりはなかったのにと慌てていると、またご主人様が私の顎に手をかけていつものキスをする。
「ん……んんっ!」
なんだかいつもより長めのキスのようだ。唇をついばまれるように何度かキスを繰り返すとようやく離れてくれる。その間どこで息をしたらいいのかわからないので、ゼイゼイと息が上がってしまった。
「ヒッグスなんかに体を触らせるんじゃない。お前は俺のものなんだからな」
「は、はい」
よくわからないが怒っているようだ。私は頭を深く下げて一応謝っておく。
(まあ私といるときのご主人様は、大抵はいつも怒っているんですけどね……)
「おい、明後日。シャーロットの屋敷に向かうから支度をしておけ。数日ほどの準備でいいだろう。どうせ誰かのいたずらなんだろうから。本当にどうしてこの俺がそんな面倒くさいことに巻き込まれなきゃいけないんだか。ヒッグスの野郎、美人にはいつも甘すぎる。あいつは大学時代からそうだった」
そんな風にヒッグス様への文句を寝るまで聞かされた。いつものことだ。私は半分聞き流しながら頷きを繰り返した。
そうして私とリチャード様は、ここから遠く離れたシャーロット様のお屋敷に向かうことになったのだった。
きっと嫌がらせが始まったのだと背筋を凍らせる。
「あ、あの。私、ワードローブの服をたたまなくてはいけませんので……」
にっこり笑って後ずさりするが、ご主人様は私の手を握って離さない。逃がさないつもりなのだろう。こうなったら観念するしかない。
「いいから座れ」
「は、はい」
恐る恐るいわれるがままにベッドの脇に腰を掛ける。次はどんな嫌がらせをされるのかと思っていたら、ご主人様はそのままベッドの上に横になって目を閉じる。
「今日は疲れたから少し寝る。お前はずっとそこに居ろ。逃げたら許さない」
「あ、あれっ? いいんですか? てっきり氷水で窓ふきとか、『申し訳ありませんでした』っていう文字で刺繍をクッションにさせられるのかと思ってましたけど……」
「氷水に刺繍か、それも面白そうだが今度でいい。とにかくお前は俺の手を離すな。おやすみ、エマ」
(ぁぁぁぁ、私ったら自分からご主人様に嫌がらせのヒントを与えてしまいましたぁ。私の馬鹿ぁ!)
後悔する私をよそに、ご主人様は本当に寝てしまわれたようだ。虚を突かれた形でしばらく呆然としていたが、次第に時間を持て余すようになり、眠っているご主人様の顔をじっとみる。
(あっ、睫毛が一本だけ長いのがあります。これだけ顔が整ってるのに少しでも間抜けなところを見つけると、なんだか親近感が持てますね。あぁ、でももうすぐで旦那様とはお別れです。あぁ、すっごく楽しみです!)
「ふわぁ、でも私も眠くなってきました……」
まだ夕食もいただいていないのに、ご主人様は目を覚ます気配すらない。
どうしようかと思っているうちに、いつのまにか私も眠ってしまっていたようだ。
はっと気が付くと、私はご主人様のベッドの上に大の字で眠っていた。そうしてご主人様はそんな私の寝顔を見降ろしている状況。寝起きなのに私は一気に顔を青ざめさせる。
「ようやく起きたのか、お前がどうやっても俺の手を離さないから俺まで夕食を食べそびれたじゃないか」
時計を見ると、もう夜の十時を回っていた。それほど長く寝るつもりはなかったのにと慌てていると、またご主人様が私の顎に手をかけていつものキスをする。
「ん……んんっ!」
なんだかいつもより長めのキスのようだ。唇をついばまれるように何度かキスを繰り返すとようやく離れてくれる。その間どこで息をしたらいいのかわからないので、ゼイゼイと息が上がってしまった。
「ヒッグスなんかに体を触らせるんじゃない。お前は俺のものなんだからな」
「は、はい」
よくわからないが怒っているようだ。私は頭を深く下げて一応謝っておく。
(まあ私といるときのご主人様は、大抵はいつも怒っているんですけどね……)
「おい、明後日。シャーロットの屋敷に向かうから支度をしておけ。数日ほどの準備でいいだろう。どうせ誰かのいたずらなんだろうから。本当にどうしてこの俺がそんな面倒くさいことに巻き込まれなきゃいけないんだか。ヒッグスの野郎、美人にはいつも甘すぎる。あいつは大学時代からそうだった」
そんな風にヒッグス様への文句を寝るまで聞かされた。いつものことだ。私は半分聞き流しながら頷きを繰り返した。
そうして私とリチャード様は、ここから遠く離れたシャーロット様のお屋敷に向かうことになったのだった。
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