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クラウス騎士団総長

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聖女救出作戦が終わり、その際にじかに見た驚異的な能力に驚かされた。あれほどの能力ならば世界をも手に入れられるだろう。しかも魔力を使わないため、無尽蔵に使用できる。

ギルセナ王国の王城から出て行くときに、私はクリスティーナが伝説の魔剣を手にしていたのを目にした。彼女の顔は決意に満ちていて、おそらくその決意はレンブレント国王に向かっていることは容易に想像できた。

だが私はウェースプ王国の重大な地位についている身としては、クリスティーナが直前で思い留まってレンブレント国王を殺さないかも知れない可能性が、万に一つでもあるのならば、それを排除することに一切の迷いは無かった。

私は剣を構えたまま思いつめた表情で固まっているクリスティーナを、レンブレント国王の前まで連れてきた。そしてその剣をレンブレント国王の心臓に突き立てる。時が止まっているせいなのか、まるでバターにナイフを入れるように滑らかにその剣先が吸い込まれていった。

聡明なアルフリード王子は私の行為に気がついているようだった。さすがは殿下だ。

しかしサクラに知らせるのはやめておいた。時を止める力を悪用されれば、自分で自身の命を絶つとまで言ってのける彼女だ。真実を知れば、これがたくさんの人の命を救う所業だったとしても、サクラは悩んで苦しむであろう。この事は私の胸の中に秘めておく事にした。

私はレンブレント国王のたどるであろう未来を告げることのみに留めた。その後、私に感謝の意を示すサクラの隙に付け込んで、個人的に時を止めてもらう事を了承させた。私はあの時教会で、彼女の能力にひとつの可能性を見出したからだ。

しかし時を止めると、アルフリード殿下やユーリスの時も同時に止まる事を失念していた。サクラは私の言うとおりのタイミングで時を止めてくれた。そう、ちょうどヘルミーナが私の目の前でいる時に・・・。

この好機を掴む為に私はあらゆる知力と権力を使い、やっとヘルミーナと我がダイクレール家の庭で剣の手合わせをする約束を取り付けた。以前のように二人で剣を打ち合わせる。至福の時間だったが、私はそれだけで終わらせるつもりはなかった。

苦節30年。もういい加減これくらいは許されるであろうと、自分を納得させて覚悟を決めて挑んだ計画だ。失敗は許されない。私はヘルミーナと戦っている間の隙を狙って伝心魔法でサクラに指示をだす。時を止めて欲しいと・・・。

時が止まった。ギルセナ王国の教会で見た時と同じようにヘルミーナがその動きを止めている。伝説の戦いの女神の彫像のように美しい彼女を、こんなに間近で見るのはこれで2回目だ。

「ああ・・・なんて素敵なんだ。我がミューズ」

私は思わず感嘆の声を漏らした。早速計画を進めよう。私に残された時間はあまりない。

計画通り庭の陰に隠してあったその機械を取り出す。最近巷で流行っている、瞬間の映像を魔力で紙に焼き付けることができる最新の機械だ。私はこれを騎士団総長の権力を使ってなんとか手に入れた。今はどこでも品切れ状態だからだ。

それを目の前に設置して、私はヘルミーナの隣に立つ。その機械に魔力を飛ばしその瞬間を狙う。やっと目的を達成できるとほくそ笑んだ瞬間、目の前にアルフリード王子がユーリスを連れて転移魔法で現れた。なんでも時が止まったので伝心魔法でサクラを問い詰めたらしい。その後、殿下の探査魔法であっさり私の居場所が知られた。

「兄さん・・・ヘルミーナ様になにをするつもりなんですか?」

軽蔑の眼差しで私をみるその目つきからして、おそらくよからぬ事を想像していたに違いない。いや・・・弟よ。もう少し実の兄を信用してくれてもいいのではないだろうか。

私は最長兄である威厳を保ちながら、ユーリスに言い含めた。

「お前が考えるような不埒な事ではない。多少誤解があるようだが、私はヘルミーナを世界で一番こよなく愛しているだけで、一秒でも早く結婚したいとは思っているが、それ以外のことはただの人生のオプションだ」

アルフリード王子が怪訝そうな表情で私を見ながらいう。

「言っている意味が良く分からん。大体なんだこの機械は・・・。これで何をするつもりだったんだ?」

殿下が貴重な機械を乱暴に触り始めた。ああ!だめだそんな風にしたら・・・!!

「あっ!!!!」

瞬間に殿下の魔力が注ぎ込まれて、その機械から紙が吐き出された。そうして突然時が動き始めた。おそらく約束の5分が過ぎたのだろう。背後からヘルミーナの恐ろしい声が聞こえる。

「アルフリード王子!ユーリス!どうしてここに?クラウス、なんだその機械は。これは私をストーカーする機械なのか?!」

ヘルミーナが突然現れた殿下とユーリスに気がついて驚いた後、すぐに私を責めはじめた。私は慌てて弁解をはじめる。

「ヘルミーナ、我がミューズ。これは君が思っているようなものではない。ただ私は君と二人だけの瞬間を紙に残して、それを何枚も作って自室の壁紙にしようと思っただけなんだ!!」

ああ、私の完璧な計画がみんなにバレてしまった。アルフリード王子とユーリスの呆れたような眼差しが弱った心に突き刺さる。ヘルミーナがいつも通りの怒りの表情を浮かべると、右手の拳を握り締めいつも通りに私の腹に叩き込んだ。腹にいつも通りの激痛が走る。

「クラウス、このアホが!!」

私がこれで最終的に手にしたものは、アルフリード王子の鼻だけが写った紙一枚だった。



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