上 下
43 / 57

ギルセナ王国脱出

しおりを挟む

「「「・・・・・・・・」」」

時間が止まった静寂の中、私達4人の無言が場を支配する。その静寂を破ったのはクラウス様だった。

「サクラ。とにかく元気になったようで良かった。体が動くようであれば、表にある馬車の馬を動かしてくれないか?アイシスだけでなく、キアヌス騎士、マリス騎士、ヘルミーナ・・・いや、ヘル騎士もここに来ている。連れてきた近衛兵たちは、数時間前に王城を発つように指示したから、今頃はウェースプ王国の国境まで半分位の距離に来ているだろう。だから今は彼らを馬車に乗せて、とにかく王城を出よう」

まあ、そうだよね。時間はいくらでも止めておけるとしても、いつまでもこの場に居る必要はない。・・・というか早くここを出て、ウェースプ王国に帰らなければいけない。

クラウス様の台詞を聞いたとたん、ユーリが私を膝の上に乗せたままの状態で、横抱きに抱き上げて立ち上がった。

あ・・・お姫様抱っこだ。

けれど長いウェディングドレスの裾が垂れ下がって地面についてもなお、その存在を床の上で主張していた。アルフリード王子が何も言わずに突然その裾を持っていた剣で切り取った。

「ああ・・・せっかく綺麗なドレスだったのに・・・」

私が思わず残念そうにつぶやくと、アルフリード王子が無表情だけど少し口角を上げて笑ういつもの顔で言った。

「こんなのより、もっと綺麗なドレスをオレとの結婚式には着せてやる。心配するな」

ユーリまでが憎々しげな声で物騒なことをいう。

「本当はこんなドレス脱いでもらいたいのですがね。他の男と結婚する為のドレスなんか、引き裂いてやりたい気持ちで一杯です」

裸で帰るのだけは勘弁です・・・はい・・・。

私はユーリに抱かれて外に出た。2週間ぶりに見た外の景色は久しぶりで、心が温かくなった。ウェースプ王国と違い、街の風景の後ろに沢山の山々が連なっているのが見える。あれが魔獣が出ると有名な森なのね。

何百ものギルセナ王国の兵士が、教会に駆けつける途中で時が止まったようだ。向こうのほうにもう人では無くて、あまりの人数に黒い塊にしか見えない兵士達が見える。

あれだけの人数の兵士が相手では、いくら優秀な騎士でも危なかったに違いない。私が麻薬でブレント君の言いなりになって、時を止めないかもしれない危険を冒してまで、彼らは私のためにギルセナ王国まで来てくれたんだ。

私は皆への感謝の気持ちを抱くと共に、浅い考えでウェースプ王宮を飛び出した自分が恥ずかしくなった。私は早速指定された馬に手を触れ、馬を動かした。4頭動かした後で、馬車の中に運ばれて長座席の上で寝かされる。

2台の馬車で向かうつもりのようだ。ユーリはその内の一台に私を寝かせた後、他の人たちを馬車に運ぶためにすぐに教会に引き返していった。どれほどの時間が経ったのかわからないが、暫くしてクラウス様が私が乗っている馬車に、固まったままのマリス騎士を連れて乗り込んできた。

「アルフリード王子がこの馬車を操縦される。ユーリスはキアヌス騎士と、アイシスとヘルミーナを乗せて隣の馬車で行くそうだ」

なんでも3人で話し合って決めたようで、アルフリード王子もユーリも私の傍で居たいと主張したらしいが、話し合いは平行線になり決着がつかなかった。なので結局クラウス様が私と一緒に乗る事になったらしい。

そうこうしているうちに、馬車が動き出した。私は長座席の上で横になっていて、反対側の座席にはクラウス様が座っている。そしてその床の上にはマリス騎士が転がされている。

アルフリードってば王子様なのに御者席に座って、2頭の馬をうまく操縦している。でもさすが王室御用達の馬車だ。私がこの世界に来て初めて乗った乗り合い馬車とは揺れもクッションも全然違う。

マリス騎士も床の上だけどあとで体中が痛むということはなさそうだ・・・あ・・時が止まっているから痛くならないのか?いや・・魔獣は止まっていても刺したら死ぬんだから、やっぱり後で痛むに違いない。後で聞いておこう。

「ところでクラウス様。ヘルミーナ様って誰のことなんですか?」

私は疑問に思ったのでたずねてみた。するとクラウス様は顔を赤くされて、心底残念そうに話してくれた。

「あ・・・・ああ、ヘルミーナは私の婚約者だ。昔から騎士になるのが夢でとうとう男装して7年かけて騎士になった女性で・・・彼女が君も知っているヘル騎士なんだ。本当は私が同じ馬車に乗りたかったのだが、動かない彼女に何をするか信用できないといって、ユーリの方の馬車に乗せられた」

えーーーー!!ヘル騎士って女の人だったの?しかもクラウス様の婚約者で・・・。なんかこんがらがってきた。っていうかヘル騎士様ってばクラマの仲間ってことか。ふふふ。騎士訓練所って男装率高いよね。

「でもアルフリード王子もユーリもひどいですよね。クラウス様が固まっているヘル騎士様に何かするなんて、あり得ないじゃないですか」

そうだこんなに紳士的で、どちらかといえば堅物なクラウス騎士団総長の彼が、そんなことを考えるはずも無い。

「ありがとう。そういってくれて嬉しいよ、サクラ嬢。ところで今度私が頼んだ時に、10分・・・いや5分でいい。時間を止めてくれないか?」

「もちろんいいですよ。簡単なんでまかせてください」

私は何も考えずに返事を返した。

この時の約束が後になって大変な事になろうとは、この時は思っても見なかったからだ。後悔先に立たず・・・だ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

《 ベータ編 》時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子
恋愛
時を止めるの最新作、出ました!!ベータ編です。日本で普通の高校生だった倉島 桜 17歳は聖女として異世界に召喚され、偽物と判断されて大神殿から放り出された。一人異世界で生きていかなければいけなくなった桜は、持ち前の前向きさと素直さで騎士団訓練場の雑用係の少年クラマとして働き始める。そこでユーリス騎士隊長とアルフリード王子に出会い、王位争奪の揉め事に巻き込まれながら、時を止める力を使ってなんとか危機を脱出する。今回は、怪しげな襲撃者が出てきて聖女の命を狙っているという。サクラの命が危ない!!サクラを愛する二人の男性。ユーリス騎士隊長とアルフリード王子は彼女を守りきれるのだろうか?襲撃者たちの狙いは一体何なのか?!聖女の秘密に迫る今回の作品。必読です。 時を止めるの最新作、出ました!!ベータ編です。日本で普通の高校生だった倉島 桜 17歳は聖女として異世界に召喚され、偽物と判断されて大神殿から放り出された。一人異世界で生きていかなければいけなくなった桜は、持ち前の前向きさと素直さで騎士団訓練場の雑用係の少年クラマとして働き始める。そこでユーリス騎士隊長とアルフリード王子に出会い、王位争奪の揉め事に巻き込まれながら、時を止める力を使ってなんとか危機を脱出する。今回は、怪しげな襲撃者が出てきて聖女の命を狙っているという。サクラの命が危ない!!サクラを愛する二人の男性。ユーリス騎士隊長とアルフリード王子は彼女を守りきれるのだろうか?襲撃者たちの狙いは一体何なのか?!聖女の秘密に迫る今回の作品。必読です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...