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クラウスの災難
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質実剛健な造りの部屋の一角に置かれた机で、一心不乱に仕事の手を休めることなく、クラウス騎士団総長は膨大な書類に目を通す。
普段は騎士団本部にいる筈なのだが、サクラの失踪以降、王城で騎士団の仕事とサクラの捜索に忙殺されていた。
そこに誰かが扉をノックする音が聞こえる。クラウスが返事をするのもまたずに、その扉は乱暴に開かれた。
そこにいたのは、蒼いドレスに身を包み長い銀の髪をはためかせながら腰に手を当てて仁王立ちしている、ヘルミーナ伯爵令嬢だった!
「久しぶりだな、クラウス。お前クリスティーナとかいう女に随分傾倒していると聞いたぞ?私との婚約は破棄という事でいいんだな」
クラウスにとってヘルミーナと直接話をするのは、実に7年ぶりのことだったのだが、未だクリスティーナの転換の魔法が効いている現在、クラウスは何の感慨も浮かんでこなかった。
婚約破棄?
「ああ、私の婚約者のヘルミーナか。念願の騎士にもなれたようでお祝いを言っておくよ」
婚約破棄・・・。
クラウスは目の前で悠然と立つヘルミーナを一瞥して冷静な話し方で言う。それに答えるように、ヘルミーナが軽快に話し出す。
「クラウス。お前はアホか?あんな女にしてやられるとは、それでよく騎士団総長が務まるものだ。まあいい、婚約破棄のことは拳3発で許してやる。甘んじて受けろ」
婚約破棄?!
ヘルミーナは突然クラウスの腰掛けている脇に回りこみ、返事も聞かないうちにその襟首を掴んで引きずりあげたかと思うと、腹に全体重を込めて拳を打ち込んだ!
「まっ待てっ!!ヘルミ・・・ぐほっ!!がはっ!!ぐへっ!!」
クラウスの部屋に3回。大きな音が響いた。ヘルミーナがいくら女性であろうとも、上方から全体重を込めて打たれた拳はかなりの力がこもっていた。クラウスの脳裏に、昔の思い出がよみがえってくる。
この拳。初めてではない・・・以前にも受けた事がある。そうだ、ヘルミーナの鼻をかんだちり紙を額縁に入れてコレクションしていたのを見つかった時、ヘルミーナが使った後のスプーンを全てコレクションしていたのを見つかった時に受けた痛みと同じだ。
ヘルミーナ・・・私のミューズ!!・・・婚約破棄だと!!?そんなもの受け入れられるはずが無いではないか!私が何の為に血反吐を吐くような努力をしてまで、騎士団総長になったと思っている!
クラウスは暫く痛みに耐えた後、なんとか顔を上げてヘルミーナに懇願した。
「ヘルミーナ!婚約破棄だけは勘弁してくれ。産まれた時から私が愛しているのは君だけだ!他の女などただの置き物にすぎん!!」
ヘルミーナは顔にかかったその輝く銀色の髪を片手で払うと、そのクールな顔をほころばせていった。
「ようやく元にもどったか。良かったな、命拾いをしたぞ、クラウス。さあ、ギルセナ王国に殴りこみに行くぞ。準備しろ。ちなみにお前が産まれた時には、私はまだこの世に存在すらしていなかった。そこは訂正しておけ」
クラウスは戦の女神のような、神々しい姿をしたヘルミーナを見て、更に彼女への愛を深めた。
ああ・・・未来永劫愛している。
我がミューズ、ヘルミーナ伯爵令嬢。
普段は騎士団本部にいる筈なのだが、サクラの失踪以降、王城で騎士団の仕事とサクラの捜索に忙殺されていた。
そこに誰かが扉をノックする音が聞こえる。クラウスが返事をするのもまたずに、その扉は乱暴に開かれた。
そこにいたのは、蒼いドレスに身を包み長い銀の髪をはためかせながら腰に手を当てて仁王立ちしている、ヘルミーナ伯爵令嬢だった!
「久しぶりだな、クラウス。お前クリスティーナとかいう女に随分傾倒していると聞いたぞ?私との婚約は破棄という事でいいんだな」
クラウスにとってヘルミーナと直接話をするのは、実に7年ぶりのことだったのだが、未だクリスティーナの転換の魔法が効いている現在、クラウスは何の感慨も浮かんでこなかった。
婚約破棄?
「ああ、私の婚約者のヘルミーナか。念願の騎士にもなれたようでお祝いを言っておくよ」
婚約破棄・・・。
クラウスは目の前で悠然と立つヘルミーナを一瞥して冷静な話し方で言う。それに答えるように、ヘルミーナが軽快に話し出す。
「クラウス。お前はアホか?あんな女にしてやられるとは、それでよく騎士団総長が務まるものだ。まあいい、婚約破棄のことは拳3発で許してやる。甘んじて受けろ」
婚約破棄?!
ヘルミーナは突然クラウスの腰掛けている脇に回りこみ、返事も聞かないうちにその襟首を掴んで引きずりあげたかと思うと、腹に全体重を込めて拳を打ち込んだ!
「まっ待てっ!!ヘルミ・・・ぐほっ!!がはっ!!ぐへっ!!」
クラウスの部屋に3回。大きな音が響いた。ヘルミーナがいくら女性であろうとも、上方から全体重を込めて打たれた拳はかなりの力がこもっていた。クラウスの脳裏に、昔の思い出がよみがえってくる。
この拳。初めてではない・・・以前にも受けた事がある。そうだ、ヘルミーナの鼻をかんだちり紙を額縁に入れてコレクションしていたのを見つかった時、ヘルミーナが使った後のスプーンを全てコレクションしていたのを見つかった時に受けた痛みと同じだ。
ヘルミーナ・・・私のミューズ!!・・・婚約破棄だと!!?そんなもの受け入れられるはずが無いではないか!私が何の為に血反吐を吐くような努力をしてまで、騎士団総長になったと思っている!
クラウスは暫く痛みに耐えた後、なんとか顔を上げてヘルミーナに懇願した。
「ヘルミーナ!婚約破棄だけは勘弁してくれ。産まれた時から私が愛しているのは君だけだ!他の女などただの置き物にすぎん!!」
ヘルミーナは顔にかかったその輝く銀色の髪を片手で払うと、そのクールな顔をほころばせていった。
「ようやく元にもどったか。良かったな、命拾いをしたぞ、クラウス。さあ、ギルセナ王国に殴りこみに行くぞ。準備しろ。ちなみにお前が産まれた時には、私はまだこの世に存在すらしていなかった。そこは訂正しておけ」
クラウスは戦の女神のような、神々しい姿をしたヘルミーナを見て、更に彼女への愛を深めた。
ああ・・・未来永劫愛している。
我がミューズ、ヘルミーナ伯爵令嬢。
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