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セシリアの行方
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小屋に集まったのは、私とヘルミーナ様と、アイシスとキアヌス騎士・・・そしてもう一人の人物は、驚いた事にマリス騎士だった。
「俺はクラマのためなら何でもします。たとえ俺のこの気持が一生報われないものだとしても・・・。家出したクラマを連れ戻す為にみんな集まっているんでしょう?僕も仲間に入れてください」
アイシスが私とヘルミーナ様に眼で合図を送る。そういう事にしておけと言う事らしい。なんでもマリス騎士は、家出をしたクラマを探しだす為と思っているらしい。まあクラマだろうがセシリアだろうが同じことだ。できるだけ探す人数が多いほうが効率がいいだろう。
マリス騎士は無言の私達を見て、肯定だと思ったらしい。そのうちヘルミーナ様に目を留めたらしく、怪訝な顔をして聞く。
「ところでこの女。何者ですか?騎士隊の服を着ているようですけど・・・」
「あーこの方は・・・」
どう説明したものかと、私が言いよどんでいると、アイシスが後を続けた。
「ヘルミーナ伯爵令嬢・・・でしょう?わたくしが魔法高等学校に在学していた時に、同じ学年でしたのよ。お話したことはありませんけど。とても有名な方でしたもの。忘れるわけないですわ」
なんとアイシスはすでにヘル騎士の正体に気がついていたようだ。なんでも16歳のときに在学していた学園で、ヘルミーナ様は《 クラウス兄さんがストーカーをする婚約者 》ということで有名だったらしい。
「その時からクラウス様は、ヘルミーナ様のことを我がミューズと呼んでストーカーされていましてよ。だからクラウス様がクリスティーナをミューズと呼んだことで、転換魔法による魔術だと気がついたのですわ」
「そうだ、クラウスの奴め。最近ストーカーに来ないと思って王城に行って見たら、あの女に騙されていてすっかり骨抜きにされていた。今度あったら坊主にしてやる。あのアホが」
私はあのクラウス兄さんがヘルミーナ様にストーカーしていた事実に驚き、この愛する者を溺愛する性質は、ダイクレール公爵家の血なのではないかと思った。
私は気を取り直して皆に問う。
「とにかく、セシリ・・・いやクラマの行き先を調べたいのですが。誰かいい意見はありますか?」
するとアイシスがウェーブのかかった金髪をかき上げながらいう。
「そうねぇ。あの子私の魔力で髪を長くしたままでしょう?それなら長くした部分はわたくしの魔力が詰まっているから、わたくしの探査魔法でひっかるはずよ。ただ・・・探査範囲を広げれば広げるほど魔力を消費してしまうから、数分しか持たないかもしれませんわ」
「それでもいい。やってください」
アイシスが魔力の消費を抑えるための魔法陣を床に描く。その陣に自身の魔力を封じ込めていく。ほんの10分ほどの作業だったが、私にとっては永遠にも感じた。サクラに早く会いたい。彼女の安全を確認しないうちは、気が休まらなかった。
命に危険が及べば、彼女は時間を止めてやり過ごすだろう。現在3種の宝飾である指輪を身につけている私であれば、それにすぐに気がつく。なので現在危険が迫っているという可能性は低いだろうが、実際に会うまでは安心できなかった。
ふとした疑惑が頭をかすめる。
転換の魔法を使えるほどの高位魔法を操る、優秀な術者のクリスティーナを、使い捨てにしてまで手に入れたいのは、本当にウェースプ王国のみなのだろうか?
いや・・・まさか・・・。私は導き出される最悪の事態を想像して、それを打ち消した。
クリスティーナの術に陥落し骨抜きにされたアルフリード王子のことを、私は思い出していた。あんな暴言をはいてサクラを傷つけたアルフリード王子を、許すことはできない。もう王家に仕えるつもりはさらさらなかった。この事件が終わったら爵位を捨てて騎士隊も辞めて、サクラと田舎で暮らそう。彼女もきっと喜んで着いてきてくれるはずだ。
私は未来に夢を馳せた。その時アイシスが叫んだ。
「なんてこと!!あの子ギルセナ王国にいるみたい!!ここから2200キノも離れた国にこんな短時間で移動するなんて転移魔法でも使わない限り有り得ない!」
「そんな、馬鹿な・・・!」
私はあまりの衝撃的なアイシスの言葉に耳を疑った。
ギルセナ王国・・・あの独裁国家で強大な権力を行使して民衆を恐怖で統治する、悪名高き王がいる国。あんなところにサクラがいるというのか!!
ヘルミーナ様が深刻な面持ちで呟いた。
「セシリアが何故か遠方のギルセナ王国にいるということが事実ならば、クリスティーナが魔力でアルフリード王子や側近達を陥落していることと無関係だとは到底思えん。この二つは繋がっていると考えていいだろう」
途方もない事態になってきた。はじめセシリアはただ家出をしただけだと思っていた。転移門を使わない長距離移動はかなりの魔力を消費する。しかも2200キノも離れた場所だというからには、普通の術者では不可能なのだ。しかも国境を越えるのは身分証を持たないセシリアでは無理だ。
この事実をあわせて考えてみても、セシリアを連れて行ったのは、おそらくクリスティーナの背後にいる人物。ギルセナ王国のレンブレント国王だ!!
最悪の予想が的中してしまった。セシリアを狙ったということは、きっと聖女の力も既に把握しているに違いない。だからこそアルフリード王子を操り、セシリアを王城から出たいと自分から思わせるように仕向けたのだ。
そう考えれば辻褄が合う。だが一体国王はどうやって、サクラに自分の思い通りにいうことを聞かせる気なのだ?そんなことを考えていると、アイシスが私に向き直って聞く。
「ユーリス様。一体彼女は・・・セシリアは何者なんですの?一連の事態を計画したのはギルセナ国王ではないのですか?」
さすがに勘のいい女性だ。これだけの情報でここまで理解するとは・・・。
私はこれ以上隠す訳にはいかないと思ったが、サクラが聖女であるということは国家機密だ。おいそれと話すことは憚られた。しかしこういっておけばアイシスなら私の意図するところを汲んでくれるだろう。
「アイシス。彼女は特殊な能力を持っています。それをギルセナ国王が狙っているのだと思います」
「・・・・・」
アイシスは暫く黙って考えた後で、こう答えた。
「わかりました。ではレンブレント国王はウェースプ王国ではなくて、セシリア本人を狙っているということでよろしいですね」
私は黙って頷いた。ヘルミーナ様が両腕を組みながら真剣な面持ちでいう。
「ユーリス。ギルセナ国王の狙いが分かった今、セシリア救出よりもクリスティーナの方を何とかする方が先決だ。セシリアの能力が目的ならば、彼女の安全は保証されているだろう。ならば王城の者たちを正常に戻して、味方を増やす方がいい。特にあのレンブレント王が相手ではな」
そうだ。本来ならばそれが一番の最善策だろう。だが・・・私は・・・。
私の迷いに気がついたのか、ヘルミーナ様が威圧感をこめて睨んでくる。そこにマリス騎士が間抜けな声で口を挟んできた。
「あの・・・。クラマを探すんですよね・・・。も・・もしかしてクラマはセシリア嬢と駆け落ちしたんでしょうか?!!!」
緊張感漂う雰囲気を、一気にぶち壊してくれたマリス騎士はその後、私を憐憫の眼差しで見てきた。婚約者を寝取られた男を見る目つきだった。
永遠の少年とはよく言ったものだ。この単細胞め!!!私は心の中で毒づいた。
その後、クリスティーナ捕獲作戦が話し合われた。
アイシスが聖女ユイカと手を組んでいるらしく、伝心魔法で連絡をとった。あらゆる可能性を考えて、最善の策がとられる。その結果、アイシス以外の者は全て王城に向かう事になった。アイシスにはサクラの詳細な位置を特定してもらうため、魔力が回復すればすぐにでも、再び探知魔法を使ってもらう事になっている。
ヘルミーナ様は伯爵令嬢としてクラウス騎士団総長のもとへ、私はお尋ね者なので私を捕獲したキアヌス騎士とマリス騎士が、王城に引き渡しに来たという筋書きを書いた。
とにかく明日だ。アルフリード王子とクラウス兄さんにかけられた魔術をとかない限り、サクラ救出することは難しい。この夜はサクラのことを想って眠れなかった。
今どこでいるのだろう。私が見ているのと同じ月を見ているのだろうか?早く彼女に会いたい・・・。
「俺はクラマのためなら何でもします。たとえ俺のこの気持が一生報われないものだとしても・・・。家出したクラマを連れ戻す為にみんな集まっているんでしょう?僕も仲間に入れてください」
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マリス騎士は無言の私達を見て、肯定だと思ったらしい。そのうちヘルミーナ様に目を留めたらしく、怪訝な顔をして聞く。
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「あーこの方は・・・」
どう説明したものかと、私が言いよどんでいると、アイシスが後を続けた。
「ヘルミーナ伯爵令嬢・・・でしょう?わたくしが魔法高等学校に在学していた時に、同じ学年でしたのよ。お話したことはありませんけど。とても有名な方でしたもの。忘れるわけないですわ」
なんとアイシスはすでにヘル騎士の正体に気がついていたようだ。なんでも16歳のときに在学していた学園で、ヘルミーナ様は《 クラウス兄さんがストーカーをする婚約者 》ということで有名だったらしい。
「その時からクラウス様は、ヘルミーナ様のことを我がミューズと呼んでストーカーされていましてよ。だからクラウス様がクリスティーナをミューズと呼んだことで、転換魔法による魔術だと気がついたのですわ」
「そうだ、クラウスの奴め。最近ストーカーに来ないと思って王城に行って見たら、あの女に騙されていてすっかり骨抜きにされていた。今度あったら坊主にしてやる。あのアホが」
私はあのクラウス兄さんがヘルミーナ様にストーカーしていた事実に驚き、この愛する者を溺愛する性質は、ダイクレール公爵家の血なのではないかと思った。
私は気を取り直して皆に問う。
「とにかく、セシリ・・・いやクラマの行き先を調べたいのですが。誰かいい意見はありますか?」
するとアイシスがウェーブのかかった金髪をかき上げながらいう。
「そうねぇ。あの子私の魔力で髪を長くしたままでしょう?それなら長くした部分はわたくしの魔力が詰まっているから、わたくしの探査魔法でひっかるはずよ。ただ・・・探査範囲を広げれば広げるほど魔力を消費してしまうから、数分しか持たないかもしれませんわ」
「それでもいい。やってください」
アイシスが魔力の消費を抑えるための魔法陣を床に描く。その陣に自身の魔力を封じ込めていく。ほんの10分ほどの作業だったが、私にとっては永遠にも感じた。サクラに早く会いたい。彼女の安全を確認しないうちは、気が休まらなかった。
命に危険が及べば、彼女は時間を止めてやり過ごすだろう。現在3種の宝飾である指輪を身につけている私であれば、それにすぐに気がつく。なので現在危険が迫っているという可能性は低いだろうが、実際に会うまでは安心できなかった。
ふとした疑惑が頭をかすめる。
転換の魔法を使えるほどの高位魔法を操る、優秀な術者のクリスティーナを、使い捨てにしてまで手に入れたいのは、本当にウェースプ王国のみなのだろうか?
いや・・・まさか・・・。私は導き出される最悪の事態を想像して、それを打ち消した。
クリスティーナの術に陥落し骨抜きにされたアルフリード王子のことを、私は思い出していた。あんな暴言をはいてサクラを傷つけたアルフリード王子を、許すことはできない。もう王家に仕えるつもりはさらさらなかった。この事件が終わったら爵位を捨てて騎士隊も辞めて、サクラと田舎で暮らそう。彼女もきっと喜んで着いてきてくれるはずだ。
私は未来に夢を馳せた。その時アイシスが叫んだ。
「なんてこと!!あの子ギルセナ王国にいるみたい!!ここから2200キノも離れた国にこんな短時間で移動するなんて転移魔法でも使わない限り有り得ない!」
「そんな、馬鹿な・・・!」
私はあまりの衝撃的なアイシスの言葉に耳を疑った。
ギルセナ王国・・・あの独裁国家で強大な権力を行使して民衆を恐怖で統治する、悪名高き王がいる国。あんなところにサクラがいるというのか!!
ヘルミーナ様が深刻な面持ちで呟いた。
「セシリアが何故か遠方のギルセナ王国にいるということが事実ならば、クリスティーナが魔力でアルフリード王子や側近達を陥落していることと無関係だとは到底思えん。この二つは繋がっていると考えていいだろう」
途方もない事態になってきた。はじめセシリアはただ家出をしただけだと思っていた。転移門を使わない長距離移動はかなりの魔力を消費する。しかも2200キノも離れた場所だというからには、普通の術者では不可能なのだ。しかも国境を越えるのは身分証を持たないセシリアでは無理だ。
この事実をあわせて考えてみても、セシリアを連れて行ったのは、おそらくクリスティーナの背後にいる人物。ギルセナ王国のレンブレント国王だ!!
最悪の予想が的中してしまった。セシリアを狙ったということは、きっと聖女の力も既に把握しているに違いない。だからこそアルフリード王子を操り、セシリアを王城から出たいと自分から思わせるように仕向けたのだ。
そう考えれば辻褄が合う。だが一体国王はどうやって、サクラに自分の思い通りにいうことを聞かせる気なのだ?そんなことを考えていると、アイシスが私に向き直って聞く。
「ユーリス様。一体彼女は・・・セシリアは何者なんですの?一連の事態を計画したのはギルセナ国王ではないのですか?」
さすがに勘のいい女性だ。これだけの情報でここまで理解するとは・・・。
私はこれ以上隠す訳にはいかないと思ったが、サクラが聖女であるということは国家機密だ。おいそれと話すことは憚られた。しかしこういっておけばアイシスなら私の意図するところを汲んでくれるだろう。
「アイシス。彼女は特殊な能力を持っています。それをギルセナ国王が狙っているのだと思います」
「・・・・・」
アイシスは暫く黙って考えた後で、こう答えた。
「わかりました。ではレンブレント国王はウェースプ王国ではなくて、セシリア本人を狙っているということでよろしいですね」
私は黙って頷いた。ヘルミーナ様が両腕を組みながら真剣な面持ちでいう。
「ユーリス。ギルセナ国王の狙いが分かった今、セシリア救出よりもクリスティーナの方を何とかする方が先決だ。セシリアの能力が目的ならば、彼女の安全は保証されているだろう。ならば王城の者たちを正常に戻して、味方を増やす方がいい。特にあのレンブレント王が相手ではな」
そうだ。本来ならばそれが一番の最善策だろう。だが・・・私は・・・。
私の迷いに気がついたのか、ヘルミーナ様が威圧感をこめて睨んでくる。そこにマリス騎士が間抜けな声で口を挟んできた。
「あの・・・。クラマを探すんですよね・・・。も・・もしかしてクラマはセシリア嬢と駆け落ちしたんでしょうか?!!!」
緊張感漂う雰囲気を、一気にぶち壊してくれたマリス騎士はその後、私を憐憫の眼差しで見てきた。婚約者を寝取られた男を見る目つきだった。
永遠の少年とはよく言ったものだ。この単細胞め!!!私は心の中で毒づいた。
その後、クリスティーナ捕獲作戦が話し合われた。
アイシスが聖女ユイカと手を組んでいるらしく、伝心魔法で連絡をとった。あらゆる可能性を考えて、最善の策がとられる。その結果、アイシス以外の者は全て王城に向かう事になった。アイシスにはサクラの詳細な位置を特定してもらうため、魔力が回復すればすぐにでも、再び探知魔法を使ってもらう事になっている。
ヘルミーナ様は伯爵令嬢としてクラウス騎士団総長のもとへ、私はお尋ね者なので私を捕獲したキアヌス騎士とマリス騎士が、王城に引き渡しに来たという筋書きを書いた。
とにかく明日だ。アルフリード王子とクラウス兄さんにかけられた魔術をとかない限り、サクラ救出することは難しい。この夜はサクラのことを想って眠れなかった。
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