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ヘルミーナ伯爵令嬢

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私は記憶をたぐり寄せていた。そうだ。子供の頃、ヘルミーナ様はよくダイクレール公爵家に遊びに来ていた。もともと活発で男の子と遊ぶのが大好きな彼女は、一番年の近いクラウス兄さんと良く森に入って遊んでいたらしい。

らしいというのは私が物心ついたころには、彼女はもう13歳で、よく遊んでくれるお姉さんとしての記憶しかないからだ。いつも口癖のように『 お前はアホだな。ユーリス 』といっていたのは覚えている。

私が14歳になった頃にはもうダイクレール公爵家はもとより、社交界からも姿を消していたので、クラウス兄さんの生まれたときからの、お飾りの婚約者だということ以外は、なんの興味もなかった。その彼女が騎士になって、今現在私の目の前にいる。私は驚愕のあまり、呆然としていた。

「私はどうしても騎士になりたかったんだ。だけど女は騎士にはなれない。だから男装して騎士学校に入り、7年間かけてやっと騎士になった」

「・・・クラウス兄さんはご存知なんですか?」 

「知っているも何も、あのストーカー男。私の夢のために騎士団総長になったようなもんだ。私が女だとばれてもお咎めがないように、権力を握っておくとかどうとか言っていた。相変わらずのアホだな」

私は頭の中の整理がつかずに、思いつくままに疑問を口にする。

「・・・クラウス兄さんはストーカーなんですか?」

「知らなかったのか?あいつダイクレール家の地下に秘密の部屋を作って、そこに私が3歳の頃からの思い出とやらをコレクションしているらしいぞ。私に貰った草花やら、初めて魔力を使ったときに壊した花瓶とか、鼻をかんだハンカチに至るまで飾ってあるらしい。これがストーカー男じゃなくてなんだというんだ?」

私の中で、威厳のあるいつも冷静で勤勉なクラウス兄さんの印象が、がらがらと音を立てて崩れていった。

「・・・でも、ずっと会っていらっしゃらないのでは?」

「私はな・・・。だがよく気配は感じるから、覗き見はしているに違いない。騎士訓練所にもちょくちょく来ていたぞ。気がつかなかったか?まあ、お前はクラマに夢中だったから無理もないがな」

と笑って語るヘルミーナ様に私は動揺を隠せなかった。ヘルミーナ様はまだ笑いながら続ける。

「クラマがセシリア嬢だということは、ダイクレールの大叔父様から聞いていたんでな。たまに様子を見ていたりしたんだ。マリスにせまられていた所を助けてやったこともある。感謝しろよ・・・義弟よ」

「・・・・・・!!」

マリスのことを詳しく聞こうとした時にアイシスがやってきたようで、馬が駆けてくる音がした。用心のため物陰から剣を携えて隠れながら様子を伺うと、アイシスとキアヌスが見えた。その後ろにもう一人、顔の見えない人物がいるのが見えるが、アイシスが連れてきていいと判断したのであれば、間違いのない人物なのだろう。

私はアイシスを恋人としては無理だが、参謀としては高く評価している。目的のために手段を選ばないその不屈の精神も悪くない。私は彼らを出迎えるために小屋の扉を開いた。

セシリアを連れ戻す。これが今の私のやるべきことだ。

クリスティーナの件はその後でいい・・・。

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