上 下
21 / 57

クリスティーナ様のお披露目会

しおりを挟む
あれからアルフリード王子とは、二人きりで話す時間も無く、彼の本当の気持ちを聞く機会はなかった。私としてはちゃんと彼自身の口から話を聞きたかったのだけれど、アルフリード王子は少しでも時間があると、クリスティーナ様の元に通いつめていた。

3日が経ち、クリスティーナ様のお披露目の日がやってきた。数日前から昼夜問わずに準備がなされて、王城はたくさんの人や物で溢れかえっていた。王城にはたくさんの招待客が押しかけて、城に勤める侍従や侍女達、城を守る兵士達もかなりの忙しさに埋没されていた。

私は・・・というと自室で淡い緑色のドレスを着て薄いメイクを施し、髪は頭の上に結い上げて、可憐な薔薇のモチーフのヘアピンをつけた。体中に嫌味にならない程度の宝石をまとって、今日エスコートをしてくれるという、クラウス公爵様を待っていた。

私が正装をするのを手伝ってくれた侍女が、感嘆の声をもらす。

「なんて素敵なのでしょう。天使が舞い降りたようですわ。ユーリス公爵も是非見たかったでしょうに残念です」

まあ。お世辞だとしても、褒められれば悪い気はしない。すこし照れながらうつむく。

今でもアルフリード王子のことを思うと、胸の奥がぎゅっと締め付けられるように痛む。夜、眠りながら泣いていたこともある。だけど、それももう終わらせよう。今日こそ、アルフリード王子とクリスティーナ様におめでとうと言おう。

そんなことを考えていると、侍女がクラウス公爵様がいらしたと伝えに来たので、早速自室から出てクラウス公爵様が待っているであろう部屋に行く。

青と銀色をベースに豪勢に装飾された部屋に通されると、そこに黒色の騎士服を身にまとったクラウス公爵様がいらっしゃって、私を一目見るなり感嘆の溜息をもらす。

「かなり美しく装ったな。これなら大神官もあのサクラだとは気がつかないだろう」

はいはい。化けたなっていう感じでしょう?と思いながら、右手をクラウス公爵様の左腕に置く。

このお披露目会はとても大規模な物で、昼過ぎから始まり庭で遊園会を行い、夜は大ホールで夜会が催される。王国中の貴族や重要人物が招待されていて、恐らくそこにエルドレッド王子やセイアレス大神官。魔術庁長官・・・それに聖女のゆいかちゃんも参加する予定だといわれた。

おそらく昔とかなり見た目が変わっている私のことを、あの時聖女と一緒に召喚された少女だとは誰も思わないだろう。しかもたった1週間しか大神殿に居なかった私を覚えている人は、いないであろうとの判断だ。

いつまでも避け続けるわけにはいかない。

アルフリード王子とクリスティーナ様は、常に傍にいて招待客に挨拶をするのに忙しそうだった。

私とクラウス公爵様も挨拶に向かったが、定型的な挨拶の文句だけで終わった。

その後、白鳥たちが泳ぐ湖の傍の庭園で、クラウス公爵様とお話しをした。クラウス公爵様はクリスティーナ様のことをべた褒めで、とても素晴らしい女性だと絶賛していた。

私のミューズだとかも言っていた。・・・なんだろう。このダイクレール公爵家には溺愛の遺伝子でも存在しているのだろうか。

まあ、あのアルフリード王子に心酔しているルーク補佐官様のお墨付きの女性だ。おそらく本当に素晴らしい女性なのだろう。アルフリード王子も彼女となら幸せになるに違いない。

また胸の痛みがぶり返してくる。あの日、山の頂上でアルフリード王子が私に言ってくれた台詞を思い出したからだ。

『 お前に生涯傍にいて欲しい。隣で笑って頑張ったねと言って欲しいんだ 』

私の口から諦めに似た笑いがこぼれる。きっとその役目はクリスティーナ様がやってくれるのね。私ではない・・・私は必要とされていない・・・。

広大な芝生の上に所々にテーブルが置かれ、その上にこれでもかと沢山の花を飾りつけた花瓶と、一口サイズの料理が所狭しと並んでいる。その周りを様々な色の華やかなドレスに身を包んだ女性や、女性をエスコートする男性で埋め尽くされている。

なるほど、これほどの人が居れば私のことなど目立たないだろう。

これ以上考えすぎるとまた涙が出そうになるので、私は料理のほうに集中した。クラウス公爵様が旧知の友と会ったみたいで話に花を咲かせている間に、こっそり料理を取りにテーブルに向かう。

そこにある薔薇の花をかたどったケーキに目を奪われ、最後の一つになったそれに手を伸ばすと同時に、他の誰かの手がそのケーキを掴んだ。

思わず見ると、そこには可愛らしいピンクのフリルのドレスを着て、そのウェーブのかかった茶色の髪を揺らしながら、ゆいかちゃんが立っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【完結】愛することはないと告げられ、最悪の新婚生活が始まりました

紫崎 藍華
恋愛
結婚式で誓われた愛は嘘だった。 初夜を迎える前に夫は別の女性の事が好きだと打ち明けた。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処刑回避で海賊に就職したら、何故か船長に甘やかされてます。

蒼霧雪枷
恋愛
アレクシア・レーベアル侯爵令嬢はある日前世を思い出し、この世界が乙女ゲームと酷似していることに気づく。 そのゲームでアレクシアは、どのルートでも言われなき罪で一族郎党処刑されるのである。 しかも、その処刑への道の始まりが三日後に迫っていることを知る。自分だけではなく、家族までも処刑されるのは嫌だ。 考えたアレクシアは、黙って家を出ることを決心する。 そうして逃げるようにようやって来た港外れにて、アレクシアはとある海賊船を見つけ─ 「ここで働かせてください!!」 「突然やって来て何だお前」 「ここで働きたいんです!!」 「まず名乗れ???」 男装下っぱ海賊令嬢と、世界一恐ろしい海賊船長の愉快な海賊ライフ!海上で繰り広げられる攻防戦に、果たして終戦は来るのか…? ────────── 詳しいことは作者のプロフィールか活動報告をご確認ください。 中途半端な場所で止まったまま、三年も更新せずにいて申し訳ありません。覚えている方はいらっしゃるのでしょうか。 今後このアカウントでの更新はしないため、便宜上完結ということに致します。 現在活動中のアカウントにて、いつかリメイクして投稿するかもしれません。その時見かけましたら、そちらもよろしくお願いします。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

永遠の隣で ~皇帝と妃の物語~

ゆる
恋愛
「15歳差の婚約者、魔女と揶揄される妃、そして帝国を支える皇帝の物語」 アルセリオス皇帝とその婚約者レフィリア――彼らの出会いは、運命のいたずらだった。 生まれたばかりの皇太子アルと婚約を強いられた公爵令嬢レフィリア。幼い彼の乳母として、時には母として、彼女は彼を支え続ける。しかし、魔法の力で若さを保つレフィリアは、宮廷内外で「魔女」と噂され、婚約破棄の陰謀に巻き込まれる。 それでもアルは成長し、15歳の若き皇帝として即位。彼は堂々と宣言する。 「魔女だろうと何だろうと、彼女は俺の妃だ!」 皇帝として、夫として、アルはレフィリアを守り抜き、共に帝国の未来を築いていく。 子どもたちの誕生、新たな改革、そして帝国の安定と繁栄――二人が歩む道のりは困難に満ちているが、その先には揺るぎない絆と希望があった。 恋愛・政治・陰謀が交錯する、壮大な愛と絆の物語! 運命に翻弄されながらも未来を切り開く二人の姿に、きっと胸を打たれるはずです。 ---

処理中です...