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ユーリの想い 《 後編 》
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その晩アイシスから私に、9刻に昼間の川に来るようにと伝言があった。しかも水着を着てこいとそこには書かれてある。・・ということは泳ぐということなのだろう。
大体にしてアイシスの考えそうなことは想像が付いていたが、アイシスの計画に水を差すようなことはしたくなかったので、何も言わずに受け入れた。私もサクラと泳いでみるのは楽しそうだと思ったからだ。
川に行くと誰もまだ来ていなかった。あまりに楽しみにしていた為、早く着きすぎたようだ。その後、程なくしてアイシスが現れ、暫くの間二人きりになった。アイシスが妖艶な笑いを浮かべて言う。
「まさかクラマをセシリアとしてルベージュ子爵家の貴族にまで仕立て上げて、婚約者にするとは思わなかったわ。さすがに策士ね。ユーリス様・・・。まあ、お陰でわたくしのほうは名門ダイクレール公爵家に恩を売れて、お父様が大喜びしてらっしゃったわ」
サクラは表向きはルベージュ子爵家の遠縁の令嬢のセシリアという事になっている。アイシスはサクラが聖女だということは知らない。
「・・・でも気をつけたほうがよろしくてよ。我が子爵家にアルフリード殿下がセシリアにと、ドレスや宝石を贈ってきているの。あの女性嫌いで有名な王子様がどうしてそんなことをするのかしらね」
アルフリード王子もサクラを愛している事は知っている。形式上だとはいえ、セシリアが私の正式な婚約者になっていることは、かなり不本意な事に違いない。
だとしても臣下の婚約者にドレスや宝石を贈るのはいかがなものだろうか?あの切れ者の殿下が何の意図も無く、対外的な心象を悪くすることなどするはずがないだろう。これは間違いなく私への挑戦状だ。
「大丈夫だよ。殿下は私の先日の大魔獣討伐の功績を認めてくださった。おそらくそのお礼だろう」
アイシスはそんなはずは無いだろうといわんばかりに、私に向かって意味深な一瞥をくれたが、私はそれ以上何も答えなかった。そうこうするうちに、サクラがクラマの格好をして息をきらせてやってきた。
アイシスが彼女の意思も確かめないうちに美容魔法を解く。そしてセシリアの時のように髪の毛を腰まで魔力で伸ばす。彼女は両手で水着だといわれた白い布を持って、顔色を青くしながら固まっていた。確かにその布の量ではこころもとないのだろう。さすがにこれはアイシスに進言しようと口を開くと同時に、アイシスがセシリアのシャツを無理やり脱がせながら言い放った。
「ユーリス様、あっちを向いていてくださいませ。女性の着替え中ですわよ」
セシリアは成すすべもなく、さらし一枚になった格好で情けない顔をしてこちらを見つめているので、慌てて逆の方向を見る。あっという間に水着に着替えさせられたらしい彼女は一瞬何かを呟いたあと、川に入った・・・というか入ったらしい。
私はセシリアの着替えを見てはいけないと思い、反対方向を向いていたから彼女が水に入る音で振り返った。そこには月光に照らされたセシリアが、半分水に浸かった体でこちらを振り返って見ていた。
私は一瞬息を呑んだ。その流れるような黒髪と黒曜石のような黒い眼に、月の光が反射してきらきらと輝いている。柔らかい曲線をなぞったその黒髪をたどっていくと、陶器のように白い肌が見える。その白い水着は彼女の清廉さを強調していて、まるで月の女神を見たのかとさえ思った。
「ひゃっ!冷たいっ!でもすごく気持ちがいいですよ。早くユーリもアイシス様も来てください。誰が一番早く泳げるか競争しましょうか!」
月の女神が無邪気なことを言い始める。私は微笑んでから着ていた服を脱ぎ、水着になって川に入った。そこに居るはずのセシリアが居ないので、水の中に潜ってみる。
すると水の中には黒い髪をあらゆる方向に漂わせ、人魚のように体を水に浮かせている彼女がいた。水中で見る彼女は、その幻想的な背景にも負けずに、この世のものではない美しさを放っていた。
丸い空気の玉が、彼女の周りをくるくると回って水面に昇っていく。その月の光に輝く黒い目が私を認めてすぐに、ほんのりと微笑んだ。
その後アイシスが全く泳げないことが判明した。セシリアが微笑むと、アイシスがふくれっつらをして彼女を軽く叩く。
アイシスも口では何とか言いながらも、彼女のことを気に入っているのが良く分かる。マリスもそうだったように、彼女は自然と人を魅きつける何かがあるようだ。
その後、泳げないアイリスを川の縁に残したまま、私はセシリアと二人で泳いで遊んだ。彼女は人魚のように巧みな仕草で泳いでいく。
「これはクロールといって一番早く泳げるんです」
私が本気を出せばクロール等とは関係なく、確実に私のほうが彼女より早く泳げるのだが、そうはしなかった。セシリアを追い抜いてしまうと、彼女が人魚のように泳ぐ様を見られないからだ。
「あっ!見てユーリ!あそこに大きな魚がいるよ!」
彼女はそういうと私の腕を掴んで潜った。水の中で彼女の指差すほうを見ると、そこには大魚が悠然と泳いでいた。感動しているのであろうか・・・興奮して大魚を見る彼女は、その幻想的な外見とは裏腹に、未だ少女のようなあどけなさを残している。
私と水中で目を合わせる。何か伝えたいようだが、水の中なので声は出せない。なんとか自分の意思を私に伝えようと、私を熱く見つめ続ける彼女に、私はついに我を忘れてこの腕に彼女を抱きしめていた。
我に返ったのは、そんなに時間が経った後では無かった筈だ。ここが水の中だということを失念していたことをすぐに思い出して、彼女を素早く水から引き上げる。川の縁に寝かせアイシスの助けを呼んだら、すぐに人口呼吸を開始した。
「んんんんんん!!!!!」
なにやら妙な音が聞こえる。思わず人工呼吸をやめてセシリアを見ると、何故だか怒っている様だ。
「ユーリ!!私は溺れてなんかいないし、意識も失ってないってば!!」
なんていうことだ。水の中で我を忘れてサクラを抱きしめていたから、てっきり彼女は息ができなくて危ない状態だと思っていた。私はどうやら普通に意識のある彼女に対して、人工呼吸で息を吹き込んでいたらしい。
アイシスの呆れた様な視線が痛い・・・。
サクラの怒りは、次の日の夕方・・・私が新作オリボレンを彼女に渡すまで続いた。
大体にしてアイシスの考えそうなことは想像が付いていたが、アイシスの計画に水を差すようなことはしたくなかったので、何も言わずに受け入れた。私もサクラと泳いでみるのは楽しそうだと思ったからだ。
川に行くと誰もまだ来ていなかった。あまりに楽しみにしていた為、早く着きすぎたようだ。その後、程なくしてアイシスが現れ、暫くの間二人きりになった。アイシスが妖艶な笑いを浮かべて言う。
「まさかクラマをセシリアとしてルベージュ子爵家の貴族にまで仕立て上げて、婚約者にするとは思わなかったわ。さすがに策士ね。ユーリス様・・・。まあ、お陰でわたくしのほうは名門ダイクレール公爵家に恩を売れて、お父様が大喜びしてらっしゃったわ」
サクラは表向きはルベージュ子爵家の遠縁の令嬢のセシリアという事になっている。アイシスはサクラが聖女だということは知らない。
「・・・でも気をつけたほうがよろしくてよ。我が子爵家にアルフリード殿下がセシリアにと、ドレスや宝石を贈ってきているの。あの女性嫌いで有名な王子様がどうしてそんなことをするのかしらね」
アルフリード王子もサクラを愛している事は知っている。形式上だとはいえ、セシリアが私の正式な婚約者になっていることは、かなり不本意な事に違いない。
だとしても臣下の婚約者にドレスや宝石を贈るのはいかがなものだろうか?あの切れ者の殿下が何の意図も無く、対外的な心象を悪くすることなどするはずがないだろう。これは間違いなく私への挑戦状だ。
「大丈夫だよ。殿下は私の先日の大魔獣討伐の功績を認めてくださった。おそらくそのお礼だろう」
アイシスはそんなはずは無いだろうといわんばかりに、私に向かって意味深な一瞥をくれたが、私はそれ以上何も答えなかった。そうこうするうちに、サクラがクラマの格好をして息をきらせてやってきた。
アイシスが彼女の意思も確かめないうちに美容魔法を解く。そしてセシリアの時のように髪の毛を腰まで魔力で伸ばす。彼女は両手で水着だといわれた白い布を持って、顔色を青くしながら固まっていた。確かにその布の量ではこころもとないのだろう。さすがにこれはアイシスに進言しようと口を開くと同時に、アイシスがセシリアのシャツを無理やり脱がせながら言い放った。
「ユーリス様、あっちを向いていてくださいませ。女性の着替え中ですわよ」
セシリアは成すすべもなく、さらし一枚になった格好で情けない顔をしてこちらを見つめているので、慌てて逆の方向を見る。あっという間に水着に着替えさせられたらしい彼女は一瞬何かを呟いたあと、川に入った・・・というか入ったらしい。
私はセシリアの着替えを見てはいけないと思い、反対方向を向いていたから彼女が水に入る音で振り返った。そこには月光に照らされたセシリアが、半分水に浸かった体でこちらを振り返って見ていた。
私は一瞬息を呑んだ。その流れるような黒髪と黒曜石のような黒い眼に、月の光が反射してきらきらと輝いている。柔らかい曲線をなぞったその黒髪をたどっていくと、陶器のように白い肌が見える。その白い水着は彼女の清廉さを強調していて、まるで月の女神を見たのかとさえ思った。
「ひゃっ!冷たいっ!でもすごく気持ちがいいですよ。早くユーリもアイシス様も来てください。誰が一番早く泳げるか競争しましょうか!」
月の女神が無邪気なことを言い始める。私は微笑んでから着ていた服を脱ぎ、水着になって川に入った。そこに居るはずのセシリアが居ないので、水の中に潜ってみる。
すると水の中には黒い髪をあらゆる方向に漂わせ、人魚のように体を水に浮かせている彼女がいた。水中で見る彼女は、その幻想的な背景にも負けずに、この世のものではない美しさを放っていた。
丸い空気の玉が、彼女の周りをくるくると回って水面に昇っていく。その月の光に輝く黒い目が私を認めてすぐに、ほんのりと微笑んだ。
その後アイシスが全く泳げないことが判明した。セシリアが微笑むと、アイシスがふくれっつらをして彼女を軽く叩く。
アイシスも口では何とか言いながらも、彼女のことを気に入っているのが良く分かる。マリスもそうだったように、彼女は自然と人を魅きつける何かがあるようだ。
その後、泳げないアイリスを川の縁に残したまま、私はセシリアと二人で泳いで遊んだ。彼女は人魚のように巧みな仕草で泳いでいく。
「これはクロールといって一番早く泳げるんです」
私が本気を出せばクロール等とは関係なく、確実に私のほうが彼女より早く泳げるのだが、そうはしなかった。セシリアを追い抜いてしまうと、彼女が人魚のように泳ぐ様を見られないからだ。
「あっ!見てユーリ!あそこに大きな魚がいるよ!」
彼女はそういうと私の腕を掴んで潜った。水の中で彼女の指差すほうを見ると、そこには大魚が悠然と泳いでいた。感動しているのであろうか・・・興奮して大魚を見る彼女は、その幻想的な外見とは裏腹に、未だ少女のようなあどけなさを残している。
私と水中で目を合わせる。何か伝えたいようだが、水の中なので声は出せない。なんとか自分の意思を私に伝えようと、私を熱く見つめ続ける彼女に、私はついに我を忘れてこの腕に彼女を抱きしめていた。
我に返ったのは、そんなに時間が経った後では無かった筈だ。ここが水の中だということを失念していたことをすぐに思い出して、彼女を素早く水から引き上げる。川の縁に寝かせアイシスの助けを呼んだら、すぐに人口呼吸を開始した。
「んんんんんん!!!!!」
なにやら妙な音が聞こえる。思わず人工呼吸をやめてセシリアを見ると、何故だか怒っている様だ。
「ユーリ!!私は溺れてなんかいないし、意識も失ってないってば!!」
なんていうことだ。水の中で我を忘れてサクラを抱きしめていたから、てっきり彼女は息ができなくて危ない状態だと思っていた。私はどうやら普通に意識のある彼女に対して、人工呼吸で息を吹き込んでいたらしい。
アイシスの呆れた様な視線が痛い・・・。
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