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アルフリードの助け

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こんな時に何を言い出すんだと言わんばかりに、鳩が豆鉄砲をくらったような顔で見る。

「私、自分よりも弱い人と結婚したくありません。でも聖女は王様と結婚するんですよね?だったら私と剣で勝負してください。もちろん魔力は使わないということで。・・・」

思い切り嘲るような表情になったのが見て取れた。
あっ・・・いまこいつバカだなって思ったよね。絶対。
エルドレッドは私を甘く見ているに違いない。だけど私だって剣道の実力はおじいちゃんのお墨付きだ。剣だけの勝負なら負ける気はしない。

「ただし私が勝ったら、私とアルフリード王子を見逃してください。負けたら、そうですね。あなたと結婚して、言うことを聞きます。悪い勝負ではないのじゃないのでしょうか?」

できるだけ目的を悟られないように気持ちを落ち着かせながらゆっくりと話す。万が一私が勝ったとしても、エルドレッドが私とアルを見逃すなんて事はありえないと分かっていた。
ただ私はその指輪を手に入れるための機会が欲しかったのだ。

「いいよ、私の剣を貸してあげよう。私はそうだな・・この木の棒で十分だ。聖女に傷をつけるわけにいかないからね」

にやっと下卑た笑いを漏らして、舌で唇を舐め上げた。
やった!!食いついた!!
だけど・・・気持ち悪――――い!!この人と結婚するくらいなら死んだほうがまし!!

「私にも木の棒をください。エルドレッド王子を二つに切ってしまうわけにはいけませんから」

真剣で防具もつけていない人を相手にはできない。さすがにスプラッターは勘弁して欲しかった。

私は決死の覚悟で事に挑んだ。早くしないと、エルドレッドの後ろで倒れたままのアルの息がだんだん小さくなっていっている。時間が無い。
その瞬間アルの瞼がゆっくりと開いて、私を認めた。一瞬やわらかくなった顔に次の瞬間、痛みのせいだろうか眉根が寄せられる。
大丈夫。絶対に助けてみせる。待ってて。と、目で伝える。

早速エルドレッドから剣を受け取り、構えを取る。
一回大きく深呼吸をすると、神経を集中させる。
周りの音が遠くなって、そして聞こえなくなる。

そしてエルドレッドが動いた瞬間を狙って、剣を叩き込む!!
さすがに訓練されたすばやい動きで、彼は私の剣を見切って受ける。何度攻撃しても全てを受けとめられる。
実はこれは計算のうちだ。確実に指輪を手に入れるためには彼には油断しておいてもらわなくてはいけない。
私の攻撃のパターンに慣れてきたようで、最初は何とか攻撃を避けていたエルドレッドに余裕が見えてきた。
いまだっ!!
その時を狙って右足を踏み出すと、エルドレッドに小手と面を叩き込んだ。
木の棒とはいえ、じかにあたればかなりのダメージを与えることができると踏んでいた。
私の思惑通り、彼はその場に倒れこむ。待ってましたと言わんばかりに、その体の上に覆いかぶさるようにして、あらかじめ狙っていた指から指輪を引き抜こうとする。

「この女っ!!」

エルドレッドは瞬間、私の狙いに気がついたようで、体を捻って脚で思い切り私の体を蹴った。
その衝撃で後方に激しく吹っ飛んで、崩れた壁に当って止まる。
一瞬、息ができなくなり、思い切り咳き込む。咳き込むたびに蹴られた上腹部辺りが、尋常ではない痛みを発する。

「ごほっ!!ごほっ!!!」

エルドレッドが私の前まで来ていたようだが、余りの痛みに気がつかなかった。
突然、髪を引っ張りあげられエルドレッドの怒りで我を失った顔が目の前に近づく。その額からは血が流れていた。おそらく私がさっきつけた傷だ。
腹部の痛みと引っ張りあげられた髪の痛みで、自然と呻き声が口からこぼれる。

「ううぅっ・・・」

「この女!!殺してやる!!」

あ・・・無茶苦茶・・怒ってる。私・・・もしかして殺されちゃうのかな?
ごめんね。アル。ユーリス様。アイシス様に騎士様方。食堂のアンおばさんに。カイ。
でも・・・できるだけのことはやったんだよ。
あ・・・でも私が死ねば、時間は動き出すよね。そうなればアルは助かるかもしれない。そうかぁ。もっと早く気づけばよかった。
ふと、温かい気持ちになる。無駄死にではないことが分かって、少しは報われた気になった。


「アル・・・」最後に呟いた。

そして覚悟を決めたそのときに、突然掴まれていた髪が離された。
私の体は重力にされるがまま、下方に崩れていく。地面にたたきつけられる衝撃を待って身構えるが、その瞬間はいくら待っても来なかった。
あれ・・・?

何かがおかしい事に気がついて目を開けると、私はアルの腕の中にいた。
目の前はアルの血の着いた胸しか見えていないが、その隙間からエルドレッドが倒れているのが見えた。何があったか理解できないが、アルが助けてくれた事だけは分かった。

「アルっ!!大丈夫なの?」

その体は満身創痍で、立っているのもやっとといった感じだ。

「サクラ・・・無茶するな・・・」
それは、そっちの台詞でしょ!!と心の中で反論しながらも、声には出さなかった。もうぼろぼろじゃない!!そこかしこから血が出ているし、服は殆ど破けている。
なのにどうして助けに来るの?!
エルドレッドが仰向けに倒れた上半身を半分だけ起こすと、憎々しげに言った。

「この・・死にぞこないがっ!!」

アルは私を背後に庇いながら、自身の剣を魔力で引き寄せて手にとった。エルドレッドも同じようにして剣を持つ。
ふらつきながらも、立ち上がったエルドレッドが剣を構える。二人の間に緊張感が走る。
どちらも傷だらけの体で立っているのがやっとだと言うのに、戦意を顕わにして見詰め合っている。
するとエルドレッドが、怒りと悲しみ、憎しみと愛情・・・ありとあらゆる感情が入り混じった顔になって絞り出すように声を出した。

「いつも・・・いつも。兄さんばかりだった。私が努力してやっと成し得たことを、兄さんは努力もせずに簡単にやってのける・・・。父上だっていつも兄さんばかりを誇りにしていた・・・」

アルフリードが何かを言おうとして口を開いたのに気づき、被せるように言い放つ。

「そんなことはないというなよ!!そんな言葉、聞きたくもない!!」

悲痛な心の叫びだった。
ああ・・・この人はいつも文武両道、頭脳明晰の完璧な兄に、嫉妬していたんだ。長年培われた嫉妬は、憎悪になって・・・。
エルドレッドは流れ出す涙を拭おうともせず、アルフリードを見つめていう。

「でももうそれも終わりだ・・・。兄さんがいなくなれば、皆、認めてくれる・・・。だからここで死んでくれないか・・・。もう私を解放してくれ・・」

振り絞るような想いを淡々と語る。

アルフリードはもう時すでに遅く、おそらく永遠に分かり合えないだろう血を分けた弟の想いを受け止めるために、剣を強く握りなおした。
反対の手で私をそっと床に降ろす。胸に痛みがはしり咳がでる。おそらく肋骨が折れているのだろう、息が苦しくなってくる。

「早く終わらせる」

一言呟いて、アルフリードはエルドレッドとの戦いに望んだ。

二人はまるでそれが昔から定められた運命だったかのように、引き寄せられるように戦いが始まった。

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