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アルフリード王子
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豪華で優美な装飾が施されたティールームで、アルフリードは弟である第二王子のエルドレッドと向かい合わせで、座ってお茶を飲んでいる。
その傍には、補佐官のルークも同席している。その後ろには侍女らが、控えていた。
今日アルフリードは、病に侵され寝たきりになっている国王。つまり自身の父親に会いにきた。
いつも定期的に、国王と話をする時間を作っている。
もちろん政治上の相談もあるのだが、だんだん目に見えて衰弱していく国王を見て、できるだけ話をしたいと思うようになった。
もう、そんなに長くはないのだろう。
国王との謁見の後に、エルドレッドに会ってしまった。
早速お茶の誘いを受けてしまっては、断るわけにもいかない。エルドレッドも国の政治を考える上で、見逃せない権力を握っている。
第二王子派の勢力は、魔術長長官率いる、魔方陣を展開しながら戦う魔術師達、それとセイアレス大神官率いる、神官とその敬虔な信者達だ。
それでもアルフリードの勢力のほうが誰が見ても優勢なのだが、もしエルドレッドと表立って対立してしまえば国を2分する戦いになってしまう。
それだけは避けなければいけない。
国王はいつ崩御してもおかしくない状態になってきた。
それまでに第二王子のエルドレッドは、なんとかして王位を我が物にしようと焦っている。
だからこそ聖女召喚を急いだのだろう。
「兄さん。今日も父上に会いに行ったんだってね。病気の父上の手を煩わせないと、この国を統治できないなんて、あまり人に言えないよね。ああ、そういえば魔石の値段高騰で、かなり民が苦しんでいるようだ。国境のほうでも魔石をめぐって、隣のデルニア国と小競り合いがあったようだしね。幸い、聖女が現れたおかげで最近頻発していた、魔獣の襲撃はかなり減っているみたいで、良かったよ」
ティーカップから、立ち上る高級茶葉の匂いをかぎながら挑戦的な目で言い放つ。
「聖女は元気なのか?お前の婚約者なんだろう」
「ユイカは元気だよ。とはいってもまだ魔力の目覚めはきていないようだけど。セイアレスがいうには、もうそろそろだって。聖女の力は僕も楽しみだよ」
エルドレッドとの会話は、いつもこんな感じだ。
何の実もなく、ただアルフリードを嫌な気分にさせるだけが目的の会話だ。
側妃の息子で、アルフリードとは腹違いの弟だが、小さい頃から交流もあまりなく、弟といった感情を彼には持てなかった。
お前に王としての器があるならば、王位なんか喜んでくれてやるんだが・・・あまりにも短絡的過ぎる。お前を王にしてこの国を衰退させるわけにいかない。
アルフリードは、話に夢中になっているエルドレッドに気づかれないように、溜息を漏らす。
そういえば今日の父上は、なぜだかとても心配していた。
聖女がエルドレッド側にいることが、かなり気がかりのようだ。確かに聖女の能力は未知のものなのでその存在は脅威だが、実際聖女に会ってみて、そんな力を持っているようには到底思えなかった。
そう、クラマの時を止める能力のほうが、聖女の力としてはぴったりとくる。いままで誰一人として成し得なかった、時間に干渉する魔力を使用しない能力。
まあしかし、あいつはマイデン生まれの、生粋のウェースプ人だ。
ルークが持ってきた調査書にはそう記してあった。
どうしてその能力が発現したのかは、ゆっくり私が自身で秘密裏に調べていこう。もし公にすれば、この王位争奪の騒動に巻き込まれてしまうだろうことは、想像に難くない。
そうすればクラマのことだ。本当に自分で自分の命を絶つかもしれない。
想像しただけで、身震いがする。
私がこんなに、あんな少年に振り回されるとはな。
ことクラマに関しては、感情の制御が効かなくなる。
最後に会ったとき、子供のように声を上げて自分の胸の中で泣いていたクラマを思い出すと、自然と顔がほころんだ。
早くクラマに、会いたい・・・。
その傍には、補佐官のルークも同席している。その後ろには侍女らが、控えていた。
今日アルフリードは、病に侵され寝たきりになっている国王。つまり自身の父親に会いにきた。
いつも定期的に、国王と話をする時間を作っている。
もちろん政治上の相談もあるのだが、だんだん目に見えて衰弱していく国王を見て、できるだけ話をしたいと思うようになった。
もう、そんなに長くはないのだろう。
国王との謁見の後に、エルドレッドに会ってしまった。
早速お茶の誘いを受けてしまっては、断るわけにもいかない。エルドレッドも国の政治を考える上で、見逃せない権力を握っている。
第二王子派の勢力は、魔術長長官率いる、魔方陣を展開しながら戦う魔術師達、それとセイアレス大神官率いる、神官とその敬虔な信者達だ。
それでもアルフリードの勢力のほうが誰が見ても優勢なのだが、もしエルドレッドと表立って対立してしまえば国を2分する戦いになってしまう。
それだけは避けなければいけない。
国王はいつ崩御してもおかしくない状態になってきた。
それまでに第二王子のエルドレッドは、なんとかして王位を我が物にしようと焦っている。
だからこそ聖女召喚を急いだのだろう。
「兄さん。今日も父上に会いに行ったんだってね。病気の父上の手を煩わせないと、この国を統治できないなんて、あまり人に言えないよね。ああ、そういえば魔石の値段高騰で、かなり民が苦しんでいるようだ。国境のほうでも魔石をめぐって、隣のデルニア国と小競り合いがあったようだしね。幸い、聖女が現れたおかげで最近頻発していた、魔獣の襲撃はかなり減っているみたいで、良かったよ」
ティーカップから、立ち上る高級茶葉の匂いをかぎながら挑戦的な目で言い放つ。
「聖女は元気なのか?お前の婚約者なんだろう」
「ユイカは元気だよ。とはいってもまだ魔力の目覚めはきていないようだけど。セイアレスがいうには、もうそろそろだって。聖女の力は僕も楽しみだよ」
エルドレッドとの会話は、いつもこんな感じだ。
何の実もなく、ただアルフリードを嫌な気分にさせるだけが目的の会話だ。
側妃の息子で、アルフリードとは腹違いの弟だが、小さい頃から交流もあまりなく、弟といった感情を彼には持てなかった。
お前に王としての器があるならば、王位なんか喜んでくれてやるんだが・・・あまりにも短絡的過ぎる。お前を王にしてこの国を衰退させるわけにいかない。
アルフリードは、話に夢中になっているエルドレッドに気づかれないように、溜息を漏らす。
そういえば今日の父上は、なぜだかとても心配していた。
聖女がエルドレッド側にいることが、かなり気がかりのようだ。確かに聖女の能力は未知のものなのでその存在は脅威だが、実際聖女に会ってみて、そんな力を持っているようには到底思えなかった。
そう、クラマの時を止める能力のほうが、聖女の力としてはぴったりとくる。いままで誰一人として成し得なかった、時間に干渉する魔力を使用しない能力。
まあしかし、あいつはマイデン生まれの、生粋のウェースプ人だ。
ルークが持ってきた調査書にはそう記してあった。
どうしてその能力が発現したのかは、ゆっくり私が自身で秘密裏に調べていこう。もし公にすれば、この王位争奪の騒動に巻き込まれてしまうだろうことは、想像に難くない。
そうすればクラマのことだ。本当に自分で自分の命を絶つかもしれない。
想像しただけで、身震いがする。
私がこんなに、あんな少年に振り回されるとはな。
ことクラマに関しては、感情の制御が効かなくなる。
最後に会ったとき、子供のように声を上げて自分の胸の中で泣いていたクラマを思い出すと、自然と顔がほころんだ。
早くクラマに、会いたい・・・。
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