時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

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ルーク補佐官の苦悩

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「アルフリード様、今日も図書館に行かれるので?」

王太子付き補佐官のルークが、少しとがめるような口調で聞いた。

書類の機密保守や劣化防止のため、窓を作らず、全ての面を厚い壁で覆われた執務室に二人は立っていた。この部屋に入ることのできる者は限られている。

だからこそ、アルフリードはいつもこの部屋で行うことにしている。
自身の魔力で、その美しいライオンのタテガミのような金色の髪と眼を黒く変化させる。
そして、労働者階級の着る衣装に着替える。こういうときの彼は、近頃きまって図書館に行くのだ。

今までもアルフリードが、稀に息抜きと称して身をやつし、城下に下りていくことは多々あったが、それも次代の王としての重責からの気分転換であろうと、大目にみてきた。
だが最近、その回数が多くなってきていることに、ルークは気がついていた。
しかも毎回、図書館に行くのだ。もしや恋人でもできたのかと思い、手の者を使って内密に調べさせた。
すると殿下は平民の、騎士訓練場雑用係の少年と、毎回楽しそうに雑談しているというではないか。
しかも少年の休暇日にあわせて時間を作り、浮かれた様子で図書館に向かう。

これは看過できない。全くもって許容できない。たとえ平民でも女なら百歩譲ってよしとしよう。殿下の女嫌いの克服につながるかもしれない。しかし男。
なんとしても阻止しなければいけない。

だがルークが直接的、間接的にでも動けば、有能な殿下は直ぐに気がつくだろう。
殿下がその少年を気に入っていることは、少年といるときの殿下の表情から読み取っていた。
そんなことをすれば、たとえルーク補佐官といえども激高に触れることは間違いない。

一度殿下を怒らせたときがあるが、そのときは王位継承権を放棄するといいだして、大変なことになった。あの時と同じ轍は踏みたくない。
しかし少年との逢瀬を、こんなにも楽しみにしている殿下を受け入れるわけに行かない。


「この間、クラマが手動洗濯機なるものの設計図を見せてくれた。あれはいい。設計図を金にする気はないかと聞けば、金は要らないといってきた。これで魔力の無い庶民の生活が楽になるなら、それでいいと・・・。魔力が無くても生活できる世の中が、理想なんだと語っていた」


普段は硬い表情で威厳あふれるアルフリードが、表情はあまり変わらないものの、心の中では彼のことを慈しんでいるのが見て取れた。

ルークが苦虫を噛み潰したような顔になる。

その夕方、アルフリードがいつになく取り乱して帰ってきた。
少年が顔を見せなかったという。早速騎士団に潜り込ませている間諜に探らせれば、その少年が先日再起不能になったドルミグ副隊長の事件に関係していた事が分かった。

しかも事件のせいで少年が怪我を負ったということも・・・。それを知ったときの殿下の様子は、恋人を心配する男そのものであった。

比較的軽症だという報告を聞いても、普段は冷静沈着な殿下からは考えられないほど動揺しているのが、誰からも見て取れた。
公務に支障が出てはいけないと、宰相と連携してなんとか数日間は切り抜けたが、その後、宰相とともに疲労困憊したことは予測の範囲内だろう。

殿下は普段、常人では考えられないほどの量の仕事を一人でこなしているからだ。
崇拝する殿下の想いを尊重してあげたいが、相手は男。こうなったら魔力で性別を変えることを検討してあげてもいいのかもしれない。


性別を変える魔法は絶対禁忌な上、大量の魔力を必要とする。もしルークが行ったとしたら、たとえSランク級の魔力を持つ彼でさえその命が危ういだろう

殿下が望むなら、この命を捧げることになっても構わない。


忠義な王太子付き補佐官は、目の前で少年の安否をきづかい、憔悴するアルフリードの様子を眺めながら、殿下の恋を命をかけて応援することに決めた。

5番隊隊長のユーリス公爵も、この少年にはかなり目をかけているらしいとの間諜からの報告があった。弟のように溺愛しているとも・・・。


この報告はわざと殿下には伏せておいた。


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