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ダニエルの秘密
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昨夜ベットに入る前にもう一度考えて答えは出た。私はこう見えて一度覚悟を決めたら潔いのが取り柄だ。
私はダニエルを愛している。それで彼の愛したもう一人の女性に嫉妬している。もうこれを認めるしか、この感情を説明できる理由は他にはない。
あのダニエルの黄色のリボンへの執着を見るに、彼がその女性をいまだ忘れていないのは間違いない。私に向けるのと同じくらいのあの異常なまでの執着心を持って・・・私と同じようにダニエルが愛しているもう一人の女性・・・。
「誰だか知りたいわ。いまどうしているのかも・・・」
それにはあの女性・・・初めてダニエルをあのハイレイス侯爵家の夜会で見た時に、彼に酷いことを言われて涙を流して喜んでいたあの女性を探し出すのが一番だわ。彼女ならダニエルの昔好きだった女性を知っているに違いないもの。
私はあの時の夜会の参加者を調べる為に、朝起きたら一番にキャサリンにさり気なく聞いてみることにした。あの夜に女性が着ていたドレスや姿形の特徴から、誰なのかすぐにわかるかも知れない。
朝起きて鏡の前に座ると、昨日ダニエルに噛まれた首筋には血が滲んでいて手持ちのリボンでは隠せないほどだった。なので不本意ながらも、ダニエルからプレゼントされた首輪ならぬチョーカーをつけざるを得なかった。その歯列の痕は綺麗に丸い形で残されていて、指先で触るとおうとつがあって少し痛む。
まさか噛み痕を計算した上でこの幅のチョーカーをプレゼントしてくれたのだろうか?それともチョーカーの幅を計算した上で噛んでいるのだろうか?どちらもダニエルならありえそうで怖い・・・。
もしかしてダニエルはその黄色いリボンの女性の首も噛んだりしたのかしら?そうして同じようにチョーカーを贈ったのかしら?
また胸がきりりと疼痛を訴える。自分がこんなにも嫉妬深い性格だということを初めて知った。
朝食を終えてキャサリンと二人で日の当たる部屋でゆっくりと刺繡をすることにした。窓際でぽかぽかと温かい春の陽ざしにあたりながら、スプリングの効いたソファーに腰を掛けてキャサリンと向かい合って座る。彼女はハンカチの刺繍で、私は白いコットンの毛糸でかぎ針編みをしていた。
開放感のある高い天井には春の空の様な青い唐草模様の布が貼られていて、マホガニーの壁板で囲まれた部屋は清涼感で溢れている。大きく開かれた白い木の枠組みの窓からは、ちょうどいい程の風が吹き込んできて気持ちがいい。
まずはたわいもない話からはじめて、それとなくダニエルに他に愛する女性がいるかもしれないと相談を持ち掛けた。キャサリンは始めは全く取り合ってくれなかったが、あまりに私が真剣に言うのできちんと確かめた方がいいと思ったらしい。
「分かったわ。それでエミリーが安心できるのなら私も協力するわ。その女性は赤いシルクのドレスを着てブルネットの髪に緑の瞳だったのね。その他に特徴はないの?」
「もの凄い美人だったわよ。年は多分三十歳くらいかしら。それにアクセサリーもかなり値の張るものばかりつけていらっしゃったわ。だからかなりの資産家のお家の女性だと思うのだけれど・・・」
そこでキャサリンが身を乗り出して刺繍針を持つ手を震わせながらこういった。
「それよ!アクセサリーだわ!珍しい宝石を使っていれば、その持ち主が直ぐに分かるはずよ。何か特徴のあるデザインだったとか、特色のある色味の宝石だったとか覚えていないかしら」
かぎ針を持ちながら目をつぶってあの時の記憶を頭の中で反復してみる。薄っすらとした記憶を辿ってあの女性の身に着けていたネックレスやイヤリングを思い出す。そうしてメイドに急遽用意してもらった紙に書き取ってみた。
上品な大きさの涙型のルビーの周りに小さいダイヤモンドをあしらっていて・・・・チェーンは金と銀を捻じり合わせて首の後ろにいくほどに細くなっているようなデザインだった。ルビーの赤が彼女のドレスの色に合っていたのでよく覚えている。
「エミリー、ボナシューレっていう王都の有名なジュエリーデザイナーのお店を知ってる?そこで聞いてみれば何か分かるかもしれないわ」
「そうね、でも普通に聞いて私たちに教えてくれるかしら?」
私はキャサリンと暫く相談したのち、夜会で会ったそのネックレスをつけた女性のハンカチを拾ったので、お返ししたいというストーリーを考えだした。それを返したいので名前を知りたいというわけだ。かなり無理のある話だが、そこは若さと勢いで押していこうという事になった。
♢ ♢ ♢ ♢
そうして今、私たちは王都に来ている。通りは昼時だというのに沢山の人で賑わっていた。洗練された街並みに、色とりどりのドレスを身に着けた貴婦人たちや紳士らが、建物の間を埋め尽くしている。
道の端には、花や舶来の珍しい小物などを売っている屋台がところどころに店を構えている。王都には流行の最先端のものが全て集まるのだ。王国中の流行の発信地だといってもいい。
その隙間を縫うようにして、キャサリンと私はゆっくりとも目的の店に向かって足を進めていた。石畳の道の上を歩くたびにパンプスが音を立てる。石畳の隙間にヒールが挟まらないように用心をして歩いていたら、左半身が反対側から歩いてきた誰かに当たって後方に吹き飛ばされそうになる。
「きゃっ!!」
あまりの衝撃に思わず声が出る。石畳に後ろ向きに叩きつけられると思い体を固くした瞬間、左腕を物凄い力で引っ張られて難を逃れた。咄嗟の事に心臓が大きく高鳴っている。
「はぁっ、危なかったわ!」
胸に手を当てて大きく息を吸いながらゆっくりと顔を上げると、そこには見慣れた三白眼の黒い瞳と、漆黒の真っ直ぐな髪をした屈強な体躯をした彼が立っていた。向こうもこんな場所に私がいて驚いたのだろう。大きく目を見開いて私を睨みつけている。
「ノーグローブ様!」
私はダニエルを愛している。それで彼の愛したもう一人の女性に嫉妬している。もうこれを認めるしか、この感情を説明できる理由は他にはない。
あのダニエルの黄色のリボンへの執着を見るに、彼がその女性をいまだ忘れていないのは間違いない。私に向けるのと同じくらいのあの異常なまでの執着心を持って・・・私と同じようにダニエルが愛しているもう一人の女性・・・。
「誰だか知りたいわ。いまどうしているのかも・・・」
それにはあの女性・・・初めてダニエルをあのハイレイス侯爵家の夜会で見た時に、彼に酷いことを言われて涙を流して喜んでいたあの女性を探し出すのが一番だわ。彼女ならダニエルの昔好きだった女性を知っているに違いないもの。
私はあの時の夜会の参加者を調べる為に、朝起きたら一番にキャサリンにさり気なく聞いてみることにした。あの夜に女性が着ていたドレスや姿形の特徴から、誰なのかすぐにわかるかも知れない。
朝起きて鏡の前に座ると、昨日ダニエルに噛まれた首筋には血が滲んでいて手持ちのリボンでは隠せないほどだった。なので不本意ながらも、ダニエルからプレゼントされた首輪ならぬチョーカーをつけざるを得なかった。その歯列の痕は綺麗に丸い形で残されていて、指先で触るとおうとつがあって少し痛む。
まさか噛み痕を計算した上でこの幅のチョーカーをプレゼントしてくれたのだろうか?それともチョーカーの幅を計算した上で噛んでいるのだろうか?どちらもダニエルならありえそうで怖い・・・。
もしかしてダニエルはその黄色いリボンの女性の首も噛んだりしたのかしら?そうして同じようにチョーカーを贈ったのかしら?
また胸がきりりと疼痛を訴える。自分がこんなにも嫉妬深い性格だということを初めて知った。
朝食を終えてキャサリンと二人で日の当たる部屋でゆっくりと刺繡をすることにした。窓際でぽかぽかと温かい春の陽ざしにあたりながら、スプリングの効いたソファーに腰を掛けてキャサリンと向かい合って座る。彼女はハンカチの刺繍で、私は白いコットンの毛糸でかぎ針編みをしていた。
開放感のある高い天井には春の空の様な青い唐草模様の布が貼られていて、マホガニーの壁板で囲まれた部屋は清涼感で溢れている。大きく開かれた白い木の枠組みの窓からは、ちょうどいい程の風が吹き込んできて気持ちがいい。
まずはたわいもない話からはじめて、それとなくダニエルに他に愛する女性がいるかもしれないと相談を持ち掛けた。キャサリンは始めは全く取り合ってくれなかったが、あまりに私が真剣に言うのできちんと確かめた方がいいと思ったらしい。
「分かったわ。それでエミリーが安心できるのなら私も協力するわ。その女性は赤いシルクのドレスを着てブルネットの髪に緑の瞳だったのね。その他に特徴はないの?」
「もの凄い美人だったわよ。年は多分三十歳くらいかしら。それにアクセサリーもかなり値の張るものばかりつけていらっしゃったわ。だからかなりの資産家のお家の女性だと思うのだけれど・・・」
そこでキャサリンが身を乗り出して刺繍針を持つ手を震わせながらこういった。
「それよ!アクセサリーだわ!珍しい宝石を使っていれば、その持ち主が直ぐに分かるはずよ。何か特徴のあるデザインだったとか、特色のある色味の宝石だったとか覚えていないかしら」
かぎ針を持ちながら目をつぶってあの時の記憶を頭の中で反復してみる。薄っすらとした記憶を辿ってあの女性の身に着けていたネックレスやイヤリングを思い出す。そうしてメイドに急遽用意してもらった紙に書き取ってみた。
上品な大きさの涙型のルビーの周りに小さいダイヤモンドをあしらっていて・・・・チェーンは金と銀を捻じり合わせて首の後ろにいくほどに細くなっているようなデザインだった。ルビーの赤が彼女のドレスの色に合っていたのでよく覚えている。
「エミリー、ボナシューレっていう王都の有名なジュエリーデザイナーのお店を知ってる?そこで聞いてみれば何か分かるかもしれないわ」
「そうね、でも普通に聞いて私たちに教えてくれるかしら?」
私はキャサリンと暫く相談したのち、夜会で会ったそのネックレスをつけた女性のハンカチを拾ったので、お返ししたいというストーリーを考えだした。それを返したいので名前を知りたいというわけだ。かなり無理のある話だが、そこは若さと勢いで押していこうという事になった。
♢ ♢ ♢ ♢
そうして今、私たちは王都に来ている。通りは昼時だというのに沢山の人で賑わっていた。洗練された街並みに、色とりどりのドレスを身に着けた貴婦人たちや紳士らが、建物の間を埋め尽くしている。
道の端には、花や舶来の珍しい小物などを売っている屋台がところどころに店を構えている。王都には流行の最先端のものが全て集まるのだ。王国中の流行の発信地だといってもいい。
その隙間を縫うようにして、キャサリンと私はゆっくりとも目的の店に向かって足を進めていた。石畳の道の上を歩くたびにパンプスが音を立てる。石畳の隙間にヒールが挟まらないように用心をして歩いていたら、左半身が反対側から歩いてきた誰かに当たって後方に吹き飛ばされそうになる。
「きゃっ!!」
あまりの衝撃に思わず声が出る。石畳に後ろ向きに叩きつけられると思い体を固くした瞬間、左腕を物凄い力で引っ張られて難を逃れた。咄嗟の事に心臓が大きく高鳴っている。
「はぁっ、危なかったわ!」
胸に手を当てて大きく息を吸いながらゆっくりと顔を上げると、そこには見慣れた三白眼の黒い瞳と、漆黒の真っ直ぐな髪をした屈強な体躯をした彼が立っていた。向こうもこんな場所に私がいて驚いたのだろう。大きく目を見開いて私を睨みつけている。
「ノーグローブ様!」
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