上 下
148 / 167
第10章~彼氏彼女の事情~

癒やし効果?

しおりを挟む
 水樹と友華さんの策略にハマった俺達は全員で一緒に周る事になった。
 最初こそ及川が「どうして一緒に周らなきゃいけないんですか?」と友華さんに詰め寄っていたが、友華さんに「皆一緒の方が楽しいじゃない。それとも一緒に周りたくない理由でもあるの?」と聞かれ、中居と喧嘩している事を隠したかったであろう及川が渋々折れた感じだ。
 沙月は肯定も否定もせず、ずっと及川と友華さんのやり取りを見ているだけだった。

 そんなこんなで俺達は今、動物公園の中を散策している最中だ。
 ここは名前の通り動物園と遊園地が合体した様な所なので一日では周り切れるか怪しいところだ。
 そして此処に来ると決まって遊園地から行くか、動物園から行くかで揉める事が多い。
 俺達も例に洩れず絶賛揉めている最中だ。

「絶っっっ対動物コーナーから周るの!」
「何言ってんだ、乗り物から乗るに決まってるだろ!」

 と及川と中居が口論している所に、水樹と友華さんが仲裁に入る。
 
「まぁまぁ、二人とも落ち着けって」
「そうだよ、折角来たんだから仲良くしましょ」

 二人が……主に友華さんが仲裁に入る事ですんなり言い争いが収まる。
 二人からしたら友華さんは学校の先輩で、あまり面識も無いからみっともない所を見せられないというのが大きいだろう。

「それじゃあ公平にじゃんけんで決めましょう」

 良い案を思いついたとばかりに手を叩いて友華さんがじゃんけんをするように言うと

「分かりました。手加減はしないからね和樹」
「おう、掛かって来い」

 じゃーんけーん、ぽん!

「やったー! それじゃあ動物コーナーから行こう!」
「くっそ、好きにしろ」

 こうして俺達は動物コーナーから見て周る事になった。

 動物コーナーに入って最初はゾウやキリンといった定番の動物が出迎えてくれた。
 奥に進みにつれて珍しい動物も見る事が出来た。
 中でもホワイトタイガーの所では、及川を始めとした女子達は勿論、乗り気じゃなかった中居も少し興奮していた。
 
「キャー、すごいすごい!」
「ああ、カッケェな」

 無意識なのか、及川は中居の手を握ってブンブン振っている。
 中居も特に気にした様子もなくホワイトタイガーを見ている。
 これは仲直りも近いか?
 と思って見ていると、友華さんの

「仲が良くて羨ましいですね」

 という一言で二人とも我に返り、直ぐに離れて気まずそうにしていた。
 友華さん、空気読んでください。

 ホワイトタイガーを後にして更に奥に進むと、ふれあいコーナーという看板が見えた。
 パンフレットで確認すると、ウサギや犬、ポニーに乗ったり出来るようだ。
 その事を皆に伝えると満場一致で寄って行こうとなった。

「あははは、和樹めっちゃ懐かれてんじゃん」
「う、うるせぇな! なんなんだコイツ等は!」

 ふれあいコーナーの一角にある色々な犬とふれあえるワンワンヴィレッジという所に居る。
 色々な犬種の子犬達とふれあえるという触れ込みだったのだが、何故か中居に子犬達が群がり、身動き取れなくなってしまっていた。
 それを見た及川が中居をからかうという図式になって、いつも通りの光景に仲直りは近いかもと思った。

 中居と及川の様子を見て、水樹にハメられたとはいえ、此処に来て良かったと思う。
 少しずつだけど、二人の仲が元に戻っていっている様に感じる。
 それに比べて俺は何の進展も無いな。と自己嫌悪に陥っていると

「友也さん見てください! この子凄い可愛いです!」
「あ、ああ。可愛いな」

 突然沙月に声を掛けられて動揺してしまった。

「何だかこの子友也さんに似てません?」
「そうか? どの辺が似てるんだ?」
「この優しそうな目とかめっちゃ似てますよ!」
「でもコイツ、雌だぞ?」
「じゃあ私に似てるって事で!」
「ははは、なんだそりゃ」

 おお! 自然と会話が出来ている。動物の癒し効果は凄いな。

 その後もウサギコーナーに移動してウサギを抱っこさせてもらって記念撮影をしてもらった。
 ウサギを抱く中居の姿に爆笑して、中居が不機嫌になったりしたが、思った以上に楽しめた。

 動物コーナーを抜けると丁度昼過ぎだったので近くのレストランで昼食を摂る事にした。
 レストラン自体はファミレスと変わらないが、動物コーナーから近いということもあり、至るところに動物の置物が置いてあった。
 それぞれメニューを見て皆が粗方何を頼むか決まった時、及川の悲痛な叫びが木霊した。
 
「うるせぇな、どうしたんだよ?」

 と、皆を代表して中居が聞くと

「……ない」
「は?」
「ミートパスタが無い!」

 どうやら大好きなミートパスタが無く、思わず叫んでしまったらしい。
 及川らしいな。と皆が呆れ、その後爆笑した。
 ミートパスタが無かった為、再びメニューと眺めると

「しょうがないからミートドリアでいいや」
「おま、どんだけミートソース好きなんだよ」
「良いでしょ別に!」

 及川のミートソース愛が炸裂する中、俺は文化祭準備の時を思い出した。

「そう言えば文化祭の準備の時、ミートパスタ4皿平らげてたな」
「ぶはっ!? マジかよ」
「味見で来て貰ったのに全部平らげるし、味の感想は全部美味しかった。だったもんな」
「なんだそりゃ、味見役失格だな」
「それでもうちょっと詳しく頼むって言ったら『ミートパスタは美味しいか不味いかの二択』とか言ってたな」
「くっ、くはは。実は味音痴なんじゃねぇのか?」

 俺と中居が笑っていると、バンッ! とテーブルに手を突き立ち上がった及川が俺達を睨み付けると

「ちょっと化粧室行ってくる」
「お、おう」
「あ、ああ」

 及川が席から見えなくなると、俺と中居以外の三人から説教された。
 自分が好きな物を馬鹿にされて笑われる事がどれだけ悔しいか理解しろ! 帰ってきたらちゃんと謝れ!
 俺と中居は、確かに嫌な気分にさせたな。と素直に反省した。
 何よりも沙月の凍える様な視線が一番効いたけど。

 暫くして及川が戻って来ると

「及川、さっきは悪かった。好きな物を馬鹿にされたら不愉快だよな」
「さっきは言い過ぎた。代わりといっちゃなんだが此処の代金は俺達が出すわ」

 いきなりの俺と中居の謝罪にビックリしていたが、中居の代金は出すという言葉に

「ホント? ホントに奢ってくれるの!」
「男に二言はねぇ」
「やったー!」

 そう言って及川は自分の席に戻ると、すぐに呼び出しベルを押した。
 そしてやって来た店員に

「ミートドリア二つ追加でお願いします!」

 忘れてた……及川って痩せの大食いだった。
 俺と中居は顔を見合わせ、その後財布の中身を確認した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

やっぱり幼馴染がいいそうです。 〜二年付き合った彼氏に振られたら、彼のライバルが迫って来て恋人の振りをする事になりました〜

藍生蕗
恋愛
社会人一年生の三上雪子は、ある日突然初恋の彼氏に振られてしまう。 そしてお酒に飲まれ、気付けば見知らぬ家で一夜を明かしていた。 酔い潰れたところを拾って帰ったという男性は、学生時代に元カレと仲が悪かった相手で、河村貴也。雪子は急いでお礼を言って逃げ帰る。 けれど河村が同じ勤務先の人間だったと知る事になり、先日のお礼と称して恋人の振りを要求されてしまう。 ……恋人の振りというのは、こんなに距離が近いものなのでしょうか……? 初恋に敗れ恋愛に臆病になった雪子と、今まで保ってきた「同級生」の距離からの一歩が踏み出せない、貴也とのジレ恋なお話。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

処理中です...