上 下
147 / 167
第10章~彼氏彼女の事情~

水樹のお節介

しおりを挟む
 俺達を睨みつけながら仁王立ちする及川。
 その隣で沙月が気まずそうにしている。
 って言うか沙月は俺の浮気を疑ってるのか!?
 中居も及川の言葉に突っかかる様に

「お前達には関係ぇねぇだろ。そっちこそ何してんだよ」
「私達只の女子会です~。沙月ちゃんのお姉さんと一緒に来ました~」
「ハイハイ、そうですか。それはようござんしたね」
「はぁ? 何その言い方~。っていうかマジで男二人で何してる訳?」
「別になんだっていいだろうが」

 及川の言葉で忘れていた重大な事を思い出した。
 それを伝えるべく、尚も言い合う中居を強引にコチラに引き寄せる。

「何だよ佐藤、邪魔すんな」
「そんな事より大変だぞ」
「あ? どうした?」
「もうすぐ水樹がナンパしたっていう女の子が来る。今その子が来たら俺達が完全に悪物にされるぞ」
「確かにヤベェな。ただでさえいつも以上にウザくなってるってのに」
「とりあえず俺は水樹に電話して事情を話すから、中居は時間を稼いでくれ」
「オッケ、任せろ」
 
 行動方針が決まって動き出そうとすると、及川がいつの間にか俺達の所まで詰め寄って来ていた。
 マズイ! 今の話を聞かれたか?
 と様子を伺っていると

「二人でコソコソして怪しい! 絶対何か隠してるでしょ!」
「別に隠してなんかねぇよ」

 よし! バレていないようだ。
 中居が相手をしてくれている内に水樹に連絡しようとスマホを取り出そうとした時、及川の標的が中居から俺に移った。

「っていうか佐藤も何してる訳? 沙月ちゃんから色々聞いてるんだからね」
「え? な、何もやましい事はしてないぞ? そ、それに沙月から色々聞いたって何を聞いたんだよ?」
「それは言えないよ~、女同士の秘密……え? なに?」

 沙月が及川の話を中断させて何やら耳打ちしている。
 っていうか沙月は及川に何を話したのだろう。ソッチが気になる。
 沙月との会話が終わった及川が何やらニヤニヤしている。

「ね~佐藤、佐藤って嘘つくとき言葉がどもるんだってね~」
「それがどうかした?」
「さっき思いっきりどもってたよね~。これは何か隠してるのがバレバレだな~」
「か、隠してなんかないって!」

 と言った瞬間中居に頭を引っ叩かれた。

「いって~」
「いてぇじゃねぇよ! 思いっきりどもってんじゃねぇか!」
「そんな事言われたって自分じゃ治せないんだから仕方ないだろ」
「だからって指摘されて即行でどもってんじゃねぇよ!」
「そんなに怒んなよ! 今は一刻も早く水樹に連絡しないとだろ?」
「チッ、そうだったな」
「水樹がどうかしたの?」
「あ? 水樹に早く連絡……って、うお! いきなり混ざってくんじゃねぇ!」

 俺達が言い争ってる間にいつの間にか及川が混ざっていた。
 
「あんたたちが隠してたのって水樹の事だったの?」
「別に隠してた訳じゃねぇよ、なぁ?」
「あ、ああ、遅いから心配してただけだしな」
「ふ~ん、だったら丁度よかったじゃん、水樹来たみたいだし」
「「は?」」

 及川に言われ入り口の方を見ると、及川の言うとおり水樹が歩いてくるのが見えた。
 これじゃ口裏を合わせる時間もないし、浮気のレッテルを張られて終わりだな。

 なんて考えていると、よく見たら水樹の隣を友華さんが歩いている。
 及川達は友華さんと一緒と言ってたな。
 だとすると水樹は一人で戻って来たって事か。
 不幸中の幸いか、どうやら水樹のナンパは失敗に終わったらしい。

「待たせて悪かったな」
「全然かまわねぇよ。ったく、今回ばかりはお前がフラれて助かったぜ」
「そうそう、水樹を待ってる間生きた心地がしなかったもんな」
「ん? お前達何言ってるんだ?」
「ドタキャンされた気持ちは察してやるから安心しろ」
「別に水樹がフラれた事を嬉しがってる訳じゃないからな?」
「いやいや、待てって。俺は別にフラれてなんかないぞ?」
「あ? どういう事だ?」
「ドタキャンされたから友華さんと一緒に来たんだろ?」

 俺と中居の言葉を受けて、水樹は呆れた様に

「最初からユウ姉を連れて来るつもりだったんだけど? 何を勘違いしてんだか」

 と言って肩を竦める。

「はぁ? お前が昨日ナンパした女連れて来るっつったんじゃねぇか!」
「いやいや、水樹、それは流石に無理があるって」
「お前達こそ何言ってんだ。昨日偶然ユウ姉も此処に行くって言ってたから一緒に行こうって誘ったんだよ。男だけでこんな所周れないだろ? まぁナンパって言い方は悪かったと思うけど、そこまで怒らなくてもいいだろ」

 ハメられた。水樹は最初から及川達が此処に来る事を知っていた……いや、此処に来るように仕向けたに違いない。
 じゃなかったらこんな所で偶然沙月達に会うなんて事は無い筈だ。
 友華さんも水樹とグルなのだろう。沙月達は「友華さんと一緒に来る」って言ってたし。
 
 全く、水樹らしいお節介の掛け方だ。

 きっと沙月と及川も俺達と同じ心境だろう。
 そう思い目を向けると、やはり気まずそうにこっちを見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...