上 下
97 / 167
第8章~宵越しの祭り~

初めての経験

しおりを挟む
 今日で準備を初めて1週間が経った。
 その間、前田と後藤が教室で作業する事は無かった。

 いつも通り文化祭の準備に取り掛かる。
 二人の姿を目で追っていると、教室から出ようとするところだった。

 流石にこれ以上はマズイと思い声を掛けようと思ったその時、早川が先に動いた。

「ちょっと待ちな!」

 二人はいきなりクラスの女王に話しかけられビックリしている。
 
「な、何か用?」

 とオドオドした感じで聞くと

「用があるから話かけてんだけどー」
「ご、ごめん」
「あんたらさぁ、いつも帰ってるけどちゃんと看板作ってるわけ?」
「ちゃ、ちゃんとやってるよ」
「それにしては全然看板のかの字も見えないんだけどー」
「それは……」

 このままじゃヤバイと思い間に入る。

「まぁまぁ、落ち着けって早川」
「はぁ? なんでお前が出てくんだよ」
「こいつらの話も聞こうぜ。何か訳があるんだよ。な?」

 と話を振ると二人ともバツが悪そうに

「べ、別に……」

 あー、そこは話を合わせて欲しかった。

「ほら、何もねぇじゃん。ただサボりたいだけなんだよ」

 その可能性は薄々感じてはいた。

「善人ぶってんじゃねぇよ」

 ……は?

「おい、俺がいつ善人ぶったっていうんだよ。お前はいつも自分の意見を無理に通し過ぎなんだよ」
「つーか皆作業してんのにサボろうとしてんのが悪いんだろ!」
「まだサボってるって決まった訳じゃねえだろ!」
「そんな悠長にしてて看板が出来なかったらどうすんだよ! お前が責任取るんだろうな?」
「ああ、俺が責任持って作ってやるよ! だけど俺はあいつ等を信じてる!」

 俺達が言い合っているといつの間にか人だかりが出来ていた。
 水樹が近づいてきて

「どうしたんだよ友也、らしくないぞ。それに早川も言い過ぎなんじゃないか?」
「いや、前田と後藤が帰ろうとしてて……あっ!」

 いつの間にか前田と後藤が居なくなっていた。

「あーあ、結局あいつ等帰ってんじゃん。折角庇ったのにごくろうさまー」

 と言い残して去って行った。

 頭の処理が追いつかず呆然としていると

「……で? 何があったんだ?」

 と水樹が事情を聞いてきたので説明した。

「そりゃ災難だと思うけど、さっきのは言い過ぎだったぞ。友也らしくもない」
「すまない。正直水樹が来てくれてたすかった」
「あんな大見得切ってどうするつもりなんだ?」
「あっ! つい熱くなって売り言葉に買い言葉で言ってしまった」

 まさか自分が此処まで熱くなるなんて思わなかった。
 昔の自分なら熱くなるどころか冷めてたかもしれない。

「まぁここは一旦リフレッシュでもしようぜ。そうそう、丁度明日女子高の文化祭あるから付き合えよ」

 そう言って水樹はチケットを取り出した。
 そのチケットには見覚えがあった。

「あっ! そのチケット俺も持ってる。沙月から貰ったよ」
「マジか! 一枚で二人分だから中居と田口も誘うか」
「そうだな」
「んじゃ二人は俺から誘っとくからそろそろ準備に戻るか」
「ああ、水樹サンキューな。お蔭で冷静になった」
「そりゃよかった」

 水樹に……クラスの皆に迷惑かけちゃったな。
 ああいう時こそ冷静に対応しなきゃだな。


 その後何事も無くその日の準備は終わった。
 前田と後藤は戻って来る事はなかったが。



 翌日、沙月の高校の文化祭に行く為に指定された待ち合わせ場所に向かっている。
 てっきりいつものターミナル駅だと思っていたが、結構離れているらしい。

 待ち合わせのバスターミナルに着くと、既に皆集まっていた。

「悪い、遅くなった」
「全然大丈夫だ」
「おっす」
「ウィーッス」

 挨拶をしている間に丁度バスが来たので乗り込む。
 バスに揺られる事15分、学校近くの停留所に着いた。

 バスに乗っていた人達の殆どがここで降りる。
 どうやら目的は同じらしい。

「やっべー、緊張してきた」

 と言いながら目を輝かせる田口。

「正門の受付でチケットの確認あるみたいだから俺と友也で行ってくるわ」

 そう言って俺と水樹が受付へ向かう。
 チケット制にも関わらずかなりの人でごった返している。

 受付の子にチケットを見せて同伴者が二人居る事を伝える。
 すると受付の子が注意事項を説明してくれた。

 大体は迷惑行為等の基本的な物だったが、校内での写真撮影は全面禁止。
 もし破った場合は親や俺達の高校に連絡が行くらしい。

 さすがお嬢様学校なだけはあるなと感心していたら、今度は金属探知機での検査だった。
 これには中居と田口も参加義務があるらしいので二人を呼び寄せる。

 全ての検査が終わり、俺達は漸く校内に入る事ができた。

「ここまでするとかすげぇな」
「何も悪い事してないのに怖くなったよー」

 と中居と田口が感想を漏らす。
 俺もここまで厳重だとは思っていなかったのでビックリした。
 
 よく沙月は此処に通えてるな。
 と若干沙月に悪い事を考えていると

「よし、何処から周る?」

 といつもの様に仕切る水樹。
 水樹は別段驚いていない様に見える。
 こういうのは慣れているのだろうか。

「ハイハイ! 沙月ちゃんのクラスに行きたい!」

 と田口はテンション高めに言う。
 それに対し水樹は

「ん~、中居はどうする?」
「っつか、その沙月ってのは田口のなんなんだ?」
「覚えてないのか? いつも行くファミレスの子だよ。この間話してただろ?」
「覚えてねぇわ」

 流石というべきか、沙月のあのキャラを忘れるとは。

「友也はどうする?」
「俺は行くって約束しちゃったから顔出すよ」
「なら暫く別行動するか。昼に此処で待ち合わせって事で」
「分かった」

 俺と田口で沙月の教室に行く事になった。
 こんなハイテンションの田口と二人きりは少し不安だ。

「田口、あんまりはしゃぐなよ?」

 と一応念を押す。

「分かってるってー。よっしゃー、待ってろよ俺の運命の人ー!」

 全然分かっていなかった。
 田口が変な事を叫ぶので周囲の注目を集めてしまった。

 俺は軽く田口の頭を叩いて

「お前が変な事叫ぶから注目されてるだろ! ほら、さっさと行くぞ」

 と言ってその場から逃げる様に歩き出す。
 その後を田口が

「悪かったってー。だから置いてかないでくれよー」

 と言いながら着いてくる。

 はぁ。夏休みの水樹の苦労が少し分かった気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

処理中です...