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第24話
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案内された座敷には1人1人に食膳が用意されていた。
小ぶりなお皿がいくつも並べられ、お刺身や山菜の煮つけ、海老の入った小さい海鮮鍋が目にも鮮やかだった。
「わぁ、美味しそう!」
「写真撮って皆に自慢しよっと」
「ねぇねぇ、これご飯お代わりできるのかな~?」
一通りはしゃいだところで乾杯をする。
まるで修学旅行みたいに賑やかな夕食だった。
食事を終えて余韻に浸る。
明日の予定などを話していると、外から花火の音が聞こえてきた。
音の出所を窓越しに探していると
「近くで花火大会やってるんですよ。縁日もありますよ」
と仲居さんが言ってきた。
「トモ行こうよ!」
「私も行きたいです!」
水瀬先輩と沙月ちゃんがいち早く反応した。
お兄ちゃんの両手をグイグイと引っ張っている。
「よし、せっかくだから行ってみるか」
仲居さんから場所を聞きみんなで旅館を出る。
花火が上がる海を背に、提灯(ちょうちん)の灯りが道を作っていた。
その道を辿っていくと遠くにお社が見えてきた。
お社を目指し階段を登り切ると、目の前には華やかな縁日が広がっていた。
「結構広いな」
「そ、そうですね。迷わないようにしないと……」
「ねぇトモ! たこ焼きあるよ! それと焼きそばとクレープも!」
「ダメよ南。友也くんは私と金魚すくいするんだから」
みんなが好き放題言っていると
「そ、そういえば、次の花火までまだ時間があるみたいですよ」
と言いながら友華さんがどこからか持ってきたチラシを見せてきた。
みんなで話し合った結果、2組に分かれて縁日を周る事になった。
「それじゃあ30分後にここで待ち合わせよう」
「「「はーい」」」
私は沙月ちゃんと一緒に射的や金魚すくいなどのゲームものを周っている。
甘いものは別腹だけど食後に炭水化物はさすがにムリだし。
「そういえば友華さん、綺麗になったよね」
「まぁね。ファミレスにいてもたまに声かけられるくらいにはなったみたいだし」
以前お兄ちゃんからも聞いたけど、沙月ちゃんはある時を境に男遊びをするようになったらしい。
それがきっかけで友華さんと大喧嘩をして疎遠になったというのも、沙月ちゃんから聞いている。
喧嘩といっても、鬱陶しく感じた沙月ちゃんが一方的に友華さんを嫌っているだけらしいけど。
「やっぱり気になる?」
「うん。友達としてはやっぱり仲のいい姉妹でいて欲しいと思ってるよ」
「そっかぁ」
出会った頃の沙月ちゃんなら、こんな素直な回答はしなかったと思う。
だけど今ここにいる桐谷沙月は違う。
お兄ちゃんと出会い変わろうとする友華さんを見て、自分も変わろうとしている。
「正直言うとね、お姉ちゃんの事はもう嫌ってはいないんだ。むしろ嫌われてないかビクビクしてるのは私の方」
「そんな事ないと思うよ。じゃなかったら沙月ちゃんにプロデュースのお願いなんかしないよ」
「うん、わかってる。私も頼られた時は悪い気しなかったし」
そう言って私に笑顔で返す。
「でも、あれだけヒドイ態度取ってたのにいきなり仲よくしようっていうのも虫が良すぎる気がして……どうしていいかわからないんだよねぇ」
沙月ちゃんはそう言って夜空を眺める。
少し他人事のように振る舞いながらも、その表情はどこか悲しげにみえた。
「あーもうやめやめ! この話は終わり! 次は射的行くよ、柚希ちゃん!」
そう言って沙月ちゃんは私の手を取り走り出した。
まるで自分の気持ちを無理やり引きはがすかのように。
沙月ちゃんと友華さんの力になってあげたい。
私が2人に出来る事は何だろう。
その後も沙月ちゃんと出店を周りながら色々と考えていたけど、結局答えは出なかった。
一通り遊んで時間を確認すると、待ち合わせ5分前だった。
「沙月ちゃん、そろそろ行こ――」
と言いながら顔を上げると沙月ちゃんの姿が見えない。
来た道を少し戻ると、7歳くらいの女の子と話している沙月ちゃんが居た。
「沙月ちゃん、その子どうしたの? 迷子?」
「そうみたいなんだよね~。お嬢ちゃん、お名前は?」
「ぐずっ……ミカ……」
「ミカちゃんか。可愛い名前だね! 良かったらお姉ちゃん達とお話しない?」
さすが沙月ちゃん。
小さい子ともすんなり打ち解けていった。
どうやらミカちゃんは小学生のお兄ちゃんと2人で来ていたらしい。
そして金魚に見とれていたらはぐれてしまったようだ。
まぁ、これだけ人が密集してたら無理もないか。
現に私も一瞬沙月ちゃんとはぐれたし。
「ねぇ、ミカちゃん。お兄さんはどういう人なの?」
「とっても優しいお兄ちゃんだよ」
「そうなんだ。どんな服来てるの?」
「うぅん……かわいくないの着てるの。いつもと同じなの」
優しいけどいつも同じお洋服……。
まるでウチのお兄ちゃんみたいだ。
「いつもと同じで可愛くない……そうか、そういう事か!」
「どうしたの沙月ちゃん?」
「きっとお兄ちゃんは浴衣じゃなくて洋服を着てるはずだよ! しかも短パン!」
そう言って「ふふん」と得意げに推理を披露する。
それにしても短パンはどこから来たのだろうか。
ミカちゃんの証言を基にお兄さん探しを再開する。
しかし結局お兄さんは見つからず、花火が上がってしまった。
「うぅ……花火、始まっちゃった……」
「ミカちゃん……」
涙を堪えるミカちゃんの頭を沙月ちゃんは優しく撫でる。
「心配しないで、ミカちゃん。お姉ちゃん達が一緒にいるから、ね?」
「……うん。ありがとう、お姉ちゃん」
「ふふ、どういたしまして!」
花火が鳴り響く中、私達は案内所に向かって歩き出した。
沙月ちゃんは終始柔らかい表情でミカちゃんを励まし続けていた。
出会ってまだ30分も経っていないのに、2人はまるで本当の姉妹のように見える。
案内所に着いた私達は役員に事情を説明し、残りの花火を3人で見上げていた。
夜空に花が咲く毎に、ミカちゃんにも笑顔が戻っていった。
花火が終わり、案内所の前を人だかりが通っていく。
その中にお兄さんらしき人がいないか目を凝らしていると
「ミカー! ミカ―!」
という男の子の声が近付いてきた。
するとミカちゃんは「お兄ちゃんだ!」と言って立ち上がる。
短パンを履いた男の子がこっちに向かってきた。
これで一件落着、かな?
「どこ行ってたんだよ! 心配したんだぞ!」
「ひぅ! ご、ごめんなさい……」
「あ~もう。泣くなって! ほら、行くぞ!」
そう言ってミカちゃんの腕をグイッと引っ張っていこうとする。
ちょっと強引じゃないかな?
私が口を出そうとしたその瞬間、沙月ちゃんのチョップが炸裂した。
「コラ! 女の子に乱暴しちゃダメでしょ!」
「いて! なにすんだよぉ!」
「あ~ゴメンね、軽くしたつもりなんだけど」
沙月ちゃんはお兄さんの手をさする。
「だけどね、ミカちゃんもさっき痛かったと思うよ? 腕をいきなり引っ張られて」
「あっ……」
何かを察したお兄さんを見た後、沙月ちゃんはミカちゃんに向き直った。
「お兄ちゃんはね、ミカちゃんと同じくらい心配してたんだよ? その気持ちが強いから引っ張る力も強くなっちゃったの」
「そうなの……?」
「うん。だからね――」
一瞬だけ沙月ちゃんの言葉が止まる。
まるで何か大事な事を思い出したかのような。
そんな風に感じた。
「だから、お兄ちゃんはミカちゃんが……妹が大好きだから怒っちゃったの。どこかに行っちゃうと寂しいから、心配して色々言っちゃうだけなんだよ。だからお兄ちゃんの事、許してあげてね?」
そう語り掛ける沙月ちゃんの表情は優しく、悲しげに見えた。
「うん。大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「そっか。よしよし」
「ミカはね、お兄ちゃんの事キライになんてなった事一度もないもん!」
笑顔で明るく言い放つミカちゃんに、胸が少しキュッとなった。
私も妹だから分かる気がする。
沙月ちゃんも同じ気持ちかもしれない。
「そっか……そうだよね」
「どうしたの? お姉ちゃん」
「ううん。何でもないよ。ほら、またお兄ちゃんに置いてかれちゃうぞ~」
そう言って笑顔でミカちゃんを送り出す。
小さな兄妹はこちらに頭を下げると、手をしっかりと繋いだまま去っていった。
小ぶりなお皿がいくつも並べられ、お刺身や山菜の煮つけ、海老の入った小さい海鮮鍋が目にも鮮やかだった。
「わぁ、美味しそう!」
「写真撮って皆に自慢しよっと」
「ねぇねぇ、これご飯お代わりできるのかな~?」
一通りはしゃいだところで乾杯をする。
まるで修学旅行みたいに賑やかな夕食だった。
食事を終えて余韻に浸る。
明日の予定などを話していると、外から花火の音が聞こえてきた。
音の出所を窓越しに探していると
「近くで花火大会やってるんですよ。縁日もありますよ」
と仲居さんが言ってきた。
「トモ行こうよ!」
「私も行きたいです!」
水瀬先輩と沙月ちゃんがいち早く反応した。
お兄ちゃんの両手をグイグイと引っ張っている。
「よし、せっかくだから行ってみるか」
仲居さんから場所を聞きみんなで旅館を出る。
花火が上がる海を背に、提灯(ちょうちん)の灯りが道を作っていた。
その道を辿っていくと遠くにお社が見えてきた。
お社を目指し階段を登り切ると、目の前には華やかな縁日が広がっていた。
「結構広いな」
「そ、そうですね。迷わないようにしないと……」
「ねぇトモ! たこ焼きあるよ! それと焼きそばとクレープも!」
「ダメよ南。友也くんは私と金魚すくいするんだから」
みんなが好き放題言っていると
「そ、そういえば、次の花火までまだ時間があるみたいですよ」
と言いながら友華さんがどこからか持ってきたチラシを見せてきた。
みんなで話し合った結果、2組に分かれて縁日を周る事になった。
「それじゃあ30分後にここで待ち合わせよう」
「「「はーい」」」
私は沙月ちゃんと一緒に射的や金魚すくいなどのゲームものを周っている。
甘いものは別腹だけど食後に炭水化物はさすがにムリだし。
「そういえば友華さん、綺麗になったよね」
「まぁね。ファミレスにいてもたまに声かけられるくらいにはなったみたいだし」
以前お兄ちゃんからも聞いたけど、沙月ちゃんはある時を境に男遊びをするようになったらしい。
それがきっかけで友華さんと大喧嘩をして疎遠になったというのも、沙月ちゃんから聞いている。
喧嘩といっても、鬱陶しく感じた沙月ちゃんが一方的に友華さんを嫌っているだけらしいけど。
「やっぱり気になる?」
「うん。友達としてはやっぱり仲のいい姉妹でいて欲しいと思ってるよ」
「そっかぁ」
出会った頃の沙月ちゃんなら、こんな素直な回答はしなかったと思う。
だけど今ここにいる桐谷沙月は違う。
お兄ちゃんと出会い変わろうとする友華さんを見て、自分も変わろうとしている。
「正直言うとね、お姉ちゃんの事はもう嫌ってはいないんだ。むしろ嫌われてないかビクビクしてるのは私の方」
「そんな事ないと思うよ。じゃなかったら沙月ちゃんにプロデュースのお願いなんかしないよ」
「うん、わかってる。私も頼られた時は悪い気しなかったし」
そう言って私に笑顔で返す。
「でも、あれだけヒドイ態度取ってたのにいきなり仲よくしようっていうのも虫が良すぎる気がして……どうしていいかわからないんだよねぇ」
沙月ちゃんはそう言って夜空を眺める。
少し他人事のように振る舞いながらも、その表情はどこか悲しげにみえた。
「あーもうやめやめ! この話は終わり! 次は射的行くよ、柚希ちゃん!」
そう言って沙月ちゃんは私の手を取り走り出した。
まるで自分の気持ちを無理やり引きはがすかのように。
沙月ちゃんと友華さんの力になってあげたい。
私が2人に出来る事は何だろう。
その後も沙月ちゃんと出店を周りながら色々と考えていたけど、結局答えは出なかった。
一通り遊んで時間を確認すると、待ち合わせ5分前だった。
「沙月ちゃん、そろそろ行こ――」
と言いながら顔を上げると沙月ちゃんの姿が見えない。
来た道を少し戻ると、7歳くらいの女の子と話している沙月ちゃんが居た。
「沙月ちゃん、その子どうしたの? 迷子?」
「そうみたいなんだよね~。お嬢ちゃん、お名前は?」
「ぐずっ……ミカ……」
「ミカちゃんか。可愛い名前だね! 良かったらお姉ちゃん達とお話しない?」
さすが沙月ちゃん。
小さい子ともすんなり打ち解けていった。
どうやらミカちゃんは小学生のお兄ちゃんと2人で来ていたらしい。
そして金魚に見とれていたらはぐれてしまったようだ。
まぁ、これだけ人が密集してたら無理もないか。
現に私も一瞬沙月ちゃんとはぐれたし。
「ねぇ、ミカちゃん。お兄さんはどういう人なの?」
「とっても優しいお兄ちゃんだよ」
「そうなんだ。どんな服来てるの?」
「うぅん……かわいくないの着てるの。いつもと同じなの」
優しいけどいつも同じお洋服……。
まるでウチのお兄ちゃんみたいだ。
「いつもと同じで可愛くない……そうか、そういう事か!」
「どうしたの沙月ちゃん?」
「きっとお兄ちゃんは浴衣じゃなくて洋服を着てるはずだよ! しかも短パン!」
そう言って「ふふん」と得意げに推理を披露する。
それにしても短パンはどこから来たのだろうか。
ミカちゃんの証言を基にお兄さん探しを再開する。
しかし結局お兄さんは見つからず、花火が上がってしまった。
「うぅ……花火、始まっちゃった……」
「ミカちゃん……」
涙を堪えるミカちゃんの頭を沙月ちゃんは優しく撫でる。
「心配しないで、ミカちゃん。お姉ちゃん達が一緒にいるから、ね?」
「……うん。ありがとう、お姉ちゃん」
「ふふ、どういたしまして!」
花火が鳴り響く中、私達は案内所に向かって歩き出した。
沙月ちゃんは終始柔らかい表情でミカちゃんを励まし続けていた。
出会ってまだ30分も経っていないのに、2人はまるで本当の姉妹のように見える。
案内所に着いた私達は役員に事情を説明し、残りの花火を3人で見上げていた。
夜空に花が咲く毎に、ミカちゃんにも笑顔が戻っていった。
花火が終わり、案内所の前を人だかりが通っていく。
その中にお兄さんらしき人がいないか目を凝らしていると
「ミカー! ミカ―!」
という男の子の声が近付いてきた。
するとミカちゃんは「お兄ちゃんだ!」と言って立ち上がる。
短パンを履いた男の子がこっちに向かってきた。
これで一件落着、かな?
「どこ行ってたんだよ! 心配したんだぞ!」
「ひぅ! ご、ごめんなさい……」
「あ~もう。泣くなって! ほら、行くぞ!」
そう言ってミカちゃんの腕をグイッと引っ張っていこうとする。
ちょっと強引じゃないかな?
私が口を出そうとしたその瞬間、沙月ちゃんのチョップが炸裂した。
「コラ! 女の子に乱暴しちゃダメでしょ!」
「いて! なにすんだよぉ!」
「あ~ゴメンね、軽くしたつもりなんだけど」
沙月ちゃんはお兄さんの手をさする。
「だけどね、ミカちゃんもさっき痛かったと思うよ? 腕をいきなり引っ張られて」
「あっ……」
何かを察したお兄さんを見た後、沙月ちゃんはミカちゃんに向き直った。
「お兄ちゃんはね、ミカちゃんと同じくらい心配してたんだよ? その気持ちが強いから引っ張る力も強くなっちゃったの」
「そうなの……?」
「うん。だからね――」
一瞬だけ沙月ちゃんの言葉が止まる。
まるで何か大事な事を思い出したかのような。
そんな風に感じた。
「だから、お兄ちゃんはミカちゃんが……妹が大好きだから怒っちゃったの。どこかに行っちゃうと寂しいから、心配して色々言っちゃうだけなんだよ。だからお兄ちゃんの事、許してあげてね?」
そう語り掛ける沙月ちゃんの表情は優しく、悲しげに見えた。
「うん。大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「そっか。よしよし」
「ミカはね、お兄ちゃんの事キライになんてなった事一度もないもん!」
笑顔で明るく言い放つミカちゃんに、胸が少しキュッとなった。
私も妹だから分かる気がする。
沙月ちゃんも同じ気持ちかもしれない。
「そっか……そうだよね」
「どうしたの? お姉ちゃん」
「ううん。何でもないよ。ほら、またお兄ちゃんに置いてかれちゃうぞ~」
そう言って笑顔でミカちゃんを送り出す。
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