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第14話
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何事も無く数日が経ち、終業式当日を迎えた。
明日はお父さんたちが帰って来る日だ。
この一週間の事を思うと少し残念な気がするがしょうがない。
終業式が終わり、部活へ行く準備をしていると、珍しくお兄ちゃんからLINEが来た。
確認すると
〈今日は外食しないか?〉
という内容だった。
〈もう今夜の献立決めてあるんだけど〉
と返して、一緒に怒っているクマのスタンプも送る。
〈いや、最終日くらい外食したいなーって思って〉
〈外食っていっても何処行くの? ジョ〇サン?〉
〈まぁ、そんな所かな〉
〈しょうがないな~、今日は外食でいいよ〉
〈サンキュー、予約しとくよ〉
まぁ、ここまで節約してきたから一日位いいだろう。
スマホを仕舞い、私は部活に向かった。
部活から帰ると、お兄ちゃんが少しオシャレしていた。
「何でそんな恰好してるの?」
「いや、外食するから少しくらいはと思って」
「そんなに楽しみだったの?」
「まぁまぁ、そんな事いいから早く準備しろよ」
少し引っかかったけど、私は手早くシャワーを浴びる。
部屋に戻り、髪を乾かしながら考える。
……これってもしかしてデート?
いやいや、デートでジ〇ナサンは無いでしょ。
だけど一応、お兄ちゃんに合わせて少しオシャレしようかな。
準備を終え、戸締りを確認し、家を出るとタクシーが停まっていた。
「え? なにこのタクシー」
「俺が呼んだ」
「はぁ? そんな余分なお金無いよ!」
「心配するな。タクシー代は俺が払うから」
そう言うお兄ちゃんに半ば無理やりタクシーに押し込まれる。
走る車内から外を見てると、駅とは反対方向に向かっている。
一体どこのジョナ〇ンまで行くんだろう。
そう考えている内に目的地に着いたみたいだ。
へぇ~。ウチの地元にもこんな場所あったんだ。
最近は色々と余裕が無くて気づかなかった。
それにしても私が知らないお店をお兄ちゃんが知ってるなんて。
むぅ……ちょっと悔しい。
「お客さん。どうかしましたか?」
「え?」
運転手さんの声にハッとする。
気づくと助手席に座っていたお兄ちゃんがいない。
「す、すみません。ありがとうございます」
軽くお辞儀をし、慌てて後部座席から降りようとすると
「お手をどうぞ。お嬢さん」
と、少しワザとらしく手を差し出してくるお兄ちゃんがいた。
普段のお兄ちゃんならここまで露骨な気遣いはしないのに。
それに顔つきまで凛々しくなっている気がする。
「あ、ありがとう」
「足元、気をつけろよ」
差し出された手を取りタクシーから降りる。
視界に現れたのは、所謂隠れ家的なレストランだった。
茶色のレンガと白塗りの外壁でシンプルにまとめられた外装。
目立つ看板は無く、入口に置かれた小さい黒板にはメニューが書かれていた。
「よくこんなお店知ってたね」
「まぁな」
お兄ちゃんに手を取られたまま中に入る。
店内は温かみのあるオレンジ色の照明に染まっていた。
内装は外装と同じく、白の塗装とレンガや木材の茶色でシンプルにまとまっている。
間もなく、白いシャツに黒のサロンをした店員のお姉さんが近寄ってくる。
「いらっしゃいませ」
私はずっと手を握ったままだった事に気づき、少し気恥ずかしく感じ手を放す。
そんな私にお兄ちゃんは軽い笑顔を見せる。
なによ、余裕ぶっちゃって。
私だけ焦ってバカみたい。
「予約していた佐藤です」
「お待ちしていました。ではこちらへどうぞ」
2人でお姉さんの後に続く。
店内は決して広いわけではないが、数台あるテーブルは既に複数のカップルで埋まっている。
その誰もがセミフォーマルな装いをしていて、お店の雰囲気に一層華を添えていた。
「こちらのお席をご用意させて頂きました」
案内された席は店内を通った先のオープンテラスにあった。
きちんと手入れされた観葉植物と淡い照明で彩られた風景に見蕩れてしまう。
「こちらが本日のメニューでございます」
席に座ると渡されたメニューに目を通す。
お店の雰囲気とは裏腹に、高すぎない手頃な値段だ。
「前菜はこのサラダで。あとメインはこの料理でお願いします」
「じゃあ私はこのスープと、メインはこれで。あと飲み物で……」
「かしこまりました」
一通り注文を終えると店員はお辞儀をして去っていった。
その直後、お兄ちゃんは「ふぅ」とため息をつきいつも通りの顔つきに戻る。
「な~んだ。やっぱり無理してたんだ」
「やっぱ変だったか? 慣れない事はするもんじゃないな」
「だったらいつもみたいにジョナサ○にすればよかったのに」
ここまでずっと思っていた疑問を私はようやく口にする。
お兄ちゃんはお水を勢いよく飲んだ後
「せっかく2人きりの夕食なのにそれじゃあ勿体ないだろ?」
いつも通りの口調でそう返してくる。
そんなお兄ちゃんをまじまじと見つめる。
「……今日のお兄ちゃんはおかしい。いつもと違う」
「そうかなぁ? やっぱり店員さんとのやり取りが違和感あったかな。それとも服装が合ってなかったとか?」
「そうじゃなくてさ」
「じゃあ何だよ」
「そこまでオシャレまでして、自腹切ってタクシー呼んで、こんなに素敵なお店まで予約しちゃって」
「だから今言っただろ? 勿体ないって。それに父さんたちが居ない今しかこんな事出来ないし」
「まぁ、それはそうだけど……」
なんだかうまく丸め込まれているような感じがしてちょっと悔しい。
お兄ちゃんの癖に!
だけどそんな非日常感と特別感に、心が躍る。
考えてみれば、お兄ちゃんと2人きりでこんな素敵なディナーは二度とないかもしれない。
……ま、今日くらいはノッてあげてもいっか。
「お待たせしました。こちら前菜のサラダでございます」
注文した品とは別で出されるものらしい。
小ぶりなお皿と一緒に大小のナイフとフォークが並べられる。
「わぁ! お皿可愛い~。それにサラダも美味しそう」
「そうだな。じゃあ食べようか」
「「いただきます」」
運ばれてくる料理はどれもが見た目にも鮮やかでとても美味しかった。
そんな料理に自然と笑みが零れ、お兄ちゃんとの会話も弾んだ。
明日はお父さんたちが帰って来る日だ。
この一週間の事を思うと少し残念な気がするがしょうがない。
終業式が終わり、部活へ行く準備をしていると、珍しくお兄ちゃんからLINEが来た。
確認すると
〈今日は外食しないか?〉
という内容だった。
〈もう今夜の献立決めてあるんだけど〉
と返して、一緒に怒っているクマのスタンプも送る。
〈いや、最終日くらい外食したいなーって思って〉
〈外食っていっても何処行くの? ジョ〇サン?〉
〈まぁ、そんな所かな〉
〈しょうがないな~、今日は外食でいいよ〉
〈サンキュー、予約しとくよ〉
まぁ、ここまで節約してきたから一日位いいだろう。
スマホを仕舞い、私は部活に向かった。
部活から帰ると、お兄ちゃんが少しオシャレしていた。
「何でそんな恰好してるの?」
「いや、外食するから少しくらいはと思って」
「そんなに楽しみだったの?」
「まぁまぁ、そんな事いいから早く準備しろよ」
少し引っかかったけど、私は手早くシャワーを浴びる。
部屋に戻り、髪を乾かしながら考える。
……これってもしかしてデート?
いやいや、デートでジ〇ナサンは無いでしょ。
だけど一応、お兄ちゃんに合わせて少しオシャレしようかな。
準備を終え、戸締りを確認し、家を出るとタクシーが停まっていた。
「え? なにこのタクシー」
「俺が呼んだ」
「はぁ? そんな余分なお金無いよ!」
「心配するな。タクシー代は俺が払うから」
そう言うお兄ちゃんに半ば無理やりタクシーに押し込まれる。
走る車内から外を見てると、駅とは反対方向に向かっている。
一体どこのジョナ〇ンまで行くんだろう。
そう考えている内に目的地に着いたみたいだ。
へぇ~。ウチの地元にもこんな場所あったんだ。
最近は色々と余裕が無くて気づかなかった。
それにしても私が知らないお店をお兄ちゃんが知ってるなんて。
むぅ……ちょっと悔しい。
「お客さん。どうかしましたか?」
「え?」
運転手さんの声にハッとする。
気づくと助手席に座っていたお兄ちゃんがいない。
「す、すみません。ありがとうございます」
軽くお辞儀をし、慌てて後部座席から降りようとすると
「お手をどうぞ。お嬢さん」
と、少しワザとらしく手を差し出してくるお兄ちゃんがいた。
普段のお兄ちゃんならここまで露骨な気遣いはしないのに。
それに顔つきまで凛々しくなっている気がする。
「あ、ありがとう」
「足元、気をつけろよ」
差し出された手を取りタクシーから降りる。
視界に現れたのは、所謂隠れ家的なレストランだった。
茶色のレンガと白塗りの外壁でシンプルにまとめられた外装。
目立つ看板は無く、入口に置かれた小さい黒板にはメニューが書かれていた。
「よくこんなお店知ってたね」
「まぁな」
お兄ちゃんに手を取られたまま中に入る。
店内は温かみのあるオレンジ色の照明に染まっていた。
内装は外装と同じく、白の塗装とレンガや木材の茶色でシンプルにまとまっている。
間もなく、白いシャツに黒のサロンをした店員のお姉さんが近寄ってくる。
「いらっしゃいませ」
私はずっと手を握ったままだった事に気づき、少し気恥ずかしく感じ手を放す。
そんな私にお兄ちゃんは軽い笑顔を見せる。
なによ、余裕ぶっちゃって。
私だけ焦ってバカみたい。
「予約していた佐藤です」
「お待ちしていました。ではこちらへどうぞ」
2人でお姉さんの後に続く。
店内は決して広いわけではないが、数台あるテーブルは既に複数のカップルで埋まっている。
その誰もがセミフォーマルな装いをしていて、お店の雰囲気に一層華を添えていた。
「こちらのお席をご用意させて頂きました」
案内された席は店内を通った先のオープンテラスにあった。
きちんと手入れされた観葉植物と淡い照明で彩られた風景に見蕩れてしまう。
「こちらが本日のメニューでございます」
席に座ると渡されたメニューに目を通す。
お店の雰囲気とは裏腹に、高すぎない手頃な値段だ。
「前菜はこのサラダで。あとメインはこの料理でお願いします」
「じゃあ私はこのスープと、メインはこれで。あと飲み物で……」
「かしこまりました」
一通り注文を終えると店員はお辞儀をして去っていった。
その直後、お兄ちゃんは「ふぅ」とため息をつきいつも通りの顔つきに戻る。
「な~んだ。やっぱり無理してたんだ」
「やっぱ変だったか? 慣れない事はするもんじゃないな」
「だったらいつもみたいにジョナサ○にすればよかったのに」
ここまでずっと思っていた疑問を私はようやく口にする。
お兄ちゃんはお水を勢いよく飲んだ後
「せっかく2人きりの夕食なのにそれじゃあ勿体ないだろ?」
いつも通りの口調でそう返してくる。
そんなお兄ちゃんをまじまじと見つめる。
「……今日のお兄ちゃんはおかしい。いつもと違う」
「そうかなぁ? やっぱり店員さんとのやり取りが違和感あったかな。それとも服装が合ってなかったとか?」
「そうじゃなくてさ」
「じゃあ何だよ」
「そこまでオシャレまでして、自腹切ってタクシー呼んで、こんなに素敵なお店まで予約しちゃって」
「だから今言っただろ? 勿体ないって。それに父さんたちが居ない今しかこんな事出来ないし」
「まぁ、それはそうだけど……」
なんだかうまく丸め込まれているような感じがしてちょっと悔しい。
お兄ちゃんの癖に!
だけどそんな非日常感と特別感に、心が躍る。
考えてみれば、お兄ちゃんと2人きりでこんな素敵なディナーは二度とないかもしれない。
……ま、今日くらいはノッてあげてもいっか。
「お待たせしました。こちら前菜のサラダでございます」
注文した品とは別で出されるものらしい。
小ぶりなお皿と一緒に大小のナイフとフォークが並べられる。
「わぁ! お皿可愛い~。それにサラダも美味しそう」
「そうだな。じゃあ食べようか」
「「いただきます」」
運ばれてくる料理はどれもが見た目にも鮮やかでとても美味しかった。
そんな料理に自然と笑みが零れ、お兄ちゃんとの会話も弾んだ。
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