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第9話
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翌日の昼休み、めぐと一緒にお弁当を食べようとしていると、クラスメイトに声を掛けられた。
「どうしたの?」
「2年の先輩に柚希ちゃんのこと呼んでっていわれたんだけど」
そう言われて入り口を見ると、水瀬先輩が立っていた。
水瀬先輩も新島先輩程ではないけど、美人なので周りがザワつく。
「うわっ、水瀬先輩じゃん!」
「やっぱ凄い美人だなぁ」
などと言っている男子に対して
「あはは、どうもどうもー」
と、いつも通りの笑顔で応えている。
そんな水瀬先輩の所へ行き問いかける。
「どうしたんですか?」
「急に来てごめんね。話したい事があるんだけど、ちょっといいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
私はめぐに一言告げて、水瀬先輩と一緒に教室を後にする。
移動している間、何故呼び出されたのか考える。
やはり、昨日の事だろうか?
「誰も居ないし此処でいっか」
と言って水瀬先輩は理科室に入っていく。
私も後に続いて教室に入り、扉を閉めた瞬間
「昨日はごめんなさい」
と言って頭を下げてきた。
少し驚いたが、やはり昨日の事で呼ばれたようだ。
「そんな、悪いのは私です。あんなに失礼なことを――」
「ううん、違うの」
私が頭を下げようとすると水瀬先輩に止められた。
「今日はお礼を言いにきたの」
「え? お礼……ですか?」
「うん! 昨日柚希ちゃんに色々言われて考えてみたんだ」
「……はい」
「それでね、そのお陰で私、ようやく決心がついたの。私は佐藤の事を諦めない!」
そう力強く宣言する水瀬先輩の顔はどこかスッキリした様に見えた。
「だから柚希ちゃんには感謝してるんだ。ホントにありがとう」
色々吹っ切れたようで良かった。
だけど、まだ一つ引っかかる事がある。なので私は躊躇いなく質問をぶつける。
「良かったです。でも、新島先輩の事はどうするんですか?」
「そんなの決まってるじゃん! 楓の事は応援するよ。だけど、私は私で頑張る!」
「いいんですか? 二人は親友なんですよね?」
「親友だからだよ。同情なんてされたくないし、私は楓と対等でいたいから」
「水瀬先輩……」
「恋は真剣勝負! でしょ? 柚希ちゃん」
そう言って水瀬先輩は太陽の様な笑顔を見せる。
私も笑顔で応える。
「そうでしたね。応援してます先輩!」
「うん、ありがとう! あっ、そういえば連絡先交換してなかったね」
「そうですね。水瀬先輩あの時走って帰っちゃいましたもんね」
「あーもう! アレはナシナシ、あんなの私じゃないもん」
「あはは、ごめんなさい」
冗談を交えつつ連絡先を交換する。
「それじゃあ私、先に行くね。これからもよろしくね柚希ちゃん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
先に出ていった水瀬先輩の後ろ姿を見送りながら一人考える。
水瀬先輩は凄いなぁ。
叶わない恋に対しても本気で向き合ってる。
だけど私は自分の気持ちが分からない。
私の中にあるモヤモヤは何なのだろう。
そう考えた時、お兄ちゃんの顔がチラついた。
これってやっぱり……。
それから数日後、テスト期間が始まり部活がなくなった。
放課後も残って勉強してる生徒も多い。
私もめぐと勉強する為に帰り支度をしていると、一人の男子生徒が教室に勢いよく入って来た。
「おい、聞いたか!」
「どうしたんだよ、そんなに慌てて」
「また誰かにフラれたのか?」
「いや、俺じゃなくて! ……新島先輩がフラれたらしいぞ!」
「は? どういう事だよ」
「だ・か・ら! 新島先輩と佐藤先輩が別れたんだよ!?」
「「「えええぇぇぇーーーーーー!?」」」
一気に教室中が騒がしくなった。
私とめぐも驚きを隠せない。
私が思わずめぐに視線を向けると、めぐはそれに気づいた。
「私は平気だよ。もう気持ちの整理はついてるから」
「めぐ……」
「それよりも友也先輩大丈夫かな。まさかあの二人が別れるなんて……」
めぐの疑問はもっともだ。
私ですらこんな事になるなんて予想していなかった。
「お兄ちゃんならきっと大丈夫だよ。たぶん、何か理由があったんじゃないかな」
「そうだよね。それよりも今は勉強に集中しなきゃ」
そう言っためぐは特に強がっている様子はない。
良かった……本当に気持ちの整理が出来てるんだ。
その後、私達は気持ちを切り替えて勉強に勤しんだ。
だけど私はその間ずっと、お兄ちゃんに対して憤りを感じていた。
帰ったらどういう事かキチンと説明してもらわないと。
めぐとの勉強会で帰宅が遅くなった。
どうやらお兄ちゃんは夕飯を済ませ、部屋に篭っているようだ。
〈後で詳しい話聞かせて貰うから〉
という内容だけ送っておいた。
私もササッと夕飯とお風呂を済ませる。
プロデュースして学校のアイドルと付き合えたのに別れるのは頭に来る。
どんな言い訳をしてきても、キチンと説明してもらわないと。
そして11時になった。
お兄ちゃんが部屋に来るや否や
「新島先輩と別れたって本当?」
と強めの口調で言った。
「ああ、本当だよ」
あっさりと言われたので少しムキになる。
「どうして別れる事になったのか説明して!」
私がそう言うと、お兄ちゃんは水瀬先輩の家に行った所から順番に説明した。
帰り際に水瀬先輩からされたキス。
水瀬先輩の恋心を尊重しようとする新島先輩。
そして新島先輩はお兄ちゃんと一度別れ、再び選んで貰うつもりのようだ。
「へ~、水瀬先輩やるじゃん! 新島先輩も思い切ったな~」
なんだか感心。
水瀬先輩は宣言通りにアタックしていた。
新島先輩も水瀬先輩にちゃんと向き合った上での決断だったんだ。
二人共凄いなぁ。
お兄ちゃんには勿体ない気がしてきた。
「っていうか、水瀬先輩にキスされたって何で言わなかったの?」
「俺自身パニックになっちゃってそれどころじゃなかったんだよ」
「その結果が新島先輩と別れる事になっちゃってるじゃん! ちゃんと相談してよね!」
「うっ! すまない」
お兄ちゃんが私に相談しなかった事にイラだってしまった。
困った事があったら私に頼って欲しかったのに……。
「でも、私に相談してても今回は別れてたと思うけどね」
「それじゃ結局今と変わらないじゃん」
「そうだね~、私がアドバイスしても新島先輩が折れなかったと思うし」
「楓はミナミに引け目を感じてたみたいだからな」
水瀬先輩の覚悟は知っていた。
今思えば、いつかはこうなる運命だったと思う。
だから今回、お兄ちゃんを賭けた勝負になった。
「とりあえず、水瀬先輩をどうするかだね~」
「う~ん」
「とりあえずキープするとして、どうすれば納得するかな~」
「……は?」
お兄ちゃんは目を丸くしていた。
「なんだよキープって」
「そのままの意味だよ。万が一新島先輩と別れた時直ぐに乗り換えられる様にしておくの」
少し空気が張り詰める。
めぐとの二股デートを持ち掛けた時と同じ雰囲気だ。
「俺がそれをやると思うか?」
「まぁやらないだろうね。言ってみただけ」
断られるのは分かっていた。
お兄ちゃんは良くも悪くも誠実な人だから。
誠実だからこそ水瀬先輩の気持ちに気づかない。
部屋に沈黙が流れる。
私は考えを巡らせる。
どうすればお兄ちゃんを説得出来るだろう?
どうすれば水瀬先輩の気持ちを少しでも伝えられるだろう?
私が水瀬先輩ならどうするだろう?
私がもしお兄ちゃんの事を――――
「なぁ、今回は俺に任せてくれないか? 自分で決めたいんだ」
その言葉に思考が遮られる。
沈黙を破ったお兄ちゃんは、真っ直ぐな目でそう言った。
あぁ、そうか。お兄ちゃんはお兄ちゃんで真剣に答えを出そうとしてるんだ。
そんな真っ直ぐな所は今も変わらない。
だけど今は……その誠実さが伝わる度に私の心が締め付けられていく。
「それは水瀬先輩をキッパリ振るって事だよね?」
違うって言って欲しい――――
「まぁ、そうなるかな」
少しくらいは視て欲しい――――
「水瀬先輩の気持ちは考えないの?」
こんなに強く深く想い続けていたのに――――
「考えたよ。その上で俺は楓を選ぶ」
新島先輩を選ぶとハッキリと告げられる。
お兄ちゃんはやっぱり新島先輩しか視えてないんだ。
水瀬先輩が……
私たちが入る余地なんて、無いんだ――――
そう思った瞬間、行き場のない感情が溢れ出した。
「どうしたの?」
「2年の先輩に柚希ちゃんのこと呼んでっていわれたんだけど」
そう言われて入り口を見ると、水瀬先輩が立っていた。
水瀬先輩も新島先輩程ではないけど、美人なので周りがザワつく。
「うわっ、水瀬先輩じゃん!」
「やっぱ凄い美人だなぁ」
などと言っている男子に対して
「あはは、どうもどうもー」
と、いつも通りの笑顔で応えている。
そんな水瀬先輩の所へ行き問いかける。
「どうしたんですか?」
「急に来てごめんね。話したい事があるんだけど、ちょっといいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
私はめぐに一言告げて、水瀬先輩と一緒に教室を後にする。
移動している間、何故呼び出されたのか考える。
やはり、昨日の事だろうか?
「誰も居ないし此処でいっか」
と言って水瀬先輩は理科室に入っていく。
私も後に続いて教室に入り、扉を閉めた瞬間
「昨日はごめんなさい」
と言って頭を下げてきた。
少し驚いたが、やはり昨日の事で呼ばれたようだ。
「そんな、悪いのは私です。あんなに失礼なことを――」
「ううん、違うの」
私が頭を下げようとすると水瀬先輩に止められた。
「今日はお礼を言いにきたの」
「え? お礼……ですか?」
「うん! 昨日柚希ちゃんに色々言われて考えてみたんだ」
「……はい」
「それでね、そのお陰で私、ようやく決心がついたの。私は佐藤の事を諦めない!」
そう力強く宣言する水瀬先輩の顔はどこかスッキリした様に見えた。
「だから柚希ちゃんには感謝してるんだ。ホントにありがとう」
色々吹っ切れたようで良かった。
だけど、まだ一つ引っかかる事がある。なので私は躊躇いなく質問をぶつける。
「良かったです。でも、新島先輩の事はどうするんですか?」
「そんなの決まってるじゃん! 楓の事は応援するよ。だけど、私は私で頑張る!」
「いいんですか? 二人は親友なんですよね?」
「親友だからだよ。同情なんてされたくないし、私は楓と対等でいたいから」
「水瀬先輩……」
「恋は真剣勝負! でしょ? 柚希ちゃん」
そう言って水瀬先輩は太陽の様な笑顔を見せる。
私も笑顔で応える。
「そうでしたね。応援してます先輩!」
「うん、ありがとう! あっ、そういえば連絡先交換してなかったね」
「そうですね。水瀬先輩あの時走って帰っちゃいましたもんね」
「あーもう! アレはナシナシ、あんなの私じゃないもん」
「あはは、ごめんなさい」
冗談を交えつつ連絡先を交換する。
「それじゃあ私、先に行くね。これからもよろしくね柚希ちゃん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
先に出ていった水瀬先輩の後ろ姿を見送りながら一人考える。
水瀬先輩は凄いなぁ。
叶わない恋に対しても本気で向き合ってる。
だけど私は自分の気持ちが分からない。
私の中にあるモヤモヤは何なのだろう。
そう考えた時、お兄ちゃんの顔がチラついた。
これってやっぱり……。
それから数日後、テスト期間が始まり部活がなくなった。
放課後も残って勉強してる生徒も多い。
私もめぐと勉強する為に帰り支度をしていると、一人の男子生徒が教室に勢いよく入って来た。
「おい、聞いたか!」
「どうしたんだよ、そんなに慌てて」
「また誰かにフラれたのか?」
「いや、俺じゃなくて! ……新島先輩がフラれたらしいぞ!」
「は? どういう事だよ」
「だ・か・ら! 新島先輩と佐藤先輩が別れたんだよ!?」
「「「えええぇぇぇーーーーーー!?」」」
一気に教室中が騒がしくなった。
私とめぐも驚きを隠せない。
私が思わずめぐに視線を向けると、めぐはそれに気づいた。
「私は平気だよ。もう気持ちの整理はついてるから」
「めぐ……」
「それよりも友也先輩大丈夫かな。まさかあの二人が別れるなんて……」
めぐの疑問はもっともだ。
私ですらこんな事になるなんて予想していなかった。
「お兄ちゃんならきっと大丈夫だよ。たぶん、何か理由があったんじゃないかな」
「そうだよね。それよりも今は勉強に集中しなきゃ」
そう言っためぐは特に強がっている様子はない。
良かった……本当に気持ちの整理が出来てるんだ。
その後、私達は気持ちを切り替えて勉強に勤しんだ。
だけど私はその間ずっと、お兄ちゃんに対して憤りを感じていた。
帰ったらどういう事かキチンと説明してもらわないと。
めぐとの勉強会で帰宅が遅くなった。
どうやらお兄ちゃんは夕飯を済ませ、部屋に篭っているようだ。
〈後で詳しい話聞かせて貰うから〉
という内容だけ送っておいた。
私もササッと夕飯とお風呂を済ませる。
プロデュースして学校のアイドルと付き合えたのに別れるのは頭に来る。
どんな言い訳をしてきても、キチンと説明してもらわないと。
そして11時になった。
お兄ちゃんが部屋に来るや否や
「新島先輩と別れたって本当?」
と強めの口調で言った。
「ああ、本当だよ」
あっさりと言われたので少しムキになる。
「どうして別れる事になったのか説明して!」
私がそう言うと、お兄ちゃんは水瀬先輩の家に行った所から順番に説明した。
帰り際に水瀬先輩からされたキス。
水瀬先輩の恋心を尊重しようとする新島先輩。
そして新島先輩はお兄ちゃんと一度別れ、再び選んで貰うつもりのようだ。
「へ~、水瀬先輩やるじゃん! 新島先輩も思い切ったな~」
なんだか感心。
水瀬先輩は宣言通りにアタックしていた。
新島先輩も水瀬先輩にちゃんと向き合った上での決断だったんだ。
二人共凄いなぁ。
お兄ちゃんには勿体ない気がしてきた。
「っていうか、水瀬先輩にキスされたって何で言わなかったの?」
「俺自身パニックになっちゃってそれどころじゃなかったんだよ」
「その結果が新島先輩と別れる事になっちゃってるじゃん! ちゃんと相談してよね!」
「うっ! すまない」
お兄ちゃんが私に相談しなかった事にイラだってしまった。
困った事があったら私に頼って欲しかったのに……。
「でも、私に相談してても今回は別れてたと思うけどね」
「それじゃ結局今と変わらないじゃん」
「そうだね~、私がアドバイスしても新島先輩が折れなかったと思うし」
「楓はミナミに引け目を感じてたみたいだからな」
水瀬先輩の覚悟は知っていた。
今思えば、いつかはこうなる運命だったと思う。
だから今回、お兄ちゃんを賭けた勝負になった。
「とりあえず、水瀬先輩をどうするかだね~」
「う~ん」
「とりあえずキープするとして、どうすれば納得するかな~」
「……は?」
お兄ちゃんは目を丸くしていた。
「なんだよキープって」
「そのままの意味だよ。万が一新島先輩と別れた時直ぐに乗り換えられる様にしておくの」
少し空気が張り詰める。
めぐとの二股デートを持ち掛けた時と同じ雰囲気だ。
「俺がそれをやると思うか?」
「まぁやらないだろうね。言ってみただけ」
断られるのは分かっていた。
お兄ちゃんは良くも悪くも誠実な人だから。
誠実だからこそ水瀬先輩の気持ちに気づかない。
部屋に沈黙が流れる。
私は考えを巡らせる。
どうすればお兄ちゃんを説得出来るだろう?
どうすれば水瀬先輩の気持ちを少しでも伝えられるだろう?
私が水瀬先輩ならどうするだろう?
私がもしお兄ちゃんの事を――――
「なぁ、今回は俺に任せてくれないか? 自分で決めたいんだ」
その言葉に思考が遮られる。
沈黙を破ったお兄ちゃんは、真っ直ぐな目でそう言った。
あぁ、そうか。お兄ちゃんはお兄ちゃんで真剣に答えを出そうとしてるんだ。
そんな真っ直ぐな所は今も変わらない。
だけど今は……その誠実さが伝わる度に私の心が締め付けられていく。
「それは水瀬先輩をキッパリ振るって事だよね?」
違うって言って欲しい――――
「まぁ、そうなるかな」
少しくらいは視て欲しい――――
「水瀬先輩の気持ちは考えないの?」
こんなに強く深く想い続けていたのに――――
「考えたよ。その上で俺は楓を選ぶ」
新島先輩を選ぶとハッキリと告げられる。
お兄ちゃんはやっぱり新島先輩しか視えてないんだ。
水瀬先輩が……
私たちが入る余地なんて、無いんだ――――
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