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第二章 王子は魔女に恋い焦がれる

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「エレナ……!」

 背に差し入れられた手がエレナをきつく抱き寄せる。
 爽やかな汗の匂いと滑らかな肌の質感。焼け付きそうに熱い体温。それらを感じているうちに、奥を激しく突き上げるクロードの剛直は、やがてエレナの内から異物ではなく彼自身として馴染んでいく。

「あっ、あっあぁっ……ん、ぅ!」

 エレナ、と名を呼びながら、甘い嬌声ごと喰らい尽くそうとするようにクロードのキスがエレナを襲った。舌が絡まり、ぬるりとそれが擦れると、脳まで蕩けてしまいそうになる。

 この口付けが、たぶん自分の特別になる。
 エレナはなぜか、そう思った。

 貪るような激しいキスにほんのすこし舌を動かして応えれば、背を抱き寄せるクロードの腕に力が入る。締め上げられるような圧迫感が心地いい。

「んん……っ」

 喉の奥で喘ぐエレナを解放したクロードは、すっぽりと抱き締めたエレナに猛り狂ったように腰を打ちつける。大きく広げた足の間に抱え込んだクロードの肌が汗ばんでいく。

「くっ……エレナ……ッ……!」

 苦しげに名を呼ばれるたびに、エレナの肉壁はクロードに絡みつき、やわらかく締めあげる。削り取るように剛直がうちを蹂躙し、その快感にエレナの体は敏感に反応した。

「んっ、あっああぁっ!」

 辛さにも近い悦楽に溺れるエレナの蜜道で、肉杭が硬度を増す。かあっと全身が熱くなりエレナの体もじっとりと汗ばんでいた。激しく打ちつける腰に肌と肌がぶつかり音を立て、そこにいやらしい愛蜜の響きが混ざり込む。

「エレナ……ッ……もっと、していたいが……もう……!」
「んっ……ああぁっ!」

 乱暴なまでに荒々しい抽送にエレナは我を忘れて喘いだ。快楽の波に飲み込まれ、心も体もすべてが蕩けて真っ白になる。

「っ……エレナ……ッ……くっ……!!」
「あぁっ……!」

 どくん、と奥で熱が弾けた。
 すべてを吐き出すようにそのまま二度腰を動かしたクロードの鼓動は、自分のそれよりずっと速い。びくびくと脈動する肉杭を内に呑み込んだまま、エレナは完全に脱力した。

 終わった。
 気怠い余韻にそのまま意識まで持って行かれそうで、エレナは必死に瞼を押し上げようとする。うっすらと開いた視界に見える天蓋と、男にしておくのが惜しいほどの美しいブロンドを、エレナは意味もなく呆然と見つめていた。

 はぁはぁと落ち着かない呼吸を繰り返していたクロードは、耳元でエレナの名を呼んだあと、ぎゅっと体を抱き締める。

「エレナ……」

 返事もできず、ただ抱き締められながら、エレナは目を閉じた。
 大きな手がエレナの背から抜け、髪を撫でる。唇にクロードの唇を感じたが、柔らかなそれがなんだかどうしようもなく気持ちよくて、抵抗する気にもなれず、エレナはじっとかれのキスを受け入れた。

 啄むようなキスを何度も繰り返しながら、クロードは愛しげにエレナの名を呼ぶ。
 好きでもない相手にどうしてそんなことをするのか、と、ひねた心が首をもたげたが、何故か、拒絶したいとは思えなかった。

 クロードがゆっくりと腰を引き、蜜道から抜け出すと、彼の吐き出した白濁した欲望がどろりと蜜口から垂れていく。

「んっ……」

 不快なそれに小さく悲鳴をあげたエレナに、クロードは一度額にキスをして、そっと離れていった。

「待っていろ」

 クロードはベッドから下りて、暗い室内に消えた。
 彼の体温で温められていた肌が、一気に冷やされていく。熱く火照っていたぶんだけその喪失感は大きく、エレナの心を軋ませた。寂しさに近いそれに、エレナは無理に理由をつける。

 ──媚薬のせい。
 すべてをそれで片付けて起き上がろうとしたエレナの傍に、クロードは戻ってきた。

「悪い、夢中になって、中で出してしまった……」

 ばつが悪そうに謝罪しながら、クロードはエレナの秘所をリネンで拭う。

「ひっ」
「拭いておかないと、気持ち悪いだろう」

 言いながら、クロードは自身の精で汚れたエレナのそこを優しく拭き上げていく。恥ずかしさの極みだった。
 エレナはさんざん見られ、触られた体より、羞恥で染まった顔を隠した。両腕をあげて顔の上に置いたまま身を任せていると、ふわりと柔らかな上掛けがかけられる。

「休むといいよ」

 いや、早く帰るべきだ。
 渡すものは渡した。依頼はこれで完了するはずだ。処女の自分をここまで乱れさせ、そればかりかクロードへの嫌悪さえ掻き消す媚薬は、きっと王太子妃の恐怖をも打ち消すだろう。

 そう思っているはずなのに、瞼の上に置いた腕は心地よく眼球を圧迫し、柔らかなベッドのなかで、エレナの意識はどんどん遠ざかっていった。

「……エレナ、ちょっと待て、君は──」

 クロードが何か言っていたが、すべてを聞き終える前に、エレナは深い眠りについた。
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