異世界臨終録

星野大輔

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臨終録X1

都築 佳菜子

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臨終録_No.006

■氏名:都築 佳菜子
■性別:女
■年齢:46歳

■死亡理由:
会社の決算期を迎え、経理部は非常にピリピリとしていた。何十年も日本語に囲まれた生活を送っているというのに、ここでしか見ることのない言葉が並びたてられる書面に毎年溜息がこぼれる。
しかしかつては電卓を叩いてこの作業も、いまや表計算ソフトや専用のアプリケーションによって随分と簡易化した。決して機械に強いわけでもないが、いつしか彼女の指先はキーボードの上を滑らかに動くようになっており、頭を空っぽにしながら、手元の書面に書かれた数値をディスプレイの中へ打ち込んでいた。
その時、世界は変わった。

タイトロジアン帝国の北部にある街のスラム。
日中だというのにまともに陽が差し込まぬ路地裏。風も通るのを避けるような暗がりには幾重もの悪臭が交じり合った例えようのない空気が澱んでいた。肌が薄黒く汚れた人々は壁と同化するようにして体力を温存させようと息をひそめている。
普段、鼠が時折空気を動かす程度の静かな世界に、きれいな衣服に身を包んだ女性が現れる。町の裕福なものとも違う。そもそも町の人々は何があろうとここへ近寄ることはない。突然の侵入者に、幽鬼のようにゆらりと影から人々が立ち上がり群れを成す。
現代日本では感じたことのない異常な雰囲気に、彼女は腰を抜かし立ち上がることもままならない。
最後に彼女が見た光景は、顔も腕もお腹もガリガリに細った小さな少年が、拳ほどの石を振り上げるところであった。


■生存日数:1日
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