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第1章 最果ての少女
ラック3
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ラックは自分の親のことを知らない。
物心着いたときには大人の中に混じって盗みを働いていた。
しかし、ある時自分の中に眠る不可思議な能力に気づき、同時に親の事も間接的に知ることになる。
アリスの剣先がラックの胸に迫る。
その位置は確実に心臓をねらっている。
「ははっ、だから危ないと言っているだろう。
人に刃物を向けるんじゃないって、親に教わらなかったか?
もし当たってたら死んでたぞ、いまのは」
「ああ、殺すつもりで突いたからな」
表情には出さないが、アリスは焦っていた。
ひとつは相手が攻撃を避ける際に正体不明の「何か」をしていること。
ひとつはここが室内でアリスにとっては苦手な場所だと言うのに、相手は苦としていないこと。
ひとつはちーちゃんを人質に取られては手も足も出なくなること。
アリスは簡単にあしらえると思っていた。
所詮は露天商人。
襲うとしても誰かを雇うだろう。
雇うにしてもこんな片田舎の街に、悪事に手を貸すような凄腕などいない。
せいぜいごろつき程度である。
(まさか、こんなやつが街に潜んでいたとは…。
私の不運もここまできたか)
これまでの人生を思い返してみても実に不運に満ちた21年間だった。
いまだに彼氏なし。
いや、今はそれは関係ない。
街に着くやいなや街道を魔族に封鎖され、砦を覗いてみれば子供を拾い、果ては暗殺者に命を狙われる始末。
ついていない女アリスここに極まり、である。
「どうした女冒険者。
こないならこっちから行かせてもらうぜ」
暗闇に溶け込むように、ゆらりとした動き。
今まで相対してきた者たちとは異なる足運び。
「!!」
突然ナイフが飛んできた。
(予備動作が見えないっ!)
呼吸のリズム、足運びのリズム、肩の動き、目線、等々。
人が行動をする上で何かしらきっかけがそこに生まれる。
しかし暗殺者は極限までにそれらを隠し、攻撃に移る予測をさせない。
実力がかけ離れた弱い相手には後手でも十分に間に合うが、実力が拮抗した者同士ではこの先読みが勝敗を決めるひとつの要因となる。
アリスはまたひとつ不利になった。
「ほらほら、まだまだあるぞ」
様々な角度から、次々と繰り出されるナイフ。
後ろにはちーちゃんが寝ている。
避けるわけにはいかない。
そにしても尽きないナイフ。
「ちっ、どれだけ隠し持ってるんだ。
大道芸人にでもなったほうがいいんじゃないかっ」
「そうだな、この仕事が終わったら考えてみるよ」
「っ!!」
急激にアリスの足の力が抜ける。
(なにをされたっ!??)
「木を隠すなら森。
投げたのはナイフだけじゃない、麻酔針にも気を付けような」
ゆっくりとした足取りで近づくラック。
アリスの目の前で立ち止まると、ナイフを一本取り出す。
「次があればの話だが」
暗闇を銀線が走る。
それはラックのナイフではなく、アリスの魔剣ハクリの銀線。
魔剣の主人が命の危機に瀕した時、自動で発動する魔剣の能力のひとつ『トレース』。
あらかじめ覚えこまされた予備動作を、主人の意思とは関係なく動かす。
例えアリスが気絶してようと、腕の骨が折れていようと、魔剣自らの力でそれを補助する。
最後の全力攻撃。
アリスの限界をも超える速度で繰り出される一撃。
その速度は世界一の剣聖をも超える。
だがそれさえも、ラックは凌いだ。
「おーーっと、さすがに今のは危なかったぜ。
それが魔剣の力ってやつか」
(有り得ない、予備動作もない今の最速の一撃を避けるなんて。
…この暗殺者もしかして)
アリスは一つの考えに辿り着く。
聞いたことがあったが、ただの噂話だと思っていた。
「貴様、魔族とのハーフか?」
「………んあ、なんでそう思った」
目に見えて暗殺者の機嫌が悪くなった。
図星なようだ。
「どういった原理か分からないが、先ほどから貴様が攻撃を避けられているのは、何かしらの魔法であろう。
貴様はそれなりの実力者であろうが、私の攻撃を近距離で避けられるほどとは思えぬ。
ひとつ考えられるのは魔法。
しかし人間に魔法は使うことは出来ない、出来るのは魔族だけだ。
だが昔、噂話で聞いたことはある。
この世には人間と魔族のハーフがいると。」
「………」
アリスが指摘した通り、ラックは魔法が使えた。
ある日、突然それを自覚した。
未知の力に喜び、周囲の者に自慢さえした。
それが孤独の始まりとも知らずに。
「まあいい、貴様は今から死ぬんだ。
その秘密を持ったままあの世へ旅立て」
冷たい目をしたまま、ナイフを五本取り出す。
魔剣の能力『トレース』はそう何度も使えない。
しかも相手は警戒して遠くから攻撃を仕掛けてる。
アリス絶対絶命である。
「死ねっ!!!!」
「もう、さっきからうるさいよっ!!!!」
ちーちゃんが、目を覚ました。
物心着いたときには大人の中に混じって盗みを働いていた。
しかし、ある時自分の中に眠る不可思議な能力に気づき、同時に親の事も間接的に知ることになる。
アリスの剣先がラックの胸に迫る。
その位置は確実に心臓をねらっている。
「ははっ、だから危ないと言っているだろう。
人に刃物を向けるんじゃないって、親に教わらなかったか?
もし当たってたら死んでたぞ、いまのは」
「ああ、殺すつもりで突いたからな」
表情には出さないが、アリスは焦っていた。
ひとつは相手が攻撃を避ける際に正体不明の「何か」をしていること。
ひとつはここが室内でアリスにとっては苦手な場所だと言うのに、相手は苦としていないこと。
ひとつはちーちゃんを人質に取られては手も足も出なくなること。
アリスは簡単にあしらえると思っていた。
所詮は露天商人。
襲うとしても誰かを雇うだろう。
雇うにしてもこんな片田舎の街に、悪事に手を貸すような凄腕などいない。
せいぜいごろつき程度である。
(まさか、こんなやつが街に潜んでいたとは…。
私の不運もここまできたか)
これまでの人生を思い返してみても実に不運に満ちた21年間だった。
いまだに彼氏なし。
いや、今はそれは関係ない。
街に着くやいなや街道を魔族に封鎖され、砦を覗いてみれば子供を拾い、果ては暗殺者に命を狙われる始末。
ついていない女アリスここに極まり、である。
「どうした女冒険者。
こないならこっちから行かせてもらうぜ」
暗闇に溶け込むように、ゆらりとした動き。
今まで相対してきた者たちとは異なる足運び。
「!!」
突然ナイフが飛んできた。
(予備動作が見えないっ!)
呼吸のリズム、足運びのリズム、肩の動き、目線、等々。
人が行動をする上で何かしらきっかけがそこに生まれる。
しかし暗殺者は極限までにそれらを隠し、攻撃に移る予測をさせない。
実力がかけ離れた弱い相手には後手でも十分に間に合うが、実力が拮抗した者同士ではこの先読みが勝敗を決めるひとつの要因となる。
アリスはまたひとつ不利になった。
「ほらほら、まだまだあるぞ」
様々な角度から、次々と繰り出されるナイフ。
後ろにはちーちゃんが寝ている。
避けるわけにはいかない。
そにしても尽きないナイフ。
「ちっ、どれだけ隠し持ってるんだ。
大道芸人にでもなったほうがいいんじゃないかっ」
「そうだな、この仕事が終わったら考えてみるよ」
「っ!!」
急激にアリスの足の力が抜ける。
(なにをされたっ!??)
「木を隠すなら森。
投げたのはナイフだけじゃない、麻酔針にも気を付けような」
ゆっくりとした足取りで近づくラック。
アリスの目の前で立ち止まると、ナイフを一本取り出す。
「次があればの話だが」
暗闇を銀線が走る。
それはラックのナイフではなく、アリスの魔剣ハクリの銀線。
魔剣の主人が命の危機に瀕した時、自動で発動する魔剣の能力のひとつ『トレース』。
あらかじめ覚えこまされた予備動作を、主人の意思とは関係なく動かす。
例えアリスが気絶してようと、腕の骨が折れていようと、魔剣自らの力でそれを補助する。
最後の全力攻撃。
アリスの限界をも超える速度で繰り出される一撃。
その速度は世界一の剣聖をも超える。
だがそれさえも、ラックは凌いだ。
「おーーっと、さすがに今のは危なかったぜ。
それが魔剣の力ってやつか」
(有り得ない、予備動作もない今の最速の一撃を避けるなんて。
…この暗殺者もしかして)
アリスは一つの考えに辿り着く。
聞いたことがあったが、ただの噂話だと思っていた。
「貴様、魔族とのハーフか?」
「………んあ、なんでそう思った」
目に見えて暗殺者の機嫌が悪くなった。
図星なようだ。
「どういった原理か分からないが、先ほどから貴様が攻撃を避けられているのは、何かしらの魔法であろう。
貴様はそれなりの実力者であろうが、私の攻撃を近距離で避けられるほどとは思えぬ。
ひとつ考えられるのは魔法。
しかし人間に魔法は使うことは出来ない、出来るのは魔族だけだ。
だが昔、噂話で聞いたことはある。
この世には人間と魔族のハーフがいると。」
「………」
アリスが指摘した通り、ラックは魔法が使えた。
ある日、突然それを自覚した。
未知の力に喜び、周囲の者に自慢さえした。
それが孤独の始まりとも知らずに。
「まあいい、貴様は今から死ぬんだ。
その秘密を持ったままあの世へ旅立て」
冷たい目をしたまま、ナイフを五本取り出す。
魔剣の能力『トレース』はそう何度も使えない。
しかも相手は警戒して遠くから攻撃を仕掛けてる。
アリス絶対絶命である。
「死ねっ!!!!」
「もう、さっきからうるさいよっ!!!!」
ちーちゃんが、目を覚ました。
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