おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第1章 最果ての少女

はじめての街2

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「けっ、まあいい。
 どちらにせよ、貴様等はここで処分される運命。」

ずらりとアリスの周りを取り囲む魔族たち。

勇んで飛び出てきたものの、アリスは勝ち目があるわけではなかった。
この場にいるのは、彼女の矜持、ただそれだけ。

ざっとみて100以上はいるだろう魔族たちを蹴散らすなんて、伝説の勇者くらいしか為せないであろう。

(それでもこの少女だけは逃がす時間は稼いでみせる!)

魔剣ハクリを正面に構え、狼魔族を迎え撃つ。

「はっ、良い面してやがるな。
 だがそれもいつまでもつか、なっ!!」

狼魔族は両手を広げ、隠していた爪を現し、一足飛びでアリスに詰め寄る。

常人であれば姿が消えたように見えただろう。

キィィンと、金属同士が弾ける音が響く。
剣と爪をギリギリと交わす二人。

「ほぉ、よく受け止められたな人間!」
「女だからといって、舐めてくれるなよ!」


2度、3度と剣戟を交わす二人。
その数を増す度にアリスの体が徐々に後退していく。

いくら腕に覚えのある冒険者と言えど、人間と魔物の膂力差は簡単に覆せるものではない。
しかも相手は様子からして幹部候補クラス。

本来であれば騎士10人で挑む必要がある化け物。

アリスがこうして耐えているだけでも、十分人間離れしている。
だがアリスの本領はこんなものではない。
仮にも魔剣を携える者。
一対一での戦いであれば遅れを取ることなどそうない。

であれば、この状況はどういう事なのか。

アリスはちらりと背後を見る。
そこには未だにぼーっとしたままのちーちゃんの姿がある。
攻撃を避けてしまえば、ちーちゃんに被害が及ぶ。

狼魔族はにやりと笑う。

「…貴様、分かってやってるな、痴れ者め!」
「さぁて何のことかなぁ、ははっ、いいねぇその顔!!」
「貴様こそ、油断していいのかなっ、魔剣ハクリ!!」

アリスの力ある言葉とともに、魔剣がブブブッと唸り声を上げ始める。

同時に、先ほどまで弾きあってた狼魔族の爪が宙に飛んだ。

「…てめぇ、なんだそりゃあ」
「貴様がその首を差し出すのなら、教えてやらんでもない」

相手を馬鹿にしたような笑みを浮かべるアリス。
少しでもこちらの焦りを見せないように、内心は必死である。

なぜならこの魔剣、能力を使うためには自らの血を多く補充しなければならない。
その上、使える時間は僅か数分。
燃費が悪すぎるのである。

ここ一番でしか使うことが出来ず、しかも時間限定であることがばれてしまうと、相手に時間を稼がれ終わってしまう。
故に余裕があるように見せ、短期決戦を相手に望ませることが必須。

そんなアリスの思惑とは裏腹に、狼魔族は大きく後ろに飛びのく。

「俺の爪を切り裂くたぁ、その剣厄介だな。
 下手に押しかけりゃ、こっちも大損害だ。」

そう言うと、懐から黒く濁った宝石を取り出す。

「使用制限があるから、あまり使いたくなかったが、貴様みたいな芽のあるやつはここで潰しとかないと、後々どうなるかわかったもんじゃねぇ。
 だから、こっちも奥の手、使わせてもらうぜ。
 こいつを俺に使わせたんだ、自慢していいぜ……あの世でな」

狼魔族は黒宝石を大きく空へ掲げ、力ある言葉を叫ぶ。

「我と契約を以って現れよ、地獄の番犬ケルベロス!!!」

ウォォォォーーーンとどこからともなく遠吠えが聞こえる。
狼魔族が掲げた宝石から黒い靄が漂うと、ゾブリと獣の頭が現れる。
三つの頭が現れるが、その首はひとつの体へと繋がっている。
尾っぽは獣のそれではなく、ドラゴンを思わせる力強くてらてらとしている。

「なっ…ま、さか、伝説の魔獣・ケルベロスを召喚しただと!!」
「はーっはははは、本来は対軍隊用に使おうと思っていたものだが、まずは貴様で試してやろう!」

ついにその姿を全て表す。
その雰囲気は味方である魔族たちをも震えあがらせるような、ねっとりとした殺意を持っていた。
赤く濁った瞳に映るすべてを屠ってしまいそうな、無差別的な殺意。

本当に制御できるのか?
誰もがそう思った。

「さぁ、ケルベロスよ!
 目の前の人間を喰らい尽くせ!」

ケルベロスは契約者の命に、三つの顔を指さされた方へと向ける。

その瞳に映るのはアリスとちーちゃん。

「……………が、がう?」

ちーちゃんの顔を見て、ケルベロスはだらだらと汗を流し始める。
そう、このケルベロスはつい先日、ちーちゃんによって「めっ!」を喰らったあの個体だた。

なんでこいつがここにいるの?
そう言いたげな顔をしてちーちゃんを凝視する。

ちーちゃんはと言えば、何か考え込むようにしてケルベロスを見つめる。

「あれ、もしかして…」
「わ、わ、、わおおおおーーーーーん!」

ちーちゃんに気付かれたケルベロスは焦った。
いますぐこの場から逃げようと、踵を返し、取り囲む魔族たちを蹴散らし、砦の壁を蹴上がり、その姿を森の中へとくらました。

「……何が起こったんだ?」

ケルベロスの暴走によって壊滅状態の魔族たちを目の前にし、アリスはぽつりとつぶやいた。

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