おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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村の日常

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「あぁ~、暇だな~」

道に面したカウンターに頬をつき、空を眺めながら気の抜けた言葉をつぶやく中年の男。
晴れ渡る空には雲一つなく、今日も古代竜が群をなして飛んでいる。
そんな眩しいばかりの快晴とは相反し、薄暗い店の中には埃を被った在庫の山が所狭しと並んでいる。
見るものが見れば喉から手が出るほど、垂涎の武器ばかりである。しかし、悲しいかなここは最果ての村。それを欲する「客」という存在がいなかった。

「なぁ、服屋よ、この村に外から客がきたのっていつだっけ?」

目は空を向けたまま、併設する服屋の主人にむけて語りかける武器屋の主人。
服屋のカウンターで同様に空を見上げていた男は舌打ちしつつも答える。

「さあな、ばあちゃんの言い伝えによれば120年前に当時の勇者が2日間滞在したらしいぜ」
「120年前か…じゃあ、そろそろ来てもおかしくないんじゃないかな勇者」
「あぁ、来てもおかしくないな勇者」

空では古代竜の群れが、肉屋の主人によって壊滅させられていた。

「服屋よ、平和だな」
「あぁ、平和だな。あっ、いらっしゃいませー、本日はどのような服をお探しでしょう。奥様のようなスラリとしたスタイルの方ならこちらの…」
「っておーーーい! いいなーーー! 服屋いいなーーーっ! おまえんとこのはいつも客が来てて羨ましいわ、おい、どうなってるんだよ、武器屋店主になって早12年、いまだに客は一人も来たことないし、おまえのばあちゃんの話からすれば、伝説レベルの確率じゃねーかよ! なんだよ、村人でもいいからさ、来いよ客!」
「なんだよ、急に。お客さんがびっくりするだろう。あー、ほら、帰っちまったじゃねえか。お客様とは一期一会なんだぞ、どんな時だって全力で対応して満足してもらうのが客商売ってもんだ」
「いいなー、いいなー、そんなセリフ言ってみたいなー! ってなにが一期一会だ、薪屋の奥さんは大のお得意様で、三日にいっぺんは来てるだろ。こっちは120年、120年だぞ、一期一会にも程があるだろう!」

カウンターに突っ伏して駄々をこね始める中年男性こと、武器屋の店主。親から店を引き継ぐこと12年。当時にして若干16歳であった彼は、この店を世界一の武器屋にと大層な夢を掲げ店主となった。
だが、ここは魔王城にほど近い最果ての村。
高レベルの魔物が跋扈するこの地に、外からの客など、そうそう来ない。
これるとすれば、高レベルの者のみ、つまり勇者に等しい力を持った者だけである。

「おい、服屋、一回店を交換しようぜ」
「こだわりないのか、武器屋としてのプライドは!?」
「いやだって、村長に『おまえんち、武器屋な』って言われて何となく始まった家業ってきいてるし。それになにより、客こねーし」
「まあな、村人に武器いらねーもんな」

目の前の道を、包丁を腰にぶら下げた肉屋が、古代竜を引きずりながら歩いてく。

「肉屋の主人よ」
「なんだ、武器屋の主人」
「肉の仕入れに、このドラゴンスレイヤーなんぞ買ってみる気はないか?」

おもむろに取り出すは、ドラゴンの血で紅に染まったのかと思わせるほどのむせかえる赤に染まった禍々しい片刃の剣。
刀身は2メートルあるだろうか、どんなドラゴンでも一太刀で屠ってしまうであろう。
添付の説明書によれば、2000年前の神魔戦争で神竜を切り裂き、その血を浴びて神器となったらしい。
世に出れば忽ち国宝となるのは容易に想像がつく。

「いらん」
「だろうな」

すべての物には「力」がある。

木の棒であればプラス1の力が加算される。ドラゴンスレイヤーに至っては5000は下らないだろう。
確かに神器・ドラゴンスレイヤーはすごい。だがここで勘違いしてはいけないのは、あくまでも加算されることで、これが全ての力ではないのだ。
人それぞれが持つ力プラス武器の力。

ちなみ肉屋の持つ力は24000。
ドラゴンスレイヤーなんかよりも、肉屋+包丁の方が強い。

この村の人々は多かれ少なかれ、そんな感じだ。いくら優れた武器がそこにあったとしても、必要ないほどの力を持っている。

「はあ」

ずりずりと古代竜を引きずりながら遠のいてく肉屋を見ながら、ため息をつく。

「今日は店じまいだな」
「…そうしな」

太陽が真上に昇る頃、武器屋の戸には鍵が掛かった。
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