上 下
57 / 182
第1章

第五十七話 始まりの物語

しおりを挟む
~~ ルーミエ視点 ~~

 故郷を追われ、自身に問い続ける……。

 いったい私たちが何をしたのというのだろうか?国を失うほどの罰を受けるようなことをしてしまったのだろうか?広大な大地を持つ国が魔族によって亡びるとは一体どういうことなのか?なぜ異世界からの襲撃はあるのか?

 いくら考えてもその答えはわからない……。

 そして私は母が残した最後の言葉。「あなただけでも幸せになりなさい」という、その言葉の意味をいつも考えるようになった……。

 海を渡り、臣下の者たちとも別れ、ユウキと二人きりになってしまった。

 親交のある近隣の国にお世話になることも考えたが、その国にエソルタ島のことを伝えて、海を渡って戦地に向かうことで多大な損害を与えてしまうのは目に見えている。ギルド間での通信で戦況は伝わっているはずなので、今更私たち二人が表立って増援を求めても無駄な被害がでることは目に見えている。

 それにそこまでの気力は残っていなかった。

 これからどうやって生きていけばいいのか迷っていた私たちは、神託をくれた遠夜見(とおよみ)の巫女を訪ね、これからのことを相談しようとユウキに話すと賛成してくれた。

 そして冒険者として生計を立てつつ、遠い道のりを半年以上かけてスデン王国のカムラドネにやってきた。

 不自然なくらい背の高い塔を見上げながら、街に入り巫女の屋敷に向かった。

 屋敷の入り口で護衛の人に経緯を説明して、屋敷の中に通してもらった。案内してくれたのは見習いだったノイリさんだった。

 通された応接室で待っていた遠夜見(とおよみ)の巫女と呼ばれる女性はとても若く、女性からみてもとても美しかった。

 巫女と呼ばれる職業は長年の修業が必要とされるものだと思い込んでいたが、実際はそうではないらしい。巫女は優しく微笑んで、私たちに挨拶をした。

「初めまして、ルーミエさん、ユウキさん。遠夜見(とおよみ)の巫女のレイラです。遠いところよく来てくれたね」

「初めまして、巫女様。それに唐突にお邪魔して申し訳ないです。私たちは……」

 私たちの自己紹介とカノユール王国の襲撃から島を出るまでの話を温かい眼差しで、頷きながら聞いていた。

「カノユール王国もイメノア王国も防げなかったのは聞いていたけれど、そういう経緯だったのね……」

 私は力なく頷く。そして私たち二人が何を目的に生きていけば良いのかを相談する。

「……話はわかったよ。これからどうやって生きていくか迷っているのね。アドバイスできればいいのだけれど、私は神託以外のことでは全く役には立てないかもしれないな。それに実は私も生きるって何だろうって考えているところなの……」

「でも、巫女様のお仕事が……」

「”遠夜見(とおよみ)の巫女は運命で決まる”ってね。知ってた?遠夜見の巫女は修業を必要としない珍しい巫女なんだよ」

「そうなんですね」と、答えたあとに運命って一体何なのかしらと考える?

「未来に起こる厄災の状況が頭の中に浮かび上がってくるの。それに自分自身の死についてもわかってしまう、本当に残酷な職業だよね……。先代が四歳の私を次の巫女として神託を通して見つけたのよ。そのあと先代は寿命で亡くなり、私は七歳で巫女となった。そして今も神託を受けて、次の巫女となるノイリを見つけたわ」

 一瞬、私はそのつながりを理解することができなかった。

「それはつまり——」

「うん、そんなに長くは生きることができないってことだよ。原因はね、街の外に大きな塔が立っていたのを見たでしょ」

「ええ、あれは一体?」

「カムラドネの悪魔の塔だよ。……あの塔は双子の悪魔が巫女の能力を奪う権利を賭けて作り始めたの。双子の悪魔は地上と地下とに分かれて、冒険者を呼び寄せ、その魂を吸い取りながら、塔を大きくしていっているのよ。そしてどちらかが百層に到達すると、能力を奪いに来て私は死んでしまうわ……」

 そんな運命があるのだろうか。まだ若いのに死を宣告されてしまうなんてどれほど辛いことなのだろう……。

「双子の悪魔を倒す方法はないのですか?」

「いろんな国の兵隊さんが来て挑んでいるんだけど。途中で死んじゃって逆に塔を大きくしてしまって、私のために戦ってもらっているのだけれど、ちょっと困ってるんだよね。……どれだけ強い傭兵、冒険者でも無理じゃないかな。まだ攻略の糸口はつかめてないようなの……」

「それでは、死を待つ以外に方法はないのですか?……私は運命に抗いたい。故郷は運命に定められたまま滅び、私は何もできなかったけれど、巫女様にはそんな思いをしてほしくない。
 どこか遠くへ逃げるとか、何か方法がきっとあるはず。私に何かできることはありませんか?」

 故郷のことを重ね合わせて胸が熱くなってしまった。

 巫女は穏やかな表情で語りだす。

「ありがとう、優しいんだねルーミエさん……。この絶望的な状況でも逃れられる方法はあると思っているのよ。
 今日ここにルーミエさんとユウキさんが来てくれたのも運命なのかしら……、これはノイリにもまだ言っていないことなんだけれど——」

 そう言って、巫女は立ち上がり机の引き出しから一冊の本を持ってきた。

「この神託は昨日の夜に告げられたものよ」

 栞を挟んだページを開いて読む。

「”東の果てに降り立つ彼のもの。あらゆる厄災を振り払い、異質な力をもって悪を打ち破るものなり”……もう少し続きがあるけれど、意味は分かるかな?」

「はい、あらゆる厄災を払いのける人が、東の果てに降り立つ……ということでしょうか?」

「うん、この神託はこれまでのとは全然違うの。もしかしたらあらゆる厄災に私のことも含まれているのかもしれないって思えるの!」

 巫女の表情が明るくなる。

「それでね、初対面の人に頼む事じゃないのかもしれないのだけれど……。探してきてくれないかな……その人」

 唐突に話が展開して、私たちは混乱したが、それでも冒険者として生きていこうと決めていたし、この巫女の役に立ちたいと思って即答した。

「巫女様のお役に立つのであれば探しに行きましょう」

「ん?……えぇええ!即答?大丈夫?全然情報ないよ?どうしてどうして?」

「ふふっ、頼まれたのは巫女様のほうですよ。なのにその驚き方……あははっ……おかしっ」

 私たちはしばらく笑いあった……。巫女は涙をこらえながら笑顔で何度もありがとう、ありがとう。と繰り返した。

 弟子のノイリさんも同行して探すこととなり、屋敷の庭やダンジョンで訓練を繰り返し、準備を始める。

 元々剣技は得意な私だったけれど、ユウキも運動神経もよくて、めきめきと強くなっていった。ノイリさんも短期間だが氷魔法の精度を上げていった。

 別に何かを倒しに行くわけではないし、ある程度の強さがあれば大丈夫だろうということで、私たちは東の果て、エスタに向けて出発した。

そして紆余曲折を経て、見事に”彼の者”を見つけ出し。無事巫女の命を救うことができた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...