上 下
173 / 182
第2章

第百七十ニ話 宝玉の中で 其の二

しおりを挟む
   ラッテの後を追いながら、鞘を十数個に切り分けた黒い玉の正体は、何か光線みたいな攻撃を繰り出すか、障壁のようなものを展開するものだと勝手に想像していた。

 黒い玉はそれぞれ一定の間隔を保ちつつ、ラッテを中心に遠ざかっていく。

 突如、体を貫くような大音響でドラムの音……そしてこの世界で聞くことはないだろうと思っていたシンセサイザーと重低音ベースによるテンポの速い演奏が続く。さらに重厚でマシンガンのようなエレキギターが鳴り響く。

 元いた世界の音楽をこんなところで聞くことになるとは思わなかったな……。

 ハスキーな男の声で聞いたことのない言語で歌が紡がれているが、ログにはご丁寧に訳が流れている。

~♫

” 望まない約束の時が来た、奴らは俺たちを支配し、すべてを奪っていく

 もう終わりなのか?こんな最後を俺たちは望みはしない

 この悲しみは運命なのか?

 そうだとしても抗い続けろ

 彼(か)の者はきっと来る

 彼(か)の者に祈れ、叫べ、必ずその願いは届く

 心に刻め、全てを見届けよ

 その功績を、起きた奇蹟を

 俺たちは必ず救われる ”

♫~

 エレクトリックな音楽とボーカルの声はマッチし、時には低音のしゃがれた声で、サビでは高音を伸びやかに、男の声には切実で訴えかける力を持っている。

 やべぇ、ギターが超カッコいい……。

 雷に打たれたようにイントロから一番が終わるまで全くと言っていいほど動けなかった。

 ……ふつふつと勇気が湧いてくる。

 このままラッテだけに任せていいのか、と心の声が聞こえる。

 俺にも何かできることはあるだろう。船の操作はロンダールに任せ、スティックを一本取り出し、精気を足に絡めて空中に飛び出した。

「俺も出る。ロンダール、ついてこなくてもいいから安全なところで待機だ」

「承知」

 あれだけの数を魔力での攻撃無しで倒すには無理があると勝手に思い込み弱気になっていたのかもしれない。魔力が使えなくても、俺には精気コントロールやクロック・アップがある。

 武器として真っ先にイメージしたのはメイスの先についている棘のある球だった。精気だけでは棘の鋭さは出せないが、巨大なドラゴンが相手なら鋭さは必要ない、十メートルの大きさのものを、ある程度の速さでぶつけてやれば大きなダメージを与えることは可能だろう。

 ラッテがまとっているパーツを真似して、精気を胴回りと腕に巻きつけ、ラッテに並ぶ。

「やはりアキトが一緒だと心強いな……」

「伝説の冒険者であっても、怖いものなのか?」

「全く恐怖を感じなくなってしまうと冷静な判断ができなくなるんだよ。それに来てくれたことで、全力以上の力が出せる。これに精気を注ぎ続けてくれ。大食らいかもしれないが、この状況だからな許してほしい」

 そう言うと、俺に向かってラッテ自身のモンスター・コアを放り投げた。

「任せておけ」と、力強く返すとラッテはモンスターに向かって一筋の光となって飛び込んでいった。


~♫

 ” 漆黒の闇夜に刻まれた、鈍く光る赤黒い文字

 招かれざる来訪者が、異界との扉をこじ開ける

 悪しきものを従え降臨し、やがて絶望が街を包むだろう
 
 祈れよ、叫べ

 願いは彼(か)の者に必ず届き、力となるだろう

 憂うことは何一つない、ただ一途に信じ続けろ

 心に刻め、全てを見届けよ

 明日へと続く希望の戦いを! ”

♫~

 一曲目が終わると次の曲が流れてきた。

 曲はヘビィメタル、パンクロックなどテンションが高まるものや、頭を振りたくなるものなど多種多様だが、全てに共通することは、のりやすいリズムで名曲ぞろいだった。
 それに曲から勇気と力をもらっているような感じがしたので、ステータスを見るといつもより数値が三割増しになっていた。

 ラッテは高速で飛び回り、巨大なドラゴンであろうと首を一撃で切り落としている。

 さぁ俺もやるか、……クロック・アップ発動!

 ラッテの邪魔にならないよう、棘の付いた球体数十個をコントロールして、モンスターたちにぶつけて倒していく。

 倒したモンスターから精気が霧散していくのが見えた。

 もったいないからあれも取り込みたいな……。そう思いついてしまうと即行動に移る。棘を突き刺した所から精気を吸い出し、外側の球体にため込むイメージを送る。

 精気搾取(エナジードレイン)

 精気を吸い取られたモンスターは、少ししぼむと地上へと落ちていく途中で光の塵となり、消えていく。

 棘のある球は精気をとりこむほどに大きくなり、ある程度大きくなったものは、半分に分けて一つは手元に戻してスティックに収めていく。

 ラッテも快調にモンスターを倒していき、三十分ほどで敵の半分は倒せただろう。

 俺は途中からクロック・アップを解除し、ノリの良い音楽に体を預け、作業(さつりく)を淡々とこなしていく。

 少し余裕ができたのかラッテが戻ってくる。

「この分だとあと少しでなんとかなりそうだな」

「あとはあの巨大な龍をどうやって倒すかだな……」

「ロウブレンの魔力撃は使えないから、あれを倒すだけの攻撃は俺は持っていないよ」

「他のモンスターと同じってことでちょっとやってみるか……、援護を頼む」

「わかった」と言って近づいてくるモンスターを倒しはじめる。

 棘のある球を寄せ集めて、龍の胴体よりも長い巨大な槍を作り出す。黄金に輝く槍に少し装飾をしてみる。……うん、美しくいい出来上がりだ。

 それを真上から超高速で突き刺し地面まで貫通させると、周りを一緒に飛んでいたモンスターがどれだけ倒されようとも悠々と空を泳いでいた黒龍だったが、悲鳴というより地響きのような大きな唸り声をあげ暴れ始める。

 精気の扱いはコツを掴んだので急速で精気を吸い出していくことができる。吸い出した精気で同じ槍を、二本、三本と本数を増やし、それをさらに胴体に突き刺していくと体全体が地面に墜落した。

 そうこうしているうちに頭がこちらに突っ込んでくるのが見えた。反対側からも尾が向かってきている。

「アキト、デカイのがこっちに向かって来るぞ」

 上空に逃げても上手く逃れられるかわからないな。

 クロック・アップ発動。

 静寂の中で、狙いを定めて頭と尾に斜めから二本ずつ貫くと抵抗することを諦めたようにおとなしくなった。

 たまにバタバタと暴れたりするが、あまり動きのない黒龍を相手に終わりがないと思われるくらい精気を吸い出す作業が続く。吸い出された精気を次から次へとスティックに注ぎ込む。当然俺一人では手が足りないので一緒に作業をしているロンダールがポツリともらす。

「果てしない精気の量ですな……」

「吸い出さないと帰れないんだから、やるしかないだろう」

 ラッテはしばらくの間、モンスターを倒していたが向かってくるのもなくなり、散り散りになったので今は待機している。

 山の上に作業場を移し、横ではテーブルを出してラッテ、ゾンヌフ、エルガードが、おつまみを食べ、酒を飲みながらこの光景を眺めている。

「なんとも想像を絶するような光景だな、ゾンヌフよ」

「言葉で表現できませんね……。まったくあんな化物をいとも簡単に倒してしまうとはアキトの戦闘能力は神をも超えているのではないでしょうか?」

「精気搾取(エナジードレイン)で倒すなんて想像つかなかったよ、やっぱアキトはすげーよ」

 なんだか楽しそうにワイワイやっている横で作業は続く。集中しないと作業スピードは落ちる。それだけ終わりが遠のくと思うと椅子には座っているが、飲み食いにあまり時間をかけることはできない。

「ロンダール、精気吸い出すだけにして、スティックに収めるのはあきらめないか?」

「何を言っておるのですか、そんなもったいないことは儂は許しませんし、カラル様も絶対に認めませんぞ、それにアキト殿の精気を吸い出す速度は儂とは比べ物にならないほど速い。これもまた修行と捉えて精進くだされ」

 精気の扱いは確かに上達した。こと精気に関しては厳しいロンダールだったが、そのおかげで今回は精気のことを多く学ぶことができた。いい機会だからその言葉に素直に従うことにした。

「ああ、そうだ、ラッテ、あの演奏はどこで手に入れたんだ?」

「嫁たちには『うるさい』とか言われて不評だけどな……。良いだろう、轟音結界……」

「不評なんだ……俺はあの演奏は好きだな」

「曲をかけると力が湧いてくるんだよ」

 ステータス向上効果が仲間にも波及する広範囲結界。実に素晴らしい道具だ。

 この世界にはクラシック音楽で使う楽器しかないと思っていたが、ああいう楽器と演奏もあることを知ってとても嬉しかった。

「他にも曲はあるんだろ?」

「ああ、俺のことを歌った曲やそうじゃないのもいっぱいある、全部で数百曲くらいかな」

「いいね、なんかこうリラックスできそうなの聞かせてくれよ」

「りょーかい」
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

現代にモンスターが湧きましたが、予めレベル上げしていたので無双しますね。

えぬおー
ファンタジー
なんの取り柄もないおっさんが偶然拾ったネックレスのおかげで無双しちゃう 平 信之は、会社内で「MOBゆき」と陰口を言われるくらい取り柄もない窓際社員。人生はなんて面白くないのだろうと嘆いて帰路に着いている中、信之は異常な輝きを放つネックレスを拾う。そのネックレスは、経験値の間に行くことが出来る特殊なネックレスだった。 経験値の間に行けるようになった信之はどんどんレベルを上げ、無双し、知名度を上げていく。 もう、MOBゆきとは呼ばせないっ!!

ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない

鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン 都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。 今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上 レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。 危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。 そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。 妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

処理中です...