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2.まずはお寛ぎ下さい
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「お好きな席へどうぞ」
ホールには、いくつかの円卓が用意され、中心に菓子やフルーツ、小分けにされた料理が。席の前にはカップがセットされていた。
お好きな席へと言われたが、仲が良い者同士で固まってどの席にするか迷うものだから、入った扉付近に殆どが集まってしまう。
そいつらが座るのを待ってられない。
俺は一人だから、最後に空いた席に座って気まずい思いをする前に、判断の早いグループに混じってさっと座ってしまう事にする。案の定、四人の女子グループが、最後に残った3席と1席の空席を前に、どう別れるかうだうだとしていた。
俺は気にせず、それぞれの卓で配膳してくれる男女の様子を観察していた。
「…ご不安のようでしたら、私共が毒味をさせていただきますよ」
観察していたのがそう見えたのか、俺たちより少し年上の綺麗なお姉さんが、銀の匙を手ににっこり笑って側に立っていた。
なんと答えたら良いのかわからなくて、思わず頷いたら、お姉さんは目の前に置かれていたお茶に銀の匙を入れて一匙すくい、そのままパクりと自分の口に入れた。
こくりと喉をならして、また微笑みながら俺を見る。
「いかがでございましょう」
「ーカップについてるって事もある」
「では失礼して、そのまま毒味をさせて頂いても?」
思ってもみなかったが、毒殺の可能性もあるのだと今さら気づいた。
警戒していなかった事を誤魔化した俺の言葉に、お姉さんはにっこり笑ったままだった。
これも想定内か。
「いや、いいよ。言ってみただけだから」
俺のように、周りを確認してもなおグズグズとしている奴らがいれば、円卓の対面に座るクラスメイトのように迷わずがっつく奴もいる。
お姉さんがこれ以上しなくても、毒味はとっくに為されてるじゃないか。まさか、俺だけこの場でって事もないだろう。
俺は手でお姉さんの動きを制して、自分用のカップを手にとりためらわずに飲んだ。
うん、まあ、うまい。
「お姉さん、お姉さん!じゃあ、俺のを毒味してよ!」
真っ先にがっついていた「愛すべき天然馬鹿」、朽木タクマが、目の前で急いで飲み干した空のカップを差し出している。
その隣に座る朽木の幼馴染、「THE委員長」の新城悠一がため息をついてメガネの位置を直している。
「タクマ。飲み干してから毒味しても、意味がないだろう」
「だから、おかわりをお姉さんに毒味してもらうんだよ」
もちろんカップから飲んで良いよと、下心を素直に出す朽木に、新城と俺以外の同席者は呆れを通り越して、可愛らしい者を愛でるような微笑ましい雰囲気になった。さすがは「愛すべき天然馬鹿」。
そして、朽木のお願いの声は、意外に大きかったらしい。
新たにお茶を満たした朽木のカップから、願い通りにお姉さんが直に口をつけて毒味する姿をみた他の奴らが、己の卓につく担当のお姉さんに毒味をお願いし始めた。
そんな奴らの姿に、ドン引きの女子たち。いや、逆に配膳するイケメンお兄さんに毒味をお願いする猛者もいるな。相方が頼もうとして険悪になってるカップルは……それこそ知った事じゃない。
とにもかくにも、俺達の雰囲気は随分と和やかな者になっている。
美味いお茶と食べ物、見目麗しいお世話係の丁寧なもてなし。殆どがあっという間に警戒を解く。全くもってチョロい 。
だが、リラックスした俺達には、あちらの話に耳を傾けられる余裕がうまれる。
これがあちら側の狙いなんだろう。
「ー落ち着かれましたかな。皆さま」
トンと音がして、先程のイケメン中年男性の声が響く。
途端に静まり返った俺たちは、扉の対面になる部屋の奥に姿を現した彼に視線を投げた。
その視線を浴びた彼は動じる事もなく、むしろ、にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべている。
「皆様に、改めてお詫びと感謝を。そして、これから事情をお話させて頂きます」
その話が、このような誠実なもてなしに見合ったものであれば良いけれど。
ホールには、いくつかの円卓が用意され、中心に菓子やフルーツ、小分けにされた料理が。席の前にはカップがセットされていた。
お好きな席へと言われたが、仲が良い者同士で固まってどの席にするか迷うものだから、入った扉付近に殆どが集まってしまう。
そいつらが座るのを待ってられない。
俺は一人だから、最後に空いた席に座って気まずい思いをする前に、判断の早いグループに混じってさっと座ってしまう事にする。案の定、四人の女子グループが、最後に残った3席と1席の空席を前に、どう別れるかうだうだとしていた。
俺は気にせず、それぞれの卓で配膳してくれる男女の様子を観察していた。
「…ご不安のようでしたら、私共が毒味をさせていただきますよ」
観察していたのがそう見えたのか、俺たちより少し年上の綺麗なお姉さんが、銀の匙を手ににっこり笑って側に立っていた。
なんと答えたら良いのかわからなくて、思わず頷いたら、お姉さんは目の前に置かれていたお茶に銀の匙を入れて一匙すくい、そのままパクりと自分の口に入れた。
こくりと喉をならして、また微笑みながら俺を見る。
「いかがでございましょう」
「ーカップについてるって事もある」
「では失礼して、そのまま毒味をさせて頂いても?」
思ってもみなかったが、毒殺の可能性もあるのだと今さら気づいた。
警戒していなかった事を誤魔化した俺の言葉に、お姉さんはにっこり笑ったままだった。
これも想定内か。
「いや、いいよ。言ってみただけだから」
俺のように、周りを確認してもなおグズグズとしている奴らがいれば、円卓の対面に座るクラスメイトのように迷わずがっつく奴もいる。
お姉さんがこれ以上しなくても、毒味はとっくに為されてるじゃないか。まさか、俺だけこの場でって事もないだろう。
俺は手でお姉さんの動きを制して、自分用のカップを手にとりためらわずに飲んだ。
うん、まあ、うまい。
「お姉さん、お姉さん!じゃあ、俺のを毒味してよ!」
真っ先にがっついていた「愛すべき天然馬鹿」、朽木タクマが、目の前で急いで飲み干した空のカップを差し出している。
その隣に座る朽木の幼馴染、「THE委員長」の新城悠一がため息をついてメガネの位置を直している。
「タクマ。飲み干してから毒味しても、意味がないだろう」
「だから、おかわりをお姉さんに毒味してもらうんだよ」
もちろんカップから飲んで良いよと、下心を素直に出す朽木に、新城と俺以外の同席者は呆れを通り越して、可愛らしい者を愛でるような微笑ましい雰囲気になった。さすがは「愛すべき天然馬鹿」。
そして、朽木のお願いの声は、意外に大きかったらしい。
新たにお茶を満たした朽木のカップから、願い通りにお姉さんが直に口をつけて毒味する姿をみた他の奴らが、己の卓につく担当のお姉さんに毒味をお願いし始めた。
そんな奴らの姿に、ドン引きの女子たち。いや、逆に配膳するイケメンお兄さんに毒味をお願いする猛者もいるな。相方が頼もうとして険悪になってるカップルは……それこそ知った事じゃない。
とにもかくにも、俺達の雰囲気は随分と和やかな者になっている。
美味いお茶と食べ物、見目麗しいお世話係の丁寧なもてなし。殆どがあっという間に警戒を解く。全くもってチョロい 。
だが、リラックスした俺達には、あちらの話に耳を傾けられる余裕がうまれる。
これがあちら側の狙いなんだろう。
「ー落ち着かれましたかな。皆さま」
トンと音がして、先程のイケメン中年男性の声が響く。
途端に静まり返った俺たちは、扉の対面になる部屋の奥に姿を現した彼に視線を投げた。
その視線を浴びた彼は動じる事もなく、むしろ、にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべている。
「皆様に、改めてお詫びと感謝を。そして、これから事情をお話させて頂きます」
その話が、このような誠実なもてなしに見合ったものであれば良いけれど。
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