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別れと始まり
しおりを挟むーー今日が最後のチャンス。
明日になればこの子はもう、遠いところに行ってしまうから。
僕、佐野 葎(さの りつ)は幼馴染の 室瀬 夏明(むろせ なつめ)と学校の近くの裏山に登っていた。
ここには幼少期からよく来ていて、今日は最後の思い出作りとして来ている。
実は今日夏明には言いたいことがあった。
だがその「言いたいこと」はすぐに出てくるはずもなく、僕はともかく夏明も無言を貫いていた。
お互いに詰まる言葉を少しずつ吐こうと声を掛けている。
あわよくば自然に言ってしまえたら。
なんてことを思いながらこの山を歩いていた。
すると近くにあった金盞花(キンセンカ)が僕の足元で鳴いていた。僕に『まだ間に合う』とでも言いたげに。
「夏明」
僕がそう呼ぶと夏明は寂しさと歔欷(きょき)を隠すような笑顔で振り返った。
そんな顔、しないでくれ…。
僕は今まで言えなかったその言葉が馬鹿みたいに脳内にフラッシュバックしてきた。
「好きだ」
静寂に声が響いた。その刹那神様が置いたとてつもなく黒く、大きい蓋のような雲が一気に晴れて青空と綺麗な白い雲が見えた。
泰然とした顔で夏明の言葉を待ちたかった。が、僕の頭の中は後悔と焦りで落ち着くこともできなかった。
「…」
夏明は数秒間黙り込んだ後ゆっくりと口を開いた。
「自分が先に言いたかったのになぁ。」
残念そうに言った後、僕の方を見て
「これからもよろしくね」
と笑顔を見せた。
周りを見ると紫のクロッカスが枯れて、綺麗なスイートピーが咲き誇っていた。
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