【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第四章 式典祭に乗じて

135.式典祭3日目ー作ろうピッツァ?ー

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「まあ、そんな怒らんでいいぞ?   俺としちゃ美味そうに食ってくれるだけで嬉しいもんだ」

 そう言って店長さんは歯を見せて笑ってくれたが、どこか寂しさが見え隠れしていた。
 原因は原因でも、ずっと来てくれてたお客さんまでティラミス擬きを提供してるお店のせいで来なくなってるもの。直接的な原因じゃない僕でも、なんだか本当に申し訳なくなってしまう。

(何かお詫び出来たらいいけど……)

 ただやり過ぎたらティラミス擬きの方と同じになるし、他のお店の迷惑にもなるから控えめにしないと?

「で、焼き加減とかだったか?   それはお前の修行次第だな。俺の手の内は見せたしよ」
「は、はい!」

 いけない。本題は見学についてだった。
 何をするかはエディオスさんにも相談しなくちゃいけないしね。
 それからフライも魚やハッシュポテトのも見せていただいたが、基本を抑えている以外やっぱりわからないばかりだった。
 だけど、最近自己満足の料理ばかりだったからいい刺激になったし勉強にもなりました。

「ありがとうございました」
「おう。いいってことよ」

 お礼を言うと店長さんは大きな手で僕の頭を撫でてくれました。
 さて、セリカさんのクッキーも焼き上がって包装も終わったそうだから、帰宅かまた観光かな?とエディオスさんに聞こうとしたら、

「……で、こっからが本題だ」
「は?」
「え?」

 帰る準備をしようとしてた僕らに、店長さんが固い声でそう言ってきた。

「カティア」
「あ、はい」
「お前もなんか作ってみろ」
「え"⁉︎」
「それだけ俺の技術がわかってんなら、だいたいのは作れるはずだ。つか、年相応じゃねぇように見えんが魔法で変装でもしてんのか?」
「い、いえいえいえいえ!」

 してるのは目の色だけで、体は訳ありでこのサイズだ。
 言ったところで信じてもらえないだろうから全否定するけども!
 また鋭い目で睨むように見られても、今度は目を逸らさないように頑張った。

「これ、訳ありなのはエディといることでわかってんだから無茶言わないの。ごめんね、うちの人研究熱心だから気になっちゃうんだよ」
「いてーな……」

 ピンチを救ってくれたのは女将さんでした。
 ただ、フライパンを凹まないように店長さんの脳天に叩きつける荒技はちょっと怖いですまなかったです……。

「でも、進んで小さい子に教えたってのはそう言う理由かい?   時間ないなら無理しないで断っていいから」
「え、えーと……」
「まあ、まだ時間はいいが。カティアがいつも作んのだとすっげぇ時間かかるから無理だぞ?」

 エディオスさんは直接調理工程を見てなくても、だいたいのことはお伝えしてある。ティラミスを中層や下層に伝えた時とかにもそう言うことは気にされていたからね。
 けど、たしかにピッツァをいつもの要領で作ってたら日が暮れてしまう。
 生地の発酵時間を時間操作で調整出来ないからそこが問題点。

「パン生地ならあんぞ?」
「ちょっと、特殊な生地なんで……」
「ほう?」
「ほら無茶言わないの。また来てもらえればいいんだから」

 女将さん、それはお約束出来ないんです。
 僕だけならまだしも、エディオスさんの本職は王様。
 しかも、今回式典祭メインのご本人がそうそう城下街に来れるわけがない!

(なにか……なにか代用品で出来ないかな?)

 出来れば得意なピッツァを披露したい。
 でも生地とソースが難しい。
 なら、代用品でどうにかしなくちゃ。
 きょろきょろと厨房内を見渡していれば、奥の方に見覚えのある食材があった。

「あ!」
「「「ん?」」」
「し、四角パンって、使わせていただいていいですか?」

 なんじゃそりゃな名前だが、要するに『食パン』のことだ。
 日本主流のパンのはずなのに、山型でなく長方形の食パンが流通しているこの世界じゃ主にサンドイッチで使われてる。

「構わねぇが、なんだ?   サンドイッチか?」
「いいえ、違います!」

 家でしか試したことのないピッツァだけど、きっと上手くいくはず。
 まずはパンの仕込みよりもソース作り。
 いつものトマトソースじゃしゃびしゃびになるし、ウスターソースもないからケチャップだけで出来る方法にしよう。






 ◆◇◆






 ピザソースはすっごく簡単。
 刻んだ玉ねぎにローストしたにんにくの粉末とオリーブオイルを混ぜるだけ。
 ファルミアさんに頼まれたのは市販のピザソースだったし、僕はレストラン勤めだったからトマトソースはきちんと作るんで、この方法は材料が足りない時の即席だ。

「次に具材ですが」

 このピッツァにも種類はあるが、せっかく居酒屋に近いスタイルのお店ならボリューミーなのがいいだろう。
 なので、店長さん達にお願いして用意してもらいました。

「挽いた豚のバラ肉と少し辛いルーストかラミートンって、これでいいのか?」
「野菜はマトゥラーとアリミン持ってきたよー」
「ありがとうございます。これと削ったカッツたっぷりあれば出来ます!」
「まったく予想つかねぇが、美味そうなもんなのはわかるな?」
「ええ」

 男の人には堪らないメニューだと確信していますとも。
 材料も下ごしらえを終えてから食パンの中身をくり抜くのは店長さんにお願いしました。
 白い箇所は完全になくすわけでなく、適度に厚みを残してくり抜くのも丁寧に。あとで使うからです。

「じゃあ、僕が言う順番に入れてもらっていいですか?」

 作る工程は小さい手だと時間がかかるのでここも店長さんに。
 店長さんは嫌な顔一つしないで頷いてくれました。

「作ったソースを全部使わずに薄くパンの内側に塗りつけてください」

 要領はちょっとラザーニャのようなミルフィーユ状の料理に近い。
 器になるパンも食べるから味をしっかりつけて、薄切りしたトマト以外の少し焼いて味付けした挽肉やソーセージにサラミ、薄切りの玉ねぎにチーズを層にして重ねて限界まで詰める。
 最後の天辺には残しておいたソースにチーズとトマトを乗せれば準備完了!

「これを予熱しておいた窯でじっくり焼けば出来上がりです!」
「んじゃ、焼くか。セリカ、火の方は平気か?」
「はい。いつでも大丈夫です!」

 ただこれ焼き時間が普通のピッツァの何倍もかかる上に、焦げないよう注意しなくてはいけないので火の番が大変。
 そこは僕じゃなくて店長さんがしてくれることになりました。
 なので、僕はセリカさんとお片づけ。

「凄いわね、カティアちゃん」
「なにがですか?」

 子供でも拭いて大丈夫な銀食器を布で拭いてたら、セリカさんに何故か褒められた。

「大将さんのやる気をあそこまで引き出せたんだもの。あなた達が来るまでは、本当に落ち込んでたのよ。想像しにくいでしょうけど」

 たしかに元気溌剌過ぎて、落ち込み具合が想像出来ない。

「同じ料理人だからかしら?   目を見ればわかるって本当なのね」
「ま、まだ一端の者ですが……」
「ほらそういうところ。あなたくらいの年頃が使う言葉じゃないわ。まるで、私と同じくらいに思えちゃう」
「あ、あははは……」

 やっぱり僕には子供のフリは向いてないようだ。

「……ぁ、なんだこのいい匂い」

 とここで、エディオスさんじゃない声が聞こえて来た。
 僕とセリカさんが作業してたのはお店側のテーブルの一つ。
 さっき座ってたのと場所は近く、エディオスさんはクラウと軽く食後?のうたた寝をしてるから起きてない。
 なら、発生源はあと一つだと首を動かせば……冒険者風のおじさんがあくびしながら起き上がろうとしていた。
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