711 / 782
番外編②
第25話 元英雄は孫のために
しおりを挟む
俺の孫が歳を重ねようとしてきた。
血は繋がっていないが、養子縁組にした母親がイツキだからな。可愛がらない理由にはならない。
だがイツキは今城ではなく、貴族領の一画にある屋敷で生活している。一応は宮廷料理長って肩書きのある俺は、頻繁に城外には出れん。
とは言っても、部下らの手際もだいぶ腕が上がってきたおかげで多少は出歩くのも問題なくなったのはありがたい。
イツキが城に残してくれたレシピのおかげもあって、意欲的に調理をするようになってきたからな。フルコースの時とは違い、出来立てのもんを美味い状態で食えるようになった今は料理人本来の仕事に打ち込めるということ。
アレルギーがきっかけだったが、フルコースの習慣がなくなったのは俺らにとっても良かったことだ。冷めて味気ない料理をリュカルド以外の近臣らに食わせても、命を削るようなことをしないで済んだからな。
俺も大量に仕込む料理が減って、ほっともした。
「……さて。土産には」
俺はイツキの屋敷に出向く前に、貴族領近くの森に居た。亜空間収納に他の土産は入れてあるが、出来ればイツキ自身が喜ぶもんを持って行ってやりたかったんだ。
孫のアルベルトはまだ直接肉を食えんが、イツキのことだから異世界知識でスープ仕立てにして食わしてやれるだろう。そう思い、俺はあるもんを獲りに森の中を進んでいく。
「……いたな」
シュルシュルと地面を這う音が聞こえてきた。
目的にしていた獲物が目の前にあれば、俺は自分の獲物である剣を抜き……間合いを一気に詰めてそれを振り下ろした!
耳をつんざくくらいの奇声を受けたが、気にしている場合ではないとそいつの首を剣で真っ二つにした。んでもって、首と胴体が離れても胴体はしなって動くから何回か分けて切ったがな。
「っし、こんなもんか」
血抜きに皮剥も終わらせたんで、多少時間は食ったがまあいいだろう。今日行くとは伝えたが、いつ頃に行くとまではイツキにも言っていないからな?
とは言え、孫との貴重な交友時間が短くなるのはもったいない。
急いで後片付けもしてから向かえば、出迎えてくれたイツキは少し怒っていた。
「遅いですから、心配したんですよ?」
滅多に怒らないイツキが、本気でなくとも怒りを露わにしているのは珍しい。悪かったとすぐに謝れば、大袈裟なくらいにため息を吐いた。
「どこか行かれてたんですか? 土埃がありますが」
「めざといな? 少し土産を調達してたんだ」
「わざわざ……ありがとうございます」
「調理場あるんだろ? そこでお披露目させてくれ」
身体の方は浄化の魔法をかけて綺麗にし、屋敷の中に入れば相変わらず気持ちのいいくらい清潔さが保たれていた。メイドらの手際も良いが、イツキ自身の指示のおかげもあってこそだ。女主人はいかに屋敷の管理をどうすべきか、日夜奮闘しているらしい。ミーナに聞いたことで覚えてただけだが。
そんなイツキでも、異世界からの渡航者ゆえに普通の貴婦人には当てはまらない。私室横に専用の厨房を作らせるくらい、料理人だった気質は衰えていないからだ。
血は繋がっていないが、養子縁組にした母親がイツキだからな。可愛がらない理由にはならない。
だがイツキは今城ではなく、貴族領の一画にある屋敷で生活している。一応は宮廷料理長って肩書きのある俺は、頻繁に城外には出れん。
とは言っても、部下らの手際もだいぶ腕が上がってきたおかげで多少は出歩くのも問題なくなったのはありがたい。
イツキが城に残してくれたレシピのおかげもあって、意欲的に調理をするようになってきたからな。フルコースの時とは違い、出来立てのもんを美味い状態で食えるようになった今は料理人本来の仕事に打ち込めるということ。
アレルギーがきっかけだったが、フルコースの習慣がなくなったのは俺らにとっても良かったことだ。冷めて味気ない料理をリュカルド以外の近臣らに食わせても、命を削るようなことをしないで済んだからな。
俺も大量に仕込む料理が減って、ほっともした。
「……さて。土産には」
俺はイツキの屋敷に出向く前に、貴族領近くの森に居た。亜空間収納に他の土産は入れてあるが、出来ればイツキ自身が喜ぶもんを持って行ってやりたかったんだ。
孫のアルベルトはまだ直接肉を食えんが、イツキのことだから異世界知識でスープ仕立てにして食わしてやれるだろう。そう思い、俺はあるもんを獲りに森の中を進んでいく。
「……いたな」
シュルシュルと地面を這う音が聞こえてきた。
目的にしていた獲物が目の前にあれば、俺は自分の獲物である剣を抜き……間合いを一気に詰めてそれを振り下ろした!
耳をつんざくくらいの奇声を受けたが、気にしている場合ではないとそいつの首を剣で真っ二つにした。んでもって、首と胴体が離れても胴体はしなって動くから何回か分けて切ったがな。
「っし、こんなもんか」
血抜きに皮剥も終わらせたんで、多少時間は食ったがまあいいだろう。今日行くとは伝えたが、いつ頃に行くとまではイツキにも言っていないからな?
とは言え、孫との貴重な交友時間が短くなるのはもったいない。
急いで後片付けもしてから向かえば、出迎えてくれたイツキは少し怒っていた。
「遅いですから、心配したんですよ?」
滅多に怒らないイツキが、本気でなくとも怒りを露わにしているのは珍しい。悪かったとすぐに謝れば、大袈裟なくらいにため息を吐いた。
「どこか行かれてたんですか? 土埃がありますが」
「めざといな? 少し土産を調達してたんだ」
「わざわざ……ありがとうございます」
「調理場あるんだろ? そこでお披露目させてくれ」
身体の方は浄化の魔法をかけて綺麗にし、屋敷の中に入れば相変わらず気持ちのいいくらい清潔さが保たれていた。メイドらの手際も良いが、イツキ自身の指示のおかげもあってこそだ。女主人はいかに屋敷の管理をどうすべきか、日夜奮闘しているらしい。ミーナに聞いたことで覚えてただけだが。
そんなイツキでも、異世界からの渡航者ゆえに普通の貴婦人には当てはまらない。私室横に専用の厨房を作らせるくらい、料理人だった気質は衰えていないからだ。
397
お気に入りに追加
5,508
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
アラフォー料理人が始める異世界スローライフ
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。
わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。
それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。
男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。
いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。