上 下
687 / 782
番外編②

第1話 子の成長もだが

しおりを挟む
 我が愛息子、アルベルトが少しずつ成長してきた。

 ふにゃふにゃぐにゃぐにゃでしかなかった身体が、柔らかいながらもしっかりと整ってきて……顔立ちも少しずつだがはっきりとしてきた。

 髪と目の色はイツキとそっくりだが、顔立ちは……俺にそっくりだったのだ。黒髪茶目の俺……子はイツキ曰く、自分の分身に近いものだと異世界では伝えられているそうだが……それがその通りだと理解出来た。

 全くの別人ではあるが、血を分けた子どもだと思うと感慨深い。抱き上げるのも以前より慎重過ぎなくてはいいとわかってきたが……イツキから乳離れをしていくと、それはもうよく食べるのだ。

 離乳食というドロドロした食事が多いが、とてもよく食べるのだ。


「はい、アル? もうごちそうさまだよ?」

「ま、ま! あーう!」

「今は食べ過ぎ。また夜ね?」

「……うー」


 ちょっとずつ言葉のようなものも口にしているが、イツキの事を『ママ』と呼ぼうとしているのに……俺のことはまだ呼んでくれない!? イツキの知識では、父親のことを『パパ』とか呼ぶらしいが……その傾向すらない。

 俺とて近衛騎士団の副隊長なのに、威厳も何もないわけではないのに!? イツキが普段ずっと一緒にいるからか存在感がまるでない!! 俺の事を意識してないようにしか見えないではないか!?


「……イツキ。あまり食べさせ過ぎてもいけないのか?」

「はい。おトイレが大変になるだけでなく、お腹を壊してしまいます。赤ちゃんの体は特に繊細ですから」

「……そうか」


 育児というのはなかなかに難しいとは聞いてはいたが……そこまで細やかな気配りが必要なのだとは。父上や兄上に『母親が大変だ』とは聞いていたが……乳離れしても大変だとは想定外だった。イツキは使用人は雇っていいが、乳母は大丈夫だと断った。

 自分の手で、しっかりと一人前に育てたいと言ったからだ。

 実際、彼女は母親としてアルベルトの事を一番に動いて頑張ってくれている。……何か、俺に出来ることはあるかと思うが、ここまでイツキが頑張っていると割り込みにくい。

 下手に手伝っても迷惑な気がするのだ。他に何か……と考えても、時々振る舞うようにしているズボラ飯では物足りない気がした。イツキ自身、食べる量は身籠っていた頃より少しずつ減ったが……今度は『痩せるためにタンパク質を摂らないと!』と豆や肉を食べるようにしている。

 イツキは今でもスッキリしていて美しいと思うのに、本人としては満足のいく体型ではないらしい。


「タンパクシツってなんなん?」

「聞いたことがありませんね?」


 ある日に執務室で隊長とレクサスだけしかいない時に話題に出してみたのだが、やはりその単語は聞いたことがないようだ。つまり、異世界の知識なのだろう。


「身体作りに必要な『エイヨウソ』と言うものだそうで。肉と豆に多く含まれているそうです」

「肉はええとして……豆?」

「豆も身体にいいんですか。面白いですね? 産後の女性はふくよかな体型になる方が多いと聞きますが……イツキは該当しないのでは?」

「せやな。この前会いに行っても前と城に居った頃と変わらんし?」

「女性特有の悩みだそうです……」


 俺は毎日見ているから変化はすぐにわかるが……イツキ也の努力で体型をなんとかしているんだ。

 アルベルトの食事も助けたいが、愛しい妻へのフォローもなんとかしたいと思っているんだ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。