王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

番外編

第236話『待ち遠しいレモン入りのケーキ』

　種、薄皮が入らないように濾したあとは、おろし金というもので皮を丁寧に細かくしていく。ワルシュ様はその間に、他に必要な材料の下ごしらえをされていた。


「アイシス、次はこいつだ」


　とおっしゃって、私の前に置いたのは……多分バターと砂糖の入ったボウル。これを、泡立てる道具で混ぜていくのだろうか？　かしゃかしゃと混ぜていくと、少しずつ白っぽくなっていく。


「もっと強く混ぜていいぜ？　ここにあとで卵を少しずつ加えていく」

「大事な工程なのですね？」

「そうだ。料理の中でも特に菓子作りは慎重にやんなくちゃなんねぇ。下手にいじくり回すと焼いたりするのとかは失敗しやすい」

「……なるほど」


　良い表情だ。

　あれほど大活躍されていた、冒険者を引退されてまでの……今のワルシュ様は、とても良い笑顔でいらっしゃる。

　料理に誇りを持たれているというか、信念を持っていらっしゃる笑顔だ。イツキ義姉上の義父君でいらっしゃるのもあるだろうが、もっと前から……料理への魅力に惚れたはず。でなければ、短期間で料理長への就任などあり得ないから。


「よし、俺が卵入れっからそのまままで続けろ」


　などと共同作業でケーキを作っていき……仕上げもかなり大変だったが、無事にケーキは完成した。

　レモン色のケーキに白いコーティングが美しいケーキ。

　これをすぐに食べたい気持ちに駆られるが、イツキ義姉上からの通達によると……亜空間収納や魔法マジックバックに入れずに保管して当日を迎えた方が良いと教えていただいた。


『お休みの日が待ち遠しいのは。大事な人と食べるために作った楽しさも、美味しいケーキに込めたのは素敵な想いと匹敵しませんか？』


　ということと、自然に味が馴染む理由もあるそうで……イツキ義姉上は本当に聡明でいらっしゃる。そのような理由は、今まで考えたことがなかったから。


(ミュラー殿と過ごす大事な時間……)


　その時間はあと数日なのにすごく待ち遠しい。

　そして、今度こそしていただけるだろうか。私とミュラー殿との大事なファーストキスを。

　すごく待ち遠しいが、ワルシュ様と無事に作れたケーキを独身寮の部屋の机に置いておこう。あそこなら、誰にも見つからずに食べられないだろうから。

　残り数日を待ち遠しく思いながら、私はケーキを部屋に置いたら午後の訓練のために身支度を始めた。